(希望の職種)
表2-3は希望の職種について分類したものである。最も多かったのは、生産工程・労務の職業、つまり野宿生活者が今まで就いてきた、製造業や建設業関係の仕事に対する要望が高くなっている。
表2-3.希望の職種
ここで母数が46名になっているのは、4名「(現在の仕事以外に)他の仕事につきたくない」と答えたものを除いたためである。「他の仕事に就きたくない」と答えた理由は後で触れる。「その他」に分類されているものは、高齢者対象の軽作業、体力にあった仕事などがあげられる
(希望の就業形態)
表2-4はどのような就業形態(常雇い・臨時・日雇)を希望するか、について集計した結果である。希望の就業形態で目立って割合が高いのは、「常雇い」で6 割を占めている。
「臨時・日雇」と答えた人の中には、安定した「常雇い」で働きたいが体力がもたないから、「常雇い」より少ない時間で働ける「臨時・日雇」と答えている人も少なくない。
表2-4.希望の就業形態
希望の職種と同様、母数が46名になっているのは、4名「(現在の仕事以外に)他の仕事につきたくない」と答えたものを除いたためである。
(希望の収入)
「最低どのくらいの収入が必要だと思いますか」という質問に対して、希望の就業形態で常雇いを選択している人は月給10万円から25万円で、平均16万6千円、また、臨時を選んでいる人は月給8万円から10万円で、平均9万6千円、日雇を選んでいる人は日給6千円から1万3500円で平均1万円という結果が得られた。
(就労ニーズの具体例)
■自分の技能・技術を活かしたい
希望の職種は昔自分が専門にしていた仮枠(家の基礎)大工である。当時は本を読んだり、積極的に親方に聞いたりして勉強したので図面も読める。10年かけて一人前になった仕事であるため、資格はないが、「腕を見てもらえれば」と自信ありげである。そういった仕事がなければなんでもいいが、警備のようにじっとしている仕事は嫌で、働いている実感のある体を動かす仕事の方がいい。常雇いとは言わないが、パートのようなもので月10 万貰えたら十分である。(Case 19)
もしつぎあたらしい仕事に就けるのなら昔身につけた印刷をもう一度したい。56歳だから体に負担がかからない程度で。賃金は家賃などの生活費を考慮にいれると最低20万円はいるだろう。(Case26)
仕事の希望は、自立支援センターへの入所手続きをしようと考えているものの、今後も釜ヶ崎の日雇いを続けたいと考えている。賃金はやはり最低でも定められた13500円はほしい。現在の賃金はおかしい。(Case 34)
フォークリフトの免許があるので、土方は嫌だがフォークリフトなら暖かくなったら(4月くらいから)やりたい気持ちもある。ダンプはこの耳では危ないが、フォークリフトならいけそうだからだ。場所は西成でもどこでもいい。できれば常雇いで月10万は欲しいところである。また、最初は前貸しをさせてもらうことが望ましい。行政に望むのは仕事の紹介と身元の保証である。「電話も家もなかったら(企業は)雇ってくれないんじゃないですかね」という不安があるからである。(Case 18)
「 ...生活保護をもう一度受けたいな。...生活保護を受けたからといってじっと家にいるんじゃなくて、仕事も探しに行きたいからな。」
「どんな仕事につきたいですか?」
「そうやな、年も年やから仕事ないかもしれないけど、体に無茶苦茶負担がかからないような仕事を探したいな。掃除みたいなものがええな。長時間じゃなくてな。」
「やっぱり、体えらいから、体力にあった仕事がいいですか。」
「そうやね。」
「給料が高いとかよりも。」
「そうやな。」(Case 30)
土工として働きに行って体がいうことをきかないことを実感したことも関係しているのか、就きたい仕事は体に負担のかからない軽作業とのことである。常雇で働きたいと考えている。「もう60歳のおじちゃんやで」。具体的に挙げるなら可能性も考えてガードマンとのことであった。月給は20万円あればとのことであったが、「月15万あったらドヤ泊まって三食買って食べてもワシ絶対生活していけるからなあ、月15あったら」とも語っている。(Case 38)
