南地千日前の観物小屋は人の知れる通り西成郡難波村と南区難波新
地の両地に跨りしものなるが右の興行小屋主{1}ち金沢利助吉田
多吉郎外数名は一昨日夫々郡区役所へ呼出され明年十二月限諸興行
物禁止の旨を達せられたりこの興行小屋は難波村に係る分(東側)
八棟難波新地に係る分(西側)六棟にて外に大弓店一楊弓店二都合十
七軒なり今度之を禁止するの理由は夫の長町の人家を取払ふて其跡
へ興行小屋を移すとの一点より出でたるものなるべけれども是等の
興行小屋はいづれも皆前年の火災後其筋より規定せし所の規則に準
拠して新築したるものなるに未だ一年を経過せざるうちに此命あり
しを以て小屋主は勿論地主に於ても頻りに苦情を鳴し斯んなことな
ら寧そ去年火災の時に早く知らせて貰ふたらよかつたに官の御都合
に拠ることゝはいえ此小屋を新築するに付ても種々様々の工面をな
し千辛万苦してヤツトこしらへあげたもの大壮に言へば吾々が絞出
したる膏血の花と称してもよろしいもの少しは此難渋の情態を察し
下されてもよさゝうなものアンマリ酷いなされかたなどいふてつぶ
やけるものゝみなりとは一応尤ものやうにも聞ゆるなり
著者:朝日新聞
表題:千日前の観物
時期:18870727/明治20年7月27日
初出:朝日新聞
種別:千日前/興行