四区二郡連合会余聞

   彼不潔人家移転の議案は先に再度まで否決せしに依り今度は四区二

   郡の六役所より主任書記が日々東区役所に集会し念に念を入れて原

   案を編製したるものなれば前回の如く軽々に議了して忽ち一会の下

   に否決するやうの浅猿しき成跡を見ることあるまじと思ひの外今度

   も前回同様にて議員は其議案熟読するまでもなく之が説明をも要す

   るに及ずして又々脆くも一会の下に否決し竟に何の骨折甲斐もあら

   ざることゝなりしより当局者は大に力を落し何等の故を以て斯くは

   速了に議決して然かも一人の原案に賛成を表するものゝあらざりし

   か去るにても不審千万此様子にては再議に附すとも已に無益ならん

   か否折角此までに骨折りしものなれば縦令無益となるも今一応再議

   に附するの手配にかゝらんか否々夫よりは今度無造作に否決せし故

   こそあらめ之を先第一に詮議せんとか何とか種々の評議ありし処へ

   偶々来り伝ふるものあり曰く是は全く其開会の先だち(即十四日の

   事とか)府下日本橋筋三四五丁目人民総代と記したる封書を郵便に

   附し同会議員中重立し人々の中へ送りし者あり其書中に穏ならざる

   文意見えて各議員自づと注意する所ありしより急に否決の精神に変

   じ当日欠席或は遅刻せし人のありしも幾分か之に関するものにて否

   決の原因は全く彼封書にありとの事なれど議員諸氏にして固より斯

   る咄々怪事のあるべき筈なきは今殊更に申までもなく縦又封書を送

   りし事のあるにしても其果して日本橋筋の者より出しか将た何人か

   の悪戯に出しか未だ知るべからざれば此説の如き毫も信ずるに足ら

   ず去れば今度の否決は議員中に云々のあるにあらずして其気運の未

   だ到らざるも気運の到らざるに於て再議に付するも竟に無益ならん

   かとの事にて当局者一同頻に力を落し居るとの途説あれど何如にや

   又之に反して移転地売払を拒みし難波村の人民は今度の否決を満足

   に思ひ相当の惣代を選みて各議員中へ其労を慰するため礼に廻はら

   んとの計画ありといへり

   

   著者:朝日新聞
   表題:四区二郡連合會余聞
   時期:18861020/明治19年10月20日
   初出:朝日新聞
   種別:長町取払/連合町村会