第1章 野宿生活者の現状と対応状況  

1-1.野宿生活者を取り巻く経済社会環境

  長引く景気の低迷により、大都市を中心に野宿生活者が急増し、野宿生活者自身の生活面はもとより、道路・公園等の公共施設の利用面からも深刻な社会問題となっている。野宿生活者の問題は、当人の考え方の問題など個人的な要因のみに還元して解決される問題ではないとの考え方もあり、これまでの調査(「野宿生活者(ホームレス)に関する総合的調査研究報告書」(2001年1月)など)や後述する欧米などの取り組みにもみられるように、社会・経済的要因が構造的背景をなしつつ、都市社会や地域の近隣関係、あるいは親族などの社会的なつながりの希薄化、病気やけが、家族との離死別、失業などの個人的な関係が複雑に絡み合っている。

 野宿生活者は、親族関係の相互扶助ネットワークを持たない人が多く含まれ、生活基盤が脆弱な傾向にある。また、飯場などと結びついた日雇労働や建設現場を転々とする仕事を経験した人が多いため、社会的なむすびつきの形成が十分でなく、失業や疾病などの要因で住居を失い、貧困と野宿という生活形態に直結する傾向があるといわれる。

 失業や疾病が大きな要因になっているということは、見方を変えれば誰もがホームレスの状態におちいる可能性があるということである。一人世帯の増加により、家族の本来持っていた相互扶助機能や生活を支える機能の脆弱化、都市部を中心にして助け合いと地域の絆といったものの喪失、企業の終身雇用制度の崩壊や中高年を中心とした企業のリストラの進行、若い世代でのフリーターの増加などこれまで企業によって形作られてきた体制が変化しつつあるなど、家族、地域、企業が補ってきた環境が脆弱になり始めている。

 そのため、ホームレスの増加や社会的・経済的に孤立をする人(中でも大都市での孤独死など)、中高年で失業した人の生活保護率は上昇しているが、必ずしも生活保護が十分に機能していないなど、社会福祉制度がこれらの問題に十分に対応できていない状況にある。

 「社会的な援護を要する人々に対する社会福祉のあり方に関する検討会」(厚生省社会・援護局:平成1212月)では、従来の社会福祉の主たる対象を「貧困」としてきたが、現在では貧困に加え、「心身の障害・不安」(社会的ストレス問題、アルコール依存症等)、「社会的排除や摩擦」(路上死、中国残留孤児、外国人の排除や摩擦等)、「社会的孤立や孤独」(孤独死、自殺、家庭内虐待・暴力等)、といった問題が重複・複合化して生まれ、「見えない」形をとり、問題の把握を一層困難にしていると指摘している(図1-1参照)。

 社会福祉は、その国に住む人々の社会連帯によって支えられるものであるが、現在は「連帯」つまり「つながり」の再構築が最も必要な環境にあるといえる。

 イギリスやフランスでは、社会的に疎外・排除されている人々に対し、「ソーシャル・イン・クルージョン」という理念が出され、社会の仲間に入ることによって、自立や社会への参加を求めることが重視されている。イギリスのブレア政権は、ホームレス問題を社会統合から捉えることからホームレス対策をはじめ、スローガンは誰もがが排除されない「一つの社会」である。フランスでは、社会的に排除されている外国人または失業者を中心にした低所得保障制度やホームレスを含む貧困者への包括的な対応を図るための「社会的排除に抗する法」が制定されている。

 本年1月、大阪市が発表した「野宿生活者(ホームレス)に関する総合的調査研究報告書」によれば、市民の野宿生活者に対するイメージは、「不健康」(67.6%)や「汚い」(67.5%)、「怠け者」(51.0%)、「無気力」(41.3%)となっている。また、野宿生活に至る要因としての市民の意識は、「不景気で仕事がないから」(75.8%)である一方、「働くのが厭だから」(58.6%)「本人が望んだから」(40.9%)となっており、およそ半数の市民は野宿生活の原因について、「やむ得ない状況」と見なしつつも、もう一方で、「本人の責任である」と考えている。

