会報 NPO釜ヶ崎 39号
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国の基本方針(ホームレスの自立の支援等に関する基本方針)が発表
7月31日、厚生労働省から新しい「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」が発表された。基本方針は、2002年に制定された「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」にもとづいて、1回目が2003年に定められた。今回は、法に定められた「見直し」にあたる。しかし、「見直し」と呼べるほどの変更は見られない。「現行施策の継続」にとどまり、いくつか施策の幅が広げられたくらいだ。いくつか変わった点を見てみる。
1、「自立支援センター等の設置に当たって」は、「既存の公共施設や民間賃貸住宅等の社会資源を有効に活用することを検討する」。つまり、新しく建てなくても、民間アパートなどの借上げでもいいということ。
2、「ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者としては、一般的には現に失業状態または日雇労働もしくは日雇派遣労働などの不安定な就労関係にあり、かつ、定まった住居を喪失し簡易宿泊所や終夜営業店舗等に寝泊りするなどの不安定な居住環境にある者等が想定される」。ホームレスになるおそれのある者に、日雇労働者だけでなく、いわゆる「ネットカフェ難民」が追加された。
3、「ホームレス問題のいっそうの顕在化が見込まれる」原因から、「現下の厳しい経済状況」が削除された。つまり、ホームレス問題の主な原因が「不況=失業」のみではないとのこと。特別清掃事業のような公的就労対策(行政施策として社会的就労を提供する)による、就労自立への土台づくりの事業は、新しい基本方針でも盛り込まれることはなかった。
ホームレス数の「減少」が根拠?
国が基本方針の骨格を変更しなかった根拠は、「ホームレスの数については」「平成19年調査では、その数は18,564人となっており、平成15年調査の25,296人と比べて、6,732人(26.6%)減少した」ことにあると考えられる。「4年間で4分の1減ったのだから、いまのままで十分に減っていくはずだ」ということだろうか。
しかし、他方で「平成19年全国調査(生活実態調査)の分析結果」では、再野宿層(再流入層 18%)や新規参入層(33%)も確認されるとともに、「野宿の長期化と高齢化」が指摘されている。また、2007年の厚労省調査では、「ネットカフェ難民」が、全国で5,400人いると推計されている。
現行施策の継続のみでは限界
基本方針の策定に先立って4年間の施策評価はおこなわれたが、「野宿生活から抜け出し、再び野宿にならないためには」「新規参入を防ぐには」、どういう支援策が必要なのかを、基本から検証しなおすものにならなかったのは、きわめて残念だ。
今までの「就労自立支援」策だけでは十分に野宿から抜け出せないのであれば、既存の福祉制度も活用して、何とか抜け出すしか方法がなくなる。「就労自立支援」策においても、自立支援センターで「すぐさまの就職を目指すハローワーク型求職活動」を支援するだけでは限界にある。若年者・中高齢者、野宿生活の長短を問わず、さまざまな支援や社会資源を組み合わせなければ支えていくことが困難な野宿生活者やボーダー層・直前層(「ただちには就労自立が困難なホームレス層」)が増えつつあるからだ
生活保護施策の柔軟化・一貫した支援が必要
そのため、生活保護施策では、就労努力によって居宅保護を受けやすくなる年齢ラインを、若年者から中高齢者まで全年齢層にひろげる必要がある。また内職作業・リサイクル作業のような軽易的な労働・社会的労働への従事やアルミ缶収集なども、申請時に就労努力として認定する、などさらに制度運用の柔軟化が必要だ。
生活保護の判断基準の柔軟化とともに、野宿時から保護申請、保護決定後の生活を一貫して支えていくためのシステムも必要となる。野宿時の相談から、支援するために必要な内容(就労や専門医療・債務整理や金銭管理などの必要性の有無など)や、そのために活用しなければならない社会資源を判断して、それを申請時から決定後も支援していくことが求められる。
巡回相談は野宿時、(民間になるが)法律の専門家は保護申請時、福祉事務所のケースワーカーは保護決定後の給付事務中心、という細切れの別々の支援ではなく、それら必要な資源をつないで一貫した支援をおこなう必要がある。その中心として、NPOなどの民間支援団体に委託して「付き添い支援事業」を創設し、自立支援策のコーディネーターとすべきであろう。
自立支援センター施策のあり方
「就労自立」を中心とした自立支援センター施策においても同じことが言える。「ただちには就労自立が困難なホームレス層」が自立支援センター入所者でも増えてきているといわれている。この人たちに対しては、就職活動(3ヶ月~6ヶ月)の前に、生活訓練と合わせて就労訓練による「ならし期間」を6ヶ月~1年間はおこなうこと、「就労自立」でありながらも、専門医療や障がい者施策・日常相談など他の支援策をあわせていくことが必要だ。また、自立支援センターに入れない、あるいは自立支援センターの集団生活では精神的に耐えられない人については、センター外で個別支援していくことも必要となる。そのため、入所のみではなく通所型・サテライト型運営も求められている。
釜ヶ崎あいりん対策のあり方
