大阪市における野宿者概数・概況調査
大阪市立大学
(注:電子化した資料は、大阪市民生局総務部庶務課から提供を受けたもので、多分、11月2日に市政記者クラブで配布されたものと同じものと思われる。但し、地図は別。)
1.調査の概要
(1)本調査 <夜間調査>
<夜間調査>1998年8月20日(木)夜から8月24日(月)朝までの4晩
動員数:20日/138人、21日/148人、22日/122人、23日/61人
動員部局:大学(大阪市立大学、大阪府立大学、神戸女子大学、京都府立大学の教員・院生・学生)、
連合大阪(市職労、市徒労、大交)
生活保護施設連盟、部落解放同盟西成支部、全港湾西成分会、ボランティア <昼間調査>
<昼間調査>1998年8月25日(火)朝から8月28日(金)夕方までの4昼
動員数:25日/68人、26日/72人、27日/72人、28日/77人
動員部局:大学(大阪市立大学、大阪府立大学、神戸女子大学、高野山大学、京都府立大学の教員・院生・学生)
(2)事前の予備調査および聞取調査
<工営所、区役所、公園事務所などからの提供資料>
<6月5日西区昼間事前予備調査>
<6月12日都島区昼間事前予備調査>
<6月16日天王寺区昼間事前予備調査>
<6月30日主要商店街聞取調査1>
<7月4日北区昼間事前予備調査>
<7月11日主要商店街聞取調査2>
<7月25日浪速区夜間事前予備調査>
<7月26日市内周辺区夜間事前予備調査>
<8月1日天王寺区夜間事前予備調査>
<7月31日〜8月8日までの市内全交番聞取調査>
(3)調査方法
本調査は目視調査のみで行なった。主調査は野宿者数が最も正確に調査できる夜間に行なうことにした。そして夜間において調査不可能な地区や事例に関しては、昼間調査で補うことにした。
(4)調査対象
夜間は、目視可能な「就寝者」および「移動者」とした。「就寝者」については、就寝している人が確認できることを原則とした。ここでは就寝形態を、「ダンボール囲い」、「ダンボールや新聞紙などの敷物」、「ベッドなど」、「ペンチの上」、「何も無し」、「その他」に類型化した。もちろんダンボール囲いで覆われて就寝者が確認できない場合もあったが、これも「就寝者」として計上した。所持品なども調査したが、調査結果には示していない。
昼間は、目視できる「仮設住居」を調査対象とし、「移動者」や「仮設住居」以外での就寝者はその対象としなかった。カウントはしているが、調査結果には計上していない。ここでは「仮設住居」を、「テント」、「小屋がけ」、「ダンボールハウス」、「廃車」、「その他の形態」に類型化した。
ただし「仮設住居」、特に「テント」、「小屋掛け」については、明らかに2人以上いる場合も確認されたが、すべて1事例として計上した。 ただし、夜間で「仮設住居」が調査可能な場合は、その数を計上し、昼間に再度当該個所の確認調査を行なった。ダブルカウンティングを避けるため、数値は昼間の値を採用している。また夜間の「移動者数」には、その住居が昼間の「仮設住居」でダブルカウントされている事例も含まれるが、これは除去不可能であった。したがって「就寝者」(夜間)十「移動者」(夜間)十「仮設住居」(昼間・一部夜間)=野宿者として 計上している。
その他、就寝・居住場所の特定も行なっている。その分類は道路、高架下、公園、河川敷、寺社などにわたっている。
(5)調査地域
夜間については、事前調査や聞込みから判断して、野宿者の居住密度が比較的高いと思われる地区には「悉皆調査」を(自転車、徒歩)、居住密度がかなり低いと思われる地区には「拠点調査」を行なった(自動車、自転車)。「悉皆調査」は、全街路、高架下、ターミナルなどのくまなく目視調査を行うものであり、「拠点調査」は大公園などの調査である。
昼間については、高架下、河川敷、公園、夜間調査や事前調査および事前の聞取りなどで所在が確認されている場所における「仮設住居」を目視調査した。すなわち全市域を線状、点状に調査をかけた。就寝跡数や移動者数も調査したが、野宿者数としては計上していない。したがって、面的に夜間就寝者「悉皆調査」、点的に夜間就寝者「拠点調査」、線的・点的に昼間「仮設住居調査」を行なった。