 このように、野宿生活者問題に対する意識については必ずしもコンセンサスが形成されているとは言い難い状況であるが、前述したように「ホームレス問題」も日本社会の多様な社会問題が集約されたものとして捉え、その問題解決を図っていく必要があるとの視点が重要である。


1-2.大阪府内における野宿生活者の実態

(1)野宿生活者数の推移

 路上等で暮らす野宿生活者が近年、著しく増加している。全国では平成1112月の厚生省(現厚生労働省)の発表によれば、20,451人となっており、その数は大阪市、東京都、川崎市、横浜市、名古屋市など主として大都市を中心に増加しているが、大都市近郊や地方都市でも広がりをみせている。

1-1.各都市別のホームレスの概数(単位:人)

都  市 

ホームレス概数

ホームレス概数

大   市

8,660

(平成10年8月)

東   都

5,800

(平成11年8月)

1,019

(平成115~6)

 崎  市

901

(平成11年7月)

横   市

794

(平成11年8月)

5 都 市 計

17,174

の 他 の 市

3,277

うち堺市

83

(平成11年10月)

豊中市

76

(平成11年9月)

摂津市

35

(平成11年7月)

東大阪市

33

(平成11年7月)

合   計

20,451

 大阪市では、1998年夏には大阪市内で8,660人(1998年大阪市立大学都市環境問題研究会)の野宿生活者が確認され、現在では1万人を超えているといわれている。

1-2.大阪市各区別野宿生活者

人 数

人 数

西成区

1,910

西淀川区

64

浪速区

1,585

旭区

53

中央区

1,117

生野区

41

天王寺区

1,084

平野区

31

北区

1,079

港区

30

阿倍野区

421

住吉区

30

東住吉区

358

東成区

30

住之江区

174

鶴見区

27

西区

157

此花区

26

淀川区

143

城東区

26

都島区

134

福島区

26

東淀川区

95

大正区

19

(出処:大阪市における概数と概況−概数・概況調査/大阪市立大学都市環境問題研究会:1998年)

 また、平成1210月に行われた国勢調査によると、大阪府内の住所不定者の数は18市合計で7,051人となっている。この結果からは大阪市内の数字はともかく、堺市や豊中市、東大阪市など各市で平成1110月に厚生省が発表した数値を上回る住所不定者が存在し、大阪市を除く府内各市で野宿生活者が増加している状況が見られる。

1-3.平成12年国勢調査における「住所不定者」の調査結果

ブロック別

市  名

対象者数

ブロック別

市  名

対象者数

大阪市

大 阪 市

*6,413

中部(123)

八 尾 市

77

北摂(190)

豊 中 市

118

43

高 槻 市

摂 津 市

29

茨 木 市

38

河北(90)

守 口 市

39

吹 田 市

枚 方 市

20

泉州(235)

堺   市

188

大 東 市

15

30

13

高 石 市

17

門 真 市

 

合計

18市

7,051

大阪府内における野宿生活者の特徴の一つとして、前述したようにの野宿生活者の生活場所が大阪市内から周辺市町へ広がりつつあることである。また、大阪の野宿生活者は、釜ヶ崎の日雇労働経験者が多いと言われてきたが、「1999年度野宿生活者(ホームレス)聞き取り調査」において約6割の人が釜ヶ崎の日雇労働を経験しており、釜ケ崎で就労できない状態が続くことが野宿生活に直結して面があることを実証した形となっている。

しかし一方では、釜ケ崎を経験しない野宿生活者という新たなタイプが出現している。釜ヶ崎の日雇労働経験者は、釜ケ崎の簡易宿所と短期の野宿生活とを頻繁に繰り返すタイプから徐々にその関係が切れて野宿生活が長期化していくタイプがみられる。どちらも釜ケ崎で従事している日雇労働者は就労の不安定性や生活基盤の脆弱性を抱え込んでおり、生活構造に野宿生活が不可避な生活形態として組み込まれている。これに対し、釜ケ崎を経験しない野宿生活者のタイプは、釜ヶ崎から地理的に離れた場所で起居している野宿生活者にその占める割合が高いとされている。また、釜ケ崎が有する生活資源や生活情報などのつながりもなく、中小建設業の飯場から飯場を渡り歩き野宿生活に入った人が多く、建設業の従事経験者という意味では釜ヶ崎経験者と共通するところがある。


