2-2.求人(雇用)側の対応意識

(1)対象業種

 前節では野宿生活者の就労ニーズを中心として、それに留まらず前歴や生活実態等についても聞き取り調査を行った結果について明らかにした。

 本節では就労の受け入れ側−求人(雇用)側の対応意識について企業等へのヒアリング調査を実施し、その結果を示している。

 ヒアリングの対象とした企業等の業種には、一定の想定を行った。すなわち、前節でも明らかにしたように、様々な職歴と個人の能力、可能性の面では、野宿生活者にとってはあらゆる業種がその就労先として可能性があることは否定できない。

 しかし、野宿生活者自身が就労したい希望職種やこれまで携わってきた前職の経験・ノウハウを活かしたいとの考え、さらには、求人誌等における募集業種、社会情勢等の変化を考慮して、野宿生活者にとって就労可能性の高い業種を想定し、ヒアリング対象とした。

2-10.対象業種

(2)対応意識の類型化

  野宿生活者の就労の受け入れ側の対応には基本的に次の3類型が見られる。一つは野宿生活者を積極的に受け入れようという「積極型」、二つには積極型の対極として受け入れに消極な「消極型」、そして3つには前2タイプの中間に位置する条件付きで受け入れようとする「条件付き型」である。

2-11.受け入れ対応の類型

@積極的求人対応型意識

 ヒアリングした企業の中には、野宿生活者を積極的に求人、雇用しようと考えている企業等(あるいは経営者、人事担当者等)、ないしは過去に野宿生活していた人を実際雇用していた経験を有する企業もあった。

 こうした企業等は、野宿生活者についての「理解」、言い換えれば、「野宿生活者」一般という抽象的な捉え方をしていない。端的には、その人の「人間性」だとか、労働力としての「価値」の評価−真面目に働くとか、期待に応える働きをしてくれるとか、意欲を持って働くとか−が、評価基準となっている。

 業種でみると、資源リサイクル業や農業(法人)でそうした発言が見られた。

 A条件付求人対応型意識

 ある条件がクリアーされると雇用の可能性があるとする企業もあった。例えば、「住所不定でなければ…」「身元を保証する人があれば…」「給与の前借りといったことがなければ…」といった条件がクリアーされるのであれば、雇用の「可能性」があるとの発言、考え方である。

 確かに、野宿生活者は、生活場所が公園のテントであり、橋の下かもしれないし、貯蓄もなく就職したとしても給料日までの生活費を「就業を継続する」との条件で「前借り」の交渉をせざるを得ないかもしれない。

 しかし、野宿生活者にとっては、こうした条件がクリアーされてはじめて雇用の「可能性」にたどり着けるわけであり、いわば一般の求職者と同じ土俵に上がれるということである。

 こうした企業は、ヒアリングした企業等の中でも多くを占め、例えば、自立支援センターに入所して、これらの条件が整えばかつて野宿生活していた人も土俵に上がれ、「勝負」ができるということになる。その意味でも早急な自立支援センターの整備が必要である。

B消極的求人対応型意識

 野宿生活者の雇用に消極的な対応を示した企業(人事担当者等)は、野宿生活者に対する「偏見」や「固定観念」−例えば、「彼らは特殊な事情があって野宿生活をしている人」「働くことの意欲を喪失し、家庭・家族を捨て気儘な生活をしている人」等−を持ち、野宿生活者の個々の状況を見ようとせず、一般抽象的な「野宿生活者」像を描き、捉えている。そして、そうした「野宿生活者」とはできれば関わりを避けたいとの意識で、消極的な求人対応となっている。

 一方、求人の対象が限定−年齢や免許・資格者、技能者など−されており、多くの野宿生活者が必然的に対象外となってしまう場合も、意図的あるいは意識的とまでは言わないまでも、結果として野宿生活者に就労の可能性を狭めてしまっており、「消極的対応型」意識と同様である。

(3)野宿生活者受け入れの阻害要因

 野宿生活者を受け入れる企業側にとってその対応意識については基本的には前項で示した3類型に区分できるが、受け入れの障害となっている要因を整理すると次のような点が指摘できる。

 @業種・業界の不活性化と環境変化

 業種・業界の景況が厳しい状況に置かれている企業にあっては、一般的に新たな雇用が難しい現実がある。言い換えれば雇用吸収力が低下し、たとえ野宿生活者を雇用する考えはあっても経営的に雇用する余力がなく、逆に人員整理をしなければならない状況にある企業がある。ヒアリングした資源リサイクルの企業では、「実際雇用していた元野宿生活者に仕事がなくなり辞めてもらった」というケースもあった。

