はしがきーあいりん地区問題研究会報告書発刊に当たってー
                                                    連合大阪 事務局長 真場成人
<はじめに>
連合大阪の事務所から大川を隔てて、南天満の公園が目の下に見えます。その川縁に野宿生活者のブルーのテントが見えます。気がつくたびに増えており、今更のように野宿生活者が増えていることを実感します。また、先日の天神祭り(7月25日)に際して前日の昼までテントがあり、トラブルを心配しましたが午後見事に無くなり、翌日にはまた前通りに復活し、ほっとすると共に、いよいよ野宿生活者と共生する路を考えていかなければならない時代となっていることを実感します。
私たちの身近に(どこでも、いつでも)野宿生活者を見かけるようになりました。「ホームレス」「浮浪者」などの呼称が「野宿生活者」よりも頻繁に使われ、また理解の仕方も様々です。今回の研究会で、現在の大阪の野宿生活者の多くが釜ヶ崎(=あいりん地区(注1))で日雇労働者の経験のある労働者で、高齢化・失業・建設産業不況がリンクして野宿を余儀なくされていること、就労の機会と野宿がリンクしていることなどを学習しましたが、この報告書により釜ヶ崎の日雇労働者の置かれている実態とその仕事の実態について、まず理解を深めてほしいと思います。

この研究会は3名の研究者を中心に、実際に釜ヶ崎に関わる仕事をしている自治労、同地区に職場があり日常から現地との関わりのある1区地域協議会、浪西地区協議会、建設・土木産業でいわば元請けの立場の構成組織、現地に連合大阪の組織がないこともあって、全港湾建設支部西成分会の皆さんに参加をいただきました。各回の報告者は後述の通りで、様々な研究者と共に現場からも報告を頂き討論するというスタイルで、1年余りの研究を続けてきました。また、合宿をしながらの現地のフィールドワークを持ち、釜ヶ崎の現状への理解を深めてきました。あいりん労働公共職業安定所、市立更生相談所、西成労働福祉センター、大阪社会医療センター、大阪自彊館三徳寮の見学では日雇労働者に関わって仕事をする厳しさを見、あいりん総合センターなどでは、改めて日雇労働がほとんどないこと、野宿をしながら炊き出しや古紙の回収に1日数百円(1998年2月当時、リヤカーに山のように積んで70kg程度、キロあたり5円で合計350円)で生活する労働者、西成公園で冷蔵庫などから銅線を回収してテント生活する労働者の実像にふれました。
1年余り、およそ2ヶ月に1度、土曜日の午後のほとんどを費やして討議を重ねて報告書をまとめることができました。研究会に参加頂いた3名の研究者をはじめ、関係者の皆さんに感謝します。


<経過について>
1993年秋の連合大阪第5回定期大会において、バブルが崩壊して深刻な失業問題に見舞われている釜ヶ崎の問題について取り組む必要があるとの提起がなされた。同年末に、大阪府・大阪市に対して、緊急の雇用対策、越年・越冬対策やアブレ手当の改善、労働・福祉・医療・住宅などの総合的な施策の確立と、東京都・神奈川県・横浜市などとの協議をして国策としての抜本的・総合的対策推進のための特別立法を国に働きかけること、などの要求を行った。
1994年3月から7月にかけて、当時の柴田会長、鍵田事務局長等が現地の視察を行い、緊急の課題になっている雇用問題、次に大きい課題は高齢化問題で、これが雇用・健康に深刻な影響を及ぼしている。ついては、連合本部による関係地区会議の開催(東京の山谷、横浜の寿地区)の申し入れや、アブレ手当の速やかな改善を連合本部とともに関係機関・政党に申し入れる、などの活動を行った(アブレ手当の改善は、同年7月1日に施行された)。しかし、連合や他府県の格段の動きもなく、活動は中断した。
1996年6月に「あいりん地区問題プロジェクト」を発足させ(参加者は、研究者を除く研究会メンバー)、日雇労働、高齢化、野宿などについて、各人の持ち場からの報告を受け交流した。しかし、高齢化や失業をはじめ、多面的な側面を持つ釜ヶ崎の実態の把握や分析、考え方の整理には、研究者の協力が欠かせないという結論に達し、以下のような目的で「あいりん地区問題研究会」を開催するに至ったものである。


<研究会の目的と活動>
【あいりん地区問題研究会の開催目的】
当初、あいりん地区問題について、とくに高齢者問題に先ず焦点を当てながら連合大阪としてするべきこと、できることの整理を目的として出発したが、その後の野宿生活者の増加という現状を踏まえて、この点も含めて検討を行うことを目的とした。具体的には、次の3つの検討を行うこととした。

