討 論
(コーディネーター)
 どうもありがとうございました。
 三人の方々に、それぞれの専門の視点で、ご意見をいただきました。バネリストのご意見をまとめると、日雇労働者の問題は、次の点にあるということになります。
 一つは、とりあえず年齢的にも体力的にも十分に働ける労働者の問題、要するに不況にともなって仕事が減っている状況に対して、どうしたらよいかという問題です。
 もう一つは、高齢労働者、とくに建設業界では不況のなか年齢制限が強まっていますが、55歳以上の労働者の仕事をどう考えるかという点でしょう。
 とくに前者の問題のなかには、日雇労働自体、不安定な働き方であるわけですが、それを今後も続けていってよいのか、建設業界の求人のあり方そのものへの問いかけもありました。また、そうした働き方が続いていくとして、なおその上で、どのように安定的に一定の雇用量を確保していったらよいのかという問題が示されました。ここには、アブレ手当の制度やその運用のあり方についても問われる必要があります。
 このアブレ手当の問題について、市谷さんどうお考えですか。


(市谷氏)
 私の考えは冒頭に申し上げたんですが、アブレ手当の話が具体的に出ましたんで、考え方としては、前2ヶ月間に26枚以上という、そういう基準の緩和をする、1枚でも見返りがあるようにしたらええやないかと、制度論としてはそんなことも考えられるんかなと思うんですけど、私も同意見やと言うてしもたら議論にならへんので、いわゆる制度をやってる立場からするとですね、なかなか難しいと思うんです。はっきり言ってね。というのは、日雇労働者のアブレ手当は雇用保険ですから、掛けてるのは事業主、雇用主さんと労働者、これが折半して掛けている。雇用保険そのものは、雇用主さんが、まだプラスαの掛け金を掛けている。そこへ最終国が一定の補助金を出して全体運営をしている。日雇保険についても、一般の常用労働者向けの雇用保険と同様に、大きな雇用保険全体の中でまわっている。こういう仕組みなんですね。そして、日雇労働会計をもし別にしたとしたら、大赤字なんですよ。もともと大変な赤字。あいりんだけで100億円毎年使ってるという、そういう世界です。
 で、26日ということですが、実は28日の時代が平成6年ぐらいまでですかね、確かあって、鍵田先生が連合大阪にいらした時に、26日に下がったんです。この26日に何で下がったかというと、いわゆる労働時間短縮で40時間制となった時に、一般労働者の方も週何時間か勤務時間が減るから、日雇労働も同じようにならって短縮する、こんなことで初めて動いたんで、日雇労働だけでまわすのは大変難しい。まあ、このへんは、雇用保険は労働保険で、60歳前後ぐらいから、社会福祉・社会保障の世界に徐々に変わっていくんじゃないかなと思いますけれど、全てがすべて雇用保険で何とか面倒見ていこういうのは、ちょっと無理があるんでないかなというふうに思っています。

(コディネーター)
 雇用保険の運用の方法とその限界について、ご報告いただきました。このアブレ手当について、片田さんはどうお考えですか。


(片田氏)
 確かにね、今、市谷さんが言われたように、日雇労働者が日雇労働者だけで失業保険をまわしていたら、とてもやっていかれないというのは当たり前なんですよ。大体、半分は失業しとけということで業界の就労システムがまわっているわけですからね。失業している日に、賃金の6割ぐらいを保障する、それを働いてる日の掛け金でやれ言われたら、月の半分は失業している労働者が対象の保険制度がまわらないというのは当たり前なんで、制度運用論からしたらそうなんです。
 しかし、不安定を一部の人に集約させていくという社会システムの中のことですから、やっぱり安定的に仕事をしている人の掛け金が、こちらにまわるようにということで、雇用保険全体の共通会計をしているわけですし、そうあるべきだと思います。そういう意味で、常用の人の理解があれば、そういう改善も可能なんじゃないかと考えています。労働組合ですから、組合員である常用の仲間たちにもお願いもし、要請もして、常用労働者の理解も得て、進めていきたい。失業を繰り返している。常用じゃないから、雇用主は、労働基準法で決められている6割の休業手当を払わなくてもいい。これを雇用保険で代替しているわけですから、常用労働者の方々の理解を得ながら、日雇システムについて、特に高齢の日雇労働者の失業給付の要件緩和について、実現していきたいと考えてます。