 今日の建設業界についてもある部分同様のことが言えよう。これまでは建設産業は雇用吸収力も高く、多数の日雇い労働者の雇用を生み出していたが、業界そのものの活力低下あるいは不良債権の処理問題や構造転換の過程にあって、かつてのような雇用を生み出すには至らず、逆にこれまで日雇い労働に従事していた人が職をなくし、野宿生活を余儀なくされる事態となっている。

 また、建設産業における単純労働の「機械化」も、マンパワーを必要としていた従来の業界事情と異なる様変わりであり、一定の技能や経験が「職人」としてこれまでは通用していた状況が、ある部分通用しない環境となってきている等の考慮も必要となる。

A住所・身元保証等の要件

 野宿生活者にとって、就職の際に求められる「住所」「身元保証」は一般の求職者と比べても大きなハンディとなる。求人(雇用)側は、これら要件が解消すれば雇用の「可能性はある」とする企業もあり、実際、野宿生活者は自立支援センターに入所することでこれら要件をクリアーし、面接、就職を実現している人も出ている。

 したがって、求人(雇用)側が掲げるこれら要件は解消可能であり、また解消のための早急な対応が必要となる。

B年齢・免許・資格・技能等の要件

 求人(雇用)に際して年齢、免許・資格、技能等を採用の要件として掲げるところは多い。こうした要件は、野宿生活者のみならず一般の求職者においても就職実現を困難にしている。

 年齢制限については、現在、国会において審議されている雇用対策法の一部改正においても、事業主に求人年齢制限廃止を努力義務とする方向が示されているが、野宿生活者にとっても大きな壁になっており撤廃して欲しいとの声が多い。

 また、免許・資格や技能要件については、野宿生活者自身が職業訓練や再就職訓練に積極的に取り組むことで、免許・資格等の取得、スキルアップを図り、クリアーしていくことが望まれると同時に、そのためには自立支援センターにおける職業訓練のプログラム化、受け皿整備等で実効あるものにしていくことが必要である。ただ、野宿生活者の中で車の免許を失効した人が存在するが、個々の事情において回復措置をとる等の検討も必要ではないだろうか。

C偏見および固定観念

 野宿生活者に対する求人(雇用)側の偏見および固定観念が、野宿生活者の就職における阻害要因の一つになっている現状がある。

 求人(雇用)側が有用な雇用人材を求めることは当然としても、誤った偏見や固定観念により野宿生活者の就職が難しくなっている現状については、その是正が望まれる。

 大阪市内だけでも8,660人(1998年8月:「概数・概況調査」)の野宿生活者が確認されているが、これを「特殊な事情のある人たち」「気儘な人たち」等の、一般、抽象化された「野宿生活者」では語れないはずであり、個々の「野宿生活者」を見る目、判断する理性が求人(雇用)側に望まれる。また、そうした社会的コンセンサスを図っていくことが必要である。

(4)求人(雇用)側の対応意識等事例

 ヒアリングを実施した企業等の中で、特徴的なところを次に紹介する。


■A社…ビル清掃業

ビル清掃業界の動向

  ビル清掃事業者は、大阪ビルメンテナンス協会(約250社)に属している。事業者の中にはビル清掃業とは別に警備業も行っているところもあるが、業界としては警備業は別である。また、建設業のように下請・孫請けの関係はなく、役所関係の清掃業務(入札)と民間事業所の清掃業務に当たるところと分かれてきているように見られ、役所関係の業務受託業者は3040社程度である。

 業界としては、通常清掃業務はコスト削減で厳しい状況に置かれている。通常業務以外では、大きなイベント(博覧会等)や台風災害等で臨時的に大きなマンパワーを必要とする時には、協会へ要請がきて協会で個別の加入業者へ仕事を割り振ることになる。最近では、淡路花博の会場清掃があって、博覧会協会から業界団体(清掃や警備)へ要請がきて、ビルメンテナンス協会から当社へも仕事の割り振りがあり、主任クラスの職員とアルバイトで対応した。

業務内容と雇用者

 当社の業務は、ビル屋内清掃業務であり、屋外(庭等)に関わる清掃等は、発注者の要請で作業することもあるが、基本的には別の業者の範疇である。業務形態は、役所や民間からの施設清掃を年間での受託業務が基本である。受託した対象施設に清掃要員を派遣することになるが、清掃要員は当社との1年契約(パートタイマー)でその施設の清掃業務にあたるが、実際は長く続いている人が多く、中には5〜10年継続の人もある。