では、国の施策の不十分なところを、大阪府や市がどういう施策で補うのか、国の基本方針を踏まえて大阪府・市がそれぞれ策定する実施計画を注視していきたい。大阪では、ホームレス対策の根幹は、最も野宿生活と隣り合わせの街=釜ヶ崎・あいりん地域での対策に置く必要がある。そこでは次のことが必要だ。
1、特別清掃事業は、「自立支援の土台事業」として継続した上で上限年齢を設定し、生保に移行しにくい年齢層に、より多くの日数を提供できるシステムに。
2、指導スタッフの人件費や基本経費は行政支出、従事者の人件費は民間努力とする、社会的就労支援モデルの形成。従事者への住居または寄宿舎の提供。
3、あいりん臨時夜間緊急避難所の改編。現在の緊急一時的な単泊型とともに、恒常的利用を余儀なくされる層に食住を提供しながら就労施策や福祉施策につなげるためのショートステイ型、技能講習・就労事業付属の寄宿舎の3形式への改編に。
市内ホームレス対策のあり方
市内ホームレス対策では、釜ヶ崎あいりん対策との連携・一体化をさらに進めながら、機能の集約と巡回相談のいっそうの活用を図る必要がある。
1、更生相談所一時保護所と自立支援センターの舞洲アセスメントセンター、各区保健福祉センター・巡回相談室経由者用の生活ケアセンターを同一場所に集約し、それぞれの状態に応じた割り振りを、より速やかに行えるようにするとともに、資源を相互に利用。
2、巡回相談のサテライト(窓口型)相談室を開設して、チャレンジネット(住居喪失不安定就労者支援センター)相談室と併設。一時保護所と舞洲アセスメントセンター、更生寮と自立支援センター、チャレンジネット相談者と巡回相談対象者の傾向がダブっていると考えられるからだ。
3、生活ケアセンターに、釜ヶ崎あいりん対策での就業支援と、あいりん臨時夜間緊急避難所からの要保護者用の入所枠をつくり、釜ヶ崎での就業・福祉支援策を拡充させる。釜ヶ崎あいりん対策では、就業支援のための十分な生活資源がなく、また単泊型・日雇労働可能者用の施設である夜間避難所を要保護状態の人が利用せざるをえない現状があるからだ。
府内ホームレス対策のあり方
大阪市をのぞく大阪府域においては、堺市以南の7市1町でつくる「泉北泉南ブロック」以外の3ブロック(高槻・茨木・豊中などの豊能三島、枚方・寝屋川・守口などの北河内、東大阪・八尾・松原などの中南河内)では、大阪府の実施計画が策定されて以降4年近く経つにもかかわらず、いまだ自立支援センターさえ設置されていない。巡回相談が行われているのみである。
当然、各市町の福祉窓口において、ホームレス生活者に対して、適切な対応がおこなわれているとは言いがたい現状も見受けられている。なかには、大阪市内や釜ヶ崎に誘導するような行政対応も、いまだおこなわれている。
1、7月初めには、北河内地域の市にある保健所(大阪府が管轄)が、野宿している上に精神疾患の症状が現れているにもかかわらず、就業支援センターの地図を渡して誘導したため、釜ヶ崎に来て相談を受けた当機構が、精神科救急で入院先を確保しなければならない事態も起きた。その後も、同じような事例が、目に見える形で現れ続けている。
2、別の北河内地域の市の福祉事務所とハローワークの不十分な対応により、退院後の再野宿を防ぐために、当機構や就業支援センターが行政機関の間をつながなければならなかった事例があった。
3、三島地域の市では、急迫状況にあるにもかかわらず、「年齢が若い」ということで生活保護の相談を受付けず、結果として公営住宅を強制退去させられてチャレンジネットに相談に来ざるをえず、その後当機構が引継いで支援している事例がある。
4、三島地域の別の市では、出所のときの指導に従って前居住地(住民登録がある)の福祉事務所に相談に行ったにもかかわらず、「大阪市に行けば自立支援センターがあるから、行って連絡しなさい」と、5,000円と自立支援センター2箇所の電話番号を渡した例もあった。当人はアドバイスに従って大阪市内に来てネットカフェに泊まり、ある自立支援センターに電話したが、「ここはホームレスの人しか入れないからチャレンジネットに行きなさい」といわれて相談に行かざるをえなくなり、その後は当機構が引継いで支援している。
5、北河内の別の市では、家賃の滞納などで部屋をロックアウトされてしまった高齢者に対して、相談を受けた福祉事務所の担当者が「あなたはもうホームレスだから、大阪市内に行けばホームレス対策があるからそこへ行きなさい」と指導し、大阪市から抗議されるという事例も起きている。
7月以降で目に見えて表れた事例だけでもこれだけあるが、以前から府外からは「大阪へ行きなさい」、府内からは「大阪市内に行きなさい」という行政対応は、数え切れないほどある。やむを得ず相談に来ざるをえなかった人には、当機構が市内外を問わず相談を受け支援をしているが、行政機関が誘導するのは論外である。
就業支援センターは、仕事(求人等)や就業支援に関する情報の集約、関係機関との共有等を主旨とし、事務局には相談を受ける機能はない(釜ヶ崎では当機構が委託を受けて就労相談している)し、寝場所や生活支援をできる資源も持っていない。相談者は就労相談で大阪市内や釜ヶ崎に来ても、寝場所や生活は、大阪市の施策や民間の資源に頼らなければならない。相談者本人に大きな負担を強いるし、大阪市に対しては対策を抑制させ、他市町には責任放棄を促進させる効果をもたらす。
ホームレス対策での大阪府の社会援護行政の遅れは、致命的といってもよい。実効性のある新実施計画の策定を強く期待する。
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