なお「悉皆調査」の対象地区は、北区、中央区、天王寺区、浪速区、西成区の全エリアと、西区(木津川以東)、住之江区(南港などの埋立地を除く)の大半、淀川区(十三・新大阪駅付近)、都島区(京橋駅付近)、福島区(北区・中央区との接続地区)、阿倍野区(阿部野橋駅周辺)の一部である。
従って、悉皆調査をかけていない地区では、大公園などを除いた未調査地区が存在する。こうした地区の野宿者は調査されていない。しかし聞取調査などからして未調査数は今回で得られた総数の1、2%くらいでないかと推測している。
(6)調査時間
夜間については、ターミナル、盛り場は午前1時から4時、その他の地区は午後11時から午前2時ごろにかけて行なった。地下街のあるところは原則地下街が夜間閉鎖されてから調査を行なった。昼間については午前11時から午後3時くらいにかけて行なった。
2.野宿者の地理的分布について
(1)ブロック別特徴
まず表1、2、3、4と図1を参照して欲しい。大阪市全域では8660事例が計上されたが、西成区で22.0%の1910、浪速区で18.3%の1585、中央区で12.9%で1117、天王寺区で12.5%の1084、北区で12.5%の1079というように、これら5区で、4分の3以上の78.2%を占めている。
南部の核心地区:
以前より野宿者の集中する南部の西成、浪速、天王寺区そして阿倍野区にまたがる、天王寺・新今宮駅周辺には、単純に区集計データをあげただけでも、ちょうど5000事例で57.7%と市内の野宿者の集中する地区であることには変わりないが、事前の野宿者数が市内全域で5000を越えるかどうかと予想されていたが、これらの地区だけでその数が上がってしまうほどの集中状況である。
地域的にはやはり西縁の26号線以東、南縁の阿倍野墓地北側道路以北、北縁の南海難波駅南・日本橋3丁目以南、そして東縁は谷町線を越えて四天王寺、天王寺駅、阿倍野駅までのエリアを南部の核心地区として、3527事例となり、全市の4割の40.7%を占めている。
あいりん地域である萩之茶屋1〜3丁では、643事例、あいりん地域全体に広げると、1191事例となる。浪速区側では、国道26号線以東、日本橋3丁目以南の浪速区核心地区で1237事例を数える。天王寺区側の核心地区では、天王寺公園の430、四天王寺境内の260、それらを除く天王寺・阿倍野駅周辺で409事例が確認されている。
西成区:
この南部の核心地区を除くそれより南について(252事例を有する津守1丁目の西成公園を考えずに)、西成区の場合は、核心地区と近接したエリアではやはり多くの事例が確認されるが、西成区南部になると路地型市街地ということもあり、比較的野宿者は少なくなっている。
路地型と土地区画整理型の市街地の分かれ目である鶴見橋商店街の以北(北開、中開、南開、出城、長橋、鶴見橋)、以南(旭、梅南、松、橘)でその事例を比較してみると(26号線以西、阪神高速堺線以東)、以北が232事例で以南が19事例と、同じ西成区でも大きな分布の差が出ている。
26号線以東で核心地区より以南の天下茶屋・岸里では高架下もあって108事例がやはり計上されている。
住之江区:
西成区に接する住之江区については、住之江公園、住吉公園や高架下に多いものの、区画整理型の市街地にもかなり見られ、区全体で174事例もあがっている。西成区の津守の臨海地区を含めると、200事例を越える野宿者が確認される。工場などの生産施設付近にも野宿者の存在が見られる。南港については図では計上されていないが、聞取りでは数事例確認されている。
中央区::