■みんなで仕事を分け合う
「今の仕事が一日2800円で六日に一回。それを三日に一回にまわせたらな。わしにしても基本的には人から面倒見られるのはいやな質や。でも行政も『支援』言うて取りかかるんやったらしっかりしたことをせな。今はそんな姿勢は見れないよ。もっと大局的に、大きい見方でやらなあかんよ。人数も多いんやから、(賃金も労働時間も)少なくてもそのみんなに仕事が廻るように、大阪市の抱えている仕事を活用しなければいかん。いくら景気が悪いと言うても行政に全く仕事がないわけじゃないだろ。......例えば今一人8時間している仕事があるなら、それを4時間ずつに分けたら二人が仕事に就けるやろ。...みんなで分けあって。それにいくら仕事あっせんしても、しっかりお金貯められるようなサポートがなくちゃだめだ。生活保護にしてもその後までサポートがないと。周旋屋が金取ったりあるしな。打ち切られてまたテントへ戻るんじゃ意味ないやろ。ちゃんと人の事情をみてそれに合うようにしなくては」。...行政が抱えている軽作業をみんなに回るように出して欲しいとのことだ。(Case 42)
今までのように、自分が希望する仕事というよりは、現在これだけ増加している野宿生活者全体という視点から、希望の仕事を答えている事例である。これ以外にも、労働者として現在の状況を何とかしたいと考えている事例を一つ紹介しておく。
今の仕事は1万5千円くらいの仕事をしている。とびのピーク時は4万円単価だった。単価を下げているのは、今働いている奴らや。アオカンしている人が働くから、そんな桁落ちの飯場がなくならへんのや。仕事にみんな行かんかったら、単価はあがる。もうアオカンしてるねんから、半年位我慢したらええんや。ストライキや。(Case 16)
(他の仕事には就けない)
今回聞き取りをしたうち、4人から「何かつきたい仕事がありますか」という質問に対して、「他の仕事につきたいと思わない」という答えを得た。4人のうち2人は、高齢ということもあり、生活保護を受けられるまで何とかしのげればという理由で、就労に対する要望がなかった。1人は、「借金がなくならない限りは、借金取りが取り立てにくるので仕事に就くことはできない」と答えた。もう1人は、現在の場所で野宿する前に、自転車で四国88ヶ所(しかも2周半)を、1 日2500円の野宿生活でお遍路していた。その時人生について色々考え、就労ニーズについて「どんな仕事でも働く気は全くない」と回答している。
図2-6は、行政に何らかの要望を持っている40人の傾向を見たものである。行政に対して最も望んでいることは「職業紹介」であることが分かる。また、一人当たり幾つの選択肢を選択したかをみてみると、2.4と、複合的な支援を望んでいることが分かる。
図2-6.行政に望むこと
(職業紹介)
行政に望むのは仕事の紹介と身元の保証である。「電話も家もなかったら(企業は)雇ってくれないんじゃないですかね」という不安があるからである。(Case 18 )
(職業訓練)
図2-7.職業訓練
「もし、職業訓練を受けますかっていったら?」
「そら、仕事に就けるんやったら、訓練うけるで。わしかってやらなあかんことはやるで。」(Case43)
「とにかく仕事がないのが問題なんやで。」
「そうか。で、仕事につくために行政にのぞむことは?」
「そら、仕事を紹介してくれることやろ。」
「職業訓練とか、住むところとか、身元保証とか、ありませんか?」
「仕事がなかったら、どれとっても話にならんやろ。仕事がないのに、そんなことしてくれても、すぐまた野宿やで。だって生きていかれへんもんな。そう思うやろ。」
「そうやね。」
「そもそも仕事紹介してくれるんかな?」(Case 24)
■技術・技能を持っている
仕事に役立つような特別の技術・技能を持っていると答えた人(22人)と、持っていないと答えた人(23人)はほぼ同数であった。
