又荷車に積で往来する者を盗むを(マクリアタリ)と云ひ夜中戸締
を破り忍入るを(ユキノゾキ)一名(ヤシヨウ)と号し土蔵を破る
を(ジンドウ)と称し夜中に往来人を威して金品を奪取るを(バツ
タリ)と云ひ男の異名を(ヒデ)と云ひ女の一名を(ポツ)と呼び
捕縛になりしを(コケタ)と云ひ獄に繋がるゝを(ムシニカマツタ)
と呼び人が居るを(ゼル)と云ひ人が居らぬを(ゼラン)と云ひ
「記者曰何だろスペルでも習ふて居る様な心持になつた」こはい事
を(ヤバイ)と云ひよろしい事を(ハリイ)と云ひ童子を(ガリ)
と云ひ「記者曰ガリ/\矇者とはこれが始なるか」童子殺しを(ガ
リ)と云ひ人を殺すを(バラス)と云ひ泥坊に行を(アテニユク)
と云ひ二人で盗を働らくを(リヤンキ)と云ひ坊主を(ユル)と云
ひ刀を(ドク)と云ひ逃走するを(ケリフ)と云ひ潜伏を(カマル)
と云ひ飯を(ヤキ)酒を(キス)衣類を(ビラ)金銭を(ヒン)諸
道具を(クウ)盗人同士の暗号を(ガミ)と云ひ間男をするを(サ
ンピンバラス)芸娼妓を(セイロク)お茶屋を(シフリ)寝る事を
(セブル)巡査を(バツサリ)士族を(サブ)と云ひ店先の物をチ
ヨロマカスを(ヲキザシ)と云ひ荷籠の物品を取を(タコ)と云ひ
財布を盗むを(ヂンチキル)と云ひ犬を(ゲンギウ)死んだ事を
(フリ)と云ふ其他多分あれども枚挙に遑あらず「ナンと新聞記者
は物識なものだらう」凡て悪徒の屯集する寄賃宿は両町に四十二軒
あり皆裏借家数軒を建設し一戸凡一坪半(但し畳は二帖敷丈にて一
帖の分は土間也)此家賃は一人に付き一日一銭六厘宛なり妻子眷族
あらば一人増毎に一日金八厘宛増賃を取立るものとす但し一日たり
とも家賃滞る時は即時に放逐せらる是此社会の一大法律なり
著者:大坂日報
表題:長町雑談昨日の続き
時期:18790628/明治12年6月28日
初出:大坂日報
種別:長町事情/隠語