1-3.諸外国におけるホームレス問題への対応状況

 

(1)諸外国におけるホームレスの定義
 日本では野宿生活者に対する明確な定義がないが、平成11年5月に国の関係省庁と関係都市で構成される「ホームレス問題連絡会議」がまとめた「ホームレス問題に対する当面の対応策について」において、「いわゆる『ホームレス』の厳密な定義は困難であるが、ここでは失業、家庭崩壊、社会からの逃避等様々な要因により、特定の住居を持たずに、道路、公園、河川敷、駅舎等で野宿生活を送っている人々を、その状態に着目して『ホームレス』と呼ぶこととする」としている。
 また、韓国でもほぼ日本と同様な考え方がなされている。しかしながら、欧米では単に「家がない」という状態の人だけでなく、より大きな概念で「ホームレス」が捉えられている。
 EU諸国でホームレスは「個人的な家のない者」とされ、そこには施設居住者等も含まれている。具体的には、「社会扶助施設・緊急施設・支援団体に宿泊する者」、「家族、友人宅に寄宿する失業者」、母子施設などの「若年母子世帯」、施設居住の「40歳以上の単身者」、「車中生活の家族」、そして、日本で「野宿生活者」とされる路上生活者などである。このうち路上生活者は、EU諸国では救援網の整備もあってそれほど多くないとされている。
 アメリカでは、@夜間に定まった住居がない者、A一時的宿所(シェルター、福祉ホテルなど)に泊まっている者、とされている。


(2)諸外国におけるホームレスへの対応状況
@韓 国
 1997年のIMF管理体制以降失職者が増加し、さらに失職者が野宿者に転落する事態が発生するにつけ、大都市の広場や地下の歩道に野宿者が急増しはじめ社会的な関心が高まるとともに、「失職野宿者」という言葉が登場するにいたった。こうしたことから翌98年に失職野宿者対策宗教・社会団体協議会という民間団体が登場し、失職野宿者を支援し、保護しながら彼らの権益を擁護する運動が展開された。

 野宿者の問題が集中的に現れたソウル市では、市長の諮問機関として民間の宗教、学界、専門家、野宿者の代表等で構成する野宿者対策協議会が発足する一方、行政機構で野宿者対策班が編成された。このような体制から、市の野宿者対策は、野宿者への接触及び維持相談→集中相談及び分類(自由の家で一時保護)→希望の家(6ヶ月程度の期限つき保護)→自活能力がみえる場合、自活の家(保証金支援)→自立へ、といったように、野宿者の自立への移行を段階的に推進していく構想である。

 中央政府は、大都市野宿者に炊き出しや宿所等の便宜の提供、帰郷斡旋等の相談事業を開いていた宗教・市民団体にそのための必要な費用と物資を支援する、あるいは公共勤労事業(=失業対策事業)での対策で対応していた。さらに2000年には生活保護制度を抜本的に改革するとともに、ホームレスの増加を防ぐ抜本的な対策として「国民基礎生活保障法」が制定された。

 この法律は韓国の生活保護制度を根本的に改革し、年齢に関係なく所得の有無を基準に生計費を支援する趣旨で提案され、ヨーロッパなどで一般化された失業扶助制度や住居費補助制度を導入している。従来の生活保護法は、労働能力のない18歳以下65歳以上の者に対しのみ生活費を支給するという生活保護制度が適用されていた。従って、長期失職状態の青壮年者を保護できないため、結果として家族が解体し、青壮年がホームレスに転落するケースがしばしば見られた。国民基礎生活保障法は、従来の生活保護制度を抜本的に改革すると共に、ホームレスの増加を防ぐ根本的対策として社会安全網を強化することからも提案されたといえる。

