第3章 野宿生活者の就労・自立支援に関わる取り組み状況
3-1.自立支援センターの取り組み状況
(1)自立支援センターの設置目的と枠組み
自立支援センターの設置・運営をはじめ、現在の野宿生活者問題に対する諸施策は、この「当面の対応策」に基づき実施されており、ここで自立支援センターの設置目的・位置づけを明確にするため「当面の対応策」について概観する。
(「ホームレス問題に対する当面の対応策について」概要)
@趣旨
ホームレスも自立でき、地域住民も良好な環境の中で暮らせる社会とするために、国、地方公共団体が適切な役割分担の下、一体となって取り組むことが必要である。
Aホームレス問題の基本的視点
○ホームレス自らの意思による自立した生活への支援を基本
○老齢や健康上の理由などにより自立能力に乏しい人々に対しては適切な保護
Bホームレス問題の対策の方向
ホームレスの社会的自立を果たすためのニーズの的確な把握とそれに基づく類型別の施策体系の確立(図3-1参照)
<ホームレスの類型>
○勤労意欲はあるが仕事がなく失業状態にある者(TYPE1)
産業構造の変化や不況等による日雇労働の雇用機会の減少、リストラ等による常用労働者の失業等
アルコール依存症の者、精神的・身体的疾患を有する者、高齢者・身体障害者等
社会的束縛を嫌う者、諸般の事情から身元を明らかにしない者等
施策を効果的に推進するためには、社会福祉法人や民間ボランティア団体等の協力を得るとともに、地域住民の理解と協力が不可欠
C施策の具体的方向
□総合的な相談・自立支援体制の確立
福祉事務所等における街頭相談を含めた総合的な相談体制の充実と自立に向けた総合的な自立支援事業を実施
○福祉事務所等における相談体制の強化
福祉事務所等の窓口相談に加え、保健所等との連携による街頭相談の拡充
○自立支援事業の実施
ホームレスを一定期間宿泊させ、健康診断、身元確認、生活相談・指導等を行うとともに、就労意欲を向上させ、職業相談・斡旋等により自立を支援
○自立支援事業の本格実施までの緊急的取組
自立支援事業の本格実施までの間、ホームレスの自立に向けた緊急的な事業を実施
□雇用の安定
就労による自立に向けた雇用対策の実施
○自立支援事業と連携を図りつつ、就労促進のための職業相談を実施
○求人開拓推進員の活用による求人の掘り起こしの推進
○公共職業訓練の実施
○日雇労働者を多数雇い入れる事業主に対する緊急日雇労働者多数雇用奨励金の支給
○45歳以上の者を対象とした職場適応訓練制度の活用
○45歳以上の者を継続して雇用する事業主に対する特定求職者雇用開発助成金の支給
□保健医療の充実
積極的な健康相談及び訪問指導等による保健医療対策の充実
○結核予防のための訪問による服薬指導の実施等の感染症対策の充実
○保健所等の保健・福祉相談による適切な医療機関等への処遇
○保健所等の巡回健康相談等による健康管理指導の実施
○無料低額診療事業を実施している医療機関の活用
□要援護者の住まい等の確保
○自立に向けた宿所提供施設等の利用を図るとともに、高齢者等援護を要する者のための更生施設や養護老人ホーム等の整備拡充
□安心・安全な地域環境の整備
居住場所の確保状況等を勘案しつつ、公共施設からの退去指導を実施するとともに、地域安全対策や環境衛生対策を実施
○道路、公園、河川等公共施設からの退去指導の実施
○パトロール活動の強化による地域の安全確保、ホームレスの保護活動の実施
○公衆トイレの設置や清掃等の実施
D施策のフォローアップ
○今後、上記施策の実施状況を点検し、関係地方公共団体の要望を踏まえて、施策のあり方について必要な見直しを行う。
○ホームレスの動向、ニーズ等の詳細な分析及び効果的な自立支援策に関する学際的な調査研究を実施
図3-1.ホームレス対策のフローチャート
出所)「ホームレス問題に対する当面の対応策について」(平成11年5月 ホームレス問題連絡会議)
(2)大阪における自立支援センターの設置運営の現状
その中で、「ホームレス自立支援事業」の実施主体は、「市(特別区を含む。)」とされ、実施施設として「ホームレス自立支援センター」を中心に実施するものとして、ホームレスが相当数存在する地域を抱える「市」において、自立支援センターを設置できるものとしている。
このため、全国でも最も多くの野宿生活者が存在する大阪市においては、平成12年度、3カ所の自立支援センターを開所したところである。
本項では野宿生活者の自立支援を目的として設置されたこれら「自立支援センター」の現状について概観する。
@大阪における自立支援センターの設置状況
