NPO釜ヶ崎 現場通信 86号
遅々として進まない就労機会の確保 4月以降どうする
1月20日は大寒である。大寒は二十四節気の一つで2月4日の立春までが1年で最も寒い時期である。野宿を余儀なくされる仲間にとって最も厳しい時期でもある。
そして、特掃の見通しもいまだ寒い状況のままである。1月14日、飛鳥人権文化センターにて「ホームレス対策について(大阪市の取り組み)」というテーマで講演会があった。大阪市健康福祉局ホームレス対策担当職員の話によると平成15年1月~2月にかけて実施された野宿生活者の全国実態調査での聞き取り調査において大阪市の野宿生活者が、野宿に至った理由で仕事の減少及び会社の倒産・失業が全国平均を上回っていた。また現在なんらかの仕事をしていると答えた人は 76.3%(全国 64.7%)いた。そして、今後の生活の希望として、きちんと就職して働きたいと答えた人は約半数を占めた。それらを受けて大阪市野宿生活者の自立の支援等に関する実施計画において就業機会の確保が最も重要であるという基本方針を策定したということであった。
「特掃の見通しについて」の質問には、「国へは再三延長を申し入れたがガードがひじょうに固く現状のままでの継続は厳しい状況である。しかし、大阪市におけるホームレス対策において特掃事業はひじょうに有効な施策である。現在、大阪府と連携して特掃に変わる新しい事業の実施を国に要望している。予算については、まだ確定していないが4月以降もなんらかの形で就労支援できるように申し入れをしているところである。」ということであった。
現時点で具体的な内容がほとんど決まっておらず、また大阪市の今の状況を考えると見通しはひじょうに暗い。引き続き粘り強く就労機会の確保の要求は続ける。しかし、就労機会の確保の目途が全く見えない今日、そろそろ4月以降の事を真剣に考えて欲しい。
特掃の賃金支払いの後、高齢者アンケートということで 65歳以上の人を対象に生活保護の声掛けをしている。65歳以上は稼働能力を問われず 3週間位で生活保護(居宅保護)を受給できる。これも一つの生きる道であると思う。受給されるまでは特掃も続けられる。もちろん受給後はカードを返却してもらっている。1日に 3人位しか声は掛けられないが 6人に 1人位( 12月14日から 36人中 7人)はNPOの福祉部門に相談に来てくれた。声を掛けた時、何も言わずに去って行く人もいるが、初めて声を掛けて、その日に相談に来てくれる人もいる。こんな人のためにも声掛けは続けていきたい。仕事の後で疲れているところを申し訳ないが声を掛けた時は少しだけ時間を下さい。協力よろしくお願いします。
生きがいで輝く元ホームレス ―生活保護受給者の活動―
生き生きとした顔・・・・・・記者になって何度も使ってきた表現だが、「これが、その顔なんだ」と心の底から思えたのは初めてだった。昨年12月の西成青少年会館。釜ヶ崎で手作り紙芝居に取り組む元ホームレスら 11人が、この年最後の上演「ももたろう」を終えたときのこと。約 300人のお年寄りたちの拍手に、11人の顔が本当に輝いていた。
紙芝居を手がけるのはNPO法人「釜ヶ崎市民活動促進センターかまなび」のサークル「ごえん」の 15人。平均年齢は 70歳。大半が路上生活経験者で、いまは生活保護を受けてアパートなどで暮らす。
「1年足らずでここまでやれるとは」と「かまなび」代表理事の青木宣雄さん(42)は感無量の様子。きっかけは、フィリピンでストリート・チルドレンと交流した青木さんが、帰国後に「何かやれないか」とサークルのメンバーに提案したことだった。
紙芝居セットを送ることになった。「無理」と消極的な人もいたが、絵を描いてせりふを考え、地域の子にも見てもらおうと地元の保育園で3月に初上演すると、喜ぶ子供の姿に自信が生まれた。
2作目の「おむすびころりん」には踊りを入れた。公演は 30回を超える。
メンバーの経歴はガードマンや営業マン、塗装工、公務員と様々。路上生活の話を聴くと、キジ役の男性(68)は住民から「出て行け」と公園を追い出されたことを振り返り、サル役の男性(73)は「服を洗っても体のニオイが残ってね」と教えてくれた。
そんなつらい体験をしたのに、なぜこんなに明るいのか。9月に西成担当になり、段ボールを敷いて寝たり、アルミ缶を拾ったり、ぎりぎりの生活を続ける人にたくさん出合った。昨秋、行政発注の清掃事業で働く野宿者に話を聴くと、月収3万円以下の人が多い。パンの耳で空腹を紛らわす男性もいた。一日一日を生きるのに精一杯で疲れ切っているのか、うつろな表情が悲しかった。
「一匹オオカミだった自分が、人のために頑張れるのがうれしいんですよ」。桃太郎役の男性(73)は大阪のキャバレーなどで働き、退職後に金がなくて野宿した。「ボランティアなんて考えたこともなかったのにね」
観客の喜ぶ姿がうれしい、よかったの一言が励み、みんなが温かく迎えてくれる・・・・・一人ひとり表現は違っても、紙芝居を通して「自分が必要とされている」ことが笑顔につながっている。金ではなく人のために努力して、その達成感を糧に生きる。生きがいを持つことでこんなにも輝けるのか。
桃太郎の男性は「一人では何もできないが、みんなとならできる。いい仲間に巡りあえた」とも言う。生きがいを分かち合える仲間がいま、自分のそばにいるだろうか。メンバーがうらやましかった。
路上生活から脱出し、生活保護を受けてアパートなどで暮らす人のなかには、部屋に引きこもる人も少なくないという。本当の意味での生きる喜びを取り戻すことを考えるとき、「ごえん」の取り組みは参考になるだろう。
11月下旬、紙芝居セットとビデオがフィリピンに渡った。おじいさん役の男性(70)は「いつかフィリピンの子の前で上演したい」。その夢が実現することを願う。
1月12日 朝日新聞 朝刊