 ビル清掃業務は、基本的には女性中心の業務である。男女雇用均等法の施行で「女性」という募集の仕方はできないが、実際は女性9人に対して男性1人くらいの割合で、当社が雇用している5060人の中で男性は5〜6人である。

 何故、女性中心かというと、トイレ清掃の関係がある。ビル清掃業務にはトイレ清掃は付き物で、一般的に女性は男性トイレに入ることに抵抗はないが、男性が女性トイレに入ることには抵抗がある。力仕事や脚立を使っての高所の作業、夜間作業等は男性でないと難しい面があり、男性清掃員が必要になるが、それは限られている。それと、業務時間が3時間程度の短時間のパート作業(時給800850円)であり、主婦層や高齢者が所得控除枠内で働くのに好都合の職種である。また、バブル期にこの業界には人が集まらず、女性の労働力で賄ってきた経緯もある。

 さらに、清掃対象施設の近いところに居住する人が業務に従事する方が、遠方より通勤して従事するよりも優位ということになり、その意味でも女性のパートタイマーということになる。常雇用者は、パートタイマー10人に対して1人くらいの割合である。

●元日雇建設労働者の雇用経験等

 かつて当社でも元日雇建設労働者を雇用して欲しいとの照会が職安からあったが、清掃業務は基本的に対象施設の職員が不在(出勤前)の時に業務を行うわけで、委託者側からは身元のしっかりした人(「住民票が取れる」や「身元保証人がある」)でなければ難しく、その時は、結局職安の人が保証人になるようなことで対処したような記憶がある。

 それと、日雇建設労働者は日払いの報酬制でそのことにならされており、当社のような「月給制」では前借りを要求したりして、月払いの賃金制に馴染みにくい点があった。

 最近、公園清掃や保育所のペンキ塗り等の業務を「特別清掃」の表示をした車で業務に従事している人を見かけるが、もっとPRしてもいいのではないか。

●野宿生活者の就労可能性

(地下鉄や鉄道駅、地下街、商店街の清掃業務・ゴミ収集)

 ビル清掃業務は、女性の職場(女性中心の業務)であり、野宿生活者(男性が多い)の就労の場として一般的に考えることは難しい。しかし、力仕事を必要とするところ、高所(脚立等を必要とする)作業、夜間作業等に関わる清掃業務、ゴミ収集については男性でないといけない。

 そうした観点から見ると、地下鉄や鉄道の駅構内の清掃・ゴミ収集、地下街や商店街の清掃・ゴミ収集については、野宿生活者がそれらの業務に就ける可能性が考えられるが、現在、どこがそれらの業務を行っているかである。

 大阪市の地下鉄については、OB職員の外郭団体組織が管理(民間業者へ委託)している可能性があり、また、民間鉄道会社では系列の管理会社、清掃業者が業務を行っているのではないかと考えられる。また、それらの業者は学生アルバイトやフリーターを雇って対応している可能性もある。

 就労する側(野宿生活者)の対応としては、出退勤時間をきちっと守ることが必要となる。

(公営競馬場や競艇場、大阪ドーム球場等の大規模集客施設の清掃業務)

 公営競馬場や競艇場、ドーム球場の清掃業務も既存業者があるだろうが、毎日という訳でなく多くのマンパワーを必要とする点からは臨時雇用的(アルバイト、パート)な形態になっていると考えられる。USJでは清掃員もパフォーマンスの一貫としての位置づけからか、正規の社員となるらしいが、他のテーマパーク(ex.ひらかたパーク等)ではどのようになっているか。

(場外馬券売場の警備やビッグイベントでの警備・清掃業務)

 みなみの場外馬券売場の警備員はすごい数であり、彼らも臨時雇用の可能性がある。また、今度、大阪市は東アジア大会を開催する予定になっているが、警備や清掃業務はかなりのマンパワーを必要とし、それらは準備段階から発生する(※ビッグイベントに関わる清掃業務は主催者団体→業界団体→個別事業者への割り振り…期間限定であるため臨時雇用で対応=淡路花博の例を前述)。ビッグイベントの関係では業界団体への実状把握が必要となろう。