 Aフランス
 フランス(総人口6,000万人)では約15万人がホームレスだといわれており、年齢層は相対的に若年層が高く、高齢者層も20%、母子家庭や女性となっている。その要因は長期失業や家族関係の希薄化(複合家族や家庭内暴力)、薬物中毒などである。ただ、こうした人々は何らかの施設に入居しているケースが圧倒的である。

 ホームレスに対する対応は、「社会的排除に抗する法」の施行(1998年7月)により、これまでの個々別々の対応から行政として総合的な取り組みを開始している。「社会的排除に抗する法」の対象は必ずしもホームレスのみでなく、貧困層、社会的に排除された人々を対象としており、定められた諸権利を確実に実行するための法である。雇用、住宅、医療、市民権、債務対策、生活手段(社会給付など所得保障)、教育、文化・スポーツ・余暇、社会的緊急策(宿泊施設など)の広範囲にわたる諸施策、そして「貧困・社会的排除施策国家監督局」の設置や各省間専門委員会の設置をその内容としている。

 社会施策の戦略は、「家なし」を「市民社会を崩壊させる経済の犠牲者」であり、失業者・極貧者・社会から排除された人々、とみて、彼らの市民権を復権させ再び社会に参入させることである。「家なし」の多くは、男性の単身者で20歳から30歳代前半の青年失業者であり、40歳以上の者は少数である。また、問題状況も青年と中年以降の世代では異なる。

 こうした人々の受け入れは次のような施設でおこなっているとともに、段階的な施設整備やサービスが実施され、一般的権利の借家人へと移行させていくことが意図されている。

1-4.住宅から排除された人の居場所の概要

 

 

 

 

 

 

 

 

居住

タイプ

病院の緊急ベット、緊急施設

社会参入宿泊施設

仮住宅・社会的レジデンス

社会住宅

責 任

94年から県責任

53年〜国家社会扶助

94年〜県責任

アソシエーションが借り受け

準借家人

運 営

運営はアソシエーション

運営の9割がアソシエーションで残りは福祉事務所

運営はアソシエーション

すべりこみ契約

宿泊期間等

1週間程度の宿泊

職員配置基準なし

原則6ヶ月間入所

3万人強入所

同伴活動

1万5千人居住

住宅手当と同伴活動の受給

住宅手当と同伴活動

   ※同伴活動はケースワーカーなどが自立などの相談等にのる活動

一方、緊急受け入れ宿泊施設としては、a)「家なし」のための緑の電話115番、b)社会福祉緊急援助サービス(SAMU)、c)日中の受け入れセンター、d)夜の受け入れセンター、e)ホテルでの宿泊、などがあり参入宿泊施設などや一時的住居では社会的ホテルや 宿泊及び社会参入センターCHRS等がある。

Bアメリカ

スチュワート・マッキーニー法(1987年)により連邦政府が法的根拠とホームレスの定義をしめしている。マッキーニ法ではホームレスに対するプログラムを策定し、それに補助金を出す仕組みになっており、社会とホームレスの相互責任の原則を強く打ち出している。

ニューヨークでは1994年にホームレス支援計画を策定し、具体的な改革の内容、目標、実施計画をつくり、施策を展開している。施策の内容は、1)路上や公共の場所にいるホームレスに対する相談支援(アウトリーチ)、2)アセスメントシェルターでは家族10日以内、単身者は90日以内に行うアセスメント、3)特別な援助を必要とするホームレスに対するサービスの強化、4)雇用と職業訓練を関連させた経済的自立への援助、5)援助を受けると同時に責任を果たすという相互責任の原則、6)恒久的な支援ができるよう、また家族計画にはアウトリーチ、サービスプログラムの策定、住宅取得の援助等が盛り込まれている。

 こうした各種施策においては民間団体や非営利団体の果たす役割が大きく、アメリカでのホームレス問題対応の特徴となっている。

 アメリカのホームレス問題対応として、特徴的な非営利団体の活動を「コモングランド」 について概観する。

(「コモングランド」の概要)

