頃日或人が内務の要路に立つ人に向て目下同省の貧民に対する政策
如何を尋ねたるに「成る程貧民飢に泣くの報は日々新聞紙上に散見
すれば我々其辺の事に注意せざるにあらねど其実地を探聞するに細
民の葛の根又は草の葉を食ひ飢色を呈するものあるは相違なきも未
だ以て中央政府が直接に手を救助に下すべきの場合に迫りしとまで
は思はれず今は麦秋、各地とも食糧を取入れたるの時なり米穀収納
の期は五ヶ月の後にあり細民の飢に苦むは米穀収納の前にあらん然
るに唯だ飢餓の声あるを聞きたるのみにて未だ其程度をも調査せず
急遽に手を救助に下す如きは決して策の得たるものにあらずと信ず
今日は唯須らく慈善家の恵を喚び地方庁の注意を促すべきの時のみ」
云々と答へたる由
著者:大阪毎日新聞
表題:内務省の貧民救済意見
時期:18900616/明治23年6月16日
初出:大阪毎日新聞
種別:貧民論