■B社…運送業

●業界動向と雇用者

 運輸業界は、価格競争で厳しい状況にある。横に助手を乗せて走るところはどこもない(野宿生活者をトラック助手として雇用するような運送業者はない)。トラックの運転手一人で北海道から九州まで24時間で走る状況である。そうした中で交通事故が起きるのは当然である。現在、1万人くらいの人が交通事故で亡くなっているが、多くはトラックが関係する事故である。それも、トラックドライバーが事故の怖さを知らなさすぎるためである。  

 荷を積んだトラックがスピードを出してカーブを切るとき、車輪の状態はタイヤがヘシャゲてホイールから脱輪しそうになっているのを見ると、誰がスピードを出すなど無茶なことをするだろうか。事故を減らすためにはもっとドライバー教育を考えなければならない。

 また、トラックの運転手は免許制(普通運転免許とは別に)になっていないことも問題である。タクシーやバスの運転手は免許制になって、一応、簡単にはタクシーやバスが運転できない仕組みになっているが、トラック運転手は誰でも簡単に運転できる。

  ●酒類問屋の共同配送システムに雇用創出の可能性

(酒問屋は生き残りをかけて共同配送に取り組むところにきている)

 運輸業界で仕事の機会を増やし、業界としてもメリットがあり、問屋の合理化・効率化に役立つ方法がある。それは酒類問屋の共同配送システムである。

 かつて、大阪府の呼びかけで酒類問屋やリカーショップ、メーカーなど120社ほどが集まって共同配送の検討を行ったことがあったが、結局、事業としては潰れたか、休止状態になっている。

 うまくいかなかった原因は、事業費が大きくなりコストが嵩んだことと、各問屋が所有する自社倉庫の使い道(活用しなくなった倉庫をどこが使ってくれるのか)が見えなかった点にあった。

 また、ビールメーカー大手は4社あるが、メーカーが異なると共同配送はうまくいかないなど、酒問屋の閉鎖的な体質、情報が漏れることを嫌う体質に原因があったためと考えられ、現在では酒問屋は一頃の半分くらいに激減している。

 これからの酒問屋は、消費者機能を持つべきであり、運送屋にコストダウンを強いて儲けることを考えていては将来はなく、共同配送に取り組むべきだと考える。

 かつて当社が酒の運送を行っていたときは、問屋が空ビンの寄屋機能を担って、空ビンの回収システムができており、問屋からメーカーへの空ビンの回収手数料が1ケース56円であった。しかし、現在では一升ビンでも売り切りになってしまった。こうしたこともあって、市内の酒問屋の倉庫は今では減少し、扱っている商品アイテム数も10,000くらいから6,000ほどに減少している。基本的には小売店や消費者は我が儘で、プラスαのある方向を向いていき、問屋機能も商社が取っていくということで、酒問屋は本当に生き残りの方途を考えなければならない段階にきていると考えられる。

(共同配送で運送業に助手が必要となり雇用が生まれる)

 当社は、大手メーカーの廃棄コンピュータの配送にも関わっているが、取引先相手を1社で売上げの3割を占める状況はリスクもあり厳しい。共同配送のようなアイデアを提案しても関西では不平、不満として取られてしまい、前向きに検討されないところがあり、そこは関東と大きな違いである。関西での物流の位置づけは、いわば窓際であるが、関東では金儲けの重要な位置にある。

 共同配送システムでは、これまで各問屋が個別に、非効率に配送していた車が各問屋の荷物を混載する形でフルに稼働することになる。そうなると、現状では2dトラックに運転手一人で1日2〜3サイクルが限度であったところが5〜6サイクルの回転が可能となる。その場合、運転手1人では体が保たなくなり、助手が必要となる。今までのトラック輸送にはなかった「助手」という新たな雇用創出ができる。

(共同配送への問屋ニーズとシステムの構築)

 共同配送センターを整備することにより、問屋は在庫を抱える必要がなくなり、自社倉庫は他用途への利活用が可能になるなど、問屋のニーズは高いと考えられる。さらに、近畿の酒問屋のみならず地方の酒造メーカーもこの共同配送センターを利用することで、わざわざ大阪に事務所を構える必要もない。

 共同配送センターは、ヤードとコンピュータシステムとコンピュータを操作する人やピッキング・仕分けする人、リフト運転手等のマンパワーがあれば機能する。配送は運送会社が助手付きで対応することになる。

 ヤードは高速道路の高架下が便利であり、ヤードの使用料はメーカーがケース単位で課金し、支払う形をとり、配送費は問屋が負担することになる。現在でもH酒造は西区に倉庫をもって対応しているとか、各酒造メーカーが持つ倉庫機能を共同配送センターが担う形にすると、自社で倉庫を持つ必要がなくなり、酒造メーカーに取ってもメリットになる。