現在、大阪府内で自立支援センターは大阪市内に3施設が設置されている(図3-2、表3-1)。入所定員は3施設総数で280人(大淀100人、西成80人、淀川100人)であるが、これは大阪市内だけで8,660人(1998年8月:「概数・概況調査」)といわれる野宿生活者数から見るとその不足感は否定できない。
しかし、国と市が具体的にホームレスの自立支援に動き出した最初の事業であり、野宿生活者対策の出発点と位置づけられる。また、大阪市は自立支援センターとは別に長居公園に同公園内で生活するテント生活者に対して「仮設一時避難所」を整備し、テント生活から同施設への入所を指導するなどの対応を図っている。
図3-2.3自立支援センターの位置
表3-1.大阪市における自立支援センター設置状況
名 称 |
自立支援センター大淀 |
自立支援センター西成 |
自立支援センター淀川 |
場 所 |
大阪市北区長柄西 |
大阪市西成区長橋 |
大阪市東淀川区大桐 |
定 員 |
100人 |
80人 |
100人 |
開 設
日 |
平成12年10月2日 |
平成12年11月6日 |
平成12年12月25日 |
A自立支援センターの運営
(野宿生活から自立支援センターへの入所)
「ホームレス自立支援事業実施要綱」では、自立支援センターの利用対象者を、「ホームレスのうち、原則として就労意欲がある者又は稼働能力がある者」としている。大阪市内の公園等を中心とした野宿生活者への街頭相談はすでに約2,000人(平成13年1月末現在)にのぼり、そうした相談を通じて自立支援センターへの入所希望者を入所紹介する方法を採っている。
(自立支援センターの運営)
各自立支援センターは大阪市が事業主体となり、その運営については社会福祉法人に委託するかたちで運営され、この間の3自立支援センターにおける入所者の状況等は表3-2に示している。
入所者には宿泊、食事、入浴等の提供がなされるとともに、各施設の立地に対応して大阪労働局所管のハローワークと連携した就職相談が行われている。具体的には、ハローワークから2〜3名の職業相談員が各施設に週2回出張し、入所者の職業相談に応じ、こうした職業相談によって就職を実現した入所者も生まれ、一定の成果を出している。
また、大阪府は緊急地域雇用特別基金を活用して、就労による自立を促進するため、大阪労働局、大阪市、施設運営者、NPO法人と連携して常用雇用促進事業(後掲)を実施し、いわば入所者の就労・自立に向けた側面援護の役割を果たしている。
一方、施設における入所者の生活状況は、例えば、自立支援センター大淀の状況でみると、1室5台の2段ベッドで10人が生活し、各人には鍵の掛かるロッカーが1個提供されている。食事は一人1日3食を1,000円で予算化されている。
施設の規則は定めてあるが、あまり細かいことまで指示することなく、施設清掃を入所者が持ち回り当番制(1回250円の手当支給)にするなどの工夫で結構良好にいっている。
表3-2.大阪市における自立支援センターの運営状況等について(その1)
1.利用者の状況(事業開始後の延べ利用者の状況) |
(平成13年3月末日現在) |
項目 |
大 淀 |
西 成 |
淀 川 |
合 計 |
|
(1) |
現 入 所 人 員 |
80 |
49 |
62 |
191 |
入所総数 |
123 |
103 |
85 |
311 |
|
退所総数 |
43 |
54 |
23 |
120 |
|
(2) |
年 齢 層 |
||||
45歳未満 |
12 |
8 |
10 |
30 |
|
45〜54歳 |
51 |
45 |
37 |
133 |
|
55〜64歳 |
53 |
46 |
37 |
136 |
|
65歳以上 |
7 |
4 |
1 |
12 |
|
(3) |
野 宿 生 活 期 間 |
||||
6月未満 |
34 |
29 |
30 |
93 |
|
6月〜1年未満 |
18 |
16 |
10 |
44 |
|
1〜3年未満 |
45 |
31 |
29 |
105 |
|
3年以上 |
26 |
27 |
16 |
69 |
|
(4) |
野宿生活に至った理由 |
||||
失 業 |
113 |
91 |
70 |
274 |
|
病気・けが |
12 |
7 |
6 |
25 |
|
借 金 |
6 |
1 |
7 |
14 |
|
そ の 他 |
0 |
4 |
4 |
8 |
|
(5) |
野宿生活に至る前の職業 |
||||
専門・技術的職業従事者 |
9 |
0 |
3 |
12 |
|
管理的職業従事者 |
3 |
0 |
1 |
4 |
|
事 務 従 事 者 |
