ホームレス問題連絡会議
 内閣官房内閣内政審議室長殿
 厚生省社会・援護局長殿
 労働省職業安定局長殿
 警察庁生活安全局長殿
 建設省大臣官房総務審議官殿
 自治省大臣官房総務審議官殿



釜ケ崎就労・生活保障制度実現をめざす連絡会
(略称・釜ヶ崎反失業連絡会)
共同代表 山田 実 ○
本田哲朗 ○
大阪市西成区萩之茶屋3-1-10ふるさとの家気付

野宿を余儀なくされている労働者の経済的自立援助に関する要望
1.要望の主旨
 本年5月26日に開催された「ホームレス問題連絡会議」において、「ホームレス問題に対する当面の対応策」がとりまとめられました。
 とりまとめられた「ホームレス問題に対する当面の対応策」の基本的な性格は、各自治体それぞれの事情に配慮し、大枠を決めたに留まり、具体的な「自立支援事業」の実施形態・方法については各自治体にゆだねられ、自立支援事業実施に関わる財政負担について、国が負担されることを明示されたものであると理解しております。
 これにより、野宿生活者対策が飛躍的に推進される事が期待されておるところでありますが、残念ながら大阪市におきましては、市内野宿生活者の規模の大きさから、ゆだねられた具体的な「自立支援事業」の実施形態・方法の立案・実施にとまどいを示しており、対策が進むにはほど遠い状態にあります。
 よって、下記要望事項の採用により、野宿生活者対策の飛躍的推進に努められたい。

2.要望事項

(1)緊急対策実施可能な条件を整えられたい。そのために、大阪市に対し、今年度野宿生活者対策費として100億円を早急に交付されたい。
 「当面の対応策」4の(1)の3項「緊急的な取り組み」に書かれている、「自立支援事業が本格的に実施されるまでの間、ホームレスの自立に向けた緊急的な事業を行う」ために必要な事業費について、大阪市の野宿生活者の規模を考慮し、特段の配慮で、100億円を早急に援助されたい。

(2)「当面の対応策」の、具体的且つ安定的な実施確保のために、当会の提唱する「野宿生活者支援法(案)」の成立をはかられたい。
 なお、「当面の対応策」4の(5)の第1項(退去指導)、第2項は、「法」の中には盛り込まれないこと。

(3)ホームレス問題連絡会議に大蔵省・通産省を加えられたい。
 対策事業費の財源確保と「リサイクル事業」を就労機会創出に活用するために、ホームレス問題連絡会議に大蔵省・通産省を加えられたい。

(4)実効性のある雇用対策を実施されたい。
 「当面の対応策」において、「ホームレスに至る大きな要因は失業である」とされている。近年の失業率や野宿生活者の平均年齢(50歳台後半)を考えれば、就労により自立するためには公的機関による就労現場の提供は、不可欠の要素であると考えられる。また、国、地方公共団体による「臨時応急の雇用」策を検討されたい。
 「雇用対策」の位置づけでの実施が困難であるならば、「職場適応訓練制度」や「自立支援事業の就労復帰訓練」などの位置づけで実施されたい。

(5)パイロット・プロジェクトの指定と推進
 自立支援事業は未体験の領域を多く含んでいるため、本格実施の準備と同時に特定地域、特定事業について先行着手して、経験の蓄積を図る必要がある。以下のパイロットプロジェクトを国の事業と認定し、実施を大阪市に委託されたい。

@公共施設など定着型野宿生活者自立支援プロジェクトー一つの公園を指定し、定着型野宿生活者の要望にそう対策のあり方を探り、実施し、有効性を確かめる事業
A就労システム構築プロジェクトー「労働市場原理」の中では、競争力がなく不利な立場にある野宿生活者が、「自立」するために必要な収入をえられる就労システムを実務的に模索するためのプロジェクト、
B対象の特定方法の実験的実施と聞き取りによる要望の類型化。それらを勘案した実現可能対応策確定プロジェクト