 共同配送センターで扱う荷には、酒類だけでなくあらゆる食品が付随してくる可能性がある。酒のつまみなどいわゆる「乾きモノ」は何時配送しても良いわけで、その分運送コストも安いが、それらも共同配送システムに乗せることができると、薄利多売のシステムが構築できる可能性がある。

 共同配送センターの組織は協同組合組織形態にしても良いし、雇用の創出という点からは3交代制で夜間にビッキング作業を行うとかすると、ワークシェアで多くの雇用創出ができる。

 共同配送システムで酒問屋がそれまで抱える労働力は合理化されることになるが、そこを避けては酒問屋は生き残っていけない。運送業の側からは、宅配との競争になるわけで座して見ているわけにはいかないし、メーカー主導の運送費切り詰めに甘んじているわけにいかない。

 共同配送センターの立地場所としては西成地区は交通の利便性も高く、流通の「環」になれるところである。また、高速道路等の高架下の空地活用との観点から言えば、高速道路の高架下は利用価値がありそうだ。

 野宿生活者の労働特性を踏まえた共同配送センターの事業枠組みの構想、メーカー側の物流・配送の現状を把握する必要があろう。


■C社…再生資源(リサイクル)業

●再生資源業界と雇用

 再生資源業界の雇用は厳しい。かつて、野宿生活者を雇用し、古紙回収に従事してもらい、リヤカーの貸代100円、家賃200円を貰い、平野区加美の3ヶ所に住まわせていた。しかし、古紙の値下がりでそれも難しくなっていった。再生資源業界の従業者は、事業所付近に住む女性のパートが多く、時給700800円程度である。

 家電リサイクル法が施行されることになるが、まだ収集運搬費も決まっていない状況で営利目的ではとてもやれる状況ではなく、厳しい。指定引取場所は午後5時までの運営で持ち込みにも制約が生じ、管理伝票のない不法投棄が増える可能性がある。自治体によってはこれまで粗大ゴミ扱いしていた特定家電(テレビ・エアコン・冷蔵庫・洗濯機)を指定品から外す動きも出ている。こうしたことになれば、マンションのゴミステーションに捨てに来る人が出る可能性もあり、管理組合で監視を強める動きもある。

 再生資源業界近代化協議会(以下「近代協」)では、回収した廃家電を輸出する取組も行っているが、排出者からお金が取れない状況にあるが、回収作業に野宿生活者が関わっていくこと考えられる。

 野宿生活者はすべてではないと思うが、時間に縛られず自由な生活をしたいとの考えで野宿生活をしている人もある。天王寺で野宿生活をしながら鉄くずを回収していた7580歳くらいの男性は、士官学校出のエリートであるが時間に拘束されることが厭で野宿生活をしているとの話を聞いたことがある。

 現在、当社にはかつて野宿生活をしていた80歳の男性がいる。駒川の量販店で段ボール回収整理に就いてもらっているが、別に悪いことをするわけでなく市営住宅に住んで普通に生活している。

 多くの野宿生活者も段ボール回収など自分でやれる仕事を行っているのだろうが、古紙市場の価格下落で、現在はアルミ缶回収に行っていると見られる。段ボール紙回収は、当社でも2〜3年前まではやっていたが、リヤカー1台に積める段ボールの量は300kgくらいで、一日に2回転して3,000円くらいの稼ぎになる。非常に重労働である。

  ●野宿生活者の就労機会づくり

(役所の古紙回収・分別で就労機会が生まれる)

 日本の古紙がアメリカのものと比べ高い市場価格で取り引きされる理由は、分別がなされ品質が良いからである。再生資源業界において野宿生活者の就労機会づくりの可能性は、ゴミの回収から分別の過程にマンパワーを投入し、焼却に回さず資源化を図ることである。分別されたゴミは、古紙や紙問屋に持ち込み再資源化が可能になる。

 現在、大阪府や大阪市ではゴミの分別は一応なされている。役所内の自販機から出る空き缶は清掃委託業者(入札)によって回収され、缶回収業者に引き取られていると考えられるが、問題の一つは紙の回収状況である。

 現在、大阪府は4d/日の原紙を使用しているが、排出される古紙の量は2ヶ月で10dである。1ヶ月を20日としても2ヶ月では160dの原紙を使用していることになる。排出される10dを除く残り150dは一体どこにいったかという点がある。