また、どのような技術・技能を持っているのかと具体的に見ていくと、普通・大型・特殊・二種免許など車関係のもの、フォークリフト、玉掛けなどの建設業関係のもの、それ以外にも、金属溶接、アーク溶接、旋盤の免許、調理師免許、印刷関係の技能、クリーニング関係の技能を持っているという回答もあった。
現在、技術・技能を持っていても、新しく職業訓練を受けたいと答えている人がいる。
■年齢が高い
「職業訓練受けても同じやろう思う。60やったらな。現実で現場で『どんなに仕事やったんや』って聞かれたら、『まだ、やってない。』って。技術持ってても、持ってないのと一緒や。職業訓練身に付けたからっていって、仕事がなかったらな。50歳くらいやったらまだなんとかできるかもしれないけど、60歳やったら、『もうええよ』ってな。どんなに技術があってもな。」(Case 13)
「だってもうこんな歳で今更何訓練するのよ。もっと若かったらやろうかなあと思うかも分からんけど、この歳なるとなあ」。(Case 38)
■職業訓練を受けても仕事があるとは限らない
「職業訓練を受けますか」という質問に対して、具体的にどのような技術・技能を身に付けることができるのか、具体性に欠けていること、また資格を取った後仕事があるのかどうかという先の見通しの甘さについての指摘などをする事例もあった。
職業訓練については「ワープロやパソコンとかあってもね、自分にあうものがもしあれば考えるけど」。(Case 42)
「で、新たな仕事に就くために職業訓練受けますかってどう?」
「仕事がないのに、訓練しても仕方がないやろ。仕事があって、この資格取ったら必ず仕事につけるっていうんやったら、話はべつやけどな。」(Case 24)
「職業訓練とか自立支援何とかというの、役人の連中が言うてたけど、そんなんはねえ。他の人と一緒におらないかんからというわけではないけどね。入りたくないね。特別な技術や技能なんてないけど、今までこれでやってきたんやから。そんなんせんでもええから、仕事増やさないとね。やっぱり不景気なんは、行政が悪いんと違う。何望むっていうたらやっぱり仕事増やして欲しいっていうことやね。職業訓練とかいらんから仕事増やしてって。今までそれでやってきたんやから。...仕事ないならそんなのはいらんよ」。(Case 10)
(住居確保・身元保証・生活費貸し付け)
仕事に就くために行政に望むこととして、「住居確保」、「身元保証」、「生活費貸し付け」を選択した事例をみてみると、この3つの項目のいずれかだけを選択しているケースは少なかった。「職業紹介」と一緒に選択している場合が大半であった。
「このまえも仕事あったんやけどな。」
「そこのA公園の草抜き」
「でも住むとこないからあかんかった」(Case 2)
仕事についての要望を聞くと仕事は探せばある。でも部屋を借りようと思っても給料は月末にしかでないから部屋を借りても生活費もないし、家賃を払えない。かといって野宿では就職できない。(Case 4)
行政に対するニーズは「そりゃ、出来ればいいけど、現実難しいな」。...住居についても難しいだろうが希望ではあるという。身元の保証は「確かに仕事に就くときに保証は欲しいけれども、行政がすることで、かえって雇ってくれないんじゃなか。大きな企業なら特に。そこで差別が発生するんじゃないか。ここにいることを向こう(雇い手)が知ればなかなか難しいやろう」。(Case 42)
行政に望むことの中には、野宿生活者自身から様々な提案があったが、「何らかの職業紹介の組織を作って欲しい」との強い要望があった(Case32)。一般には、職業安定所があるのにと思う人がいるかもしれない。だが彼の言葉の中には、既存の職業紹介所から、「住居がない」、「身元保証人がいない」など様々な理由で排除されている、その結果、労働市場に戻ることもできないという、野宿生活者が現在置かれている状況をも背景に含み込んでいると思われる。