3.要望事項説明
(1)大阪市に対し、今年度野宿生活者対策費として100億円を早急に交付されたい。
 「自立支援事業が本格的に実施されるまでの間、ホームレスの自立に向けた緊急的な事業」は、以下のことが考えられる。
 なお、大阪簡易宿泊所組合から、大阪市に対し、野宿生活者の宿泊施設として簡易宿泊所を活用するよう要望があげられている。


@緊急一時的措置としての「ドヤ券」「食券」の発行に対する国の助成。
 野宿生活者対策の本格実現までには日数がかかると思われるので、過渡的対策として「ドヤ券」「食券」を発行し、野宿生活者の野宿状態からの「救済」がはかられるべきである。6ヶ月以内に他の本格的な対策に移行し、廃止することを前提とする。
・試算
 {ドヤ代1,300円+(食券500円×2食)}×30日×8,000人×6ヶ月=33億1200万円
 間接事業費見込み 5000万円。合計33億6200万円
A大阪市が実施している「あいりん」生活道路清掃事業等の日雇労働者雇用創出事業への国の助成。
 大阪市が実施している日雇労働者雇用創出事業は、就労希望者に対して求人数が過小であり、対策の体をなしていない。少なくとも1日三千人に拡大される必要がある。一日3千人の就労確保と日雇雇用保険を組み合わせれば、総数6千人規模の事業となる。
・試算
 一人当賃金6,200円×3,000人×26日×12ヶ月=58億320万円。
 間接事業費見込み 6億円。合計64億320万円。
・就労希望者全員が日雇い雇用保険手帳の発行を受けることを前提とし、給付金受給資格を得る1ヶ月平均13日就労を各人の就労日数上限とすれば、労働者の月間収入は以下のようになる。
 労働者の収入(月13日就労とし、日雇雇用保険3級の給付金を受給すると仮定)
 手取り賃金5,700円×13日+アブレ手当4,100円×11日=119,200円
 一人当賃金と手取り賃金の差額5百円は、雇用保険印紙保険料本人負担分等。
 これにより6,000人が生活保護(居宅保護)受給者と同等の最低限度の生活費が得られることとなる。なお、「ドヤ券」「食券」発行見込み人数と日雇労働者雇用創出事業対象見込み人数との差2千人は、就労に適さない層の見込み人数であり、生活ケアセンター事業や市更相を通じての施設入所あるいは入院または居宅保護の対象となるものである。
B前2項の必要見込み金額合計は、97億6520万円となる。残り2億3480万円は、パイロット・プロジェクト実施費用に充当されるものとする。