 役所で使う紙量という点では、大阪府警が交通違反で使う赤切符、青切符があるが、半年間でこの赤切符、青切符の破棄量は60dにもなる。廃棄に関わる業務は委託業務(入札)であり、廃棄にあたっては、廃棄状況を確認するために警察官が立ち会うことになっている。

 現在、大阪府で出てくる古紙は殆どが新聞類である。もし、仮に大阪府で毎日使われる4dの原紙が同量排出され、それらを回収・分別することができれば、かなりの資源の有効活用が可能となる。4dの古紙を分別資源化するには、コンベアー2基と15人の分別作業者および梱包作業者(問屋への搬送準備)で、一日の作業量となる。紙の選別は、3段階をくぐらせることで可能である。コンベアーに乗せ手作業で分別していく。

 大阪市でも同様のことが考えられる。現在の役所(庁舎)のゴミは、80%が紙で、残りが缶やペットボトルである。

(役所が率先して取り組めば、民間の大事業者等の範になる)

 大阪府はISO14001の認証取得を行っているが、なおのこと徹底した分別回収の取組を強化すべきではないかと考える。役所の分別回収作業に野宿生活者のマンパワーを活用すれば、野宿生活者の就労機会が得られることになる。そして、そうした取組は、郵便局などの他の官庁や民間の大きな事業所(関西電力や大阪ガスetc.)の範になると思われる。

 また、大阪府や大阪市がモデル的に実証することで、各市町村への取組に広がっていく可能性もある。現在、松原市では一日60dくらいのゴミが出るが、市の清掃工場は半分の処理能力しかなく、残りは民間委託処理している状況である。また、分別収集した資源ゴミは夏場で20dくらいあり、入札で処理業者に処理委託している。

 東京の秋葉原では、ビルの中の上下で廃棄物の分別回収場所を確保し、分別して回収業者に出しているところもあり、ゴミ排出の量次第では別場所にわざわざ分別回収場所を作らなくて済むわけである。ただ、役所や民間にしろ既存業者があり、それら業者の仕事を取ることになる。

●リサイクルに関わる動向等

 パチンコ台のリサイクルについては、当社も3年前までは取り組んでいたが、運送業者6社の中で大手4社が組合をつくり、自分たちでモーターや基盤、液晶などの有用部品を取り出し、その後新日鐵に持ち込んでいる(新日鐵は高炉で粉砕・焼却利用)。

 運送業者は、新しいパチンコ台を群馬や名古屋で積み込み、パチンコ台の入れ替えで古い台を引き取り搬送しているが、指定場所(新日鐵)までの過程で有用部品を取り出しているわけで、この流れは既に出来上がっており、新たな参入は難しいのではないか。

 携帯電話のリサイクルについては、バッテリー部分の再利用や金や銀の回収などがなされているのではないかと思われるが、回収ルートを含めNTT(ドコモ)に確認してみる必要がある。 

 また、知り合いの業者の中に、携帯電話から副業的に金を回収している人がいる。液晶画面のパソコンやテレビが普及してきており、これからは液晶の回収処理が必要になると考えられる。


■D社…清掃業

●業界動向と雇用者

(清掃業務はパフォーマンス)

 当社は、鉄道会社の100%子会社で、オフィスや商業施設等の清掃業務を行っている。また、車輌清掃も行っているが、夜間作業が多く、特殊な技能・知識を有するため、鉄道会社OB職員を中心にローテーションを組んで対応している。

 最近の清掃業務は、若い人が増える傾向にある。それは、顧客(クライアント)がそうした要望を出して、清掃が一つのパフォーマンス、「見せる清掃」に変わってきているためである。

 清掃業務といっても、当社は接客業務と考えており、パートやアルバイトに対しても社員と同等の教育を行っている。とくに、大阪駅では地方から出てくる人も多いため、清掃以外で案内や地図を尋ねられるケースも多く、それらにきちっとした対応ができなければ、クレームの原因になったりする。

 現在、当社では、社員・パート・アルバイトで2,500人くらいの人が働いている。パート・アルバイトが1,500人くらいで、その年齢構成は、半数以上が45歳以上である。4時間の時間契約というのもあるが、夜間だけ、日勤だけというのはほとんどない。基本的には、朝勤務に就いて、翌朝まで24時間の勤務であり、1ヶ月に12日くらい働くパターンが一般的であるが、各部署により異なる。

