3)アメリカ

 現在、アメリカには無数のホームレス支援団体が存在する。その中でも活発な支援活動が展開されているニューヨーク(NY)で、日本の野宿生活者の就労・自立支援の参考となりそうな4つの団体の取組について、そのポイントとなるところを紹介する。

 ただ、現在のアメリカのホームレスは女性や子供が増えており、殆どが麻薬中毒者で、日本の野宿生活者とは基本的な属性で異なる面があることについては留意が必要である。

 最初に紹介する団体は、NYのマンハッタンにある1)コーリーションフォーザホームレス(CFTH)という団体で、NY市内で最も有名なホームレス支援団体である。CFTHは「NYの全ての人々がベッドで寝る権利を保障する」としたベッドロック法をNY州に制定させるよう働きかけた団体で、ホームレスのシェルターの確保と無料食料配給に力を入れており、自立支援活動としては女性の就労活動の支援を行っている。彼ら就労トレーニングは女性を対象にしているが基本的なものの考え方は参考となる。

 二番目に紹介するのはワシントンDCにある、2)DCセントラルキッチンという団体で、「食はホームレスを救う」をモットーに斬新な調理技術の就労トレーニングを行っている。この団体は政府に食材寄付保護法を制定するように働きかけた団体でもある。使いきれずに捨てられていく食材をレストランや食料品店から「救済」し、ホームレスの人々の食事に変えていくと同時に彼らの就労トレーニングをおこなって、飢餓とホームレスの就労問題を解決していこうというユニークな団体である。その活動内容は現在全米の様々なところで摸倣されており、アメリカのマスコミの取材対象ともなったりしている。

 三番目に紹介する団体は3)ドゥ・ファンドと言われるNYの団体で、ここはホームレスシェルターを自ら運営し、ホームレスを雇って地域の清掃活動をし、最も援助しにくいと呼ばれる薬物依存症のホームレス男性の自立支援活動を行っている。この団体のモットーは「Work Works(仕事でホームレスを自立させる)」で、カウンセリングやリハビリといった基礎支援活動を飛び越して、いきなりホームレスに仕事を与え自立に向けての支援活動をおこなうという大胆な発想をもった団体である。

 最後に紹介するのは4)コモングラウンドという団体で、NYで1番大きな規模の支援住宅を運営している団体である。他の団体と違いコモングラウンドの住宅は通勤寮のような通過的住宅ではなく(半)永久・終身制住宅で、その住宅の中に就労トレーニングや心療・職業カウンセリングといった様々なサービスが設置されており、支援住宅が単なる住宅として機能するのではなく一つのコミュニティーとして機能する事を目指しているユニークな団体である。


1)コーリーションフォーザホームレス(CFTH)

 「コーリーションフォーザホームレス(CFTH:Coalition For The Homeless )」はニューヨーク市マンハッタンを活動拠点としてホームレスの支援活動を行っている。

@団体の歴史

 約20年前、路上で野宿していたホームレス、ロバート・カラハンと通勤途中出会った弁護士ロバート・ヘイズが、「NYの全ての人間がベッドで寝る権利が法律で保護されるべきである」と共に訴え、同士を募りNY市と州を相手取り裁判を起こした。この裁判で勝訴した後も、この訴訟の為に立ちあがった人々が引き続きホームレスのための運動を続け、今のCFTHにいたる。

ACFTHの団体宣言―Mission Statement

 「CFTHは全てのホームレス(男性、女性、子供を含む)を援助するアメリカにおいて最も古く最も進歩的な非営利団体である。我々は市民社会において、全ての個人は適切な住居、十分な食事、そして生活を営めるだけの賃金の為に就労する機会を得る基本的権利を持っていると言う理念に全身全霊をささげている。
 1981年のカラハン-キャリー裁判における我々の初の勝訴は、全てのNY市民がシェルター(避難所)で眠る確固たる権利を保障した。その勝利は、その困難の度合いに関わらず全てのホームレスは尊厳と威厳をもって生きるだけの価値のある人間であるという我々の信念を広めてくれた。
 以後、CFTHは訴訟、草の根運動、教育、そして直接支援活動をもって、多くの野宿者たちの貧困危機に対し、永遠の解決策を手にせんと闘いつづけている。ホームレスと貧困問題の唱道に努めると同時に、我々は直接支援活動によって、毎日NYの3,500人以上のホームレスたちの窮乏に援助と支援を行っている。
 CFTHはホームレスの男性、女性そして子供達の目前のニーズに対応する傍ら、我々は彼らの窮地に対し長期にわたる問題解決の為に尽力している。
 我々は緊急支援から、過渡・長期的自立支援プログラム、そして永久自立支援プログラムまでの持続的支援活動を行っている。
 最前線のホームレス救援活動の経験をもって、人間らしく、より資金効率の高い根本的解決策を擁護することに我々は日夜、努力を惜しまない。

B CFTHの自立支援プログラム−COALITION PROGRAMS

CFTHの自立支援プログラムの基本的コンセプト)

 ホームレス状態から脱出し持続した自立を獲得するためには、我々がホームレスの一人一人が確実に経済・社会的自立ならびに精神的安定を再得できるように援助する事が必要不可欠である。そのために、CFTHは住宅確保、就労訓練を助けるさまざまな直接支援プログラムを提供している。

(危機仲裁プログラム−Crisis-Intervention)

 長期的なホームレス状態からの脱出より、ホームレスになりかけている人をホームレス状態に陥る前に助けるほうがより効率的で、簡易であるという経験的見地から、このプログラムは設けられている。日々50人から75人のホームレス状態の人、あるいはホームレス状態に陥りかけている人達(家賃を滞納して追い出されそうになっている人々)が、団体のスタッフに相談に来ており、スタッフ・カウンセラー(常時約30名)は公的機関と比較にならないほど迅速にホームレスに陥る危機的状態にある人々の要求と問題に対応している。

(リハビリテーション−Rehabilitation)

 医療知識のあるカウンセラーたち(医師免許ならびに看護免許があると思われる)が従事しており、アルコール、麻薬等の依存症、精神病、およびエイズなどのホームレスの人々の身体的問題に対応している。カウンセラーはクライエント(CFTHに援助を求めてきた人々)が病院や施設に入る必要があるかどうかをチェックし、その必要がある場合はその施設との仲介、紹介を行い、その後も本人がきちんとリハビリを受けているかなどを定期的にチェックする。

C就労支援−First Step Job Readiness Program

 このプログラムは1991年に、ホームレスの中でも特に弱い立場に置かれている女性、シングル・マザー(独身の母親達)のために設置された。毎年約150人の低収入でホームレスの女性たちに対し就労トレーニング、および自尊心といった彼女たちが労働現場に再参入し経済的自立を獲得するために必要な技術と能力の習得を支援している。

(就労トレーニングの内)

 このプログラムは16週間にわたって行われ、初めの4週は授業、そして残りの期間は一般企業(一流企業である事が多い)での実務研修からなっている。授業時間は合計40時間で、一般事務で必要とされるコンピュータの使い方、経理事務などの実用的技能が指導される。1人の教師にたいし7人の生徒というのが一般的である。

 参加者がプログラムをきちんと続けて就職し自立していくための精神的安定を保てるよう、必要に応じて医療・診療カウンセリングも行われている。

 一般企業の研修がはじまる直前に、特別授業としてビジネスマナーとコミュニケーション(挨拶の仕方、話方、電話の応対、ビジネスランチ、ディナー、パーティーでの作法、服装、髪型、化粧の仕方など)が指導される。エスティーローダー(Estee Lauder)やスタイルワーク(Style Work)など一般の企業からのボランティアが、専門的な化粧法、身だしなみの指導を行う。また、仕事場に来ていく服が無いという人の為に、ドレス・フォー・サクセス(Dress for Success)や (the Bottomless Closet)というブティックが仕事場で着るスーツなどを提供している。

 インターンシップ(実務研修)は12週間にわたり一般企業で実務研修を行うもので、内容は一般事務(ワープロ、表計算、伝票整理など)である事が多い。研修期間中はCFTHのケースワーカーに週2〜3回、研修内容などを報告することが義務付けられており、研修生として本当に研修をきちんと問題無く行っているか定期的にチェックされる。セクシュアルハラスメント、同僚からのいじめ、上司からの冷遇などの問題があった場合は、ケースワーカーが仲介者となり問題解決に向けて支援する(研修現場を変えるなど)。

 このプログラムをきちんと卒業できた女性の数は年間全受講生の70%で、卒業生の90%以上は研修したところより良い職場に就けている。まずハードな就労プログラムを卒業して就職するだけのやる気が本人にあるかどうかを事前のカウンセリングで確かめてからプログラムに参加させているということ、研修によって一流・一般企業での実務経験を積むことができたことなどが、卒業生の高い就職率の要因となっていると思われる。また、研修現場が中小企業ではなく、大手の一般企業(Chase Bank, Citibank, Times Warners 等)であり、研修後はこれらの一流企業の上司に紹介状を書いてもらえることも、ネットワークの無い彼女等のマイナス点を乗り越えることに大変役立っているようである。

(就職活動支援)

 技術と経験に関しての支援としては就労トレーニングがあり、それ以外はCFTH自体に寄せられる求人情報、あるいは求人雑誌、一般求人広告に目を通し本人に合った仕事先を見つける手助けをケースワーカーがしている。

 「ホームレスの自立とは、彼等を普通の社会で自分の力で生きていくことであり、社会から隔離し、保護しても彼らの自立を実現する事は出来ない」という基本的概念から、ホームレスのための特別な職種の開発にはCFTHは取り組んでいない。

(教育支援)

 学歴社会のアメリカにおいて安定した職業につくには、最低でも高校の卒業資格、あるいはそれに相当するGED(通信教育による高卒の資格)が必要である。CFTHでは、その資格が無い人々のために、通信教育で資格が取れる手助けをしている。スタッフ、あるいはボランティアが、卒業資格が得られるようにマンツーマンで教育指導をしている。

Dカウンセリング

 カウンセリングは、その他のプログラムと併用して必要に応じて行われている。一人のクライアントにつき一人のケースワーカーというのが一般的で、ほとんどのケースワーカーが危機救済から、就労、住宅確保までのカウンセリングとモニターリングを継続的に行っている。(ただし、医療カウンセリングは専門の職員がカウンセリングにあたっている。)また、一対一のカウンセリングが苦手な人には、立場の似た人達と合同のグループカウンセリングなどが用意されている。

 CFTHで働く職員のほとんどがケースワーカー、ソーシャルワーカー、カウンセラーとしての役割を果たしており、危機救済援助のカウンセリングにあたっているのが約30名、うち半分以上がカウンセラーとしての資格を持っている。

E住宅支援

(住宅支援の基本的コンセプト)

 安定した住宅を確保できなければ、いくら安定した仕事を持っていてもそれを継続できず、ホームレス状態に逆戻りという悪循環が起こる。こうした事実を背景に、CFTHではとにかく何でも良いから住居を与えるというやり方ではなく、あくまでも「その住宅を彼らの心身の安らぎと安定を与える家になるかどうか」ということを念頭において彼らの住宅確保の支援にあたっている。

 CFTHの住宅支援プログラムは、ホームレスの誰もが受けられるというのではなく、一定の自立能力(あるいは潜在能力)が備わってきたクライアントだけが受けられるシステムになっている。プログラムの参加条件として、

a)薬物アルコールなどの依存症が無いか、あるいは克服できているか、
b)高校卒業資格あるいはGED(高校卒業資格に相当する資格)があるか、(あるいはその資格獲得に向けて努力をしているか)、
c)b)に関連して、あるいはそのような職業につくだけの能力と動機があるかなどがある。

 実際ホームレスに逆戻りしないためにはこれぐらいしっかりと基盤を築いてなければならず、またホームレスから住宅を確保するまでにいたる全ての段階でしっかりと必要な時間をじっくりかけて彼らをサポートするシステムを持っているので、この条件を満たすのは決して無理ではないというのがCFTHの意見である。

(レンタル・アシスタント・プログラム−Rental Assistant Program (RAP))

 このシステムはホームレスの人々が自立していく過程での給与とNY市内の平均家賃のギャップを少しでも埋めて、彼らの継続した自立を支援しようというもので、老若男女、実に様々な人が利用している。自立まであと一息というところまで来ているホームレスの人々に、2年間(延長される事もある)、200ドルから400ドルまで(平均300ドル=約3万〜3万2000円)の家賃の援助を行うものである。個人の場合の平均援助額は200ドルから300ドル、家族の場合は300ドルから400ドルである。