(コーディネーター)
 どうもありがとうございます。
 かなり専門的な議論になってきました。雇用保険だけで日雇労働者の失業問題に対応するのは非常に無理があるという点で、お二人の意見は共通していると思います。この現在の政策では無理があるという意味で、トータルな政策展開によって雇用を保障していく。また、フレキシブルに他の制度との調整をはかりながらそれを進める。その可能性はあるを思います。
 この問題について、もう一つ重要なのは、地方分権が今後進むことによって、今、大阪府労働部が管轄している建設日雇労働の監督業務が政府に移行していく可能性があるという点です。もし、そうなれば、どのような展望が開けるのか、この点について、市谷さんいかがでしょうか。


(市谷氏)
 冒頭で申し上げたように、今は知事が労働大臣から、お前がせえということで権限が渡されて、知事の名前で、安定所を指揮監督している。こういうのが、機関委任の仕組みです。機関というのは、国の機関に代ってやるという、知事なり市長なりが、そういう立場になっています。それから今、知事は国の機関と同じレベルで、国の労働大臣の指示を受けて安定所を運営してるんだけども、それができなくなって、安定所の運営は労働大臣の直轄になると、もちろん地方にそういう機関がつくられると思いますけど、そういう仕組みになってて、これは、今度の通常国会で成立されるやに聞いてますから、早ければ来年度ぐらいから、そういう仕組みに変わっていく。
 そうなると、今まで職業安定所は知事の指揮下にあるという前提で、現地の就労斡旋をどうしたらいいかということを、昭和40年代に考えてですね、西成労働福祉センターという財団でもって、ああいう紹介方式をしようと、当時の状況を見ながら、そういう判断をしたわけですけども、それは、知事が指揮監督しているという前提があったわけですけども、その前提がいわば壊れてしまうということをきっかけに、ちょっとそのへんの見直しが必要になっていて、それで一方で、先ほどありむらさんの報告もあったように、寄せ場機能が低下していると、これは大きな時代の流れとして、そういうふうに見ていかな仕方ないし、それを食止めてどうのこうのということには、私自身は、ならんのやないかなと思います。そのことを見ながら、そうすると、これからのあいりんにおける日雇労働の紹介、職業斡旋紹介をどないしていくんやということは、本当に真剣に考えていかんとあかん問題やと思います。具体的にどういう方向になるかというのは、全く手付かずで、問題意識はあるだけで、中身については全く分かってません。


(コーディネーター)
 どうもありがとうございました。
 地方行政のあり方は、現在地方分権の推進という中で大きく変化する可能性があります。他方、寄せ場機能の低下といった問題、西成労働福祉センターの役割の見直しという課題について、今後検討する必要があると思います。


(ありむら氏)
 その話は初めて聞きましたんで、全く考えてなかったんですが、ただ、まあそういうこととは別個に普段考えてるのはね、さっきも言いましたけれども、その2万人いっしょくたの状況ではなくて、階層ができてきてると。健康にしても、それから毎日気力が溢れて生きているか、それともそういったものを失っているかといったようなことですね。体力、年齢によって階層ができてる。だから当然、それに合わせて、そのターゲットを階層に合わせて、きめの細かい仕事、あるいは場合によっては、さっき福原先生もおっしゃいましたように、雑誌売りであるとか、雑業を含めてきめ細かいサービスをしていくというふうに変わらないと、かみ合ったものにならない。それをするにはどうすればいいか。そのための組織のあり方、そのへんから出発しなきゃいけないと思います。


(コーディネーター)
 連合大阪の『報告書』でも、日雇労働者の高齢化という事態に対応して、従来の建設日雇い仕事の紹介のほかに、軽作業を中心にしたもっと多様な仕事の紹介ができる職業紹介所、あるいは西成労働福祉センターの役割の見直しといった課題を提起しました。また、長期の野宿生活などによって十分な労働能力を持ち得なくなった労働者に対しては、健康回復を優先しつつ、回復後の職業・生活指導を行うこと、とくに「就労促進の福祉施策」として福祉工場、授産施設などを提起しました。ありむらさんが今述べられたように、それぞれの体力や年齢に合わせた自立支援の職業紹介や仕事確保が検討されなければなりません。
 現在労働省が進めているフロー型労働市場の拡大は、民間レベルでの職業紹介機能の強化を図ることによって達成しようというものですが、これは多様な仕事の紹介をはかるという点で、ありむらさんが述べられた議論と似ているようですが、競争原理のみで行うという点で、まったく異なります。現在の労働省のやり方が進められれば、高齢日雇労働者の雇用は現状以上に深刻な状況に陥るでしょう。


