現在、何らかの「仕事」をしているかどうかきいたところ、39人(約8割)から「仕事」をしているという回答を得た。1999年大阪市が行った聞き取り調査の結果(約8割の野宿生活者が何らかの「仕事」に従事している)と同様の結果が得られた。
図2-3.現在の仕事
A仕事内容と収入
現在仕事をしている人の8割以上(33人)の人が「廃品回収」を行っていると答え、そのうち9割以上(31人)がアルミ缶を、約3 割(11人)が粗大ゴミを回収していた。また、廃品回収をしている人の約8 割以上(就業日数を回答した22人中18人)が「毎日働いている」と答えた。そして廃品回収をしている人の収入を見てみると、1ヶ月あたり5000円から80,000円で、平均して29,700円と3万円に満たなかった。
「特別清掃」と答えた人の就労日数を見てみると2日もしくは3日、一回当たり5700円(実質5400円)の収入なので、1万円から1万5千円の収入になっている。
図2-4.現在の仕事内容
(現在の仕事〜具体的に〜)
それでは野宿生活者が、現在どのような仕事に従事しているか、その様子について聞き取りによる具体的な内容を紹介する。
■廃品回収
●空き缶だけを回収
1996年(56歳)からは、高速道路の高架下の下にダンボール囲いを作り、そこで野宿するようになる。その頃から野良ネコを飼っている。子どもが生まれたりして、世代交代しながらもトータルでは12匹になっている。その頃からアルミ缶回収をしている。1日1600円程度は稼いでいた。そこで3年半生活していたある日、アルミ缶回収から帰ってくると囲いダンボールに「追い出しの張り紙」が貼られていた。3年半生活していた場所を「仕方がない」と「自分で出た」。それからは台車に寝床用のダンボールと毛布などの生活用品を積んで、日中はアルミ缶回収、商店のシャッターが降りる頃、ダンボールで囲いを作り眠るという生活をするようになる。
高架下を追い出されてからも、飼っていたネコにエサをやるために高架下には通っている。1週間で大きな袋入りのキャットフード3袋食べる。全てアルミ缶回収で得た収入でまかなっているが1日400〜500円はエサ代にかかる。テントを建てようと思わないのも、「扶養家族(ねこ)おって、他には行かれへんからなあ」。
今年の冬、「凍傷みたいになって、手が曲がらんように」なった。はめていた黒い手袋をぬいで見せてくれる。手は黒く曇った色になっており。指の関節は肉がえぐれてへこんでいた。曲げようとしてもほとんど曲がらない。手が自由に動かなくなり、アルミ缶の回収も思うようにできなくなった。それまでは1日1600円程度は稼いでいたが、手が動かなくなってからは1日800円程度しか稼げなくなった。(Case 6)
現在仕事は廃品回収を毎日朝の5〜8時と夕方の5〜8時にやっている。区役所からもらってきた粗大ゴミの収集日表と拾った地図を元に、主に松原市へ自転車で行く。アルミ缶の他に電化製品などを拾う。アルミ缶は日本橋では1キロ80円で野宿している近所では55円だそうだ。運が良ければアンプやコンポを拾えて、近所の寄せ屋に持っていけば5000円や9000円で引き取ってもらえるそうだ。しかし平均的には1日1000円程度で、月2〜3万程だ。(Case 1)
空き缶と電化製品を拾うのが主な収入である。電化製品には5000円で売れるものもあり、大体1日1000円の収入は確保できている。使っているリアカーは色々なものの部品を組み合わせて作った自作品である。空き缶を20〜30載せられるものと、100は載る粗大ゴミ用のものと2台所有している。本当はもっと大きくしたいが、邪魔になって注意されたとき耳が悪いため気付かないことが多い。それはとても迷惑なのでこの大きさで抑えているのである。東大阪の方へ集めに行き、マンションを20件くらい回るのでかなり時間がかかる。寄せ屋も値段の高い日本橋までわざわざ持って行く。昼は恥ずかしいので、でかけるのは深夜から朝方である。(Case 18)
野宿生活になってから3年になる。日々、アルミ缶や電化製品を集めて、それらを売ってわずかながらも稼ぎを得ている。アルミ缶は寄せ屋にもっていくが、電化製品は野宿しているこの公園に中国人が買い付けにくる。「そのまえの通りに車でのりつけて、壊れていてもいいから電化製品を買っていく」。それを中国で売っているとのことだが、なかの機械を再利用しているわけではなく、外のプラスチックをそのまま再利用するようで外見がきれいなのから買っていく。なかの部品は中国のほうが安く作られているため必要なのは外見だけだそうだ。特にコンポなどは高く買ってくれるらしい。値段はいいもので3000円ぐらい。それらを集めに行くのはやはり夜で、「そのあたり周りの人(住民や行政?)はわかってくれへん」。(Case 23)
●新聞や雑誌を回収
