前号にも記したる彼名護町の地主等は今回劇場諸興行物の許可なり
し府庁の指令に拠れば最初に計画したる目的を失ひたる有様にて元
来同地主等は市街各所に散在する諸興行物及び二三の劇場と新町堀
江の遊郭をも併せて爰に移す事になし地所を高価に売付け又は貸与
えて是までは貧民を相手にせしも以来は遊郭又は諸興行場を得意に
せんとの企てなりしに遊郭移転は許されず劇場二ヶ所諸興行場人寄
席等の新築を許可ありしまでなれば大いに失望し中には是れまでの
貧民長家を立退かしめ其の跡に右等は営業場を新築せんとする者な
く唯他より移転し来るを待ち不潔家屋取払ひの満期に至れば日延を
願出んなど言あへる者ある由又聞所に拠れば其指令は在来の家屋取
払は六ヶ月を一期とし十八ヶ月内に施行すべしとありて若し其期に
違へば長屋建築規則により居住を禁じ又は改造を命ぜられるべしと
いふ又前号に千日前にある諸興行物は同所に移転すべしと命ぜられ
たる如く見ゆれど千日前の分は来年十二月限り営業を禁止する旨其
筋より達せらるゝ筈にて然すれば千日前の分は自然名護町に移転す
る都合に至るべきものなり
著者:朝日新聞
表題:興行地免許の余聞
時期:18870726/明治20年7月26日
初出:朝日新聞
種別:興行地移転