(2)野宿生活者支援法(案)の成立をはかられたい。

『1.目的
本法は、野宿状態にあるものに対して、職と居住の安定を保障し、憲法25条の理念を現実化しようとするものであり、野宿生活者が野宿状態から脱することにより社会生活全般の安定に寄与することを目的とする。
2.定義
(1)本法でいう「野宿生活者」とは、失業・障碍・高齢・離婚・その他の理由により、安定した収入と居住空間を維持することが困難となり、公園・道路・河川敷・駅舎などで生活を営まざるを得ない者をいう。
(2)本法でいう「支援」は、「野宿生活」の現状に対して行われるものであり、扶養親族の有無・過去の経歴・国籍等により制限されることなく行われるものである。
また、「支援」は、野宿生活者の人権と自己決定権を尊重した上で行う、食と居住空間の提供と安定した収入につながる職の提供を指すもので、野宿生活者の意志に反した現住地からの追い立て・強制施設収容を含むものと解されてはならない。
3.費用の負担
本法の目的を達成するために行われる事業の費用は、全額国庫負担とする。
4.事業の実施主体
事業の実施主体本法の目的を達成するための事業の実施主体は、左記に該当する地方自治体とする。
(1)野宿生活者が存在し、且つ、野宿生活者が行政窓口において保護申請をなしているにもかかわらず、現状法令を適用しての問題解決をなしえず、野宿生活者が存在し続けている地方自治体。
(2)野宿生活者支援団体が存在し、対策が要請されている地方自治体。
(3)その他野宿生活者支援事業の必要を認める地方自治体。
(4)事業の実施主体となる地方自治体は、事業計画の策定・実施のための機関として「野宿生活者支援センター」を設置しなければならない。
(5)事業計画は各自治体毎に策定するものであるが、次の各項目については必ず含めるものとする。
@野宿生活者からの相談があった当日から対応できる食と居住空間の提供事業
A野宿生活者が相談日から10日以内に就労可能な職業斡旋事業
B野宿生活者への医療相談事業
5.野宿生活者支援センターの構成
野宿生活者支援センターの構成は、当該地区の民生行政機関だけでなく、労働行政機関も参加するものとする。
また、野宿生活者支援団体が存在する地区においては、当該団体の参加を要請しなければならない。
野宿生活者支援センターは、事業計画と予算書を策定し、国へ提出することによって事業費の交付を受けるものとする。決算報告は母胎となる自治体へ行い、当該監査部門の監査を受けるものとする。
6.緊急対策
野宿生活者支援センターの発足と事業実施に至るまでの間、当該地方自治体は確認される野宿生活者に対応できる食と居住空間を確保し、提供することに努めなければならない。
また、本法目的達成を円滑成らしむるために、野宿生活者の人権について一般市民への啓発活動を行わなければならない。
7.市民互助活動の育成、社会的連帯意識向上のため、NPO法による法人格を取得している野宿生活者支援団体に対する法人の寄付は経費算入を認め、個人によるものは税額控除対象に算入するものとする。
8.所管それぞれに関わる部分で厚生・労働・自治・大蔵の各省庁が所管するものであるが、一体的実施を確保するために、総理府内に連絡調整機関を設け、実体的所管機関とする。
9.成立即日より施行する』

(3)ホームレス問題連絡会議に大蔵省・通産省を加えられたい。

 当会は大阪市に対し以下を要求している。
「各区に「リサイクルセンター」を設置し、釜ヶ崎労働者の就労場所とすること。各区に生ゴミ以外の一時集積所を設け、資源ごとの分別を徹底し、再利用を計ることは人類の義務に応える道である。釜ヶ崎労働者は分別作業を担うことで人類の未来に貢献する。とりあえず、各区百人として二千四百人人、交代要員を入れて三千人の就労が可能となる。経費は産業界に負担を求める大義名分もある。」
 資源の再生・再利用は人類の課題である。とりわけプラスチック類の徹底した分別と焼却からの排除は、再利用の可能や採算性の論議を越えて実施されるべき課題となっている。
 通産省・大蔵省もホームレス問題連絡会議に加え、たとえば、「プラスチック類製造・使用税」の新設とそれを財源とした「リサイクルセンター」の全国展開のようなことを検討されたい。勿論、野宿生活者への雇用創出の一環として。

