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NPO釜ヶ崎 現場通信 122号

来年度の府・市の予算案が公表。
特掃の大阪市分は今年度と同額、大阪府分は7月までの暫定。

大阪市と大阪府の議会に提出される来年度当初予算案が2月21日と22日に相次いで公表された。

大阪市では、予算総額 3兆 8560億円と、今年度に比べて 4.6%、1864億円の減少となった。しかし、その中で健康福祉費は4772億8400万円と39億2400万円、0.8%の増額、特に生活保護費は 57億 8100万円増額されている。特掃の大阪市分では、今年度と同額が計上されている。まだ市議会で承認されなければ確定とはいえないが、とりあえず今年度と同じ特掃人数(道路 1日 60人、市地域外 52人)は確保されたと見てよいだろう。

ただし、今年度まで入っていた「重点政策予算枠」からは外れている。「あいりん・ホームレス対策」で重点政策予算枠に入っているのは、巡回相談事業など国のホームレス対策予算から補助金を受けることのできる事業に限られているようだ。特別清掃については国からの補助は行なわれていない。来年度はとりあえず現状どおりに継続されたとしても、来来年度はまたどうなっていくか分からないという、不透明な状況が続くことに変わりはない。

一方、大阪府では橋下知事の就任により、来年度予算の見直しのために、7月末までの 4ヶ月間の暫定予算が組まれた。総額 1兆 1919億円で、今年度当初予算額の 37%の額である。そのなかで、特掃の大阪府分については、7月末までは今年度(センターガードマン 26人、センター清掃 20人、府地域外 64人)なみで予算計上されているが、8月以降は継続されるかどうかも含めて、まったく不透明となっている。最悪の場合、8月から大阪市分 112人だけになってしまう可能性もないとはいえない。

もちろん NPO釜ヶ崎は、8月以降の府本予算での特掃の確保と、来来年度以降の特掃等、大阪市や大阪府の「あいりん・ホームレス対策」予算の確保に向けてがんばっていくが、ひとりひとりでも、特掃がなくなった場合にどうやって生き延びていくのかも考えていかなければいけない状況が、現実に迫ってきているといえる。「アルミ缶集めで何とか」と考えていたとしても、現在は 1キロ 150円前後と値段が高いが、今年の北京オリンピック後には下落する可能性が十分にある。

また、大阪府の市町村への補助金も本予算でどうなるかも分からなくなっている。あいりん対策等では、南港の越年臨時宿泊所に対する 8000万円と、社会医療センターにかかる 2億6000万円の補助金を、大阪市は大阪府から受けている。05年度で社会医療センターは 5億4226万円の行政補助を受けて運営されていた。そのことにより 05年度で 3万 4252人が「減免」で治療を受けることができたが、そこへの影響も生じかねない。

何年も言い続けているが、特掃やシェルターがなくなった後のことも考えて、60歳以上であれば生活保護で、という線もきちんと考えてほしい。


特掃更新の結核健診受診者約 700人。 うち「要医療」で入院が 8名。
健診によっても健康悪化・結核蔓延を防ぐことができる。

今年度の特掃の更新時から、受付のときにセンターで結核検診カード( 1年以内受診)を示してもらうようになった。更新のときに必要だということがはっきりと示された 1月22日の検診日以降、2月 21日までに、健診車では 827人、うち特掃の登録者 617人が結核検診を受けた。市更相 3階にある保健所分室をあわせると 1000人以上が受診し、特掃の登録者や新規登録のために受けた人は 700人以上ではないかと推測できる。特掃における結核検診の広がりができつつある。

結果、17人の「要医療」判定で入院した人がおり、そのうち 8人は特掃の登録者だった。更新時に検診を実施していなければ、健康が悪化したり、あるいは結核感染を拡大することになった可能性もある。

もちろん、結核の発症は、日常生活での健康状態や栄養状態に大きく左右される。結核菌を体の中に有していても健康状態や栄養状態がよければ発症しにくく、逆であれば発症しやすい。昨年 5月の特掃アンケートでも月収入 2万円以下の登録者が半数を超え、1週間のうち毎日 3食食べることができた人は 26%しかいないという現実の中では、健診によってのみ予防するというのは不可能に近い。健康を維持できる就労対策と生活・寝場所対策の拡充が不可欠であり、逆に特掃の削減は結核感染の拡大をまねくことになる。

しかし、そうした現実の中にあっても、健診によって早期に発見し、治療につながることによって、健康の悪化と感染拡大の防止に役立つことも事実だ。とくに特掃の地域外では、ワゴン車やトラックに 6~8人乗っていくのだから、感染しやすい状態にあるといっても言い過ぎではないからだ。

また、大阪市の結核対策から見ても、釜ヶ崎で特別就労対策があることによって、そこに従事する 2000人以上の高齢日雇労働者・野宿生活者に結核健診と啓発活動を実施することが可能になった。特掃事業が、感染症対策での施策効果も生み出したということである。特別就労対策を土台にすえて、そこから感染症対策や福祉施策、自立支援策へとつなげていく施策構造がまたひとつ進んだといえよう。