 このレンタルプログラムの支援を受けた3分の1の人が、2年の期限を待たずこの支援から自立をし、さらに安定した住宅を仕事にへと就いていっている。全体の85%が最終的に社会、経済、精神的自立を果たしている。現在CFTHでは、このプログラムの卒業生がその後も継続的に自立をしているかのフォローアップ調査・カウンセリングを計画している。

 このプログラムは、現在NY市及び州からホームレス支援のモデルプログラムとして奨励され、補助金が支給されるようになった。

 (分散型住宅プログラム−Scattered Site Housing Program)

 分散型住宅プログラム(SSHP)では、病気のため入居拒否にあっているホームレスの人々を救済するために、カウンセリング、医療サービス、住宅確保といった支援を行っている。クライエントがより心地よい生活が出来るように、食事配達やより良い家具等の設備の設置、買物代行、車での送迎、服の提供、治療に必要な医療品及び器具の提供なども行っている。また、病状と精神状態によっては就労トレーニングも行っている。また、彼らが孤独に苦しまないように、地域のイベントの参加(詩の朗読会、博物館・美術館ツアーなど)が出来るように協力している。サービスの向上のため、現在勤務にあたっている全てのケースワーカーは福祉介護トレーニングを受け、専門知識を増やすことを努めている。

(ブリッジ(橋渡し)住居−Bridge Building)

 ブリッジ住居は、家族(特に子供達)と離散してしまったホームレスの女性たちにアパートを提供することによって、彼女たちが自立し、子供達ともう一度共に暮らせるよう支援するプログラムである。ケースワーカーは、この住宅を提供された女性たちに、カウンセリング、就労トレーニング、学習トレーニング、医療リハビリなどの様々なサポートサービスが行き届くよう世話をし、彼女たちの離散した家族、子供達を見つけ、彼らが一緒に暮らせるように、必要な法的手続きからカウンセリングまでのケアを行っている。

(コアリション住宅−Coalition Houses)

 このプログラムの目的は、経済的自立がきわめて困難な人々が路上で一生を終わらせるのではなく、人間らしくもう一度家で暮らす事が出来るように支援することである。コアリーション住宅とは、38軒の終身制サポートの独身専用アパートで、ほとんどの居住者が特別な介護が必要な人(長年にわたる麻薬・アルコール中毒を持っていた人、精神病者、特別な身体障害者、老人あるいは10年以上路上で暮らしていた人々)である。コアリション住宅は終身的に居住でき、家賃は殆どの場合無料で、払ったとしても100ドル(一万円)前後である。

 市の住宅法改正に伴い、廃墟となったビルを市から受け渡してもらい、CFTHのスタッフが寄付と市からの援助で、特別なケアが必要なホームレスの人達の為に改築し支援住宅へと改造した。この支援住宅では、経済的自立が出来ない彼らがそのために社会的に孤立してしまわないように、映画会、コンサートや美術館、ブロードウェイミュージカルの鑑賞会、誕生日パーティー、ドミノ倒し大会、など様々なイベントを計画している。       

Fボイスメール・プログラム−Community Voicemail

 ボイスメール・プログラム(CVM)は1995年にはじめられ、これまでに9千142人の連絡先の無い人々に連絡先となる電話番号を与え、家族との絆を失うこと、仕事や部屋を得る機会を失う事などからホームレスの人々救っている。このサービスを利用した76%の人が安定した仕事を見つけ、42%の人が長期的に住む事が出来る住宅を見つける事ができた。

(ボイスメールの仕組み)

 このサービスの申し込みは無料で、必要であれば誰でも申し込む事が出来る。ボイスメールの利用を申し込んだ人には、直ぐにその場でその人専用の電話番号が与えられ、もらった当日から使用できる。この電話番号は直接留守番電話サービスに(一般家庭用や携帯などで流れる自動録音メッセージが応答する)つながるようになっており、ボイスメール利用者本人が、自分と連絡を取る必要がある人々(不動産屋、就職しようと思っている職場の雇用者、家族など)に自分の連絡先として渡す事が出来る。留守番電話に残されたメッセージの確認は、ボイスメールボックスの番号をかければできるので、何処からでも留守番電話のメッセージを確認する事が出来る。メッセージをチェックするためにボイスメールの番号に電話をかけるだけのお金が無い人の為に、現在CFTHではボイスメールの番号のトールフリー化(電話受信者払い:日本で言うフリーダイヤル)に努めている。


2)D.C.セントラル・キッチン(ワシントンD.C.)

 DCセントラルキッチンという職業訓練でも、特に調理技術の訓練を行っているワシントンDCの非営利団体である。「食料の救出と貧困との闘い」をテーマとし、ホームレス問題を食べ物で解決しようとしているユニークな団体であり、他の地域で同じようなプログラムの開発に対しても協力を惜しまない積極的な団体である。

@団体の歴史

 DCセントラルキッチンは、団体の代表者であるロバート・エガ−氏によって1986年に貧困と飢餓と闘うNPOとしてアメリカ合衆国首都ワシントンDCに生まれた。ロバート・エガー氏は当時高級レストランのマネージャーとして働く傍ら、余暇を使って教会が行っているホームレスの為のスープアンドキッチンでボランティア活動をしていた。ボランティア活動を通し多くの空腹に苦しむ人々と出会い、自分が努めているレストランで使いきられずに捨てられていく大量の食料とホームレスの貧困との間に大きな矛盾を感じ始める。そしてその矛盾は「使い切られずに捨てられていく食料で空腹に苦しむホームレスの問題をなんとか克服できないか?」という発想へと結びついていった。この発想をもとにエガ−氏は、廃棄されていく(しかし十分食料として使用可能な)食材を集めホームレスの人々のために食事を作る小規模な非営利団体を、政府からのわずかの援助にたよって発足する。

 ホームレスの人々の食料を作り彼らの飢えの問題に貢献しつづけていく過程の中で、エガ−氏は食糧を配給するだけではホームレスの貧困と飢えの問題の根本的解決にはならないということにも気づきはじめる。そこで、エガー氏が率いるDCセントラルキッチンはそれまでのホームレスのための食料配給を続けながら尚且つより抜本的なホームレス問題の克服に貢献する対策として、食品サービス業(ホテルのレストラン、レストランチェーン、ケータリングサービス)の就労トレーニングプログラムをはじめることになる。こうしてはじめられた就労トレーニングプログラム、そして彼らの就職先の確保と団体の活動資金調達を目的としたケータリングサービス業(Fresh Start Catering:フレッシュスタートケータリング)を総括したのが現在のDCセントラルキッチンである。

ADCセントラルキッチンの団体宣言】

DCセントラルキッチンは以下の任務を遂行するために発足した非営利団体である。

DCセントラルキッチンの目標任務とは…

 ○ワシントンDC、バージニア、メリーランド州にある食料サービス業界から廃棄されていく

  超過食材を衛生的かつ安全な方法で「救済」し、その食料をもって社会福祉団体の子供と大

  人たちに食事を提供する

 ○寄付された食材を栄養バランスの取れた食事に還元すると同時に不就労・失業者達の就労ト  

  レーニングをおこなう

 ○全国各地域で、我々と同じような活動を行おうとしている団体との交流をし、情報提供、活

  動開発の支援を行う

 ○毎日、市内のレストラン、ホテル、団体・学校の食堂、仕出業者、などの食品サービス業界

  から保冷車で使いきられず廃棄される食料の「救済」活動を行う。

 そして、救済された食材を調理場で日々3,000食の食事へと調理し、市内の130件以上にわたる諸団体へと提供されていく。我々は、空腹に苦しむホームレスとその子供達だけに限らず、地域の子供会の活動に参加している子供や老人ホームのお年よりそして地域の各種活動団体の人々にも食事を提供している。

 

 

B自立へのハードル

 DCのホームレスの問題に取り組んでいるこの団体に、ホームレスが職について安定な職業につくのに困難な点は何かと聞いてみたところ、他の団体と共通した問題が沢山取り上げられた。ただし、この団体はCFTHのそれと違い男性のホームレスも就労トレーニングの対象であるのとまたワシントンDCと言う特殊な土地柄からNYの団体が言及しなかった問題なども取り上げられた。次にDCセントラルキッチンの関係者が述べたホームレスが自立するにあたって困難な点を列挙する。

1)安定した住宅がない、

2)安定した職業につくための技術、学歴、職歴がない、

3)アルコール・麻薬依存症、

4)仕事を探すために必要なネットワークが無い、

5)紹介人がいない、

6)身元保証人がいない (以前アルコールや薬物の中毒があったこと、また前科がある人こそ保証人が必要)、

)履歴のかき方を知らない、面接も受け方がわからない、

)自尊心が低い、

)相談をする人がいない (信頼できる友達がいない)、

10)単純作業をして働く事になれていない、

11)規則正しく働く事に対して価値を見出せない、

12)過去の履歴に対して差別がある

CDCセントラルキッチンのプログラム

(活動内容の概要と目的)

 DCセントラルキッチンはその活動開始以来、寄付された350万ポンド(約160万キロ)以上に及ぶ多種多様の食材を安全かつ衛生的に調理し、これまで800万食以上の食事をつくり地域の人々に提供してきた。無料の食事配給だけで飢餓と貧困は解決する事は出来ないという基本理念、そして貧困と空腹の悪循環を根絶するには現在貧困に苦しむ男女の生活改善ができるようにする中身のある就労トレーニングが必要だとDCセントラルキッチンは考える。故に、DCセントラルキッチンの調理就労トレーニング(Culinary Art Job Training:キュウリナリーアート・ジョブトレーニング)はホームレス、あるいはアルコールや麻薬中毒などの様々な事由よって、ホームレスあるいは不就労・失業状態にある人々が食品サービス業界で立派に就労できるようになるための実用的な知識と技術、そして社会生活能力を得る機会を与えることを目的としている。ホームレス、失業・不就労者、そして社会福祉受給者といった様々な人々がDCセントラルキッチンのプログラムに参加し、自立した生活を築かんと日々努力している。

 また、トレーニング、支援、そして共生というポジティブなサイクルを生産かつ再生産させるために、DCセントラルキッチンではフレッシュスタート(Fresh Start)というケータリングサービス業を行い、活動資金源の確保と卒業生の就職先の確保、そして卒業生のさらに高度な就労トレーニングの機会の拡大に努めている。さらに、まだまだ続く路上のホームレスやシェルターで空腹に苦しむ人々の為に、ファーストヘルピング(First Helping)という食事の無料宅配サービス、も行っている。以下に各プログラムの詳しい内容を記すことにする。

(調理就労トレーニング…Culinary Art Job Training)

 DCセントラルキッチンでは、貧困飢餓の問題を解決は根本的な問題に対する闘いの半分でしかないと考えている。つまり、空腹に苦しむ人々の食事やベッドの確保だけではこの問題は根本的には解決できないと彼らは断言する。この問題を抜本的に解決するには、彼らの空腹と貧困の原因であるに不就労・失業の状態の改善、つまり経済的社会的自立を促進しなくてはならないと主張するのだ。そこで、使用可能な食料の「救済」と「リサイクリング」活動と無料の食事の配給活動のほかに、DCセントラルキッチンはこの貧困問題の根本的原因の克服のために調理就労トレーニングを1990年以来行っており、様々な理由で仕事を得ることができない人の為の支援活動をしている。このプログラムは失業、不就労あるいはホームレス状態の人々が将来食品サービス業界の安定した職種で就職できるようになる手助けをすることを第1の目標としている。

(参加資格)

 人種、年齢、性別に関わらずやる気があって訓練についてこれるならば基本的に誰でも参加してもよい。しかし、プログラムのカリキュラムをこなせ、継続できる可能性がなければならないので、精神・身体的に健全であることは必須である。また、中学校1年生レベルの読み書きができないとカリキュラムをこなせない。

