鍋釜ぬすびと

   昨日午前四4時頃天王寺分署詰の巡査有馬氏が南区瓦屋町五番丁を

   通行の際怪しき風体の者が大なる籠に物を入れて担ぎ行くを呼止め

   聞糾さんとするに抵抗ひたれば取押へて拘引し其品物を取調られる

   と釜と鍋とのみ数十個ありて這は同夜谷町辺其他九ヶ所に於て盗み

   取りたるものなりと自白したる由偖此者は南区日本橋筋五丁目の三

   木伊三郎(四十年)といふ者にて是迄窃盗犯にて再三処刑せられた

   るが其罪は例も釜と鍋を盗みたる事のみなりといふが想ふに渠等が

   鼻祖と仰ぐ五右衛門は釜にて煮られたる故に之を吊ふためにするも

   のか何にしても奇なる盗児にこそ

   

   著者:朝日新聞
   表題:鍋釜ぬすびと
   時期:18861017/明治19年10月17日
   初出:朝日新聞
   種別:犯罪