(4)実効性のある雇用対策を実施されたい。

 国・府・市の公有地・公有施設の維持管理・清掃部門を分離発注方式により、自立支援事業で活用できる就労現場として確保されたい。

(5)パイロット・プロジェクトの指定と推進

@公共施設など定着型野宿生活者自立支援プロジェクト
 野宿生活が長期化した結果、公園などでのテント生活が定着し、一つの小社会を形成している現象が見られる。アルミ缶の回収や食料の入手ル−トの確保、あるいはそれなりの居住環境の整備などで生存維持すれすれの環境でありながら、精一杯生きている自負も感じられる。テント生活が恒常的な生活パターンとしてできあがっている人々への対策は、移動を常態とする野宿生活者にたいするものよりも工夫を要する者のように思われる。寝床・職の提供がどこまで有効性を持つか測りきれない側面がある。
 それゆえに、早急にモデル地区を選び、対策の有効性をはかるための先行実施により、「経験」を蓄積する必要がある。
 たとえば、全員に簡易宿泊所を利用した生活保障(寝場所と食の提供)を対策として提示して、応じるものを募る。その上で、健康診断、求職相談、生活相談を実施し、自立への道筋を探る。
 廃品回収などで生活を続けたい、今の生活形態を維持したいと希望するものについては、寮付き仕切り場を設置し、収入が生活保護水準に達しない部分について補助することによって、自立生活を営めるようにする。
 その過程で、公園でのグループの役割の確認と、それを維持したままでの公園からの移動が可能かどうか、あるいは、新しいグループ形成で代替できるか、なども検討されなければならない。
 一つの公園に先行的に取り組むことは、対策を広範囲に実施する前に、貴重な経験を蓄積するものとなり、無用な混乱を防止することに結びつくものであると考える。
A就労システム構築プロジェクトー
 野宿生活者が年齢的には高年齢者を中心とし、職歴もたぶんに肉体労働に偏っていると考えられることから、どのような職業にも就けるというものではなく、「能力開発」「職業訓練」を実施してもあまり大きな効果は期待できないものと思われる。個々人の「労働力」を「市場原理」で評価した場合、「労働市場」における競争力はきわめて低い。
 このようなことを考えた場合、「民間活力」に依存した雇用対策は有効性を持ち得ないと考えられる。就労については、「公的雇用の創出」に依存せざるをえない。
 また、就労システムは「相対方式」ではなく、西成労働福祉センターでの「登録輪番制」が有効なものと考えられるが、仕事内容によっては、「選別」によらざるをえないものもあると想定される。
 事業の実施には、人的配分をおこない、現場での就労を取り仕切ることのできるアクティブなメンバーの養成が必要である。就労現場を釜ヶ崎地域外に求めるためにも、自ら就労先を開拓するためにも、一定の固定した労働者の存在は必要である。
 「自立」の最大の前提である就労復帰のためのシステムが先行して模索される必要がある。


ホームレス問題連絡会議

労働省殿

釜ケ崎就労・生活保障制度実現をめざす連絡会

(略称・釜ヶ崎反失業連絡会)

共同代表 山田 実 ○

本田哲朗 ○

大阪市西成区萩之茶屋3-1-10ふるさとの家気付

『野宿を余儀なくされている労働者の

経済的自立援助に関する要望』提出に当たって

冠省 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。

 さて、当会は大阪、釜ヶ崎(あいりん地区)におきまして、日雇労働者や野宿を余儀なくされている労働者の社会的処遇改善をめざし、微力ながら日夜努力を積み重ねているものでありますが、近年、不況の深刻化と地区労働者の高齢化に伴い、野宿生活者は増加の一途をたどり、当会はおろか、大阪市、府も、対応に苦慮する事態となっております。

 去る5月26日、国と関係自治体による「ホームレス問題連絡会議」において「ホームレス問題に対する当面の対応策」がまとめられましたが、私ども拝読し、愚考いたしまするに、具体性を欠くものであり、未だ当面の対応策として十分足りえないものであるとの結論をえました。

 そこで、無知蒙昧浅学の身をも顧みず、ここに具体的且つ緊急に必要な事項と思慮いたしましたところを書きまとめ持参いたしましたので、関係諸方面にご披露いただき、ご検討の上、実施賜りますようお願い申し上げます。

 また、労働省におかれましては、すでにご認識あるところとは存じますが、「ホームレス問題対応策」の根幹が「雇用対策」であることを、さらに強く認識され、これ以上「ホームレス」が生じないための全国的な雇用対策、そして、「自立支援事業」の中への実効性ある「雇用対策」の組み込みを御考案、実施されますようお願い申し上げます。

 さらに、大阪・あいりん地区(釜ヶ崎)につきましては末尾に記しました事情等勘案され、下記について特段の配慮を持ちまして実施に至りますようご尽力のほどをお願い申し上げます。