野宿を初めてからしばらくの間は何も仕事はしていなかった。しばらくして、A氏の近くに野宿している人からスポーツ新聞や雑誌を集めればお金を稼げることを教えてもらう。野宿を初めてからA氏はスポーツ新聞や雑誌を回収して釜ヶ崎で販売することを仕事としている。
「毎日なあ朝の3時に起きて仕事の準備や何やして、新聞な、スポーツ新聞や雑誌や集めて電車乗って西成持っていくねん。この辺は結構集まるからなあ。新聞もスポーツ新聞やないとあかんねん。西成行ったら競馬でもボートでも競輪でも何でもやってるやろ。ノミ屋よノミ屋。せやから西成もってったらすぐ売れるねん。まあ1日千円くらいかなあ、大体ね。まあ何とかメシには困らんくらいは稼いでるよ」。(Case 29)
まだ若いので仕事を探しやすい。最近もちょこちょこセンターから仕事に出ているらしい。探しやすいといっても、3日に1回ほどであるようだ。しかし、「今どのくらい稼がれているのですか」という質問に、「ほとんどないよ」「でも仕事行かれてるんですよね」「まあ3日に1回くらい」というので、それなりに稼いでいるのかと思いきや、契約で行った飯場は大体途中で投げ出してしまう。この日の前日も、10日契約の飯場を3日働いただけで飛び出して帰ってきたばかりで、全くお金を貰っていなかった(2000円だけ前借りしたらしいが)。こうしたことがよくあるらしく、かなりただ働きをしている。仕事の回数ほど稼ぎはないようである。
また、かなり悪い待遇の飯場が多いようで、ほとんどお金にならないことがよくある。ちょっと前にいった千里のI 建設などは、2日働いて1000円しかくれなかった。こういうことが多いため、もう飯場はやめて現金ばかりでやっていこうと思っている。(Case 35)
■その他の仕事
現在の仕事はシェルター内で出されている仕事のみである。公園の清掃や警備で、時給700円である。4時間で2800円。6日に一回の輪番制なので、月にしたら14000円くらいである。「14000円でたばこ(わかば)と食費とまかなってる。たばこも昔はロングピース吸ってたけど今はな。食費が8〜9000円かな、一日300円足らずや。もう極貧生活よ。でも14000円でも暮らしていけるんや。たばこ吸って朝夕ご飯食べて。まあ人は『信じられん』言うやろが」。(Case 42)
「シールとか集めてるんよ。」
「シール?」
そこには、懸賞品を応募するように自動販売機の横などに置いてある、シールを貼って出す葉書が。
「え、懸賞品生活っていうことなんですか?」
「ちがうよ。あまり大きな声では言われへんけど、そういうシールを1 枚5 円くらいで買ってくれるところがあるの。」
「1日シールってどのくらい集まりますか。」
「隣にいる人と一緒に集めてるのよ。1日だいたい300枚くらいかな。」
いろいろな懸賞用のシール一覧がはっているシートを見せてくれる。一つ一つに、1枚○円と書かれている。値段が一番高いもので7円、安いもので4.5円と書かれていた。
「1枚の値段が7円のものもあるんですよね。」
「そう、あんまりでまわっていないシールは7円くらいするものもある。でもAみたいによく出回っているのは4円50銭くらいなの。それ以外にもB(飲料メーカ)のシールもあるけど。」(Case7)
現在は中央卸売市場で野菜を買って、それを公園の近所にある団地で売って生活費にしている。月に7、8万円になる。
聞き取りに行ったときはいもかなにかを袋詰めしていた。また聞き取りをした後もう一度そのテントの前を通ったが主婦らしきおばちゃんがそのテントを取り巻いていた。このテントに直接買いにきているのかもしれない。(Case 26)
現在「仕事」をしていない(できない)人11人について、仕事をしていない(できない)理由を見てみると、「体力的な理由」、「他からの収入」の二つをあげることができる。
「野宿生活の実態とか、仕事に関する要望とか聞かせてもらいたんですけれども。」
「わし、もうどうやって死のうかと考えているから、仕事をする気はないんや。」
「失礼ですけどおいくつですか?」
「65歳や。体もえらいんでもう仕事しようとは思わない。」
「体がえらいんだったら、生活保護とか福祉事務所に申請にいかないんですか?」
「救急車さえ呼んでしまえば病院に行って福祉にかかることができることは知っている。65歳だから生活保護をうけれることも知っている。けどそれは最終の手段であるので、今はやりたくないと思ってるんや。」
「じゃ、今は仕事は?」
「空き缶をときどき集めるけど、ほとんど仕事はしてない。」(Case 11)
貯金が多くあったため、野宿をしてから働いたことがない。アルミ缶集めなどもしていない。貯金はそろそろ尽きるのであるが、「長生きしても仕方ない」と、先のことは考えていなく、どんな仕事でも働く気は全くない。(Case 20)
現在は年金(約20 万円)をもらっており、厚生年金、年金基金と二つかけてあった。現在住所を確保しているので年金を受給している。
年金があるので仕事はしていない。(Case 25)