 清掃業界も厳しい競争にさらされており、親会社−子会社の関係に甘えることなく、やり方を工夫し、効率化を図っていくことが求められる。従来の古いイメージの“清掃”ではなく、オーナー自身が“若い人”をイメージしており、それに対応した清掃を考えていかなければならない。

 ●野宿生活者の雇用と業務内容

 野宿生活者を雇用することについては、身元がはっきりしていないだけに心配で、不安である。お金や金券を扱うケースもあり、更衣室も共同である。野宿生活者には、構内のゴミ箱のジュースをまき散らしたりして、迷惑を受けているケースもある。駅の清掃業務には130人くらいが従事するが、基地駅から各駅の清掃にクルーを組んで1〜3時間おきに巡回している。夜間の大がかりな清掃といえば、ワックスがけであるが、これは機械のオペレータなどがあり専門のスタッフがあたる。また、車輌関係の仕事も安全・保安面の問題があり、鉄道会社のOB職員(定年は60歳)が中心となって対応している。一般には、日勤帯・夜勤帯において単一の仕事だけをするということはなく、いろいろな仕事を複合してやる。

 ゴミの回収は、清掃員が各駅のストックヤードに回収したゴミをストックし、処理業者に委託処理している。ゴミの分別は特に指示しておらず、若いチームの中には、分別しているところもある。大阪駅のストックヤードは規模も大きく、業者委託しているのは各駅と同様である。定期券やチケットは回収して、名刺等に再生利用を図ったりしている。

 求人方法は、ハローワークを通じ募集・採用している。体力があること、接客対応がうまくやれること等が大事である。仕事がきついのか、辞めていく人も多いが、中には若い人で3〜4年勤続の人もいる。チームを組んでの共同作業となるので、協調することも大事である。


■E社…新聞販売業

●新聞販売店の現状と従業者

 当連合会は、大阪市・大阪府下のE新聞販売店の連合組織で、共同の求人広告を出し、面接を行ったりしているが、雇用の最終判断は個別の販売店が行っている。現在、E新聞販売店は大阪市内に150店、府下270店あるが、それぞれが販売エリアをもち、所長(会社組織から個人事業レベルまで)がいて、独立採算で経営している。1店当たりの販売部数は1,500〜2,500部程度である。

 販売店は、所長の他、専業・パート・アルバイトで構成され、専業は配達・集金・拡販(営業)を行い、パート・アルバイトは、配達専門だったり、集金や拡販だけなどさまざまである。かつては、「新聞少年」といわれ15〜16歳少年が多かったりしたが、最近は夕刊だけ配達する女性、不況の関係で朝の配達をするサラリーマンが増えるなど様変わりしている。

 地域差もあるが、バイクで250〜260部を2時間半くらいで配達するのが普通である。自転車であれば、チラシでかなりの重量になり、1度に50部くらいが限度で、部数をこなそうと思えば取りに帰らなければならなくなる。朝は、チラシ折込みに1時間、250〜260部の配達に2時間、夕刊の配達に2時間、が標準的であろう。

 大学生や専門学校生・予備校生に対する奨学金制度もあり、住込みで給与が177,000円、家賃は所長持ちで、朝夕の食費は28,000円が給与より天引きされる。現在、奨学生は約450人であるが、他社とも似たようなものである。

 専業従事者は基本的に配達・集金・拡販のすべての業務をこなし、21〜23万円/月に歩合が加算される。責任の度合いで店長や区域責任者への昇格もある。朝早く、交通機関がないため、住込みが一般的である。

  ●野宿生活者の雇用

 野宿生活者の雇用については、現金を扱う関係で身元保証がしっかりしていることが必要であり、身元保証のない人は難しい。これまでも集金したお金を何十万円と持ち逃げされるというような事故が起きている。それと、決まった時間内に配達しなければならず、時間に厳格、規則正しい生活態度が求められる。そうしたことが野宿生活者にできるかも問題になる。

 配達だけのパートとか、時給計算の場合もあるが、概ね、朝刊の配達で280〜300円/部・月、夕刊で200円/部・月、100部の配達に1時間かかるとして、朝刊で3万円/月、夕刊で2万円/月となる。新聞配達の場合は、1ヶ月サイクルの雇用となる。

 新聞配達の場合、天候が悪いとつらい仕事だし、休みが月に1回、何よりも時間に拘束される。時間については“マッタ”が効かず、顧客のクレームの原因になる。

 従業員は、概ね男性で若い人から中高年(45歳くらい)までを募集の対象と考えている。集金は女性のパートの人が多いが、50件/日、200件くらい(約100万円)を担当するケースが多い。   