 基本的には本人のやる気さえしっかりしていてカリキュラムさえこなせるというのであれば身体、精神障害の度合いに関わらず誰でも参加できるようになっている。

 参加者の構成は、大半がアフリカン・アメリカン(いわゆる黒人)の人々で、年齢は18歳から55歳ぐらいまで様々だが、参加者の平均年齢はおそらく40歳前後と考えて良いと思う。過半数以上が男性。ほぼ全員が薬物あるいはアルコール依存症の経験を持ち、現在も皆その治療を続けているが、参加時点で少なくとも3ヶ月以上アルコールや薬物を断ち切っている。学歴は殆どが中卒、また違法薬物所持の前科を持っている人が多い。女性の参加者の場合、小さな子供がいる未婚あるいは離婚したシングルマザーが多い。

(給与手当)

 DCセントラルキッチンの就労トレーニングは、参加者に給与を与えているが、行政から福祉受給中の就労能力養成トレーニング活動として認められているので、このプログラムの参加者は行政が行っている就労トレーニングに参加しなくても良い上、DCセントラルキッチンからの給与もらいながら福祉受給を続けていく事が出来る。

 DCセントラルキッチンからの給与は週50ドルで、トレーニングの参加者の殆どが福祉手当(TANF、メディケア、フードスタンプなど)を受けており、公共のシェルターや支援住宅に住んでいる。トレーニング参加中、食事はDCセントラルキッチンが出してくれる上に、政府からのフードスタンプ(食料配給券)で基礎的な食料(牛乳、肉、野菜など)は買えるので、贅沢は出来ないが3度の食事に困る事は殆どない。また、家賃は支援住宅に入っている場合は一万円程度を払えば良いだけなので、福祉手当てで十分賄える。

 また、子供がいる参加者に対しては持ち帰りようの夕食をDCセントラルキッチン側が用意してくれる。これは訓練生が訓練を受けて帰ってからする家事をすこしでも楽にするために行われている支援サービスの一つである。

D規則

 DCセントラルキッチンでの就労トレーニングは12週間続く(13週目は試験)。月曜から金曜日まであさ8時30分から昼の3時30分までの7時間で、休憩は昼休みの約30分以外は基本的には無い。もちろんトイレは自由にいけるが、タバコを吸うための休憩などは取れない。つまり、6時間ずっと就労トレーニングア続く。7時45分から8時15分までの間にくれば朝食を無料でとることが出来る。

 初めの2週間は入門期間で、この間にDCセントラルキッチンのスタッフによって訓練生は一人一人この就労トレーニングをつづけていけるかどうかが判断される。もし、この入門期間の終わりに、残りの訓練期間を続けても訓練生にとって有意義ではないとDCセントラルキッチンのスタッフが判断した場合(精神的な問題、依存症を克服できていない、指導に従えないなど)、訓練生はプログラムを去らなくてはならない。以下にこのプログラムの規則とカリキュラムの内容を紹介する。

(出席に関する規則)

(ルール1) 

授業は8時30分から直ぐに始まるため、授業開始までにユニフォームに着替て準備するために訓練生は少なくとも10分前に現場についていなくてはならない。遅刻は厳禁。朝食を7時45分から8時15分までに出されるので、朝食を取りたいものは其れまでに来る事。

(ルール2) 

8時30分より後についたものはやる気がないと見なされる。遅刻でロスした時間は遅刻した週の間に取り戻さなくてはならない(つまり、休憩時間を減らすか居残って作業をする)。違反者は減点対象になる。

(ルール3) 

遅刻するあるいは欠席しなければならない場合は必ずDCセントラルキッチンに電話をかけ連絡をする事。丸1日の病欠は医者からの診断書・メモ書きを提出しなくてはならない。もし、病院との予約があることが前もって分かっている場合はDCセントラルキッチンのスタッフに必ず1日前までに知らせる事。また、病院あるいは医師からの診断書を提出する事。

(ルール4) 

個人的な予定は就労トレーニングが行われる時間帯以外に設定されなくてはならない。例外はケースワーカーによって許可が下りた場合だけ認められる。

(ルール5) 

就労トレーニングのスタッフ、教官の許可なしにキッチン現場から離れてはいけない。違反者は減点対象になる。

(ルール6) 

このコースを卒業するには一定の授業単位を修了しなくてはならない。もし欠席が10回以上を超えた場合はたとえその欠席理由が正当なものであってもプログラムを卒業する事は出来ない。

(ルール7) 

1週間の修業科目をこなせた場合、訓練生は毎週50ドルの給与を支給される。この給与は訓練生の交通費、お小遣いとして渡される。

(ルール8) 

給与は毎週月曜日に、その前の週の科目を全てこなした場合にのみ支払われる。 前払いはされる事は無い。また、違反が改善されなかった場合は給与を受ける事が出来ない。給与小切手を現金に換えるために早退する事は出来ない。

(ルール9) 

もし、訓練生が1週間の授業科目をこなすことなく就労トレーニングプログラムを中退する場合、その週の給与は支払われない。 給与は1週間(月曜日から金曜日)までの科目を違反無くこなされた場合にのみ支払われる。

(ルール10) 

もし、訓練生が何らかの理由で就労トレーニングプログラムを去らなくてはならない場合、全ての備品(ユニフォーム、鍵、本、トレーニングマニュアル、など)をDCセントラルキッチンに返却しなくてはならない。

(食事に関する規則)

(ルール1) 

トレーニング現場(キッチン)から食料を私用で持ち出さない事。この規則を破ったものは直ちにトレーニングをやめないといけない。

(ルール2) 

トレーニング現場で味見以外の飲食はしてはいけない。

(ルール3) 

スタッフ専用冷蔵庫はスタッフだけが使う事が出来る。この冷蔵庫から食料品を無断で取り出さない事。

(麻薬とアルコールに関する規則)

(ルール1) 

トレーニング現場におけるアルコール、麻薬の所持は禁止されている。この規則を破ったものは即時プログラムから除名される。抜き打ちの麻薬検査がトレーニング期間中に行われことになっている。この検査で違法の薬物使用の陽性結果が出た訓練生は即除名される。

(ルール2) 

酒気を帯びていたりあるいは薬をつかった気配のある訓練生は尿検査を受けなくてはならない。尿検査が陰性と出た場合でも、訓練生は直ちに帰宅をさせられ警告を出される。問題が解決されるまでプログラムの参加が出来ない。問題が解決されない場合は、プログラムから除名される。

(ルール3) 

抜き打ちの麻薬検査を正確に行うために、訓練生はプログラム参加期間中服用している医薬品名を提出しないと行けない。このリストは密封した封筒に収められ、検査の結果が陽性と出た場合、あるいはトレーニング中事故があった場合、開封される。

(ルール4) 

動作や判断力に影響を及ぼす医薬品を服用している場合はDCセントラルキッチンのスタッフに、その薬を服用していても安全にプログラムに参加できるということを記した医師からの手紙を提出しなければならない。医師からの診断書および一筆は必ずトレーニングが始まった初めの週の終わり、あるいはトレーニング中にそのような薬を処方された場合は、処方をされた直後に提出しなくてはいけない。

(ルール5) 

DCセントラルキッチンの敷地内での喫煙は禁止。

(ルール6)

訓練生はタバコを吸うための休憩はとれない。昼食時の休憩時間だけ喫煙(敷地外で)できる。

(制服に関する規則)

(ルール1) 

規定の制服は、1)黒の業務用ズボン(ルーズフィットの綿ぱん)または調理師用パンツ、2)黒のゴム底靴(作業するのに適しているもの)、3)靴下、4)カッターシャツ、5)エプロン、6)ジャケット、7)DCセントラルキッチンの帽子 (帽子とTシャツは訓練の一週目が終わったら支給される)。制服の規定は訓練2週目から適用される。タンクトップ、単パン、サンダル、ノースリーブのシャツを着用している場合は訓練を受ける事は出来ない。 制服の規則を破った場合は着替えて出なおしてこなくてはならないが、そのためにロスした時間はその週の間に残業をして補わなくてはならない。

(ルール2) 

制服を失った場合は新しい帽子やTシャツを自費で買わなくてはならない。(帽子10ドル、Tシャツ15ドル)。

(ルール3) 

9月から3月までのトレーニングを受ける訓練生はエプロンとジャケットを支給され、其れを常時着用していなくてはならない。ユニフォームを返さなかった場合は、給与からユニフォーム代はさし引かれる。

(ルール4)

4月から8月までのトレーニングを受ける訓練生はTシャツとエプロンを着用しなくてはならない。ジャケットは着なくて良い。各訓練生には3枚Tシャツを支給する。

(ルール5)

貴重品をトレーニング現場に持ち込まない。現場でなくなったものに関して、DCセントラルキッチンは責任をいっさい負わない。

(ルール6)

携帯電話、ポケベル、ラジオ、ヘッドフォンは現場では使用禁止。

(ルール7) 

訓練現場に来たら作業の前には必ず手を洗う事。トイレの後には必ず手を洗う事。味見をした後は必ず手を洗う事。作業を変わるときは必ず手を洗う事。

(ルール8)

毎日入浴、歯磨きをしデオドラント(制汗剤)用い、常に清潔にすること。つめは必ず短く切り清潔に保つ事。マネキュアはいっさい禁止。

(ルール9)

ネックレスや指輪の着用禁止。簡素な結婚指輪のみ着用可。

(訓練態度)

(ルール1)

プロとしての態度と姿勢を常に保つ事。

(ルール2)

現場のトレーニングに関する指導は全てシェフに託されている。彼らの指導に必ず従い、彼らの経験から学ぶ事。

(ルール3)

指導教官から割り当てられた活動全てに出席、参加する事は訓練生の義務である。

(ルール4)

いかなる理由でも暴力を振るった者は即プログラムから除名される。

(ルール5)

卑猥かつ暴力的な言葉の使用は現場ではいっさい許されない。

(違反、執行猶予、除名)

  もし、訓練生が以下の規則に従わなかった場合は、規則違反と見なされ減点や警告の対象ととなる。訓練生が3度あるいはそれ以上頻繁に違反を起こした場合はその週の給与(50ドル)を受け取る事ができない。もし、その次の週に違反が行われなければ受け取る事ができなかった週の給与を違反が無かった週にまとめて受け取る事が出来る。3週連続の違反は違反が起きた3週目に執行猶予が出される。

            規則1)制服をきちんと着用していない。

            規則2)授業の準備をきちんとしていない

            規則3)プロとしての意識が欠落している

            規則4)無断で休憩を取った場合

  (評価)

全ての訓練生はトレーニング期間中担当教官から評価を受ける。DCセントラルキッチンが定めた目標に訓練生が見合っていて、さらに成績が平均70%以上の場合、この修業訓練プログラムから卒業をする事ができる。

 週ごとの試験ServSafeSanitation:安全衛生テストをふくむ)50%

  毎日の活動  50% (以下の内容を含む)

     活動内容     1)出席 10%

                   2)態度 10%

                  3)チームワーク 10%

                  4)専門技術能力 10%

                  5)論理的理解  10%

Eカリキュラム…Culinary Curriculum

(修業内容)

1)ナイフの使い方、野菜の調理の仕方、焼きもの、あぶり物、煮物、スープ・ソースの作り方などの基礎的調理技術とその理論の習得

2)食品の栄養価を理解する。USDAの栄養ガイドラインにもとづいた量を認識し給任することをまなぶ (注:USDA=アメリカ栄養協会の略)

3)レシピを注意して読みレシピにしたがって調理する技術を習得する。材料の計量の仕方を学ぶ。個人調理用にかかれたレシピを商業サービス用の調理内容に変える方法を学ぶ

4)このトレーニングをこなしたものは、全国レストラン業界が主催する衛生訓練コースに参加し、食品衛生に関する知識を学ぶ

(週ごとのカリキュラム)

   課題         練習と教材

1週目: ナイフの使い方      ビデオ:ナイフスキルCIA                        練習:鶏肉の骨の掃除の仕方

第2週目: 味付け         ビデオ:PBS/NOVAシリーズ

               練習:個人の好みとは違った味付けの区別の仕方

3週目: ゆでもの         ビデオ:CIAシリーズ

練習:ポーチドエッグ(ゆで卵の作り方)