0 |
0 |
2 |
2 |
|
販 売 従 事 者 |
5 |
2 |
4 |
11 |
|
サービス職業従事者 |
21 |
12 |
13 |
46 |
|
保安職業従事者 |
0 |
7 |
3 |
10 |
|
農林漁業作業者 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|
運輸・通信従事者 |
3 |
3 |
4 |
10 |
|
生産工程・労務作業者 |
72 |
79 |
55 |
206 |
|
そ の 他 |
10 |
0 |
0 |
10 |
|
無 職 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|
(6) |
就 職 者 総 数 |
66 |
29 |
15 |
110 |
離職者総数 *1 |
25 |
3 |
2 |
30 |
|
現在の勤務者数 |
41 |
26 |
13 |
80 |
|
(7) |
就職先の紹介者 |
||||
職 業 相 談 員 |
39 |
13 |
5 |
57 |
|
入 所 者 自 身 |
18 |
16 |
8 |
42 |
|
施 設 の 紹 介 |
8 |
0 |
0 |
8 |
|
入所者の知人・友人 |
1 |
0 |
2 |
3 |
|
そ の 他 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|
(8) |
就職者の状況 |
||||
退 所 |
16 |
11 |
4 |
31 |
|
就職後施設からの通勤者 *2 |
25 |
15 |
9 |
49 |
表3-2.大阪市における自立支援センターの運営状況等について(その2)
2 離職理由とその人数(*1) (平成13年3月末現在、3施設合計)
離 職 理 由 |
人 数 |
離 職 理 由 |
人 数 |
思っていた仕事と違う |
11 |
給与が少ない |
4 |
人間関係 |
5 |
仕事が覚えられない |
2 |
手当てが出ない (当初の条件との相違) |
4 |
体調の変化 |
2 |
休みがとれないから |
1 |
||
講習(フォークリフト)受講 |
1 |
3 施設から通勤している者の自立退所できない理由とその人数(*2)
通 勤 理 由 |
人 数 |
通 勤 理 由 |
人 数 |
家を借りるお金がたまっていない |
25 |
就職先が決まるも,仕事量が不安定 |
1 |
預金額が少ないから |
22 |
病気のため、休職中 |
1 |
4 就職に有利にはたらいた免許・資格等とその人数
免許・資格などの種類 |
人 数 |
普通自動車運転免許 |
9 |
大型自動車運転免許 |
1 |
調理師免許 |
4 |
溶接 |
2 |
NC旋盤工プログラミングコース終了 |
1 |
パソコン |
1 |
ボイラー技師 |
1 |
表3-3.自立支援センター入所者に対する職業紹介等の状況について
1.職業相談及び職業紹介実施状況 (平成13年3月末日現在)
項 目 |
大淀 |
西成 |
淀川 |
合
計 |
|||
求職申込者数 |
101 |
99 |
78 |
278 |
|||
職業相談件数 |
735 |
303 |
199 |
1,237 |
|||
職業紹介件数 |
254 |
63 |
36 |
353 |
|||
|
うち採用者数 |
39 |
13 |
5 |
57 |
||
|
うち離職者数 |
20 |
3 |
2 |
25 |
||
現在勤務中実員 |
19 |
10 |
3 |
32 |
|||
|
雇用形態常用(フルタイム) |
18 |
10 |
3 |
31 |
||
常用パート |
1 |
0 |
0 |
1 |
|||
期間雇用 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|||
日雇 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|||
その他 |
0 |
0 |
0 |
0 |
|||
職業相談員数 |
3 |
2 |
2 |
7 |
|||
相談日数 |
87 |
57 |
24 |
168 |
|||
相談曜日 |
(水・金) |
(火・木) |
(水・木) |
|
2.主な就職先の職種
(平成13年3月末現在、3施設合計)
職 種 |
人 数 |
警備員 |
18 |
清掃員 |
10 |
工場内勤務 |
4 |
建設作業員 |
3 |
旋盤工 |
3 |
調理人 |
3 |
配達員(運転手) |