草々

  1. あいりん地区に於ける就労対策事業を国の雇用対策事業として位置づけ、大阪市へ財政的援助をおこなうと共に就労数拡大に尽力されたい。

2.「職業訓練制度」を拡大され、「自立支援事業」対象者が利用可能なものとされたい。

3.「自立支援事業」の中に、「就労前訓練就労事業」を加えられたい。

4.あいりん職安南分庁舎と西成労働福祉センターの敷地交換を実施されたい。

5.「自立支援事業」からの自立を促進するために必要な、新しい就労システム形成を援助されたい。

6.高齢労働者について、日雇労働雇用保険の適用条件を緩和されたい。

7.「自立支援事業」の有効性を保つために、「自立支援事業」対象者で就労可能なもの100人に対し1名の「職業相談員」を配置されたい。

8.付記

1.「あいりん対策」の概略

 釜ヶ崎(あいりん地区)対策は、1961年いわゆる第一次釜ヶ暴動を契機として広くその必要が認識され、就労システムとしての相対方式(特定地区の人夫出し業=人材派遣業者)の追認と調整機関としての西成労働福祉センターの設置、医療機関としての「今宮診療所」の開設、福祉窓口としての大阪市立愛隣会館の設置など、地区対策の体制が整えられた。

 1970年「愛隣総合センター」が完成し、雇用保険・健康保険の「見なし適用」という制度の弾力運営により、釜ヶ崎日雇労働者も既存の社会保険制度が利用できることとなった。

 

2.「相対方式」と「高齢者清掃事業」の発足事情と今後の見通し

  1. 発足事情と拡大の過程

 昭和36年大阪府商工労働常任委員会会議録(9月例会)に次のようなやりとりがある。

○酒井 朋三君

 それはひとつ善処願います。大へんな問題ですからね。それから私がさいぜん申し上げました手配師、何々組というのは手配師のことですが、そのいわゆる暴力的な手配師と善良的な手配師とをよく区分けして、善良な手配師、すなわち何々組というふうな身元のわかる、むちやなあら取りをしないものはやはり育てていく方が、こういうときには数をそろえていくのにいいのではないかと思います。その辺も一律一体に考えないようにお願いいたします。 

○労働部長(寒川 喜一君)

 今の点ですが、実は何々組という良心的におやりになつておる組もないことはございません。しかしながら、職業安定法自体から言いますと、労務供給事業でございまして、現行法から申し上げますと、アウト・ロードになつておるわけでございます。

 従いまして先般中央に対して実情に即するように法を改正してくれということを要望いたしております。たとえばマネキンあるいは理髪、そういう関係につきましてはですね、有料の職業紹介を認めておりますのに、労務供給業だけが現行法ではそれができないというような事情になつておりますので、その点は中央にもそういうことを申し入れまして、できるだけ、大阪はむつかしくて人が逃げていくというのではご趣旨に沿いかねますので、そういう意味での善処をしてみたいと思います。

 同じ議事録に、次のようなことも述べられている。

○労働部長(寒川 喜一君) 緊急港湾対策として、人の関係と直接関係がある労働省が家の問題も含めて同時に人の問題を解決する対策がよかろうというようなことで、さしあたり先ほども申し上げましたように予備費で家を作ることになつたわけでございます。

 これを機会に西日本から人を入れたり、同時に従来からの、現在もう準備が終わつておりますアパート二棟をも含めまして、先ほど申し上げましたような四百四十人分と合わせますと、ある程度の労働力が確保できるのじやないかというようなことになつておりますので、われわれも関係方面に呼びかけて、特に沿岸漁業が最近は非常に不振でございます。従つて、山陰、長崎県の五島、そういう方面から人を迎えたいと思つております

 ここで明らかにされていることは、「現行法から申し上げますと、アウト・ロードになつておる労務供給事業」の是認とそれを前提とした就労システム「相対方式」の定着推進である。そして、不振産業・地域からの労働力・人の大阪・釜ヶ崎への吸引促進である。また、「労働省が家の問題も含めて同時に人の問題を解決する対策」が選択されたことも明らかにされている。