・ホームレスをなくという目標に向かって、安い住宅と共に、職業訓練、サポート体制等、個人が安定した生活をおくれるように包括的なサービスを提供しており、1990年に設立された非営利団体である。

・長期間運営がうまくなされていなかったザ・タイムズスクエアを商業的なシングルルームホテルから低所得者、要介護必要者、元ホームレス単身者のための補助的な住居環境に変えるために創立した。その後、オーロラというウエスト57丁目にある低所得者用アパート(178戸)の運営、プリンスジョージという東28丁目の低所得者、元ホームレスの人々のためのアパート(416戸)の運営も行っている。

・また、関連団体コモングランド ジョブ トレーニング コーポレーションは、ニューヨーク市内のサポート住宅居住人のために職業訓練、職業紹介、就業サポート、持続的な職業支援を行っている。その上、ベン&ジェリーズ パートナーショップ2軒、トップ オブ ザ タイムズというタイムズスクエア15階に位置するイベントスペースを所有、運営している。

Cイギリス

 イギリスでは戦争による住宅不足のために生じた「ルーフ・レス(屋根がない)」状の人々に対し、国民扶助法と地方政府による臨時的な居所を中心とする緊急対応を行ってきた。77年の住宅法は、ホームレス問題を住宅問題として位置づけ、ホームレス対策の法的根拠を最初に確立した法律である。その後法改正を行い、その中でホームレスと認定された人々がパーマネントな住居を確保する権利、これへの援助を行う地方政府の義務を明らかにするとともに、ホームレスの定義、優先順位等を法でこまかく規定している。ただ、ホームレス問題が解決に向かわなかったのは次の理由による。

 住宅法による住宅援助は、一つには「ただのホームレス」に対するサービスの限界があった。つまり、@妊娠している人、A扶養する子どもいる人、B老人・障害者などのいわゆる弱者、B洪水・災害その他の災害で緊急にホームレスになった人々、に対して優先権があり、「ただのホームレス」に対してはアドバイスと情報提供だけという限界があった。 

 二つには、ホームレスに援助できる住宅が不足していたこと、三つには住宅の確保以外に保健サービス、福祉サービス、就労援助などが必要とされるようになったこと、である。ここでの「ただのホームレス」に該当するの人々は、稼働年齢期のシングルの男女(特に男性)であり、野宿することも少なくない。

 90年代に入って特別策などが実施されている。野宿者イニシャティブという優先プログラムを策定し、異なった3つの省庁にまたがる5つの特別プログラムを内容として、年額2,400万ポンドの予算を組むなど行っている。

 97年、ブレア政権は「Social  Exclusion  Unit」という政府直轄の委員会を発足させ、「ホームレス」に代表されるような排除され、周縁部に追いやられた人々を社会の中心部に引き戻す、いわば「ホームレス問題」を社会統合から捉え、ホームレス対策を進め始めている。スローガンは、誰もが排除されない「一つの社会」である。具体的には野宿者を限りなくゼロにすることを最終数値目標に、当面2002年までに2/3の野宿者を解消することを具体的な課題としている。

 そのため、関係省庁、部署、非営利団体間の実効性ある「連合」を組むことや様々なプログラムや資金の流れを統括し、検査する責任部局の創設、雇用政策、情報提供、保健医療政策等の実施、企業や個人をボランティアとして野宿者の解消に向けた取り組みに巻き込むことなどが新しい対策として強調されている。

(地域ごとの取り組み)

○若いホームレスの就業援助を有効にするため「ホワイエ(英語ではフォイヤー)」の導入

 YMCAのホステルにコンピュータ、電話、求人掲示板、文房具などを備えつけ、集中的な指導ができる就業訓練と雇用相談の専門家を配置した部屋を用意。しかも、利用者がふらっと立ち寄って利用するというような便宜が図られている。96年時点でこの部屋を活動させているのは45カ所ある。

○the`Hub`(ブリストル市)(95年から実施)