中央区の1117という数字は、難波、千日前といった南で核心地区に接続する地域と、少し北に上がって御堂筋、心斎橋筋、そして島之内や船場のオフィス街、問屋街、商店街、そして北東の大阪城公園の数字が広範囲に計上されているが、南部の核心地区から中央部に野宿者の居住エリアが拡大していることが見て取れる。因みにミナミとして、JR難波駅から南海難波駅から千日前付近と、長堀通以南の御堂筋、心斎橋筋沿線で、380事例の4.4%を占めている。
北区:
北区は事前には500前後と予想されていたが、1079という数字は非常に大きい数字となっている。基本的には大川から中之島の河川敷、公園と梅田ターミナル近辺に大きく集中しているが、淀川河川敷も含めほぼ全町丁に見られる。結局、都島区の大川ぞいや京橋駅付近を含めて、北部にも千人強の集中が見られるようになった。
梅田ターミナル周辺のキタを茶屋町、新御堂筋、国道2号線、四ツ橋筋で囲ったJR大阪駅近辺では370事例があげられた。ほぼミナミと同数が、繁華なターミナル付近をねぐらとしていることになる。また中之島の島全体ではちょうど200事例となっている。
CBD地区:
旧船場、旧島之内、旧堀江のいわゆるCBD地区(中央業務地区)については、図1では町下面積が異なるため、少し分布状況がわかりづらくなっているが、ほぼ全町丁に見られることがわかる。その西部の一角をなす西区は、靭公園以外に集中している地区はないが、やはり万遍なく分布している。ここで東横堀、道頓堀、木津川、土佐堀川で画された中央区、西区のCBD地区で計上してみると、野宿者は462事例にものぼり(一部ミナミと重複)、夜間には多くの野宿者がCBD地区をねぐらとしていることが確認される。
上町方面(中央区、天王寺区):
CBD地区の東横堀を越えた上町台地方面であるが、中央区の該当地区で576事例、天王寺区の該当地区で187と、特に中央区方面で数多くの事例があがっており、CBD地区をあわせて旧城下町エリアでは、ほぼ全面的に野宿者のねぐらが拡散して展開しているといえよう。
東部諸区:
環状線以東の東部は、元来ほとんど野宿者の存在があまりなく、その意味で注目されていなかった区であった。北は旭区から、南は東住吉区、平野区までの8区では、長居公園の310を別格として、都島区の大川沿い河川敷、京橋駅付近と、あとは城北公園、鶴見緑地、大和川河川敷などが比較的集中している所である。都島区と長居公園を除く7区の総数は、253事例で、1区当たり平均36事例となっている。もともと報告事例が少なかった所で、公園を中心に東部にもあちこちに確認される状況となっている。
淀川以北:
淀川北部については、新大阪駅と十三駅周辺にも新たに集中する傾向が見られる。それに加えて淀川および神崎川河川敷にもかなりの分布が見られる。新大阪駅、南方付近で130事例が確認されている。
臨海諸区:
その前に福島区であるが、キタに隣接しているが、路地型市街地が多いせいか、26事例と少ない分布である。此花区、港区、大正区に関しては、3区あわせて75事例が計上されている。もともといないという報告をされていた所なので、75事例もあがったという見方もできよう。港湾部であり、川や運河をまたぐ橋梁が少なく、それを越えての移動が結構困難のこともあってか、野宿者の居住例は少なくなっている。
阿倍野・住吉区:
聖天山公園53とか長池13、桃ヶ池公園14にかなり集中して確認されるが、阿倍野区の北部やこうした公園を除くと東部諸区と同じくらいの分布度といえる。
公園、寺社について再掲するが、天王寺公園430、大阪城公園360、長居公園313、四天王寺境内260、西成公園254、中之島公園125、扇町公園96、生玉公園71などがあげられる(いずれも若干周辺部を含む)。
(2)居住形態別の分布
図2、3、4、5は、居住形態別の分布を図化したものである。「テント・小屋」系は実数的には核心地区でも多く計上されているが、市内中央部には大阪城公園や中之島公園、大川ぞいの河川敷の公園に多く見られる他は、やはり周辺部の河川敷に多く分布している。「敷物」系は核心地区に多い他に、やはり市内中央部、南西部に見られ、周辺部はほとんど存在していない。「囲いダンボール」系は、市内中央部に散発的に分布している様相が見て取れる。
