寄書 予め連合会議員諸君に望む
三軒屋門多某
(大阪日報・明治十九年十月十三日)
大坂府知事建野郷三氏が近々大坂四区二郡の連合町村会議員を招集
して名護町其他汚穢の町村を難波村に移さんとの議を発案せられん
とするの□説は昨今頻りに流伝する所にして或は虚妄に非ざるが如
し蓋し前に四区一郡の同会に於て移転の議を否決したるは同会に東
成郡を除かれたる事該原案に不完全の廉ありし事及び府民の困弊其
負荷に堪ずとの三者に過ぎざる可し然るに今回府知事より発せられ
んとするの議案に於ては既に前に二者は全く消滅したるが如く只だ
余す所は府民困弊の一論拠あるのみ乍併是とても誠に薄弱の論拠に
して彼の二三十万口の多き府民が其一大障害物を除去するに僅々五
六万円の支出に堪ずとて之を拒むが如きは余最あるまじき次第なれ
ば此一事を以て直に該案を否決するは頗る難き事なるべく非除之を
否決するとも我賢明なる良二千石は必ず其平素の英断を以て内務大
臣の認許を得て之を決行せらるゝ事あるやも未だ知る可らず果して
然んには議員諸君は何の面目ありて我府民に対する事を得ん想に諸
君の忠実なる決して軽挙の議決を為す者にあらずと雖も若し原案施
行の場合に至れば必ず其に相当する理由の存するものありて然るな
らんと考ふれば議員諸君にして予め充分其理由を探究し得ざる以上
は府民に対して其責を免がるゝ能はざる可し故に今余の諸君に望む
所は若し諸君に於て議案を否決するが如きことあらば直ちに委員を
選定して宜しく先づ府民の厄介者たる一大障害物を駆除する他の方
法を案出して建野府知事に建議す可し府知事甚麼に果断なりと雖も
豈に與論を排斥して唯一に原案の執行を好む者ならんや必らず諸君
の議を採納して又之が処置を施さる可しと信ずるなり唯恐る大坂府
民の宿癖として一文を惜みて百金に換へ難き生命の貴重なるを顧み
ず理事者と世人に向つて徒らに笑を買ふが如き議決を為さんことを
諸君夫れ吝薔と節倹の区別を立て一府の経済を以て一家の会計と混
同すること勿れ敢て望む。
著者:三軒屋門多某
表題:寄書 予め連合会議員諸君に望む
時期:18860930/明治19年9月30日
初出:大阪日報
種別:寄書/長町取払/連合町村会