1.調査研究の目的
バブル経済崩壊後の長引く景気低迷の中で、大都市を中心に道路・公園、河川敷等で野宿生活者が急増し、野宿生活者自身の生活面はもとより、道路・公園等の公共施設の利用面からも深刻な社会問題となっている。
そのため、平成11年2月には国の関係省庁(内閣官房内政審議室、厚生省、労働省、警察庁、建設省、自治省)と関係市(東京都、横浜市、川崎市、名古屋市、大阪市、新宿区)で対応策を協議する「ホームレス問題連絡会議」が設置され、同年5月に、野宿生活者の就労による自立を支援する自立支援事業を中心とする「ホームレス問題に対する当面の対応策について」(以下「当面の対応策」という。)がまとめられ、この「当面の対応策」に沿った対策が展開されつつある。また、厚生省社会援護局は学識者等からなる「ホームレスの自立支援方策に関する研究会」を設置し、平成12年3月には「自立支援事業の効果的な進め方について」をまとめ、平成12年度から実施される自立支援事業を効果的に進めていくための方向を示している。
平成11年5月に「当面の対応策」で発表された野宿生活者の概数は全国で16,247人とされていたが、同年12月の厚生省の発表では20,451人に増加し、大都市での野宿生活者の問題は一層深刻化する方向にある。大阪府内でも大阪市都心部の公園や雨・露のかからない場所でのテント生活者や路上生活者が増大し、その数は大阪市だけでも8,660人(平成10年8月時点データ)で、現在では1万人を超える野宿生活者があるともいわれ、こうした野宿生活者の就労・自立による社会復帰が緊急の課題となっている。
すでに、労働組合やNPO、民間支援団体等による取り組みも行われ、平成12年秋には大阪市による「自立支援センター」が開設されるなど、野宿生活者に対する生活支援、就労・自立に向けた取り組みが行われつつある。
しかし、野宿生活者が野宿から脱出、社会復帰を図っていくためには、野宿生活者の安定的な就労による自立支援の方策が求められている。
このため、大阪府では、特定非営利活動法人釜ヶ崎支援機構に調査研究を委託することとし、野宿生活者が就労による自立に至るためには、本人が野宿生活者になるに至った要因を把握するとともに、安定した就職を阻害している要因を除去することが重要であるとの考えから、野宿生活者が就労による自立をするにあたって、何が阻害要因となっているのか、また、何を望んでいるのか、さらには、そのために何をなすべきかを具体的に調査・研究を行った。
また、大阪市において設置する「自立支援センター」入所者の就労による自立を支援するための試行策として「常用雇用促進事業」を実施したが、その成果を踏まえ、野宿生活者を常用雇用に円滑に結びつけるための具体的な条件は何かを、その成果・評価、改善の方向等についても検討を行った。
さらに、野宿生活者(=ホームレス)の問題は、アメリカやフランス、韓国など諸外国においても共通する問題であり、諸外国における先進事例等についても調査・研究し、今後の方策検討の参考とした。
なお、ホームレスの厳格な定義は困難であるが、「当面の対応策」において、「失業、家庭崩壊、社会からの逃避様々な要因により、特定の住居を持たずに、道路、公園、河川敷、駅舎等で野宿生活を送っている人々を、その状態に着目して『ホームレス』と呼ぶ」こととしている。本調査においても同様の意味で「野宿生活者」=「ホームレス」として使っている。
第1章 野宿生活者の現状と対応状況
本章では、野宿生活者を取り巻く経済社会環境について触れるとともに、大阪府内における野宿生活者の実態の概要について述べている。また、諸外国の中で先進的な取り組みを行っている国について、その概要について触れている。
第2章 野宿生活者の就労ニーズと求人(雇用)側の対応意識
本章では大阪府内で野宿生活する人を一定数サンプル抽出し、就労ニーズを中心とした聞き取り調査を行い、その結果について述べている。また、就労の受け皿となる求人(雇用)側の野宿生活者を雇用するにあたっての対応意識について把握した結果について述べている。
第3章 野宿生活者の就労・自立支援に関わる取り組み状況
本章では、野宿生活者の就労・自立支援に関わる取り組みを行っている自立支援センターや大阪府が実施主体として関係者との連携で取り組んだ常用雇用促進事業の成果と評価について触れている。また、民間諸団体においての取り組み状況についても述べている。
第4章 野宿生活者の就労による自立に向けた問題点と課題
本章では、第2章の野宿生活者の就労ニーズと求人(雇用)側の対応意識、および第3章の野宿生活者の就労・自立支援に関わる取り組み状況を踏まえ、その問題点と課題について整理している。
第5章 先進事例から学ぶ経験と教訓
本章では、野宿生活者の就労による自立を図っていくために、就労・自立支援に関わる民間諸団体および諸外国における先進事例の経験と教訓について明らかにしている。
第6章 野宿生活者の就労による自立に向けた支援方策の検討
本章では、野宿生活者の就労による自立に向けた支援方策を検討するとともに、就労の開拓先としての企業等による雇用を期待することには限界があり、新たな就労創出事業の開拓可能性について検討するとともに、今後の取組課題について明らかにしている。
図 調査フロー