 大阪万国博準備期、関西国際空港建設工事にあたっても、労働力の移動推進が図られている。また、「ミス・サチコ」問題(労働力需給のミスマッチ三要素、産業間格差、地域間格差、世代間格差を簡便に言い表そうとした言葉。不適切な表現として現在はあまり使われない)の渦中に置かれた個人が、個人的解決を求めて大阪へ、建設産業へと吸引されたことから、就労機会の相対的減少を引き起こすと共に、釜ヶ崎における高齢者問題を急浮上させるに至っている。

 「相対方式」では、求人と求職の世代間ミスマッチは解消できず、1980年代初頭から西成労働福祉センターにおいて、高齢者就労窓口、軽作業求人の開拓など努力が積み重ねられてはきたが、大きな進展はなかった。

 地域団体の要望により1994年11月から、「高齢者清掃事業」が登録輪番制で開始されたのは、「相対方式」では対応できない課題に対応するためであった。

(2)今後の見通し

 大阪府の愛隣総合センターフロアーと大阪市の釜ヶ崎地区内生活道路を就労場所とする高齢者清掃事業は、その収入で生活できることを保障しない「福祉的労働」として位置づけられ発足したものであるが、登録者が2000人近くの規模となり、地区高齢者の就労意欲が高いこと、また、登録者は野宿を余儀なくされている者がほとんどであり、他の福祉対応が遅々として進まない中、野宿を余儀なくされている高齢労働者にとっては、もたらす収入の多寡によらず雇用対策的色合いを強めている。「福祉的労働」は、一定の生活水準を維持していることを前提として成り立つものであり、現状の高齢者清掃事業は、はぅきりと雇用対策と位置づけ直され、規模並びに適用年齢層の拡大がなされるべきである。

 あいりん職安南分庁舎と西成労働福祉センターとで敷地交換をおこない、西成労働福祉センター寄り場を拡大して紹介体制を拡大整備する他、現在自彊館が片手間におこなっている間接事務についても、専従組織(仕事の受け取りや開拓、人間の差配、事務処理をおこなう)を立ち上げ事業の拡大を図る体制が整えられなければならない。

 国においては、国有山林やの維持管理作業の前述専従組織への発注や、近畿圏内職安にある求人情報のうち前述専従組織で対応できるものを検討して前述専従組織に紹介することによって、地域間格差是正に努める事なども期待される。


ホームレス問題連絡会議

厚生省殿

釜ケ崎就労・生活保障制度実現をめざす連絡会

(略称・釜ヶ崎反失業連絡会)

共同代表 山田 実 ○

本田哲朗 ○

大阪市西成区萩之茶屋3-1-10ふるさとの家気付

『野宿を余儀なくされている労働者の

経済的自立援助に関する要望』提出に当たって

冠省 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。

 さて、当会は大阪、釜ヶ崎(あいりん地区)におきまして、日雇労働者や野宿を余儀なくされている労働者の社会的処遇改善をめざし、微力ながら日夜努力を積み重ねているものでありますが、近年、不況の深刻化と地区労働者の高齢化に伴い、野宿生活者は増加の一途をたどり、当会はおろか、大阪市、府も、対応に苦慮する事態となっております。

 去る5月26日、国と関係自治体による「ホームレス問題連絡会議」において「ホームレス問題に対する当面の対応策」がまとめられましたが、私ども拝読し、愚考いたしまするに、具体性を欠くものであり、未だ当面の対応策として十分足りえないものであるとの結論をえました。

 そこで、無知蒙昧浅学の身をも顧みず、ここに具体的且つ緊急に必要な事項と思慮いたしましたところを書きまとめ持参いたしましたので、関係諸方面にご披露いただき、ご検討の上、実施賜りますようお願い申し上げます。

 また、厚生省におかれましては、大阪市の状況に配慮され、これ以上野宿を余儀なくされる労働者を増やさないために、居宅保護の居住地として簡易宿泊所を許容することを大阪市に通達で示されますようお願い申し上げます。