4種目: 焼き物         ビデオ:CIAシリーズ

               練習:鶏胸肉のグリル

5週目: 照り・あぶり焼き      ビデオ:CIAシリーズ

               練習:ローストポーク

6週目: 炒め物         ビデオ:CIAシリーズ

               練習:野菜炒め

7週目: 揚げ物         ビデオ:CIAシリーズ

               練習:パン粉のつけ方

8週目: ソテー         ビデオ:CIAシリーズ

               練習:魚のソテー

9週目: 煮物、あんかけ      ビデオ:CIAシリーズ

               練習:牛肉の煮物

10週目: 飾り付け      練習:生クリームの飾り付けの仕方

11週目: パン・お菓子の焼き方   

12週目: レシピの変換    練習:計量の仕方

13週目: 卒業試験

F就職斡旋とフォローアッププログラム…Employment & Follow-Up Program

 上記の12週間にわたる就労トレーニングのカリキュラムを終えた卒業生は、先にも触れたが全国レストラン協会が主催する食品衛生の授業に出席して、食品衛生に関する試験を受けなくてはならない。DCセントラルキッチンの卒業生の合格率は94%と高い。これが終わると、卒業生はDCセントラルキッチンの就職課のスタッフと共に、就職活動の準備をはじめる。就職活動の準備の内容は、1)履歴書の書き方、2)面接での受け答えの仕方、3)仕事の探し方、4)仕事を継続していくためのこつ、5)対人関係などで、DCセントラルキッチンのスタッフによって指導される。

 様々なマスコミの報道とこれまでの卒業生の勤勉な就労態度のお陰で、多くの企業業者からの採用申込みが現在殺到しており、卒業生ひとりあたり数口以上の就職口が常にある状態で、卒業生の仕事先がまったく見つからないと言う状況は今のところ殆どない。

 卒業生の就職口は、地元のホテル、レストラン、病院や政府団体のカフェテリアなどが多い。ホテルでは、ヒルトンホテル、ハイアットリージェンシー、マリオットホテル・インターナショナル、ホリデーインなどがある。

 卒業生の卒業時の就職率は91%で、殆どのものが卒業後就職をしていくが、一方で就職6ヶ月後の定着率は74%とやや低い。これには様々な理由があるが、やはり依存症を克服できないこや周りからのプレッシャー、孤独を乗り越えられなかった事などが一般的な理由のようである。就職してからアルコール依存症が再発する典型的な原因は、「ピア・プレッシャー」といわれるもので、友人や仕事仲間からの誘いに断りきれずにお酒を一杯飲んだことがきっかけで、治りかけていた依存症が再発してしまうと言うケースが多い。アルコール依存症の治療は5年から10年続けられ、実際それ以上続けられる事も少なく無い。回復途中の飲酒はその量に限らず、依存症が再発する最も大きな危険性をはらんでいる。

 この問題を重視するDCセントラルキッチンでは、卒業してからの初めの6ヶ月間、就職課のスタッフで元牧師でもあるロン・スワンソン氏と連絡をとることを義務付けている。また、その後も卒業生をプログラムに呼び、訓練生たちに自分達の経験を話しをしたり、アドバイスをするためのボランティアとして招待する事にしている。また、感謝祭、クリスマス、正月といった一人では過ごすのはわびしい家族行事のためのパーティを開いたりして、卒業生が経済的に自立をした後もDCセントラルキッチンを仲間つながりの場、心のよりどころ、心の故郷として活用できるようなサービスを提供するようにしている。また、転職をしたい時の就職相談にのったり履歴書の書き方、面接の練習も要望があれば卒業生のために行われることもある。

 フォローアップ・プログラムは雇用者側に大変好評で、このプログラムの卒業生の9割が就職できている事実にも深く関係している。このプログラムを通して雇われる者は仕事への姿勢、マナーなどをしっかり叩き込まれているため、一般応募でくる人よりも優秀で良い従業員になるケースが少なくない。また、たとえ前科やアルコールや薬物の依存症の過去があったとしても、其れを乗り越えたという経歴と身元を紹介者であるDCセントラルキッチンが保障しているため雇用者にとっては他の一般応募者より安心して雇えるし、たとえ雇用後トラブルが起きたとしても、その問題解決のための調停役をDCセントラルキッチンがつとめてくれているため、問題が解決しやすいなどのメリットがある。確かに前科者は雇いたくないとか、アルコールや薬物を使ったことのある人は雇いたくないと言った偏見はまだ根強くあるが、これに対してDCセントラルキッチンは卒業生の保証人、トラブルの仲介といった役割を果たす事を雇用者に約束する事によって乗り越えている。

Gフードリサイクリング&食事配給

 DCセントラルキッチンの調査によるとレストランや食品業界、及び課程で使われる食料の4分の1は使われずに捨てられていく。その一方で毎日何千人の人々が十分な食事を摂取できずに空腹に苦しんでいる。DCセントラルキッチンは「食べ物を無駄にするのは良くない」、「あまった食料には生産的価値がある」と言う事を強く信じており、その信条をもとにフードリサイクリングと言うプログラムを運営している。フードリサイクリングは、まず地元の企業やレストラン業界、スーパーマーケットなどから寄付される食料回収から始まる。回収作業にあたるのはDCセントラルキッチンの「キッチンポリス」という食品衛生管理知識を持っているスタッフで、彼らによって厳選された食品衛生上安全な食材を大型の保冷トラックに積みDCセントラルキッチンの貯蔵庫に運んでいく。この活動によって、毎日1トンから2トンの食品が「救済」されている。DCセントラルキッチン敷地内にはこうして救出されてきた食材を保存する3048平方メーター以上の大きさの貯蔵庫、冷蔵庫、冷凍庫がある。毎日これらの食材を3000食の食事へと調理してDC、メリーランド州、バージニア州の140以上の非営利団体に無料配給しているのだ。この配給によって、活動が始まった1989年以来およそ800万ドル以上の節約の手助けをできた事になる。

 長期的な食料確保を安定されるため、ピザチェーン店やその他の食品企業との提携を現在結んでおり、今後も提携団体を増やしていく予定である。また、フードリサイクリングはアメリカ政府農林水産庁長のダン・ギルクマン氏によってもキャンペーンされており、彼と大統領直結の行政団体の努力によって、さらに多くの食料がDCセントラルキッチンに寄付されている。現在食料をDCセントラルキッチンに寄付してくれている公的団体は以下の通りである。

1) Department of Agriculture, Department of Commerce, Department of Labor, Department of Heath and Human services, Department of State, Department of Transportation,

2)The Federal Reserve

3) Internal Revenue Service

4) Federal Deposit Insurance Corporation

5) Office of Personnel Management

6) Andrew Air Force Base, Fort Myers Army Base,

7) House of Representative

 1996年夏、DCセントラルキッチンはアメリカ政府農林水産省と提携し、子供達のための夏休み昼食プログラムを実施。学期中、割引あるいは無料の給食を受けた子供達が学校のない夏休みの間も無料で昼食をDCセントラルキッチンから受けられるように、地域の子供会に無料の昼食を配給。このプログラムはその後も農林水産省と提携し、続けられている。

 また、DCセントラルキッチンと他非営利団体の働きかけのお陰で、現在このフードリサイクリング活動を保護する法律(ビル・エマーソン食品慈善寄付条例)がアメリカにはある。ビル・エマーソン食品慈善寄付条例というこの法律は、様々な理由で市場に出せない食品を慈善事業の目的で使えるようにするリサイクリング活動を保護する目的で1996年、アメリカ議会で通された。この法律は国が制定する食品衛生管理法に違反しない限り、市場に出されず廃棄されていく食品を再利用する事を認めている。この法律によって保護される再利用可能な食品は、品質に関係の無い理由(箱や缶がへこんでいる、賞味期限が近づいている、グレードが低い、大量に買いすぎた等)で廃棄される食材とスーパーの商品(ペーパータオル、プラスティックの袋、洗剤)などである。さらにこの法律は、何か問題が起こっても寄付した側が慈善事業の目的で行っている限り責任を求められないように、寄付する側の保護をしている。この法律のお陰でフードリサイクリング活動は活発に、かつ安全に行われるようになった。

 しかし、たとえ法律で保護されていると言えど、食品の安全管理はこのフードリサイクリング活動の中でもっとも重要である。現在、厳密な衛生管理と指導のお陰でDCセントラルキッチンにおいて食中毒などの問題が起こった事は一度も無い。しかし、食中毒は常に彼らの1番の敵であることには変わりないため、毎日食品衛生管理が厳しく行われており、訓練生やボランティアにも厳しく指導がされている。

Hフレッシュスタートケータリング

 フレッシュスタートケータリングは食料救済と就労トレーニング活動の中から生まれた比較的新しいDCセントラルキッチンのプログラムである。これは1996年にはじめられた非営利団体(行政、NGO/NPO、地域団体)のみを対象にしたプロのケータリングサービス業で、ここで作られる食事は無料配給の食事と違い、寄付されたものではなく購入した新鮮で新しい食材が使われる。また、メニューも顧客のニーズに合わせて各種、一般のホテルやレストランで出されるものと同程度の良質の料理が作られる。これは無料ではなく有料のサービスで、この調理にあたるのは訓練生ではなくより経験と技術を持ったフルタイムの調理師たちである。しかし、このプログラムは卒業生により高度な調理技術を学べる機会を与えるために作られたため、従業員の中には卒業生も含まれている。フレッシュスタートケータリングの売上は活動資金に当てられ、またこの事業の拡大は卒業生の就職先の拡大にもつながり、生産的な相互依存サイクルを生んでいる。


3)ドゥ・ファンド(マンハッタン,NYC)

 次に紹介するのは、アメリカ国内外のマスコミから注目を浴びているドゥ・ファンドというホームレスのための非営利団体である。現在、アメリカの低所得者の半数以上が女性である事から、男性を中心とした就労トレーニングの数は少なく、ドゥ・ファンドはその数少ない中の一つである。

@団体の歴史

 ドゥ・ファンドは1985年、ジョージ・マクドナルド氏とその妻ハリエットさんによってホームレスの自立を支援する非営利団体として生まれた。マクドナルド氏はこの団体をはじめる前はNJの大手スポーツ用品会社Spring Lake社で広告担当の重役をしていた。当時本業のビジネスマンとして働く傍ら、ホームレス問題に関心を寄せていたマクドナルド氏は、ホームレス問題をスローガンとして民主党から議会と市議会へ計4回出馬したことがあるという。1985年、ついにマクドナルド氏はビジネスマンと言う肩書きをすて、其れまでの住まいからマンハッタンの高級住宅街であるアッパーイーストサイドの小さなマンションに引っ越し、ホームレスの非営利団体Coalition for the Homeless(CFTH)のボランティアとして働き始める。彼のCFTHでの仕事はサンドイッチをNYの地下鉄の駅(グランドセントラルステーション)でホームレスに渡すことだった。

 CFTHのボランティア活動を通してマクドナルド氏は「ホームレスに衣食住を無料で与えるだけではこの問題の抜本的解決にはならない」と考えはじめる。そして妻のハリエットさんと共に、仕事をつくりその仕事をホームレス達に与える事で彼等を支援する非営利団体を自費で設立することを決める。団体の名称である「ドゥ」は、路上でなくなった一人のホームレス名前から来ており、この団体はそうして路上で身よりもなく亡くなくなっていったホームレスたちを追悼の思いを込めて創立された。

 「衣食住ではなく、仕事で人を助ける」をモットーにドゥ・ファンドはこれまで900人以上のホームレスの人々を路上から救済してきた。ドゥ・ファンドの「Ready, Willing and Ableプログラム(以下RWAと省略)」はホームレスの人々を雇い、就労トレーニングとしてマンハッタン市内を清掃するというユニークな活動で、せっせと真面目に街を掃除するホームレス達の姿は「怠け者」、「きたない」、「社会のごみ」などというホームレスに対する偏見をなくすうえで大きな役割を果たしている。

 1999年ドゥ・ファンドはNY市内の活動成功を弾みにワシントンDCへと活動範囲を広げるが、DCの地元の支持を得られずドゥ・ファンドDC支部は昨年2000年に閉鎖される事になる。「最も実用・現実的なホームレス支援団体」という高い評価も受ける反面、そのプログラムの内容から「ホームレスの労働力を搾取しているだけの白人の人種差別的偽善活動」などという非難も受け、紆余曲折の活動を続けているドゥ・ファンドだが、NY市内での活動範囲は着実に拡大しているユニークな団体である。

Aドゥ・ファンドの団体宣言

 ドゥ・ファンドはNYを拠点としてホームレス状態にあった人々の自立を支援する為活動する非営利団体である。ホームレス状態にあった人々がきちんと社会復帰し、自立するために必要な就労能力と社会適応能力の養成および就労経験を積む支援するのがドゥ・ファンドの目標である。

