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会報 NPO釜ヶ崎 35号

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5月の特掃就労者アンケートから特別清掃はどう役立っているかを考える

今年度も5月21日から30日までの日曜を除く9日間、輪番が一巡するまで特掃登録者1465人にアンケート調査を実施しました。アンケートをもとに特掃がどう役立っているかを考えてみたい。

1、収入

アンケート項目のうち「先週1週間の食事」について聞いた項目では、「毎日3食食べた」と答えた人が367人(有効回答者1425人のうち25.8%)であったのに対し、「1日1食は食べた」人が891人(62.5%)、「1日1食も食べられない日があった」人が167人(11.7%)もいました。

4月の収入が2万円以下の人が53.7%と半数を占め、5万円以下の人だと86.8%に達しています。2万円以下の収入では、炊き出しなどとあわせても食べるのにも事欠く状態、5万円以下だと簡易宿泊所に泊まって暮らすのも十分にできない状態ということができます。きわめて厳しい状態であることはひと目で分かります。そのため、4月にシェルターに泊まったことがあるという人も1422人の回答者のうち750人と過半数に達し、毎日シェルターということでなくても、「シェルター・特掃・炊き出し」という生活スタイルからどうやって抜け出して畳の上に上がるかが、「自立支援法」の制定後5年たってもいまだに最重要の課題であることが、あらためて見えているといえます。

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2、寝場所

4月にシェルターに泊まったことがあるという人も1422人の回答者のうち750人と過半数に達し、毎日シェルターということでなくても、「シェルター・特掃・炊き出し」という生活スタイルからどうやって抜け出して畳の上に上がるかが、「自立支援法」の制定後5年たってもいまだに最重要の課題であることが、あらためて見えているといえます。

「野宿経験の有無」については、88.1%の人が野宿経験があります。「ない」と答えた人は11.9%に過ぎず、2004年5月の調査の15.3%より少なくなっています。ただし「毎日」野宿している人は全体数での比率で見れば24.6%と、04年の31.2%より減っており、これは昨年8月の調査からよりも「テント・小屋」が15.4%から10.4%へと減少(04年とは聞き方が違うので比べにくい)していること、簡易宿泊所も利用した人が30.7%(昨年8月)から33.1%へと上昇しているのと対応しているといえます。「テント・小屋せずに野宿」が20.3%から15.0%へと減少、「シェルター」が44.8%から52.7%への上昇というのは、季節での利用形態の変動の範囲であるといえます。「固定的な野宿」は減っても、逆に「流動的な野宿」は広がっているのかもしれません。

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3、釜ヶ崎に来てからの年数

「釜ヶ崎に来てからの年数」では、04年の「平均16年6ヶ月」から「平均18年2ヶ月」へと、まる3年で1年8ヶ月伸びています。

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4、結核健診

「結核健診」については、「今年とった31%(04年25%)」「昨年とった49%(04年45%)」と、昨年8月の調査と同じく8割の人はおおよそこの1年のうちに健診を受けており、結核健診受診は定着しつつあるといえます。

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5、特掃収入の位置
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特掃が「収入源の中心」と答えた人が582人(有効回答者1230人のうち47.3%)、「廃品回収と並ぶ収入源の柱の一つ」と答えた人が220人(17.9%)であり、全体の65.2%を占めました。「現金・飯場の仕事がないときの臨時的な収入」は332人(27.0%)、「年金などで足らない分の補填」62人(5.0%)、「その他」34人(2.8%)である。特掃が「収入源の中心」となっている層にとっては特掃がなければ生き延びることさえかなわなくなってしまう。月3~4回の就労であっても、そこで手にする1日5700円が、命の糧になっていることは確かです。「特掃でなんとか生き延びることができた」これはひとつの大きな現実的成果です。

