大坂四区市郡連合町村会

    八月四日午後二時五十分開会、常席議員廿二名、議長先づ支出議

   案より議せんとて書記をして之を朗読せしむ十三番(安井氏)本議

   に先だち議長に告げて曰く便宜の為め逐条審議決定せんことを望む

   四番(扇谷氏)五番(佐野氏)十二番(貴田氏)共に之に賛成し遂

   に十三番の説に決す次で議長は会議費の審議に取掛るべき旨を告ぐ

   八番(山口氏)問て曰く抑も本案は大坂府下に取ては実に近代の一

   大問題にして其利害に関係を有するもの唯り四区一郡のみに限らん

   や然るに発案者は茲に東成郡を除きしは何故なるか十三番(安井氏)

   問ふ四区は之を一般に及ぼし西成郡は四十余箇町村に限りしは如何

   六番(北田氏)問本案は四区一郡人民の希望に出でしか将た四区一

   郡長の提出せしものか抑も又其筋よりの内命にてもありたるものか

   十四番(中野氏)問ふ本案は専ら悪疫撲滅の目的より起りしものゝ

   如き果して然らば本案に組込れたる立退町村の外には悪疫流行の地

   なしとするか理事者の見込は如何五番(佐野氏)問本案を発せし目

   的は如何ん又今回此立退を断行せば今後再び斯る計画を為すことな

   きか又府会若くは区部会へ附せずして町村会へ附したるは如何と其

   他尚ほ本案の全体に附き種々の質問続出せしが番外一番(立石西区

   長)同二番(山本南区書記)交互之が説明を為し東成を除きしは利

   害の及ぶ所四区一郡に限ると見込みに由る西成郡を四十余ヶ町村に

   限りたるは他町村は議員の選出にも差支へ且つ利害の関係も薄けれ

   ばなり今度立退地の外とても不潔の箇所はあれど本年度は先づ本案

   丈を立退かしめ尚ほ年々少し宛移転せしめん衛生上の他にも風俗矯

   正等の利益あり府会区部会にも附せざるは先づ本会より端緒を開き

   他をして奮起せしめんが為めなりと云ひ其他本案組織上のことの附

   ては事権限外に渉るを以て休憩中の懇談に譲る可しとの答弁あり次

   で会議費目のことに附ては別に異論もなく原案に可決し小休憩を命

   ず、四時卅分再び開会土木費の審議に取掛りしが三番(泉氏)問立

   退地中長屋建築規則に戻らざる家屋は如何するか跡地の建家は何人

   が取毀つか跡地の処分は如何するか番外一番答ふ立退を命ずる所に

   は規則通の建家なし又跡地は畑、公園地にするか但しは倉庫別荘等

   を新築せしむべきも長屋を建設するを許さず尤も跡地の家屋は家主

   に毀たしむ四番(扇谷氏)跡地へ長屋新設は禁ぜば殆ど廃地となり

   て地主を苦めん番外に曰く然る時は四区臨時区会を開て其地面を買

   ひ上ぐべし十八番(大西氏)問ふ人民立退を拒み或は移住後家賃を

   払はざる時及び難波村の人民一般村内へ貧民悪漢を移住せしむるこ

   とを拒まば如何番外答ふ可成説諭を加へて移らしめ且つ移ることを

   諾せしむべく萬止むを得ざる時は其筋へ請求して相当の処分を為す

   べし家賃の如きは別に取立の方法ありと其他種々の応答ありたれど

   も要するに以上の問答と大同小異なれば略す夫より十三番(安井氏)

   は我大坂市区の為めには早晩此挙なかる可らず今日悪疫流行の時に

   当て此断行を企てたるは頗る機会に適合せりとて直ちに原案を賛成

   し三番(泉氏)は本案は美挙は即ち美挙なれども或は東成郡を除き

   或は跡地買上費を省けるなど原案最も不完全なるのみならず我大坂

   には斯る小事の改良よりも尚ほ他に幾多の大改良を要すべきことも

   少なからざれば本案に対しては全廃を希望すと陳べ四番(扇谷氏)

   も三番を賛成し昨年来費途多く人民一般困弊の折柄斯る区々たる小

   事の為めに此の多大の費用を府民に負しむるは決して得策に非らず

   と言ひ五番(佐野氏)も亦三番を賛成し且つ此の如きは府会若くは

   区部会に附して知事其局に当らざれば到底好結果を見る能はざるべ

   しと論じ続々同意賛成あり遂に三番の説即ち本案を全廃することに

   決定せり夫より翌日は日曜日なれど引続き開会することとなし六時

   十五分閉会せり又一昨日は出席議員十七名にて午後三時十五分開会

   前日に引続き共有物取扱諸費の議事に際し四番(扇谷氏)の本費は

   既に昨日廃案に決せし土木費に属する者なれば断然廃棄して可なり

   との説に多数の賛成者を得て遂に廃案に可決す次で議長(宮崎東区

   長)は会議費に二次会を開く可しと告げ書記をして議案を朗読せし

   む二番武田氏は原案全額を修正して四十三円八十八錢に減ぜんとの

   説を述しより二三の動議ありたれども遂に二番の修正説に可決し暫

   時休憩す既にして午後五時開会収入予算議案の審議に当り八番(山

   口氏)の収入額は全く会議費に充つ可き分のみなれば之を四区一郡

   に等分して追て閉会の後実費を精算して徴収せんとの説に十名の賛

   成者ありて之に決し次で議長は明日は会議費の三次会を開く可しと

   告げ散会を命ず時に午後六時五分なりき

   

   [入力者注]

   著者:大阪日報
   表題:大坂四区市郡連合町村会
   時期:18860907/明治19年9月7日
   初出:大阪日報
   種別:長町取払/連合町村会