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会報 NPO釜ヶ崎 37号

目次

「あいりん対策」の不安定化・ホームレス対策の停滞・新たなホームレス層の拡大。
そのなかでNPO釜ヶ崎が果たすべき役割。

1、厚生労働省概調査での「ホームレス」数の減少と「ネットカフェ難民」数の発表

昨年1月に続き、今年2008年1月にも厚生労働省の3回目の「ホームレス概数調査」がおこなわれた。発表されたホームレス数は16,018人と2007年調査に比べて2,546人、2003年調査に比べれば9,278人(36.7%)の減少となった。

大阪市でも3,647人となり、2003年調査に比べて2,956人(44.8%)減少している。これは、ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法制定後の支援策の成果であるといえる。概数が大きく減っていっていることは、きちんと評価されるべきである。しかし他方で、自立支援センターにハローワークの職業相談を組み合わせた旧来の「就労自立」支援策だけでは、野宿生活から脱却していくことが困難なホームレス層が増えてきているといわれている。統計的な数値は発表されてはいないが、大阪市が今年度から「民間公募型自立支援協働事業」で、「これまでの支援では就労自立が直ちには困難なホームレスに対する自立支援事業」を開始することにも、その事実が表れている。

また、昨年秋に発表された厚生労働省の「住居喪失不安定就労者実態調査」では、いわゆる「ネットカフェ難民」数の推計値が5,400人と発表されている。公園や河川敷でテントや仮小屋を作って「定住している」人たちや、商店街などでダンボールで囲いなどをして夜をすごす人たちなど、目に見える野宿者は減っているとしても、目に付きにくく「流動型」とも規定できない「新たな野宿類型」のホームレスは、いわゆる「ネットカフェ難民」層とともに増えてきている可能性がある。ファーストフード店で夜を過ごす、公園のベンチで夜だけ横になって寝る、コンビニなどや一晩中歩き回って寝ずに昼間にベンチで寝る、という人たちが一定数存在していることが、昨年NPO釜ヶ崎が実施した「若年不安定就労不安定住居者聞取り調査」でも明らかになった。

2、ホームレス対策の現状停滞と「あいりん」対策の不安定化

こうした変化がありながらも、国のホームレス対策は、現状施策の継続の範囲を超えようとしていないように見える。今年度が新しい「ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」発表の年になるが、施策の拡充・多様な展開といった方向があまり見えてこない。今年度の厚生労働省のホームレス対策予算においても、総額で30億9,800万円と、前年から1億8,200万円減少している。対策予算は大きくは「自立支援事業等の実施」と「就業機会の確保」の二つに分かれているが、特に「就業機会の確保」の領域で大きく減少し、前年から1億8,300万円減の9億8,900万円になった。

「就業機会の確保」は、主に東京・神奈川・愛知・大阪といった「ホームレスまたはホームレスになることを余儀なくされるおそれのあるものが多数存在する地域」を中心に実施されているため、全国的にはいまだ未実施の地域が多い。

一方で大阪府や大阪市が実施している「あいりん対策」は、きわめて不安定な状況に入ってきている。昨年秋までは、大阪市において高齢者特別清掃事業が現状のまま継続実施されるかが不安定だったが、今年に入り大阪府でも橋下知事が就任したことを受けて、急遽「予算の見直しと暫定予算の編成」がおこなわれた。その結果、大阪府の特別清掃事業は2008年度4月~7月の4ヶ月間の暫定予算となってしまった。それに引きずられて大阪市でも、1年間の予算が決まったにもかかわらず、特別清掃事業など「府市共同事業」の予算執行は、やはり4~7月の4ヶ月間になってしまった。

4月11日に発表された大阪府の「財政再建プログラム試案」では、特別清掃事業の予算は今年度本予算・来年度予算とも削減しない方向がだされたが、まだ予断は許されない。また大阪府と大阪市が2分の1ずつを負担してきた大阪社会医療センターへの補助金や越年臨時宿泊所に対する分担金も、継続とされているが不透明だといえる。大阪社会医療センターは独自の「貸付制度」によって、実質的な無料低額診療を日雇労働者や野宿生活者に提供してきており、釜ヶ崎の命と健康を支える中心的な役割を担ってきた病院である。その行方は、野宿者の命を左右する。

3、ホームレス問題は第3期に

ホームレス問題の第1期を、90年代初頭期以降とするならば、現在は第3期に入っているというべきだろう。

第1期は、建設日雇労働市場の大幅な縮減によって多くの寄せ場の日雇労働者が路上生活に投げ出され、ホームレスとしてアルミ缶などを集めて生計を立てながら近畿一円の公園や河川敷などへと「居住範囲」を拡大させていった時期である。