 複数の非営利団体と、州の保健局、社会保障給付機関、雇用サービス機関、職業教育機関およびブリストル市の住宅部とソーシャルサービス部が加わった複合型のプロジェクト。これらサービスが一つの建物の中に集められ(百貨店のように一店舗で何でもそろうように)利用者が一カ所で必要なすべてのサービスや相談を受けられるように工夫されている。主に地方政府がアドバイスだけで帰すシングルの「ホームレス」や子どものいない「ホームレス」をターゲットにしている。

(その他の例)

○社会福祉部の行うコミュニティケアのプログラムに「ホームレス」対策を組み込み、住宅部の職員がここに派遣されている。これらを支えているのは次のような活動がある。

・最前線でセンサーのような働きをしている非営利団体の24時間電話相談(全英国レベルでのホステル等の空室情報付き)

・路上を巡回するアウトリーチ活動

・ディセンターなど

Dドイツ

ドイツでは1970年代後半から失業問題が深刻化し、長期化している。90年代初頭の東西ドイツ統一ブームで一時改善の兆しがみられたが、旧東ドイツ産業の崩壊が進むにつれ労働市場は急速に悪化し、1999年の失業率は全国で10.3%、旧東ドイツでは17.6%の高さになっており、失業者は400万人を超えている。

このため、失業は一部の人の問題でなくなり、しかも一度失敗に陥るとそこに長期間とどまらざるを得なくなり、若年者の中には、労働市場に最初から入れないという状況も生じている。

失業者の再就職を支援するため、金銭給付ではなく、次のような就労そのものを創出し失業者に提供するという積極政策が実施されている。

○雇用創出措置(ABM)

 失業保険を財源とし、失業保険、失業扶助受給者に就労を提供する。

○就労扶助(HZA)

社会扶助法にもとづく要扶助状態にある失業者を対象とする。社会扶助実施主体である自治体は義務として就労扶助を実施しなければならない。現在、20万人近くが就労扶助に従事している。

  就労扶助の形態は次のようになっている。

○労働協約型

一般労働市場での就職が可能な人を対象とする。労働協約通りの賃金が保障される。社会保険加入義務がある。就労先は非営利民間団体が中心であり一般企業の営利活動と競合しないという条件のもと、環境・社会サービス分野などでの仕事に最長2年間の期限付きで就労する。

○プレミア型就労扶助

就労に多様な困難を抱えた人を対象とする。公法上の就労関係であり、社会保険加入義務はない。公園や道路の清掃作業など、短期間の単純作業に従事する。

また、野宿生活者に対し、アーヘン市では次のような対応を図っている。

○困窮者用住宅への入居を指示された人達について、そのことによる肉体的、精神的、経済的、社会的能力低下等深刻に受け止め、ソーシャルワーカーと専門行政担当者が配置された相談機関を設置し、住居を失うおそれのある者を事前に察知し、予防的に介入することにより、困窮者用住宅への入居指示をできるだけ避けるための方法あるいは野宿となるのを予防するための方法を取り始めた。

 a)相談機関は関係局と協力して、それぞれの立場からの援助が行われる。

 b)社会扶助の可能性についての啓発

 c)集合住宅企業等は家賃滞納などの事情が生じて1ヶ月以上たてば通報しなければならない。

 d)簡易裁判所は立ち退きを求める訴状を、相談機関を通じてそれが不可避かどうか再審査する。

 e)民間社会福祉連盟や青少年局、保険局もホームレス状態になるおそれのある人について相談機関へ申し入れることになっている。

 f)相談機関は、ホームレス状態になるおそれのある人の居室を確保するため、福祉事務所と借家人、家主の間を仲介する。福祉事務所は、社会扶助法15条aを大幅に活用して、住居を失うおそれのある者に対して、手当あるいは貸付として金銭給付を行っている。

 g)相談機関は、失業が家賃滞納の原因となっている場合には労働事務所ともたえず接触を保たなければならない。

○困窮者用住宅へ入居指示が避けられない場合、秩序庁と福祉事務所は協力して、当該家族の@家族規模に応じた適当な部屋数の確保、A子ども達の学校や幼稚園、保育所への通学可能な範囲、B職場−遠い通勤や経済的負担をできるだけ避ける、といったことが配慮されている。