寄書 貧民繁殖の害 大坂 気□生

    諸君試に大坂場末と称する名護町、福島、野田、九条等の町村を

   歴観せよ□児の多くは蓬頭裸体のして時に襤褸を纏ひ累々として群

   を為すもの其幾百千なるを知らざる可し是れ将た何に因て然るか生

   曾て聞ける事あり凡そ卑賎の労役社会に在りては食ては働き働きて

   は寝ね一年三百六十五日僅かに其身を安ずるの時なく愉快を買ふの

   暇なきにより聊か其情を慰めんがため齢漸く人事を解するに至れば

   忽ち野合濫婚を事とし朝に食ふ可き粟なきも夕に情を買ふの具あり

   此々皆斯の如き有様なるを以て未だ一片の襁褓なきに早く既に子を

   挙ぐ之を養育するの資なければ決して教ふることなく此輩稍や長ず

   るに及んで一家四隣の悪習汚俗に感染して益すその為す所を恣にし

   遂に底止する所を知らざらんとする宜なる哉瘠児の累々たる餓童の

   転々たる亦敢て異しむに足ざるなり是れ豈に国家の為め吊す可きの

   事ならずや斯の如き徒輩の益々増殖するは実に国家の蠢賊なり無用

   の長物なり今にして之れが駆逐の法を設けずんば獨り国家の元気を

   衰耗するのみならず遂に多大の患害を醸成するに至る可し彼の支那

   の貧弱なるは果して何に基くか職として彼が如きの徒輩が国中到る

   処に填充せるに由らずんばあらざるなり殷鑑遠からず苟も優勝劣敗

   の社会に立て事局に当る者深く茲に猛省せずして可ならんや偶ま感

   ずる所あり記して貴社に寄す幸に千金の余白を割愛せよ

   

   

   著者:大阪日報
   表題:寄書 貧民繁殖の害 大坂 気□生
   時期:18860916/明治19年9月16日
   初出:大阪日報
   種別:興行