第2期は、90年代の終期以降、一方では日本の雇用構造や産業構造の転換に伴ってリストラ等ではじき出された中高年者が新たにホームレス層として合流しながら、他方では寄せ場の日雇労働者出身層の高齢化が進んでいった時期である。

1で報告した「目に見えるホームレス層」の減少とその中での「これまでの支援では就労自立が直ちには困難なホームレス」層の野宿生活への「滞留」化、他方での「目に付きにくいホームレス層」の拡大は、ホームレス問題を第3期の様相へと変化させてきている。そしてこの「目に付きにくいホームレス層」には、さまざまに社会的困難を背負わざるを得なかった結果ホームレスにならざるを得なかった社会的困窮者や、20代~30代の若年ホームレス層が多くふくまれている。しかも派遣など不安定就労を転々とせざるを得なかった結果として意欲やエネルギーが低下させられたり、旧来の障害者支援策では包摂されにくいさまざまな障害的要因を背負っている人が多い。彼らは社会からは「就職可能年齢」として見られながらも、その多くは、現状の民間労働市場に「正規雇用就職」としてハローワーク型で押し上げていく支援だけでは、自立していくことが困難な状況に置かれている。

第3期に共通する特徴は、若年であろうが高齢であろうが、日雇労働者出身であろうが非正規労働者出身や社会的困窮者であろうが、何かひとつの方策(すぐに就職を目指すとか、生活保護で野宿生活から脱却するとか)だけで自立支援が完結するというものではない複雑かつ多様な状況が進んでいることである。

はたして現状の施策の継続だけでホームレス問題は解決に向うのか。「高齢者は生活保護。それ以外の年齢層は就職による自立」策だけでよいのか。若年者を含めた「就職自立困難層」に対する自立支援はどうあるべきか。居宅保護になればそれだけで自立の土台は整えられるのか。ホームレス化の予防・野宿からの脱却・再ホームレス化の防止をどう進めるのか。これらのことを真剣に問い直していくべき時期に来ているといえる。

4、2007年度のNPO釜ヶ崎の取組み

ホームレス問題の第3期化に対応する適確な自立支援策を進めるために、NPO釜ヶ崎には「屋根と仕事の獲得」を土台にしつつも、多角的な支援をおこなえる総合的支援事業団体としての役割を、今まで以上に担うことが求められている。そのために昨年度は次の取組みをおこなった。

  • 1)就職による自立支援策と福祉援護策の垣根を埋める「社会的就労」事業を進める。そのために、
    • A,高齢者特別清掃事業をより社会貢献・地域貢献的色彩を強めた事業にするとともに、「緊急対策から自立支援の土台事業に」して継続確保する。(大阪市委託の地域内清掃事業でのあいりん地域内の公的施設の塗り替え、大阪府委託の特掃事業での剪定技能訓練的作業、特掃事務所での健康相談などの実施)
    • B,技能講習・講習後の技能向上と就業の確保・就職支援を一体として進めるために、各事業を「就業自立サポート事業」として再編成する。(自転車リサイクルや公園管理作業・内職提供事業などの定着と拡大)
  • 2)就労支援策と福祉援護策の垣根を越え、横断的支援を進めるために、就職相談と生活福祉相談の連携を強める。(相談連携の緊密化と過大な負担が生じる福祉相談部のスタッフの増員)
  • 3)新たなホームレス層に対する支援策を模索する。(「ネットカフェ難民」と若年ホームレスを対象にした「若年不安定就労不安定住居者聞取り調査」・若年者就労支援事業の実施)
  • 4)多様な領域で共同事業を拡大する。(ホームレス支援全国ネットワークの結成・住之江公園住吉公園での都市公園管理共同体の運営・医療関係者法律関係者を中心とする野宿者支援統一行動への参加・釜ヶ崎での共同就労支援会社「ワック有限責任事業組合」設立への参画など)
5、2008年度の新しい事業

今年度はさらに、釜ヶ崎の外に出て「ネットカフェ難民」層など市内の「目に付きにくいホームレス層」への相談・支援事業と、あいりん臨時夜間緊急避難所(シェルター)等での健康相談・生活相談事業を開始する。ホームレス化の拡大防止とシェルター固定層に対する福祉援護・就労誘導による野宿脱却へと支援領域を拡げるためである。

「野宿生活からの脱却と野宿・再野宿の防止」を現実に進めることを通して、社会と行政施策を突き動かしていきたい。

(事務局長・沖野)

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