(フロアー)
 すいません。私は時々、南の方からずーっと歩いてね、難波まで来てるんですわ。びっくりしたのは、このごろ言われる通り、状態が変わってきてる。といいますのはね、本とか再生したやっとかを売っている。だから、新しい雇用ができとるんです。あの場でね。例えば、雑誌が300円がその日100円で売ってるとか、新聞が30円で売ってるとか、そういう新しいシステムづくり、頭の回転速度を変えんとあかんのですわ。今までやったら、建設業は一つの雇用やったわけですよね。それを、建設業はこれから大変になってくると思いますんで、新しい発想でリサイクルというんか、誰でもできるような新聞売りや、集めてきた安い服、リサイクルするとかのそういう場を設けるとか、そこで働けますわな。
 これからはリサイクルの時代ですからね、それに応じるような仕事も考えてみたい、思います。


(コーディネーター)
 もうひと方どうぞ。

(フロアー)
 西成労働福祉センターに勤めている、住田というんですけれども、一つ、あの建退共問題を違う視点で、重要な課題だと思いますんで、補足する発言をしたいと思います。今日の資料の67ページにあるように、建退共制度の矛盾は、読売新聞なんかがキャンペーンをはられてるんでご存知だと思うんです。ただこれは、先ほど3名のパネラーからも出ましたように、証紙の上からの動きが、非常に不明朗だということで、大問題になったんですね。問題は、僕らの目の前には、今ホームレスになっている人たちはいっぱいおるわけですけども、この人たちがほとんどこの証紙を貼ってもらえる手帳を交付されてないんですね。これが、一番決定的な問題だと思っています。
 私はあいりんで仕事をしていますが、基本的には3点セットといって、一つは日雇雇用保険、もう一つは日雇健康保険、もう一つは退職金の建退共と、これが3点セットと言われてるんですね。そのつもりで、われわれ労働福祉に関わって、20何年間ずーっとやってますけども残念ながら、この建退共だけはほとんど広がらない。それはどういうことなんかと言えば、前二者に関してはですね、個人でも請求できるわけです。作ってくれと言ったら作れるわけなんです。ただ建退共だけは、企業を通じてしか貼ってもらえない。ところが、われわれのあいりんで求人する企業、人夫出しいっぱいいるんですけども、そういう企業は重層下請で、3次4次5次ですからですね、基本的には建退共と共済契約を結んでないわけです。そうすると、どうしたってそこへ働きにいったって手帳はできない。そういう問題を抱えてですね、われわれとしては、一肌も二肌も脱ぎ、絶対にこれを作らなあかんということで取り組みました。

 で、共済組合に入る場合、一番必要なのはこの人が日雇の建設労働者なんですよということを認めるだけなんですね。その人が建設労働に関わっているかは、手帳を見て分かる、健康保険の手帳見ても分かるわけですね。それで、何とかなるんじゃないかなということで、直談判に労働省に行ったんですよ。すると、労働省はですね、あいりんの状況を分かるから、何とかしたいというのが今の状況なんですね。あいりんの中でそんなに簡単には手帳発行できない。だから、それならそれで現地の状況に合わしたかたちで、私たちは何とか一肌も二肌も脱ごうという状況です。これを、今ありむらさんは、さっき言いましたように、1%と言いましたけども、2万人の労働者の400人ぐらいしかまだ持ってないわけですよ。一般には、50%、60%の人が持ってるわけですから、これの25分の1、30分の1に近いわけですね。これは早急に持たせるようなことが、今必要ではないかなと思いました。以上です。


(コーディネーター)
 ありがとうございました。
 今、フロアーから2つの意見をいただきましたが、パネリストの方からこれについてご意見をうかがえないでしょうか。

(市谷氏〉
 あの、建退共制度の問題提起がありまして、雇用保険とか、健康保険とかと比較されてますけど、基本的にですね、雇用保険とか健康保険は事業主と労働者との保険料というものを折半なり、労働者も負担してやってる制度であると。これは、建退共の場合は事業主、雇用主さんの共済ですから、少しそのへんが、労働者の位置付けが、前二つの制度とは大きく違うんじゃないかなと思います。