つぎに、現在仕事をしていないが、何とか食いつなぎ生き抜いているという事例を紹介する。
■生き抜く
「でも、ま、何とか食べて。」
「そうや、贅沢しなかったら、何とか生きていけるわ。あれ食うや、これ買うわ言い出したらきりがないからな。パン屋さんのパンでいいんや。パンがいやだったら、売れ残りのお弁当もでるしな。賞味期限きれたような弁当やけどな。でも冬場やったら何とかいける。夏場、ちょっと春になりはじめると糸が引っ張りはじめよる。そんな弁当食べられへんがな。臭いもしよるし。大概へんな臭いしよるし。」
「で、そんなので食あたりしたことはない?」
「若い頃したことあるけどな、一度したらな。そらやめとけということになるわな。なんぼええ弁当やゆうても食べへんようになるわいな。」
「じゃ、炊き出しなんかは?」
「行ってない。炊き出しいくんやったら、スーパーマーケットとかな、ゴミ箱とかの方がましや。弁当ほかしてくれるもん。」
「あ、そっちの方がいい。」
「う〜ん、自分の好きな物たべられるやろ。」
「ここらへんやったら食べ物?」
「ここらへんのはいい物はない。」
「じゃ、普段どこまでいきはるんですか?」
「市場。あすこがええのだしてくれるんや。競りが終わってからの、腐っているやつやらな、半分かけたやつやらな、そんなんがあるんや。みんな行きよるからな。たかっとるは。表で待っとるわいな。まだかいなって。『もうええぞ〜』って言ったらばっとな。」
「持っていってもガードマン何もいいません?」
「『あ〜、また来たんか。』って感じやで。そのかわり、山になっているところな崩さないように、手を突っ込んでな、これは食べれる物やっていうのだけとって、散らかさないようにしないといけないんや。あとは、向こうの清掃屋がな、バケツみたいなもので、ブーっと持っていきよる。」(Case
13)
現在何らかの形で求職活動をしていますか、という質問に対して約45%の野宿生活者が求職活動を行っていると答えた(図2-5)。
図2-5.求職活動の状況
A求職活動をしない(できない)理由
現在求職活動をしていない27名について、求職活動をしない(できない)理由をみてみると、以下の6つに整理することができる。
■病気・体力がない
■仕事がないから
■今の生活で手一杯
■求職意欲減退
■友人や犬の面倒をみている
■借金がある
B求職活動の手段
現在、限られた社会資源しか活用できないような状況で、どのような手段を用いているのだろうか。以下5つの項目について、事例を紹介する。
「最近はセンターに仕事探しにいってるの?」
「掃除(特別清掃事業)の番号だけかな。土工とかの仕事とかにも就きたいとは思っているけど、年齢でだめだから、今はあきらめている。それに年が年だから、あまりきつい仕事には行けないし。」(Case 7)
現在、西成労働福祉センターや人夫出しを通じて仕事を探している。しかし、西成労働福祉センターは「100%ない。まあひやかしに行ってるようなもんやなあ」。新聞の求人広告などで仕事を探して就いたことも以前はあったが、求人広告などは年齢制限がきついので現在は見ていない。(Case 38)
仕事は職安や新聞などで探しているが、職安にいっても求人は平均40代までで就ける仕事はない。「行政はおもてむきはいいこという」。(でも仕事ないし、どうにもできないのとちがうかな。)(Case26)
「仕事どこで探しはったんですか?」
「阿倍野のハローワーク。でも仕事なかったな。」
「どういう理由であかんかったんですかね。」
「アパートに住んでいないから、連絡先がないとだめとか、保証人がいないからだめとかやな。今は探しに行ってないけど。」(Case 37)
基本的には読売新聞やスポーツ新聞や広告の求人欄で仕事を探しているが、野宿をしているときに仕事をみつけてスーツを着てきれいな格好で面接にいったが野宿をしていることがわかると態度が変わり、イメージが悪いからダメだと言われた。この人はそこで「勤めたらどっかに住む」といったが不採用だった。(Case 3)
「昔一緒に基礎(工事)やってたやつに頼んでいるけど、あかんな。」(Case 24)
■直接雇用主に
現在も仕事を探している。しかし「新聞なんか買うてないしなぁ、たまに新聞が捨ててあるじゃない。それ見ても、まあ無いよ。どれもこれも『45歳まで』とかね。それで、街を自転車で廻るんよ。ぐるぐると。でもなかなかないね。直接行って住み込みを希望しても、『二人はだめ、一人ならええけど』って断られる。これ(奥さん)がおらんくてわし一人ならどうとでもやっていけるんやけどな。でもこれを放っぽっていくわけにはいかんしな。一人で野宿さすわけには」。(Case 40 )
「そっか。で、全然求職活動とかは行ってはらへんの?」
「行ってる。去年年末にそこの運送会社に配送のアルバイトさせてほしいって言いにいった。でも居住地がないからだめって言われた。」(Case 43)