 ドゥ・ファンドは衣食住を無料で提供する事だけで、ホームレス問題は解決できないと考える。ドゥファンドは「Work Works: 仕事で支援する」ということをモットーにホームレス問題の解決に手がけている。我々は給与が支払われる仕事には人間にやる気を与えるパワーがあると強く信じている。ドゥ・ファンドのReady, Willing & Able(RWA)プログラムはホームレスの人々が自尊感情と自立するために必要なバイタリティを再構築できるスコープの広い環境とプログラムを提供している。

 我々が提供するプログラムは現実的で実用的で、長期的な効果を生む事を目指している。卒業生のうち62パーセントが定職を持ちフォローアップ期間中3年間安定した住居に住んでいる事実から分かるように、我々のモットー通り「仕事で人が働けるよう支援する」事は可能だということをドゥ・ファンドは証明している。

B自立へのハードル

 ドゥ・ファンドのRWAプログラムの参加者の多くは、市内に住むマイノリティの貧困層たちである。彼らは麻薬、特に値段の安い「クラック」という麻薬(コカインの一種)の依存症が最も多い人口層でもある。その他の点は精神病、慢性的な低価格の住宅不足など他の団体が指摘しているものと共通している。

 NY市内の住宅事情の悪さは世界的にも有名である。それに加え、麻薬の浸透、特にスラム化したイーストハーレム地域では日中でも麻薬が平然と取引されており、誰でも金さえ出せば簡単に麻薬が買えるという状況である。イーストハーレムは黒人やヒスパニック系が多く住んでいるところでもある。ドゥ・ファンドのプログラムの参加者のうち、殆どが黒人あるいはヒスパニック系の麻薬中毒者である事は、このハーレムの麻薬事情とホームレス問題が深く関わっていること示唆している。しかし、住宅事情と麻薬の普及だけが多くの失業者とホームレスを生んだわけではないことはここで特記しておかなければならない。DCセントラルキッチンのところで少し触れたが、アメリカの産業構造の変化は現在のホームレス問題に深く関係している。1950年代までアメリカの産業は重工業が中心で、アメリカの都市部には重工業の工場が広がり市内には工場労働者として働く移民やマイノリティが数多く住んでいた。1960年代にはいりアメリカ産業は重工業からサービス業、コンピューター開発などが中心となっていき、市内にあった工場はどんどんと安くて広い土地のある郊外へと移っていった。しかし、工場で働く低賃金労働者は市内に取り残されていった。

 これらの労働者の多くがマイノリティであり、郊外に住む人々の多くが白人であるという人種問題も、仕事が消えていく市内に低所得者であるマイノリティを閉じ込めてしまった原因の一つである。結果、多くのマイノリティ下層階級が都市部に残され、慢性の失業状態が生まれていった。1980年代からの市内の麻薬の普及はその慢性の失業状態に拍車をかけていき低所得地域のスラム化をすすめた。工場で男らしく肉体労働をする父親が失業し、麻薬や酒におぼれて、家庭を崩壊させていくのを見て育った多くの子供達が親と同じ道をたどる−という悪循環が全米の都市部で慢性的に生産され、再生産しつづけられている。この根深い原因が現在のアメリカのホームレス問題解決を難しくしていると言える。(参考資料:P. Bourgois. In Search of RespectJ.W.Wilson. The Truly Disadvantaged & When Work Disappears)。

C就労トレーニングプログラム…Ready, Willing & Ableプログラム(RWAプログラム)

(活動内容と目的の主旨)

 RWAプログラムとはドゥ・ファンドのシェルター内での清掃管理作業と就労作業を通して行われる就労トレーニングのことで、このプログラムはホームレスの人々に仕事をあたえ彼らに自主的に努力させることによって自立能力を高める手助けをしている。「衣食住を与えるだけで他人の自立は支援できない。自立の支援は、ホームレス達が自分で働き給与を得て自活する事の大切さを知るチャンスを与える事だ。」という創立者のマクドナルド氏の信条から、このプログラムは彼らに麻薬やアルコールを自分の意志で断ち切り、自分で自分の生活を築き上げる能力を養う支援をしている。

 RWAはホームレスのなかでも、最も自立が困難だと言われているアルコールや麻薬の依存症を持っているが肉体的には健康な独身男性を対象とした支援プログラムである。RWAはこれらの人々に人生をやり直すよう激励し、過ちを正すチャンスを待ち望んでいる人々にチャンスを与え、自立した社会の一員になるため必要なトレーニングを提供することを目標にしている。

(参加資格)

 RWAの参加資格は基本的には、
@)麻薬やアルコールの依存症を絶ち切り、そのライフスタイルを継続する意志がある、
A)精神・身体的に健康である、
B)仕事をする意志がある、
 ということだけで性別、年齢、人種、宗教などは関係ないことになっている。しかし、就労トレーニングの内容が肉体的にハードなため、女性や高齢者は向いていない。現在ドゥ・ファンドでは女性のホームレスのニーズに合ったの就労トレーニングも開発中である。ディレクターのジョンソンさんの話ではトレーニング参加者が60歳以上の高齢者の場合は、室内の作業にふりあてなるべく屋外の肉体労働はさせないようにしているらしい。これは高齢者を屋外の作業に当てると「老人をこき使っているという」マイナスのイメージを作りかねないと言う懸念のためだという。

 参加者の構成は殆どがアフリカン・アメリカンで、年齢は22歳から60歳までの幅があり、参加者の平均年齢は40代前後である。学歴は参加者の40%が高校中退・中卒、38%が高卒あるいは其れに匹敵する資格を持ってい。22%の参加者が大学に入学した経験があるがそのうちの2%だけが大学卒業資格を持っている。就労トレーニング活動の内容が肉体労働である為、参加者の殆どが男性である。全員が麻薬を用いた経験があり、それが原因でホームレスになった人達である。ホームレスであった期間は其々異なるが(最低1ヶ月〜最高20年)、平均はおよそ8ヶ月ぐらいである。過去の調査によると参加者の3分の2が1年から其れ以下の間ホームレス状態にあったと報告されており、現在も殆ど変わりはないと思われる。ホームレスの期間に関わらず、半分以上の参加者が12ヶ月以上失業・不就労状態にあり、参加者の失業・不就労状態の平均期間は18ヶ月(1年半)である(ドゥ・ファンド提供資料より引用)。

 薬物・アルコール依存症専門のリハビリテーションの特別施設をドゥ・ファンドは運営していないので、このプログラムに参加しても心療医療的なリハビリは受けれない。しかし、ディレクターのジョンソンさんにいわく、心療医療用のリハビリだけが依存症の克服方法ではないし、依存症があってもここに来てすぐ働き出して依存症を克服し自立していった人は沢山いるため、特にドゥ・ファンドでは心療医療リハビリテーションが絶対に必要だとは考えていない。

 参加者の大半はドゥ・ファンドの運営するシェルターと市が運営するシェルターから来ている。ドゥ・ファンドのシェルターも市から認定されているシェルターだが、その中での運営の仕方はドゥ・ファンドに任されているため、参加者は行政の手続きなどなしに、直ぐ就労トレーニングに参加できるようになっている。他の団体から紹介されて来ると言うパターンもあるし、卒業生から紹介されてくるパターンもあり様々である。

(給与手当と貯金)

 ドゥ・ファンドの就労プログラムに参加すると医療援助以外すべての公的福祉手当の受給を止めなくてはならない事は既に述べた。しかし、このプログラムに参加すると同時に参加者は月々60ドル(6−7,000円)の給与が払われることになっている。他の就労トレーニングと違い、ドゥ・ファンドの就労トレーニングは福祉受給期間中に受ける就労トレーニングと見なされない。いきなり本当の賃金労働がトレーニングとしてはじまるのである。就労トレーニング参加者に給与を支払うプログラムは他にもあるが、福祉手当受給を禁止させるプログラムは他にあまり例がない。福祉の受給をやめさせるのは、働く事で自立していくと言う方法をドゥ・ファンドは強調しているためである。また必要以上のお金を与える事でお酒や麻薬を買わせないようにするためでもある。手当を受けず月々60ドルだけの給与でどうやって参加者は生活するのかと言うと、参加者はすべてドゥ・ファンドが運営するシェルターあるいは市内のシェルターや支援住宅で寝泊りしているため家賃をまず払う必要がない上に、シェルターでは無料の食事や衣服も提供されるため、参加者は福祉手当てが無くてもやっていけるようになっているのだ。

 プログラムは3つの期間に分かれており、第1期間が終了するとRWAの参加者は次ぎのステップであるワークアサインメントというプログラムが始まる。この2期目のプログラム期間中1時間につき5ドル50セント(最低賃金より若干上回る)という時給で給与が支払われるようになる。給料は週ごとに支払われるが、その給料のうち50ドルは家賃、15ドルは食事代としてドゥ・ファンドに払わなくてはいけない。さらに給料のうち30ドルは貯金しなくてはならず、その貯金は訓練生が卒業するまでドゥ・ファンドによって保管され、卒業後の自立への資金として卒業後渡されることになっている。プログラムを卒業するには最低1000ドルの貯金をしなくてはいけないことになっている。このシステムは働いて稼いだお金を計画的に使うという能力を伸ばすために行われている。

Dカリキュラムと規則

(規則)

 とにかく、麻薬に手を出さない事、これはドゥ・ファンドのプログラムに参加し、それをつづけるにあたっての鉄則である。その他は、ケースワーカーの指導に従う、指導された活動はきちんとこなす、シェルター内で問題(喧嘩など)を起こさない、チームワークを乱す事をしないこと、遅刻しないなど、ごく一般的な規則である。たいていの場合きちんと守られるが、違反者は時折出てくる。規則の違反者は警告を受け、再度違反をするとプログラム継続が出来なくなる。麻薬の使用に関しては、見つかると即プログラムを去らなくてはならない。

(カリキュラ)

 プログラムは平均12ヶ月から18ヶ月(1年から1年半)続き3つの期間に分かれている。第1期間は30日間で、まずオリエンテーションからプログラムがはじまる。オリエンテーションではまずプログラムを参加・継続するために従わなくてはならないルールがケースワーカーマネージャーのクレッグさんから説明される。クレッグさんはこのプログラムの卒業生であり、彼の活動内容や経歴は送付したビデオ(Miracle Can Happen)に日本語で収録されているのでそれを参照していただきたい。このオリエンテーションの後は、参加者はドゥ・ファンドのトレードマークでもあるブルーのユニフォームを着て清掃活動フィールドワークにすぐ参加していく。

 屋内の清掃活動はシェルター内の掃除管理、屋外の清掃活動はマンハッタン市内各地ならびにブルックリン、クイーンズの一角で行われる。清掃活動の内容はとにかく街中とシェルター内を綺麗に掃除すると言う事である。ごみを拾って、道を掃く、雪の日は歩行者が歩きやすくするために道路の雪かきをするなどが主な作業の内容である。この作業は班ごとに行われ、一つの班につき5人の作業訓練生と一人のケースワーカーがふりあてられる。ケースワーカーたちは訓練生に作業の指示を与え、また彼らの作業中の態度をチェックしやる気があるかどうかなどを判断をする。怠惰な態度はいっさい許されない。参加者は毎日4時間、この清掃活動に参加しその他の時間は「ライフ・スキル」すなわち生活基礎能力のクラスに出席しなければならない。この授業はソーシャルワーカー、カウンセラーによって、ホームレス状態で生活していたときに身につけた自己中心的な志向や生活態度の改善のグループカウンセリングや社会で自立していくために必要な常識、価値観、マナーなどが指導される。

 清掃作業の時間はシフト制で、朝6時から朝10時、朝10時から昼の2時、昼3時から夕方7時、夕方7時から夜11時など朝、昼、晩のシフトがあるが、どのシフトを選ぶかはケースワーカーと訓練生が相談して決められる。作業のシフトが朝の者は午後の時間を使って生活能力の授業を受け、夜のシフトの者は朝の授業を出なければならない。その他の時間は、シェルター内で仲間やケースワーカーと一緒に時間を過ごすというのが一般的な彼らの日課である。シェルター内では、朝から夜までケースワーカが常勤しており、いつでも訓練生の相談に乗ったり話し相手になれるようになっている。