6、特掃の効果

しかしこれ以外にも、成果は次のアンケート結果に現れています。今年度の調査では「特別清掃(特掃)での就労はどのように役立っていますか」と聞きました。複数回答であるが、母数を有効回答者数1399人(ひとつでも選択肢に○をつけた人)とし、その中で「1、収入を得ることができる」と答えた人が1054人(75.3%)でした。

これは半ば当然として、「2、就労意欲を継続できる」が402人(30.7%)、「3、社会に参加しているという感覚をもてる」が244人(17.5%)いたことが大きな意味を持っています。「4.仲間と一緒に働くことができる」と答えた人も375人(26.8%)おり、これも大きくは「社会参加意識」といえます。わずか月3~4回の就労であるため、アンケート結果での評価値はさほど高いとはいえませんが、「8、別に役立っているとは思わない」が19人(1.4%)しかいないことと比べれば、うまく表現できないが何らかの形で役立っていると、ほとんどの人が意識していることになります。野宿生活やそれに近い状態におかれることで、日々就労意欲や社会参加意識が失わさせられてしまうことに対し、特掃が就労意欲を継続させ社会への参加意識をもち続けることに役立っていることを示しています。

また「6、健康維持に役立つ」が375人(26.8%)いました。「定期的に就労できる」ことに加え、NPO釜ヶ崎では医療関係者のボランティア協力を得て毎週月・水・金曜に健康相談、木曜に歯科相談を、特別清掃事務所で就労後に受けられるようにしており、その効果も加わっていると考えられます。

他方「5、草刈・ペンキなど基本的な技能の習得」に役立つと答えた人は、わずか92人(6.6%)しかおらず「技能習得」の領域での不十分さが目立ちました。就労意欲と社会参加意識そして健康がなければ、自立に向う土台が整備されず、支援策の効果は大きく後退してしまいます。

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また、こうしたきびしい現状にあっても、特掃従事者においては、「このままの生活でよい」と答えた人は9%しかいません。「特掃の収入」について「年金等で足りない分の補填」と答えた人が5%いますから、実際には「このままでよい」という人はもっと少なくなります。今年1月におこなわれた「全国調査」で示されている「今のままでよい18.4%」よりも大幅に少ないという結果が表れています。現状にあきらめてしまわない意欲を生み出していると言え、これもまた特掃の成果のひとつであるということができます。

7、求職活動
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求職活動については、やはり日雇仕事を探すために西成労働福祉センターなどが多いですが、NPO釜ヶ崎お仕事支援部での求職も一定割合を占めています。また職種も建築・土木が多いですが、「高齢者」ということもあって、清掃やガードマンなど建設よりも軽い仕事を求めている人も多いことが判ります。

特掃の増減は、登録者や、来年度以降加わってくる人たちの生活にとっては死活問題です。しかし税金を投入した事業である以上、ただ「飯が食えなくなるから仕事をくれ」というだけでは、社会全体に対する説得力は弱いといえます。

特掃が労働者・野宿を余儀なくされる人の生存にとってどれだけ必要であるのかとともに、野宿からの脱却・自立にとって、また社会全体にとってどれだけ有用であるのかも訴えていく必要があります。特掃が縮減されれば、自立意欲の減退と現状へのあきらめを強め、ますます野宿生活から抜け出せなくなってしまうからです。「野宿生活から脱け出し自立していくためには、就労意欲と社会参加意識を維持するための土台としての特掃が必要だ」と。そのためには、特掃事業を就労機会の提供から一歩進めて、もっともっと就労自立・社会的自立のための土台にできるものにしていく必要があります。

それには特掃を、除草や道路清掃という旧来の業務のみならず、基礎的な技能を養えるものへと、さらに作業種類や従事人数を拡げる必要もあります。昨年10月から地域内道路清掃班のうち10名が、月に3~4日間だけではあるが、地域の学校や施設の塀のペンキ塗り替え作業に従事するようになったのも、こうした理由からです。また、自転車修理や園芸作業の技能講習も大阪市からの委託で実施しており、講習修了後には技能向上作業に従事できるように、就業支援センターと連携して道を拡げる必要もあります


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