以下にあげる二つの事例は、職業紹介に含まれるとは思う。しかし、特に、個人の状況にあった仕事を紹介してほしいとい声が強かったので、あえて抜き出した。
「仕事について就労自立するために行政に何を望みますか?」
「行政に対しては感謝している。...シェルターに入らせてもらっているし。確かに今の生活は最低だと思うよ。高齢者でもできるような仕事をもっと増やして欲しいとか、いろいろ思うところはある。言い出したらきりがないと思う。...」(Case 37)
「でも、もし、寝ているところを役人さんがまわって仕事を紹介してくれるんだったら、建築の仕事に限らなくてもいいと思う。もちろん建築の仕事もあると思うんだけど。でも年齢が年齢だから、体力的にね...。でも日雇だったら自分の体力にあわせていけるからいいと思う。釜ヶ崎に行ったら仕事につけるような状況にしてほしい。」(Case 7)
現在までどのような雇用状況の仕事に従事してきたかということを把握するために、年金を支払った経験があるかどうかについて調べたところ、有効回答者30人中19人が支払ったと回答しており、支払い期間を見てみると、5年に満たない事例もあるが、20年近く、もしくはそれ以上支払っている事例が多かった。
14 年間年金をかけていたので何とかおりないかと相談に役所へ行ったことがあるが、戸籍謄本がいるだの色々めんどくさかったので諦めた。戸籍謄本を手に入れるなら実家に帰らなければならないが、長年あっていない親兄弟には今さら会えない。よって実家には帰れないという。一時金は出ると言われたらしいが、「はした金集めて2、3ヶ月生きたところで仕方ない」と思ったのである。しかし、「まあ俺も人間だからいざとなったら(生きたくなって)どうするかわからねえけど」と付け加えた。(Case 20)
上の事例のように、一時金を受けたいのにどうしたらよいのかわからない、また、一時金を受ける権利を持っていることさえ認識していない事例が多かった。
次に、仕事に就くために企業に何かを望んでいると回答した35 人について分布を見てみる(図2-8)。「年齢制限」をなくしてほしいという回答を選択している割合が高いことが分かる。また、一人当たりの選択数を見てみると、2.2と行政よりは若干少なくなっているものの、企業に対しても複合的な支援を希望していることが分かる。
図2-8.企業に望むこと
(年齢制限の撤廃)
企業に対して、多くが答えた「年齢制限をなくしてほしい」という要望は、今回話を聞かせてもらった野宿生活者が、野宿する前、野宿してから、求職活動にいったときに経験した不採用理由なのだろう。
ホテルの清掃の仕事もいまでは年齢制限が厳しくなっているという。むかしはむしろ年寄りの仕事であったようで、清掃の仕事をやり始めたころ面接に行くと若いのにと言われたこともあるという。いまでは50歳未満でないと雇ってくれないという。ある時面接にいくと一人の募集に50人面接にきたという。若い人のあいだではまだまだ仕事があるようだが、年寄りのところにはないことをしきりに言っていた。
...行政には頼りたくないので仕事は自分で探す。企業にも望むことは年齢制限をなくしてほしいことと前貸ししてほしいことで住居は自分で探すということだった。(Case 3)
行政に望むことは、4〜5千円でいいので最初の給料までの生活費を貸してくれること、企業に望むのは年齢の制限をなくしてくれることである。55歳までという仕事は良く見受けられる。57歳の氏くらいが最もつらい年齢であるということだ。(Case 19)
新聞で仕事を探しても年齢制限があり、また住み込みを希望して「二人連れはだめ」と断られるなど、どうしても新たな仕事に就けない。(Case 40)
上の事例は夫婦で野宿生活を余儀なくされている。よって、自分だけの生活だけではなく、奥さんと一緒に生活できる住居提供を希望している。
仕事に就くための行政に望むことは、仕事の紹介、住居の確保、給料が出るまでの生活費の貸し出しである。企業に望むのは年齢制限をなくし、住居の確保、給料の前貸しである。(Case 27)