 手当てのところで触れたが、プログラムの第1期間中、参加者は実習にたいして週15ドルの給与が支払われる。しかし食事代やシェルターに寝泊りする家賃は払わなくて良い。給料日は毎週水曜日で現金で支払われる。給料日の前に抜き打ちで麻薬・アルコール検査が行われる。薬物やアルコールの使用をしている事が分かれば、警告あるいは麻薬使用の場合はプログラムから即除名される。

 30日間の第1期間が終わると、プログラムの内容は若干変わる。フィールドワークである街中の清掃活動はそのまま続けられるが、プログラムの第2期中訓練生は各自一定の仕事を割り当てられ、社会に復活し働いていける就労技術を徐々に伸ばす作業活動トレーニングが始まる。就労トレーニングの内容は様々で、どの技術トレーニングを学ぶかはケースワーカーと参加者が相談をして決めらる。

 参加者に関心があればコンピューターのレッスンもこの期間から受け始める事が出来る。コンピューターのクラスは毎日あるわけではないが、コンピュータールームは朝9時からから午後10時まで開いており、自由に出入りできるようになっている。ケースワーカーの一人であるクレッグさんもこのドゥ・ファンドでコンピューターの使い方を学んだ一人である。その他、高校卒業資格のための勉強にもこの時期にとりくむ事ができる。クレッグさんもここで勉強して高校卒業資格(GED)を取得した。

 DCセントラルキッチンのように調理就労トレーニングもあり、それはシェルター内のキッチンで行われる。ドゥ・ファンドのジョージ・マクドナルド氏とDCセントラルキッチンのロバート・エガー氏はお互い意見を交わした事があるらしく、恐らくこのアイデアはDCセントラルキッチンから来ていると思われる。このプログラムでは訓練生の調理就労トレーニングと同時にドゥ・ファンドが運営するシェルターの人々のために900食の食事も作っている。しかし、このプログラムの規模はDCセントラルキッチンに比べ小さく、食料の救済活動などは一切しておらず、参加者も他の就労トレーニングにくらべ少ないが、レストランや食品関係の仕事につきたいと考える人の為に用意された就労トレーニングであることは確かである。このように様々な就労トレーニングが用意されているが、殆どの参加者が選ぶ就労トレーニングは肉体労働、つまりビル整備、メインテナンス、ビルの建設現場での仕事などである。

 第2期は第1期同様に、ライフスキル(生活能力)の授業や薬物依存症を乗り越えるためのクラスやミーティング、そしてどうしたらホームレス状態に再び戻らずに自立を継続させていけるかということを教える授業がつづけられ、参加者は第2期も第1期同様出席していかなければならない。第2期間は第1期間で養成され試された生活能力とやる気をさらに伸ばすために、実際の社会での生活と近い生活をするシミュレーション(自分の給料から家賃と食事代を負担する)が始まる。給与手当てのところで既に言及したが、プログラム参加者は第2期がはじまると時給5ドル50セントあるいはそれ以上(作業の内容による)を受け取り、そのうち毎週50ドルをシェルターの宿泊代として収め、15ドルは食事代、そして30ドルは卒業後の生活のための貯金として差し引かれる。つまり、家賃を月200ドル、食事代月60ドル支払い、さらに貯金を月120ドルしなければならないのである。この貯金制度によって訓練生は卒業までに大体1000ドル(10〜12万円)を貯める事が出来、貯金は卒業後の生活のためにつかうようプログラムを卒業してから少しづつケースワーカーによって卒業生に渡されていく。

 プログラム第2期間中もケースワーカーとスパーバイザーは参加者の活動内容を観察し、2週間ごと彼らがきちんと就労トレーニングやライフスキルトレーニングを受けているかどうかチェックする。そして各生徒ごとに報告書を作成し、彼らが次ぎのステップへの準備が出来ているかどうかが評価される。第2期から第3期の就職活動プログラム開始までの期間は個人の活動内容とやる気や努力によって差があるが、大体10ヶ月程度が一般的にかかる期間だという。また18ヶ月以上プログラムに参加する事はできないため、18ヶ月たっても第3期である就職活動に参加する準備が出来無い者はプログラムをやめなくてはならない。

 第3期は、訓練生が社会に出て安定し自立した生活を送ることができるような仕事を見つける準備がはじめられる。参加者はこの期間中、6週間にわたるコンピューターの授業と職業準備トレーニングの授業を必修しなくてはならない。其れまでは個人の意思によってコンピューターの授業は受ける事が出来たが、この期間は全員が6週間コンピューターの基本的な使い方を学ばなければならない事になっている。この期間、訓練生は安定・自立した生活を築く事が出来るフルタイムの仕事や住宅の探し方も学ばなくてはならない。また、雇用者側に印象の良い履歴書の書き方、面接時に聞かれる質問に誠実に前向きに対応する練習、どうすれば仕事を続けていけるか、仕事場での対人関係、仕事に対する姿勢、困難な状況に立たされたときの対処の仕方、そして仕事や生活からくるストレスの対応の仕方などもこの期間にケースワーカーや職業カウンセラーから指導される。

 この就職活動プログラムはドゥ・ファンドの就職開発チームによって指導され、このチームは現在様々な大手の企業と提携を組み、卒業生の安定した就職先の拡大に力を入れている。就職開発チームのメンバーは訓練生一人一人に適した仕事を見つけ、面接を取りつける手助けをおこない、できるかぎり訓練生が手当てのついた安定した給料の職場で働けるよう就職指導している。また訓練生がきちんと就職活動を続けているかどうかも、このプログラムのスタッフ(カウンセラー)によってチェックされる。現在RWAプログラムの卒業生の卒業後1年目の平均収入は時給8ドル50セントから9ドルで、プログラム卒業生の主な就職先は、建設業、ビル整備・メインテナンス、ホテルや高級マンションのガードマンやドアマン、レストラン、ダイレクトメール製作業などである。

 およそ4割程度の者がプロうグラム参加から1年以内で仕事を見つけていっている。毎年、プログラム参加者の全員のうち約60%以上が(卒業までにかかる時間は個人差はあるが)就職をしてプログラムを無事に卒業していっている。就職先の内訳をみると、ドゥ・ファンド以外のところへ就職をする卒業生は45%、ドゥ・ファンドへ就職していく卒業生の割合はおよそ17%程度で、この数字を見ると卒業生の殆どがドゥ・ファンド以外のところへ就職していっているが、ドゥ・ファンド自身も彼らの大きな就職先であることが分かる。過去の調査結果によると就職をした卒業生のうち約8割が卒業してから少なくとも3ヶ月間は就労状態をたもっている。つまり当初参加した内の約半分以上は仕事を見つけ、少なくとも3ヶ月以上は就労状態を続けている。しかし、言いかえればプログラムに参加したうちのおよそ半分しか自立を継続できていないとも解釈でき、いかに依存症を絶ちきってに自立し、そしてそれを継続するのが難しいかがうかがえる。

 しかし、過去の調査結果を見てみると、ドゥ・ファンドに参加した人々のうち60%以上のひとが参加してから1年半〜3年半までの間に最終的にプログラムを終え自立しその状態を続けている。これは、初めの参加で上手く行かなかった人がもう一度プログラムに戻ってきてから卒業できた事を示唆している。またRWAに参加してから3年半後の追跡調査で就職状態にないと答えた元参加者/卒業生のうち、7%がRWAプログラムに再度参加中、10%が依存症の専門の治療を施設で受けており、20%は参加して3年半たった後の行方が分からないとなっている。これらのデータを見た限りで言えることは、ドゥ・ファンドのRWAプログラムは一夜でホームレスを一掃したとはいえないものの少なくともこの活動を通しドゥ・ファンドは徐々にホームレス人々を路上よりもましな環境へと導いていっているといって良いのではないだろうか。(ドゥ・ファンド提供資料参照)

Eプログラム卒業とRWAアフターケアプログラム

 ドゥ・ファンドのプログラムを卒業するには訓練生は以下の規定を満たさなければいけない。

@) 麻薬・アルコールを絶ちきっていること

A)時給8ドル50セント以上および手当てのついた就職先が内定していること

B)公的支援住宅ではなく一般住宅への入居が決まっている事

 他のプログラムでは、就職先が決まっており、依存症の克服ができれば卒業とみなされているが、ドゥ・ファンドではきちんと一般の住宅に移り住んで生活を保てるようになってはじめて卒業と見なされる。これらの条件が満たされればいよいよ卒業式である。卒業式は毎年3月の下旬、ドゥ・ファンドの事務所の近くにある教会で行われる。

 卒業後はRWAアフターケアサービスプログラムが五年間ケース−ワーカによって行われる。初めの半年間はアフターケアプログラムのケースワーカーが卒業生の家と仕事場に月2回訪ね、彼らが問題なくなく仕事を続けられているか、薬物・アルコールを絶ちつづけられているか、家賃をきちんと払っているかどうかなどがチェックされる。この期間中、ケースワーカーは卒業生の雇用者とも連絡をとり、卒業生がきちんと働いているかどうかチェックをする。もし問題がある場合は卒業生または場合によっては雇用者とケースワーカーは話をし問題が解決のため仲介役をつとめることになっている。

 プログラム参加期間中に貯めた1000ドルはこのアフターケアプログラムを通して月々200ドルづつ5ヶ月間かけて卒業生に返されていく。しかし、この貯金を受け取るには卒業生は麻薬や酒を絶ちつづけ、自立を継続していなくてはならず、またケースワーカーとの定期的な面会をきちんとしていなくてはならない。さらに、卒業生は月に一回の他の卒業生達と一緒にドゥ・ファンドで行われるピア・カウンセリングに参加しなくてはならないことにもなっている。ピアカウンセリングではドゥ・ファンドから卒業した人達が互いに問題を持ちより、どうやってそれを乗り越えていくべきかが話し合われる。このカウンセリングは卒業生が自立してから問題に直面したとき孤独に悩むのではなく、他の卒業生と話し合いお互いを励ます機会として大変役にたっているという。

 こうして5年にわたる長期のアフターケアをする事によって、せっかく自立できた彼らが再び社会の孤独の陰にのみ込まれないよう、ここで築いたネットワークを将来も保っていけるように様々なサービスを提供している。ドゥ・ファンドは、この団体が彼らの第2の故郷となるように努めており、実際にそうなっていっている。

Fドゥ・ファンドのプロジェクト

(コミュニティー改善プロジェクト)

 コミュニティー改善プロジェクトはRWAの清掃活動の正式名称で、この活動は先に報告した就労トレーニングの目的のほかに、ホームレスへの偏見を無くしていく目的をもって行われている。ドゥ・ファンドの訓練生が着るユニフォームは明るいブルーの作業服で、ユニフォームの背中にはドゥ・ファンドのロゴであるReady, Willing & Ableがはいっている。袖にはアメリカの国旗とRWAのロゴが入っていて、とにかく目立ってかっこいいデザインになっており、街を行く人々の目にとまるようになっている。これは創立者のマクドナルド氏の提案で、「ホームレスだって社会貢献している社会の一員なんだ」と言う事を一般市民にアピールするために作られた。一流企業の広告課の元重役らしい発想だが、実際このユニフォームのお陰でこの活動は地域の温かい関心をよんでいる。

 元ホームレスによる地域の清掃プログラムである、このコミュニティー改善プロジェクトは、アッパーイーストサイド(マンハッタンの超高級住宅地)ではじめられた。活動開始直後、地域の人々の間で「町を綺麗にしてくれるブルーのユニフォームを着た人々は一体誰?何処からきているのだ?」と話題になり、彼らは自立を目指して訓練中のホームレスだということがわかってからは地元の新聞に取り上げられるようになり、お陰でアッパーイーストサイドに住む資産家からドゥ・ファンドへの寄付も増えたという。

 アッパーイーストでの成功と経験をもとに、現在ではウエストサイド、ブルックリン、クィーンズと活動範囲を伸ばしている。作業の内容は先に述べたが、通りと公園の清掃から、花壇の整理など街の拝観を美しくすることで、ごみだらけになりがちなマンハッタンの住民からからとてもありがたがられている。

(改装・修理プロジェクト)

 このプログラムはドゥ・ファンドとニューヨーク市が提携して行っているもので、市が所有する老朽化したアパートの改装や修理をドゥ・ファンドの訓練生によって行うというプログラムである。このプログラムのプロジェクトはドゥ・ファンドの活動資金の収入源になっているだけでなく、RWAプログラムの訓練生が建設現場で働く技術を身につける就労トレーニングの機会にもなっている。