 手当は集金額の一定比率である。読者管理は1週間〜10日間くらいで覚える。新聞配達員にとって、時間、金銭、服装(身ぎれいであること)が重要である。

 バブルの頃は、新聞配達員のなり手がなく、その理由は、月に一度しか休みがなく、時間に拘束される(毎日が中途半端)ためと思われる。新聞配達員に外国人はいないか、いても少ない。それは、文字とか会話の障害があるためであろう。野宿生活者の雇用については、何らかの助成があったとしても、本人に仕事の性質が合わないのではないかと思われる。


■I社…警備業

●業界の現状と動向

(公安委員会の監督を受ける)

 大阪府下には約1,260社の警備会社があり、546社が警備業協会に加盟している。会社の規模は、セコムのような業界大手から従業員10人規模の会社まで、さまざまである。7〜8割は中小警備会社であり、4万1千人の警備員のうち2〜3割はパートである。

 警備業は、法により@施設警備(工事現場やイベントの警備を行う)、A交通警備、B運搬警備(現金輸送・美術品輸送等)、C身辺警備(SP等)に区分され、これらの中で交通警備の要員が25,00026,000人で最も多い。例えば、阪神高速道路工事に伴う警備要員には、50人規模が必要になり、期間要員でもあり臨時に雇用して対応することになる。しかし、警備要員には研修が義務づけられており、過去に警備経験があったとしても、従事前の再教育が必要であり、それは雇用主の責任となる。

 警備業法では、公安委員会が監督することになっており、立ち入り調査も随時行われ、資格要件が調べられ、違反等があれば場合によっては営業停止もあり得るため、業者も神経質になる。 

●求人および野宿生活者の雇用等

(ハローワークや求人誌による募集)

 求人募集は、ハローワークや求人誌を通じて行われるが、先般行われた協会会員会社による面接には、200余人が集まった。こうした合同面接会は、ハローワークと連携して年4回開催され、シルバー人材センターでも警備員になりたい人に対して、プログラムを組んで研修を行っているが、日当なし、交通費は自己負担である。

 求人に対する応募の状況等をハローワークの担当者から聞いたところでは、高齢者が多く、若い人は辞めていく人が多いとのことであった。警備会社にとっては、若い人に辞められたら困るし、高齢者では体力や健康に不安がある。継続雇用の場合も、小遣い稼ぎ的な考えではないかと思われ、現場が変わると厭がって辞める人がいる。

(野宿生活者の雇用等)

 野宿生活者が警備業に就くには、住所・身元がはっきりしていること、健康診断で問題がないこと等が必要であり、(野宿生活者の状況を)普通に考えると難しいように思われる。

 交通・工事現場の警備は、トイレや休憩場所など安全衛生管理上の環境整備が義務づけられるが、十分ではなく、仕事がきついことと、賃金も最低賃金レベルで仕事の割に安い。その背景には、不況で警備費が低く抑えられているという状況があるとみられる。

 警備員についての新任警備研修および現任警備員教育は義務づけられたもので、違反すると処分の対象となる。社員のみならず、パート・アルバイトでも同様である。また、A社からB社に移っても、新たに研究・教育を受けなければならない。

 御堂筋パレードなどイベント等の警備については、大量の警備要員が必要になる。こうした場合は、協会がイベント主催者と打ち合わせをし、会員企業に対して人数の割り当てを含む調整を行っている。

 警備員は全国で40万人いるといわれ、警察官が20万人であるから、警察の補助的な業務を行う警備員にも警察官に近い基本的な知識・素養(憲法や刑法等)が求められると同時に、基本動作の習得が必要である。

 警備員の資格としては、例えば交通誘導については、一定の実務経験を経て二級、一級の資格取得が可能であり、資格者は研修について免除されるが、基本教育は必要である。

 雇用開発協会が雇用助成金について説明会等を開くと、問い合わせがあったりして、法律がインセンティブになっていることは確かである。しかし、野宿生活者の雇用について法的な対応がとられて、雇用主の方に何らかのインセンティブがあったとしても、「野宿生活者」ということが気になり、雇用は難しいのではないか。

 夜間警備についてどのような対応をしているか、個別の会社で異なる。また、施設警備は24時間対応で、朝勤務に就き翌朝まで勤務し、そして休暇といったローテーションが一般的である。