(3)居住形態の特質
表2、4を参照してもらいたい。表2は左欄から、いわゆるねぐらの装備度が高い「テント・小屋」系から、ほぼ「何もなし」で寝ている状態までを4段階に便宜的に区分している。大阪市全体では、ほぼ半分が「敷物」系で、4分の1が「テント・小屋」系で、1割前後が「何もなし」「囲いダンボール系」であることがわかる。
ところが各区別にはかなり様相は異なる。表4は代表的な集中地区別にその内訳を見たものであるが、南部の核心地区では「敷物」系が4分の3近くになるということである。その分他のねぐら形態の率が半減している状況である。そもそも野宿者の密度が濃く、装備度の高いねぐらの物理的な余地が少なくなっていることを示している。ミナミやキタのターミナル付近も同じような傾向が出ている。
しかしCBD地区や、上町台地方面になると「敷物」系が4割前後になるかわりに、「囲いダンボール」系や「何もなし」が増え、かなり多様なねぐらが共存することになる。
物理的なねぐらの余地があることと、緊急避難的にそうした余地に入り込んでくる層が、こうしたねぐらの共生を生んでいる。
周辺区に行くと、たとえば東部の周辺7区では、「テント・小屋」系、「敷物」系、「何もなし」系が3割前後で拮抗してくる。野宿者の生活状況に応じたねぐらの選択が行われているようだ。淀川以北もほぼ同じ傾向にある。臨海3区(港、此花、大正区)では明確な特徴をつかむことはできない。
大公園については、各公園でかなり状況は異なる。西成公園や生玉公園のようにほぼ「テント・小屋」系のみのところから、天王寺公園や中之島公園のように「敷物」系が最大多数のところもある。公園の立地によっているが、大公園が必ずしも「テント・小屋」系だとはいえないことが確認される。
「大阪市における野宿者概数・概況調査」の集計表を見る際の注意点
集計表を見る場合には以下の諸点に注意すること。
@集計表は大きく分けると「野宿者の就寝形態」、「野宿者の居住形態」、「移動している野宿者」の3カラムからなっている。
A「野宿者の就寝形態」とは、夜間調査で調査した「非定着」野宿者を指している。
B「野宿者の居住形態」とは、主に昼間調査で調査した「定着」野宿者(一定期間当該場'所に居住していると予想される野宿者)を指している。
C「移動している野宿者」とは、夜間調査の過程で確認した、明らかに野宿者と判定できた人たちを指している(例えばリアカーや台車等をひいて資源回収に従事している人や、ダンボール等を持って就寝場所を探していると思われる人)。
D「野宿者の就寝形態」における「その他」とは、調査項目のカテゴリーでは拾いきれなかった変則的な就寝形態を指している(例えばリアカーに積んでいるダンボールの上に寝ている、あるいはリアカーの中に寝ている、台車にうずくまるようにして寝ている等である)。
E「野宿者の居住形態」における「その他」とは、そこに野宿者が住んでいると思われる「形跡」はみられるものの、野宿者本人を確認できなかった場合を指している(例えば、毛布や椅子・調理器具などの生活用具がある場合、傘を壁として自分の野宿スペースを確保している場合等)。
F「小計」とは「野宿者の就寝形態」「野宿者の居住形態」それぞれごとにまとめられている。
G「合計」とは「野宿者の就寝形態」「野宿者の居住形態」の合計である。
H「総合計」は「合計」に「移動している野宿者」を加えたものである。「合計」を細かくわけた理由は、定着性の高い野宿者とそうではない野宿者を区分・比較するためである。
I夜間調査で確認した「移動している野宿者」については、見落としやダプルカウントの可能性が高いため、「合計」には算入していない。移動者についてのダブルカウントについては、集計の過程でチェックして補正してあるので、この集計表では問題にならないが、調査時点におけるすべての移動者を確認できたわけではないので、この移動者の数は実際よりも過小であり、せいぜいその「ミニマム」と考えるべきであろう。