(ニュージャージーRWA&コンピューター教室センター)

 ニュージャージー州ジャージーシティに、1998年ドゥ・ファンドニュージャージー支部がつくられた。この支部は元YMCA会館を改造して作られたもので、NYでの経験をもとに現在28人の元ホームレスだった人々への自立支援活動が行われている。ここでもコミュニティー改善活動(清掃活動)が行われており、ドゥ・ファンドのプログラムの卒業生4名がケースワーカーとして働いている。

 ニュージャージー支部では、行政の都市開発・建設課からの資金援助によって、コンピューター教室センターが開設した。このセンターができたことによって、コンピューターに関心のある訓練生により充実した内容のコンピューター技術を教授する事が出来るようになったという。

(NYバックオフィス)

 これは大手企業のダイレクトメールの処理を行うプログラムで、このプログラムを通じ訓練生は就職するときに役に立つ基礎的なコンピューター技能およびデータ処理技術を学ぶ事ができるようになっている。プログラムオフィスはブロンクスにあり、このプログラムに参加している企業はトヨタ、シティバンク、キャノン、フィルギア&ソンズ、NY私立美術館、ハーバー&ソンズ、ならびに地域の大学や非営利団体である。NYバックオフィスは、トヨタとキャノンと契約を結び、これらの企業の重役の為にインターネットサーベイを行っており、バックオフィスの従業員は、インターネットのウェブサイトを探し、ニュースやデータを集めレポートにし毎日これらの企業の重役達に送っている。こうして就労トレーニングもできるうえに、活動資金の確保もでき一石二鳥のプログラムであると言える。

 ※支援住宅については省略する。


4)コモングラウンド(マンハッタン,NYC)

 コモングランドは、おそらくNYで1番大きな規模の長期型支援住宅を確保し運営しているホームレスの支援団体である。その活動内容は住宅支援から就労トレーニングと幅広く、ホームレス支援団体の中で最もバランスの取れた活動をしている団体で、日本のマスコミでも紹介された事があり。

@団体の歴史

 コモングラウンドは1990年に、長年経営が上手くされていなかったタイムズスクエアガーデンの市営の福祉受給者用ホテルが閉鎖する事が決まった事に対して、取り壊しの反対を要求するために立ち上がった活動家ロザンヌ・ハガットリーさんとその仲間にによってはじめられた。このタイムズスクエア市営福祉ホテルをホームレス達のための支援住宅へと改造したのをきっかけに、その後コモングラウンドは市や他の団体から他の老朽建築物(ホテルなど)を引き取り、ホームレスや低収入の人々の為の支援住宅へと改造し、ホームレス問題とマンハッタンの住宅問題に対しに斬新な支援活動をつづけている。

 彼らの支援・補助住宅は元ホームレスの人々だけに対象を絞らず、低所得者で住宅問題を抱えている人々も支援対象に含まれており、NYの住宅不足のために困っている人々すべてが清潔で安心して住める住宅施設と環境を作る事を活動目標としている。コモングラウンドは、ホームレスの人々が自立していくため、また将来のホームレスの増加を食い止めるには、住宅サービスのほかに、就労トレーニング・就職紹介サービス、精神・身体の医療サービスといったその他のサービスがなくてはならないという事を運動の基本理念としている。つまり、「部屋を与えるだけが、ホームレスの問題への解決策ではない」と彼らは訴えているのだ。コモングラウンドのホームレス支援サービスはその基本理念に忠実に、住宅・就労・心身のための医療サービスという多様なサービス全てが一つのパッケージになっており、これまでに多くのホームレス及び明日のホームレスである低所得者達の救済をしてきている。

Aコモングラウンドの団体宣言

 我々は安全かつ清潔で安価な住宅のあるコミュニティーを作ることを目的に生まれた非営利団体である。我々は安価で安定した住宅を提供するだけではなく、医療・就労トレーニングといった支援サービスも導入している。我々は住宅や仕事を得るだけで人間がホームレス状態から脱して人生を再建してけると考えていない。彼らがホームレス状態から自立し社会復帰していくために必要なのは、仕事を見つけるために必要な就労トレーニングのサービス、そして心や身体のケアサービスなどが一つにまとめられた支援サービスプログラムなのである。様々なサービスが一体化した包括的な支援活動こそ、我々、コモングラウンドがホームレスの人々に提供せんとする支援プログラムなのである。

 

 −なぜ我々の活動はユニークなのか?

        ○ 我々の活動は実用的である。 

 コモングランドでは、社会に存在する貧困のサイクルを止めるように努力がなされている。我々の究極の目的とは、元ホームレスであった人が再び路上に放り出される事無くずっと家に住みつづけることが出来るようになる事である。我々はいかにホームレス問題が深刻で複雑な問題であるかを理解しており、常に多様で柔軟な対応をするように目指している。

        ○ 我々の活動は協力の元になりたっている。

 我々は同じホームレスのための活動をしている人々、とくにアーバンコミュニティーサービスセンター(CUCS)と協力をし合って活動している。CUCSのスタッフは我々のビルのなかにオフィスを構えコモングラウンドとともにソーシャルサービスをはじめ様々な支援サービスを支援住宅住居者に提供するよう努めている。CUCSのケースワーカーや就労トレーニングのカウンセラーは我々の支援住宅の住居者たちのニーズに耳を傾け、彼ら一人一人にあった支援を提供している。

        ○ 我々の活動は効果的である

 我々は短期ではなく長期の結果をもとめてホームレス支援活動を行っている。我々の運営する支援住宅は通勤寮などの通過的住宅ではなく、永久・半永久的に住みつづける事が出来るようになっており、住宅状況がひどいNYの街にでて彼らがまたホームレスに逆戻りをしないように努力をしている。我々の支援住宅は住居者の所得に見合った家賃で運営されている。その運営費は入居者一人につき1年間で10,000ドルという効率の良さで、これは刑務所が入獄者一人につき使う運営費の2分の1で、精神病院が入院患者一人に使う運営費の10分の1にしか過ぎない。

 

 −なぜ、我々の支援は機能するのか?

        ○安定

 コモングランドの3つの支援住宅は住居者の収入に見合った安価な家賃を設定している。そして、これらの住宅は他だ単なる住宅として運営されているのではなく、一つの小さなコミュニティーとして運営されている。住宅に設置されているサービス施設は図書館、医療サービス、コンピュータールーム、美術用アトリエ、音楽スタジオそして住居者同士が談話できる広々としたロビーなどがあり、リクリエーション施設は住居人同士がたがいに交流し合える場としても活躍している。住居者とスタッフはお互い名前で呼び合い、「ここに来て自尊心が高まった」という人は少なくない。

        ○進歩

 安定した住宅こそが新しい人生と生活の基盤となる。そして、そこから仕事を見つけて働いてこそ、自立が可能となる。我々の住宅では、就労トレーニング・就職支援活動サービスが提供されており、心身ともに健康な住居者がきちんと働いて自立していけるようサポートするシステムを用意している。一般企業との提携を通し、入居者が先のある安定した仕事につけるようにも常に努力をしている。

 

○結果に焦点を当てる

コモングラウンドは様々な支援サービスを提供する一方で、サービスを受ける人々に対して彼らが人生に目標を持って、さらに責任と近所づきあいがきちんとできるように指導している。1,850人以上の人々が1991年以来我々の支援住宅に住んでいる。そのうち300人以上が我々の元で就労トレーニングをうけ、就職をしていった。

 

 −斬新なコモングラウンドの活動分野とは

        コモングラウンドはいかの目的をもって活動をしているからである。

○より多くの永久支援住宅を作っていけるよう、それにあった住宅を探しつづける。

○ホームレス予備軍の人々とホームレスとなってしまった人々との輪をつなげるプロうグラムを作る。

○企業のスポンサーの数を増やす。

 

B自立へのハードル

 ここまでの報告で既に言及したように、アメリカのホームレス達が自立する上で共通した問題は@住宅、A低学歴・希薄な就労意欲、B麻薬、C精神病という4点である。その問題のうちどれに重点を当てるかは各団体の基本理念や団体の成り立ちによって少しづつ異なるが、共通しているのはこの4点を押さえない事にはホームレス問題の解決は不可能だと認識していることである。

 これまで報告をしてきた団体のなかで、コモングラウンドは特に住宅面において斬新な活動をしている団体である。コモングラウンドが指摘する「ホームレスが職に就き自立するために最も困難な問題」とは、「安定した住宅の確保」である。後で詳しく述べるがNYの住宅問題は、ホームレスに限らず一般市民にとっても深刻な問題である。6畳程度の大きさのワンルームマンションがマンハッタン市内では1,500ドル〜2,000ドル(15万円〜20万円)が平均と言うのだから、低所得者の手の出る住宅は殆どないに等しい。ホームレス達の自立支援活動をしていくうえで直面する問題はまず「住宅の慢性的な不足」つまりホームレスや低所得者たちを収容するだけの住宅スペースがNYには存在しないという事実である。

 「存在しない住宅スペースをどうやって確保するのか?」この難解な問題に対して、コモングランドは老朽化した市内の建造物に目をつけた。経営不振のため倒産したホテルやその他のビルを市やオーナーから引き取り、それらの建造物を寄付と公的支援によって改造し支援住宅にしていくことにしたのである。しかし、それでもスペースには限りがあり、今彼らが持っている支援住宅だけで市内のホームレス全体を収容できるわけではない。また、彼らの住宅はホームレスシェルターと違い無料ではないため、ある程度の自立をしていないことには入居できない。一般社会に復帰して家賃をはらい自活していけない人々(精神障害者、長期路上生活者、老人)が住める場所は、コモングラウンドでもまだ十分には確保できていないのである。

 また、ドゥ・ファンドの報告で既に述べたように、市内には元ホームレスの人々が就職していく低レベル技術で高賃金といった仕事を見つけるのが大変難しい。たとえ依存症を絶ったとしても、大都市NYで仕事を見つけ住宅を確保していくのはけっして簡単なことではないのである。

C就労トレーニングプログラム

(活動の概要と目的)

 「ホームレス問題の解決に必要なのは無料の衣食住配給だけではない」という考えの元にコモングラウンドの就労トレーニングプログラムは運営されている。コモングラウンドが運営する支援住宅及びその他彼らと提携をしている60以上に及ぶNY市内ホームレスシェルターや他団体の支援住宅に住む元ホームレスの人々を対象に、このプログラムはこれらの人々が安定した仕事に就職して自立していける手助けをしている。この点はドゥ・ファンドのプログラムと類似しているが、ドゥ・ファンドの住宅施設はシェルターと通勤寮であるのに対し、コモングラウンドの住宅施設は(半)永久的に住めることになっており、また就労トレーニングの内容もドゥ・ファンドと微妙に違っている。

 コモングラウンドの就労トレーニングセンターは“コモングラウンド・ジョブトレーニング・コーポレーション(CGJTC)”と呼ばれ、彼らが所有・運営するザ・タイムズスクエア支援住宅内に設置されている。CGJTCはコモングランドのパートナーであるアーバンコミュニティーセンターの(CUCS)と共同で、給与が支払われる就労トレーニングであるJET(JobExperience Training)や短期集中就労トレーニング、および職業カウンセリング、就職説明会、専門技術講習、そして個別就職案内といった就職に関連した多様なプログラムを参加者に提供してる。この就労トレーニングの目的は、参加者の多様なニーズに見合ったプログラムを提供し、一人でも多くの参加者が競争率の高い就職市場で積極的に仕事を見つけ自立していくことを支援する事である。

(参加資格)

 このトレーニングはコモングラウンドが運営する支援住宅の住人達の為に基本的には設置されているので、参加者の殆どは支援住宅の住人である。しかしここの住人でなくてもコモングラウンドが提携関係を結んでいる他のホームレス支援団体やホームレスシェルターからの紹介があれば、誰でも参加することができるようにもなっている。

 基本的な参加資格は、まず@)麻薬やアルコールを最低6ヶ月以上服用しておらず、依存症を絶ちきるライフスタイルを継続する意志があり、その努力をおこなっていること、さらにA)プログラムを継続して参加していける状況にあること(衣食住が福祉かその他の援助によってある程度生活が安定している事)の二つだけで、その他年齢や性別の制限などは一切ない。