2 |
溶接工 |
2 |
営業 |
2 |
梱包作業員 |
1 |
エレベーター操作 |
1 |
立体駐車場管理人 |
1 |
塾講師 |
1 |
菓子製造工 |
1 |
機械運転管理 |
1 |
家屋調査員 |
1 |
3.主な離職理由とその人数
離 職 理 由 |
人数 |
住民票・保証人がとれない |
7 |
ホームレスが判明し、居辛くなった |
6 |
仕事の内容・給料が合わない |
5 |
人間関係 |
4 |
病気・けが |
2 |
本人出社せず(無断欠勤) |
1 |
4.採用に至らなかったケースの主な理由
離 職 理 由 |
人数 |
選考の結果 |
105 |
業務内容が合わない |
87 |
技能・経験・知識の不足 |
59 |
賃金が合わない |
26 |
本人からの辞退 |
8 |
面接に出席せず |
4 |
B自立支援センターの運営事例−自立支援センター大淀
前述したように、大阪市内には3カ所の自立支援センターが開所されているが、「自立支援センター大淀」を取り上げ、実際の運営状況の一端を見ることとする。
(施設周辺地区の入所者が多い)
自立支援センター大淀は、3カ所の自立支援センターの中で最も早く、大阪市北区に既存施設を改修して100名の定員で開所されている。運営は社会福祉法人「みおつくし福祉会」が行っている。巡回相談で入所を紹介された野宿生活者は入所のオリエンテーションを受け、施設生活に入っていく。施設が立地する北区は、大阪市内の中でも多くの野宿生活者が生活している区であり入所者は北区で野宿生活していた人が多くなっている。
(開所当初の状況)
施設開所当初は、入所してくる野宿生活者は、幾度となくハローワークに足を運び、求職活動していた人が多く、それでもなかなか仕事が決まらず少なからず不安を抱いていた人が多かったという。
自立支援センターの当初の運営プログラム(図3-1参照)は、1ヶ月くらい社会復帰の生活訓練等の処遇を受けたあと求職活動に入っていく等の道筋が意図されているが、「早く就職を決めたい」と考える入所者の意向に配慮して、就職斡旋のための十分な体制が整わない中で取り組んだため、施設運営スタッフ側にはかなりの戸惑いが生じたようである。
(「自立支援センター大淀」の外観)
一方、最初のこうした積極的な就労意欲を有する入所者にとっては、特段の生活訓練等を行うまでもなく求職活動への対応ができるが、これから入所してくる野宿生活者は、やはり一定の社会復帰の処遇が必要とされることが予想される。
(入所者の就職斡旋活動等)
入所者の中には前住所のない人、住所登録地が判らない人など住民票のあがらない人がいる。就職に当たっては住民票や身元保証を求めるところもあり、必要に応じて住民票を自立支援センターに移すなどの対応を図っている。
一度は免許更新で明日に住民票が必要ということになり、スタッフが京都まで取りに行ったというようなこともあった。
就職斡旋については、ハローワーク梅田と連携しながら行なっており、毎週水曜日と金曜日の2日は3人の相談員がセンターに来所して入所者の就職相談に応じている。開所当初は連携や斡旋方法で試行錯誤が生じたが、現在では緊密な連携が図られ、徐々に就職が決まる人もあって成果を出しつつある。
元野宿生活の入所者にとっては、まず面接まで行けることがまず大事であり、中には面接に行って説教されて帰ってくる人もいるが、雇用側において自立支援センターへの認識がされていないことも大きな要因ではないかと考えられる。
また、入所者の就職斡旋をハローワークの相談業務のみに頼っていては限界があり、支援センターとしても職安ルートに乗らないところで、折込求人広告やビラなどを頼りに独自に就職先の開拓を行なっている。
自立支援センターには3ヶ月、6ヶ月の「入所期限」が想定されている。つまり、入所者が、入所期限内に就職先が決まり、住居の手当もして自立することが望まれるが、すべての人がそのようになるとは限らないし、6ヶ月を経過した人への対応をどのようにするか、施設運営スタッフとしては少なからず危惧されるところである。また、例え、就労・自立できたとしてもこれまでの経験からケアシステムがなければ、結局もとの野宿生活に戻ってしまう可能性があり、地域の人々等との信頼関係の中で生活できるような仕組みが必要と考えられる。
実際、自立支援センター入所者の中には、「退所しても相談に来て良いか」と聞く人もある。入所者には不安があり、こうした不安に対するケアが必要である。その点では、グループホーム的なものを施策の一つとして考えても良いのではないか。
図3-4.自立支援センターにおける国・府・市の役割分担