 さらに、大阪・あいりん地区(釜ヶ崎)につきましては末尾に記しました事情等勘案され、下記について特段の配慮を持ちまして実施に至りますようご尽力のほどをお願い申し上げます。

草々

1.大阪市における野宿生活者対策においては規模が問題であり、簡易宿泊所を臨時に活用した宿泊施設確保について、生活保護法の居宅保護に準じた、あるいはそれを上回る国の負担を明示されたい。

2.大阪社会医療センターの外来状況に配慮し、「自立支援事業」の外来用診療施設の確保について援助されたい。

3.「自立支援事業」において、「福祉的労働」の概念を拡張されたい。

4.「自立支援事業」において、対象者の待機期間をできる限り短くするために、「自立支援事業」対象者100人について1人の「生活相談員」を配置されたい。

5.付記

1.「あいりん対策」の概略

 釜ヶ崎(あいりん地区)対策は、1961年いわゆる第一次釜ヶ暴動を契機として広くその必要が認識され、就労システムとしての相対方式(特定地区の人夫出し業=人材派遣業者)の追認と調整機関としての西成労働福祉センターの設置、医療機関としての「今宮診療所」の開設、福祉窓口としての大阪市立愛隣会館の設置など、地区対策の体制が整えられた。

 1970年「愛隣総合センター」が完成し、雇用保険・健康保険の「見なし適用」という制度の弾力運営により、釜ヶ崎日雇労働者も既存の社会保険制度が利用できることとなった。

 

2.「法外援護」としての「生活ケアセンター」の発足事情と今後の見通し

(1)発足事情と拡大の過程

 大阪市は、福祉対策の即応性を確保するために、自彊館でおこなわれている定額有料の「単泊(1泊2食)」を利用している。そもそも、市更相への来所時間が遅くその日のうちに結果が出せなかったなどの事情により、相談結果が翌日に持ち越される場合に、利用されるものであったが、地区人口の増加、不況の影響、高齢化、などの要因で要保護者が増加しているにもかかわらず、救護施設の増設が進まなかったために、「正規の対応」ができなくなり、最近では、相談者を一時的に納得させるもの、窓口から押し返す手段として利用されるに至っている。

 1984年廃校となった「新今宮小中学校」の跡地利用についての模索の過程で、地元団体から「単泊」への大阪市からの補助金支給と拡大の要望が出され、大阪市も必要を認めて、「単泊」とは別に、「ディケアセンター」が「新今宮小中学校」の跡地に設置された自彊館三徳寮に設けられた。その後、その有効性と規模の拡大の必要が認識され「生活ケアセンター」となり、今年度170名規模に拡張されるに至っている。

 また、昨年は野宿を余儀なくされる労働者急増に対応するため、8月と11月に「臨時生活ケアセンター(45名定員・2泊3日)」が実施され、実人員で1,155名が利用した。

 なお、生活ケアセンターの一部と臨時生活ケアセンターの受付は民間ボランティア団体によっておこなわれている。

(2)今後の見通し

 救護施設の増設ができないことから、福祉対策の即応性を確保するために設置された生活ケアセンターそのものが、施設の拡大が思うに任せず、即応性確保という本来の目的を果たせない現状となっている。

 いうなれば、一時的緊急対応としての措置が恒常化し、さらに一時的緊急対応としての措置が必要となっているのである。

 このことは、従来からのあいりん対策(=施設収容か入院か)を根本から見直す必要があることを示すと同時に、現状に対応しようとするならば「施設」の概念の拡大をも検討しなければならないことを示しているといえよう。

 たとえば、「第2種福祉事業(宿泊提供事業)」の適用施設としての簡易宿泊所利用である。

 釜ヶ崎の簡易宿泊所組合は、大阪市に対して、3畳以上の部屋に限定して2千室が明日からでも提供可能であり、活用してほしいと要望している。

 大阪市と国の早期の決断が要請されているところである。          以 上