 ただ、依存症のリハビリ施設や精神病の特別施設などはないため、重度の依存症や心身の障害を持つ人は基本的に参加するのは難しい。既に述べたように、参加者は原則としてコモングラウンドの支援住宅の入居者ということになっており、その他にはコモングラウンドと提携している他のホームレス救済活動団体及びエージェンシーからの紹介が無ければ参加してこれない。

 参加者の殆どがマイノリティで、年齢は40〜50代前後で、何らかの身体障害(殆どは薬物やアルコールの依存症、あるいは精神病)を持っている人が多い。また、参加者の大半が公的な福祉援助を受けている人々で、元ホームレスであった人たちである。中には、不就労のためホームレス状態になりかけている人もいる。参加者は女性が多いが、トレーニングの内容は男女両方を対象にしているため、女性が圧倒的に多いと言うわけではない。

(給与手当)

 短期間の就労トレーニング(2〜7週間)は給与が支払われないが、就労トレーニングのうち長期間のもの(4〜5ヶ月間)に関しては実務トレーニング参加時間に対して5ドル60セントの時給が支払われる。トレーニングの参加時間は週25時間なので、月々560ドルの給与が支払われる事になる。長期間のトレーニングの参加者はこの給与のほか福祉援助(メディケア、食料配給券)を受ける事ができるので、福祉援助とトレーニングからでる給与とで参加者は生活を支える事になる。参加者の中には身体障害者手当ての中に家賃の免除が含まれている人もおり、家賃を支払わなくてもよい場合があるので、これだけの収入でも贅沢は出来ないが十分生活を送る事は可能である。

 また、コモングラウンドの就労トレーニングは行政が福祉受給者に義務付けている就労トレーニングと同様のものと見なされるため、コモングラウンドのトレーニングに参加して給与をうけとっても彼らの福祉受給に支障をきたさないことになっている。

(規則)

 麻薬に手を出さないことが参加の鉄則である。そして指導員の指導に必ず従う事。その他は参加時間を必ず守ること(遅刻・無断欠席・長期欠席しない)など。3回以上の規則の違反者はプログラムから除名される事になる。

Dカリキュラム

 コモングラウンドの就労トレーニングは4種類あり、内容は其々異なる。@)〜A)のトレーニングは短期のため給与手当てはないが、B)〜C)は長期間にわたる訓練のため給与手当てがつく。トレーニング期間の長さに関わらず、就労トレーニング参加者全員が10回にわたって行われるオリエンテーションならびにトレーニング中ずっと続けられるコアトレーニングというライフスキル(生活基礎能力)の授業に出席しなくてはならない。オリエンテーションは月曜から金曜日毎日あり、2週間続く。オリエンテーションでは、就労トレーニングの内容・規則などがこと細かく説明される。コアトレーニングプログラムは、社会で通常に生活していくために必要な常識、マナー、対人関係のこつ、それから仕事場で必要な価値観、マナー、エチケット、勤務態度、仕事を続けていくための努力の仕方、ストレスの対処の仕方などが指導される。 また、訓練生は職業カウンセリングを受けなくてはならず、これについては後で説明しようと思う。

(カスタマーサービス就労トレーニング…2週間)

 これはコモングラウンドと提携を結んでいるホームディポーという材木や造園・園芸用品専門の大型スーパー、そしてその他の大型スーパー(日本でいうダイエーやコーナン)のカスタマーサービスのポジションにつくため、お客さんのクレームの対応や接客の仕方を学ぶプログラムである。 プログラム提携会社のホームディポー社はこのプログラムの卒業生を優先に採用することを約束しており、この会社のカスタマーサービスの仕事は時給が良い上に(9ドルから10ドル以上)、諸手当がついており、会社の株を買うチャンスも与えられている。

(ホテル接客業プログラムMarriot Internationals Pathways to Independence”…7週間)

 これは、将来一流ホテルで就職できるよう、ホテルでの接客指導が行われるプログラムで、マリオットインターナショナルがスポンサーしており「マリオットインターナショナルズ・パスウェイトゥインディペンデンス」という名前がついている。このプログラムでは参加者はホテルのドアマン、受付、ルームサービス、といった仕事をきちんとこなせるよう接客マナーなどを学習することになっており、このプログラムの提携パートナーでありスポンサーのマリオットホテルインターナショナルは、卒業生の就職口でもある。このプログラムの卒業生はマリオットを初めその他NY市内の様々な一流ホテルの仕事についてる。これらの仕事は高給のうえ手当てがしっかりついており昇進のチャンスもあるため(海外勤務も可能)、就労トレーニングを受ける人々の間でとても人気が高い。毎回、トレーニング参加定員11人という限られた窓口に、80人以上の応募者が殺到するという。

(調理就労トレーニング“Neighborhood Kitchen”…5ヶ月)

 DCセントラルキッチンのロバートエガ−氏が「コモングラウンドにうちと同じシステムを導入するよう奨めている」と言っていたので、おそらくこのトレーニングのアイデアはDCセントラルキッチンから来ているのだと思う。実際、プログラムの内容は規模は小さいがDCセントラルキチンのと類似している。ただ、食材の救済活動などはされておらず、このプログラムではタイムズスクエア支援住宅内のカフェテリアのシェフにより基礎的な調理技術のほかにサービスの仕方の指導などが行われている。このプログラムの卒業生の多くがタイムズスクエア周辺企業のカフェテリアなどへ就職していっている。このプログラムに参加する訓練生が作った食事はNY市内の非営利団体やホームレスのシェルターなどに配給されているが、DCセントラルキッチンのような大規模な配給活動は行っていない。またケータリングサービスなどもしておらずあくまでも調理とサービスの指導のみが行われている。

(オフィスワークトレーニング&ビル管理整備就労トレーニング…6ヶ月)

 このプログラムでは、オフィスでの一般事務の仕方やビルの整備作業の仕方などが教えられる。このプログラムは先に紹介した短期間の就労プログラムと違い給与手当てがでるので、タイムカードをきちんと作って実際の職場と同様スーパーバイザーに提出しなくてはならず、それをしていないものは給与をもらえない。また残業は一切してはいけない事になっている。

 プログラムの基本的なスケジュールは、午前中はコアトレーニングに出席し、生活能力・一般常識などの授業を受け、昼からは実務をふくむ就労トレーニングをするというもので、就労トレーニングの内容は、オフィスワークかビルの整備・清掃のどちらかとなっている。どちらを選ぶかは個人とケースワーカが相談して決められる。

 オフィスワークの場合はコンピューターの使い方、ファイリングの仕方、電話の応対の仕方などが教えられ、毎日一般企業や各種団体のオフィスで一般事務をしていくために必要な能力と知識が教授される。このトレーニングは若い、あるいは中年の女性・男性に人気がある。ビルの整備・清掃に関するトレーニングは、コモングラウンドのビル整備士が指導にあたり、基礎的なビルの整備技術を指導する。技術者として免許を取れるほどの専門技術や知識をこのトレーニングを通して得れるわけではないが、一般的なビルの管理・整備のための従業員としての仕事は持てるようになる。また、もしここで指導する以上の技術を学びたい人がいる場合は、他の団体へ紹介する事もここではできる。このトレーニングをうける人の多くは男性が多い。ビルの清掃や管理は人とのコミュニケーションをあまり要しないので、特にホームレス歴が長かったり、長期の投獄生活を送った人で対人関係がうまくできない人がこのトレーニングを受ける事が多いという。

(職業カウンセリング)

 職業カウンセリングは就労トレーニングの中で最も大切なプログラムで、既に述べたように就労トレーニング参加者全員が受けなければならないことになっている。参加者は職業カウンセラーと定期的に面会し、訓練で何か問題がないかどうか話し合われる。さらに、カウンセラーは参加者が受けているトレーニングの指導講師とも面談し、訓練生が問題無くトレーニングを受けているかどうかチェックをする。もし何か問題があった場合、カウンセラーは参加者や指導教官と話し合い、問題の解決のための仲介役を務める。よくおこる問題はホームレス状態の間に身につけてしまった自己中心的な考え方のせいで他の訓練生と上手くやっていけない、指導教官の指導を聞けないなどである。このような問題があった場合、職業カウンセラーは訓練生と面会し、それらの性格上の問題を訓練生が乗り越えていけよう根気良くカウンセリングにあたることになっている。       

 さらに、カウンセラーは訓練生が受けているトレーニングが彼らに本当に合っているかどうかを綿密にチェックし、訓練生達がそれぞれのニーズと関心に見合った職業訓練をうけれるようにコーディネイトをする。たとえば、訓練生が求めている職にたいして、彼らの学歴が見合っていない場合はきちんと彼らがそれなりの教育を受けられるよう、専門の団体に紹介したりすることもある。

 職業カウンセラーはコアトレーニングの講師として、彼らがどうすれば仕事を失うことなく自立しつづけているかなどの生活・就労姿勢や仕事への価値観に関する指導にもあたることになっている。これらの職業カウンセリングはグループで行われる事もあれば、訓練生と一対一で行われる事もある。

 またカウンセラーは訓練生の就労・自立能力がきちんついているかを定期的に査定し、就職活動を開始出来る準備が出来ているかどうかを判断しなくてはならない。就職していけると判断された訓練生は2ヶ月から3ヶ月間に渡る就職活動を職業カウンセラーと共にはじめる。この間、履歴書の書き方、面接の受け方、難しい質問(依存症や前科についての質問)の対応の仕方などが職業カウンセラーやケースワーカーによって指導される。

 プログラム卒業基準は、@職業カウンセラーときちんと定期的に面接をしていること、A週20〜25時間、5日間の就労トレーニングを規則違反なく修了していること、そしてこの期間内に少なくとも4ヶ月間の実務トレーニングを修了して、トレーニングの成績が優秀であること、Bライフスキルトレーニングの授業にきちんと出席していて、その成績が優秀である事、C職業カウンセラーと共にきちんと就職活動をし、仕事を見つける努力をしていること、などである。

 これらの基準を満たした訓練生はプログラムを卒業をし就職していく。訓練生がプログラムを卒業した後、カウンセラーは6ヶ月間卒業生と彼らの就職先の雇用者と連絡を取り合い、きちんと卒業生が仕事が続けられているかどうかチェックする。もし問題があった場合は、カウンセラーは仲介役となり問題解決に向けて双方と話し合いをすることになっている。また、卒業生がさらにステップアップするため他の仕事を探したい、あるいは転職をしたいと言う場合の相談に乗ったりするのもカウンセラーの仕事である。卒業生には卒業後もライフスキルトレーニングの授業に出るように奨励し、彼らが問題無く社会に順応し、自立をし続けていけるようにする支援するようにカウンセラーは補助している。

 職業カウンセラーはコモングラウンドとアーバンサービスセンターのスタッフがつとめている。

E産業の開発

 タイムズスクエアといえば、マンハッタンで最も人気のある観光スポットで、人通りがとても多い繁華街である。その土地柄を利用したビジネス活動もコモングラウンドは行っている。

(貸店舗)

 プリンスジョージ住宅の1階がレストランとなり就労トレーニング訓練生達の就職先になることや住宅の最上階のイベントスペースが一般に提供されその売上は運営資金とされていることは既に述べた。その他に、コモングラウンドの支援住宅では住宅の建物の一角(1階や地下)を一般企業に貸し店舗として提供し、その賃貸料はコモングラウンドの活動資金となっている。またただスペースをテナントに貸すだけではなく、そのテナントとなった店がコモングラウンドの就労トレーニングに参加している人々の就職先になるように、テナント企業に卒業生の雇用を義務付けている。ザ・タイムズスクエアに入っているテナントは、コーピーショップのスターバックス、アイスクリーム店のベン&ジェリーズ、ホットドッグ店、ジュースとホットドッグを売っているパパイヤキングなどがある。スターバックスとパパイヤキングは彼らの店のスタッフの25%のポジションを、コモングラウンドの卒業生を採用してうめていくことを約束している。

(ベン&ジェリーズパートナーショップ)

 コモングラウンドは人気アイスクリーム会社ベン&ジェリーズの小売店「ベン&ジェリーズスクープショップ」をタイムズスクエア、ロックフェラーセンター、ブライアントパークのキオスクで運営している。これらの店舗はベン&ジェリーズ社との提携のもと、コモングラウンドが直接運営しているため、売上は活動資金となり、コモングラウンドの卒業生が店舗のスタッフとなって働けることになっており、卒業生の就職口の拡大にもつながっている。

※支援住宅については省略する。