万引・涙物語 恵まれぬ女

   一六日午後一時半大阪西成区東入船町村井古物商の店先で一人の婦

   人が衣類を売つてゐるのを平野署本田刑事が怪しみ取調べると愛媛

   県温泉郡三津浜町生れ砂山隣子(三二年)=仮名で、父は郷里で警

   部を務めてゐたが、一一才の時母に死なれてから家庭の冷たさにた

   へかね、一六才の春家出してその後東京、大阪で女中奉公をするう

   ち縁あつて中学柔道教師と結婚したが夫が病気にかかつて帰国して

   以来その治療費をかせぐべく職を求めたが職なく悪の誘惑に打負か

   され大丸をはじめ市内の各デパートで総額約九千円を万引してゐた

   ことを涙ながらに自白した。

   

   著者:大阪朝日新聞
   表題:万引・涙物語 恵まれぬ女
   時期:19360317/昭和11年3月17日
   初出:大阪朝日新聞
   種別:貧困/犯罪