(1) あいりん地区の実態について、また広く大阪市内の日雇労働者・野宿生活者の問題について共通の認識をもてるよう努力する。
(2) 連合大阪としての取り組みについて、連合大阪・構成組織・地域地区組織に対し、提起する内容を整理する。
(3) 連合への提起や、行政に対する要請や、現実的な施策・提言をとりまとめる。

なお、研究会メンバーとこれまでの研究会の課題・報告者の一覧は以下の通りである。
【研究会メンバー】
<研究者>
福原宏幸 (大阪市立大学経済学部助教授) *座長
島 和博 (大阪市立大学文学部助教授)
中山 徹 (大阪府立大学社会福祉学部助教授)
<自治労>
田上雅章・増田和生 (府本部)
杉上富美夫・堤 刊行・永田和子(大阪市職本部)
石子雅章・藤本初雄・岡田昭三 (大阪市従本部)
高橋英伸・宗 義弘 (社会医療センター労組)
稲葉貞夫 (大阪市職民生局支部)
中島啓治 (大阪市職民生局支部・更生相談所)
林 真樹 (大阪市従公園支部)
橋本芳章 (自治労府職本部)
上田雄二 (自治労府職労働支部)
<電力総連>
土師俊幸
<建設連合>
吉田克己・前田和雄
<金属機械>
要 宏輝
<全港湾建設支部西成分会>
泊 寛二・片田幹雄
<連合大阪>
徳永秀昭 (1区地域協議会)
山中庸右・白石俊朗 (浪西地区協議会)
真場成人 (事務局長) 森安弘之 (組織局) 田中滋晃 (総務局)

【研究会】 
第1回(1997年6月25日)
福原宏幸・中山 徹 「釜ヶ崎における日雇労働者と野宿生活者」
市谷峰男(大阪府労働部特別対策室室長)
「あいりん地区における高齢労働者の就労状況について」
第2回(1997年8月2日)
椎名 恒(北海道大学教育学部助教授)
「建設産業の労働市場の変化と労働者の高齢化」
前田和雄 「ゼネコンの立場から見た建設産業の現況」
第3回(1997年10月4日)
島 和博「野宿生活者と市民(周辺住民)」
林 真樹 「公園職場から野宿生活者の問題を考える」
高橋昭二二(西成区役所) 「野宿生活者と周辺住民の関係」
第4回(1997年12月13日)
都留民子(広島女子大学助教授) 「フランスのホームレス問題と社会施設」
中島啓治 「市立更生相談所の活動」
宗 義弘 「釜ヶ崎における医療」
現地フィールドワーク(1998年1月27日ー28日)
27日19時  西成ユニオンズハウス集合 研究会・交流会
28日4時起床 あいりん労働公共職業安定所、西成労働福祉センター、更生相談所、自彊館三徳寮、大阪社会医療センター、三角公園等 見学意見交換
同日12時 現地解散
第5回(1998年2月14日)
本田哲郎(ふるさとの家) 「ボランティア活動の報告」
徳永秀昭 「区役所としてなにができるか」
第6回(1998年4月11日)
宮永 耕(横浜・寿生活館相談員)
「横浜・寿町における社会福祉援助の現状と課題」
稲葉貞夫 「自治労大都市共闘・労働者の街連絡会の活動」
第7回(1998年5月16日)
福原宏幸 「研究会のまとめについて」
第8回(1998年6月13日)
福原宏幸 「報告書作成に向けて(1)」
片田幹雄「労働者のライフステージにおける高齢化と日雇労働のハンディキャップー労働福祉・保険制度を中心にー」
第9回(1998年8月1日)
福原宏幸「報告書作成に向けて(2)」
第10回(1998年8月17日)
澤井 勝(奈良女子大学教授)「市町村職業紹介事業の可能性」
第11回(1998年9月2日)
福原宏幸「野宿生活者の実態調査(98年8月)結果の概況と課題」
第12回(1998年9月12日)
報告書草稿検討会(第1回)
第13回(1998年9月19日)
報告書草稿検討会(第2回)
第14回(1998年9月24日)
報告書草稿検討会(第3回)
第15回(1998年10月13日)
報告書草稿検討会(第4回)
第16回(1998年10月20日)
報告書草稿検討会(第5回)
第17回(1998年11月7日)
報告書最終検討会
報告並びに検討に当たって、多くの方のご協力を得た。紙面を借りて、あらためて心からお礼申し上げるものである。