野宿生活者問題と人権

 大阪市は、「野宿生活者問題はすべての方の人権に関わる問題」としていますが、具体的に考えるとどういうことになるのでしょうか。

 貴方様はホームレスの方々を救う為に活動されているようですが、そのホームレスの方々についての考えを、お聞かせいただきたいのです。

 長居公園で、ブルーシートで生活している人たちが見えます。ほんの数ヶ月前まではここまで酷くなかったというくらいに、ブルーシートのテントが日増しに増えています。

 気持ち的には今の社会ではこの状況も仕方ないと思う部分もありますが、噂では公園内に運動のために走っている女性を団体でレイプするホームレスの人たちも居るそうです。レイプまではいかなくっても、ブルーシートの中で何をしているのか解らないけど・・・・。

 何もしないただ、生活の為だけにブルーシート生活を強いられる人たちも居るかもしれません。

 しかし、何かあったときに、普通の住民なら市民登録をしているので、足はつきますが、ホームレスの人たちを捕まえるのは大変ではないですか?

 どんどんスラム化している公園。それを目の前にして生活している私たちの気持ちなどは全く関係無いのでしょうか? ホームレスの方々に救済を!と唱えるのなら、最低限何かあったときに貴方様はどう対処されるのでしょうか?

 高い住民税、市民税を支払、何とか仕事を維持するために日夜勉強をし、嫌な事でも我慢して仕事をしている私たちが、こそこそと公園から追い出されている現状をどうお考えでしょうか?

こういうHPをお作りの方にこれらの問題についてどうお考えなのかお聞かせいただきたいのですが・・・よろしくお返事のほどお願い申し上げます。

 これは、釜ヶ崎反失業連絡会や野宿者と釜ヶ崎労働者の人権を守る会のホームページを見た方から寄せられたEメールです。名前も書かれており、一市民としての困惑がまじめな形で示されていると思います。

しかし、99年2月15日大阪読売新聞夕刊は、「レイプのうわさ」について次のように報じています。

「うわさは東住吉署にも届き、署員は事実確認に走り回った。内容の大筋は同じだが、「被害者」の年齢や人数など細部は話ごとに違った。「話が出るたび発信元を確かめようとしているが、わからない」(副署長)。警察はデマと断定した」


▲扇町公園のテント村。98年6月

Eメールからは、野宿生活者を理解したいという基本的な気持ちは読みとれます。しかし、書かれたときの立場は、野宿生活者の中に自分との、人としての基本的な部分での同質性(基本的人権といってもいいと思いますが)を認めることができず、表面的異質性から恐怖を感じ、「犯罪予備軍」視して、身辺から排除したいという意思が読みとれます。

 野宿生活者の排除を合理化するために、「市民社会」を支えている自負(=納税)と生活を維持するための努力があげられ、自分の、自分たちの権利が侵されているとの被害が申し立てられています。もちろん、人工的な環境を主とする都市空間で生活する市民にとって、たとえ擬似的であれ木々の生い茂る自然=公園を都市の中に持つこと、それを利用することは、一つの権利です。当然尊重されなければなりません。

 しかし、一方で、野宿生活者も市民としての権利(=憲法や生活保護法で保障された生存権)を侵害された存在であることが、忘れさられてはならないと思います。

 表面的には、生きる場・生存を求める野宿生活者と公園の快適な利用を求める人の間に、「権利」の衝突があるように見えますが、本来、野宿生活者の憲法で保障された生存権が侵害されていなければ、起こることのなかったできごとです。「権利」の衝突でなく、野宿を余儀なくされる人の上に加えられた権利侵害から派生した、連鎖的な権利侵害といえます。

 「野宿生活者問題はすべての方の人権に関わる問題」という大阪市の指摘は、この意味で、正しいものであると思います。権利侵害の連鎖をもたらしたのは、明らかに国や地方自治体の怠慢です。

 表面「権利の衝突」と見える現実の放置は、「市民」の満たされない思いを基盤に、卑劣で許すことのできない差別言辞の表明に至ることを、上のJR大阪駅に張り出されたビラが示しています。

 「西成差別」(=部落差別・民族差別・釜ヶ崎差別を一体化したもの)の土壌を作り出しているのは、大阪府・市であり、国です。その是正・克服には多くの市民の参加が必要です。



 日本国憲法第25条【生存権、国の社会的使命】
(1)すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。
(2)国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。
生活保護法第1条【この法律の目的】
この法律は、日本国憲法第25条に規定する理念に基づき、国が生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を援助することを目的とする。
生活保護法第2条【無差別平等】
すべて国民は、この法律の定める要件を満たす限り、この法律による保護を、無差別平等に受けることができる。
(生活保護法には「不服申し立て」の制度があり、生活保護の受給が該当するものの権利であることを明確にしている。)

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