大阪・釜ヶ崎(あいりん地区)を中心としたホームレス(野宿生活者)の状況
 

二つのアンケート調査(夜間宿所・高齢者就労利用者)をもとに
 

 釜ヶ崎支援機構は、大阪市西成区にある釜ヶ崎(あいりん地区)を中心に野宿を余儀なくされている人々と野宿にいたるおそれのある人々の支援活動を目的として1999年に設立した特定非営利活動法人です。

 大阪市が設置した「あいりん臨時緊急夜間避難所」(萩之茶屋=最大利用可能人員600名・今宮=最大利用人員440名、合計1,040名)の運営を委託されています。

 また、緊急地域雇用創出基金を活用した事業の委託を大阪府・大阪市から受けています。昨年度就業延べ人員は109,313人でした。テキスト ボックス:  
 
今宮夜間宿所


▲今宮夜間宿所        ▲萩之茶屋夜間宿所

 

 

 

 

 

 

 

▲夜間宿所の利用券配布を待つ人々

 夜間宿所(シェルーター)は、毎日午後5時30分に、「あいりん総合センター」西側路上で配布される「ベット券」を受け取る事によって翌朝午前5時まで利用することができます。アンケートは、各ベットにアンケート用紙を配布し、記入し終わったものを回収する方法で実施しました。

 今宮夜間宿所での実施は本年5月17日、利用券の配布枚数600枚、消灯時間の午後9時現在の利用者数は572人。アンケートの記入者は467人でした。これは、9時在所者数の81.6%に当たります。

 萩之茶屋夜間宿所での実施は本年5月18日、利用券の配布枚数440枚、消灯時間の午後9時現在の利用者数は431人。アンケートの記入者は402人でした。これは、9時在所者数の93.3%に当たります。アンケート記入者の両宿所合計は、869人となります。これまでの利用状況から考えて、重複しているものは極めて少ないと考えられます。

 高齢者就労は、西成労働福祉センターに登録している55歳以上の高齢者が、登録した番号順に紹介されて仕事に就くという「登録輪番制」で運営されており、賃金は5,700円。現在1ヶ月に3回程度の就労に留まっています。3,100人の登録者に対して1日の就労枠は250人です。そのうち、釜ヶ崎支援機構で毎日把握可能なのは230人で、就労日ごとにアンケート用紙を輪番就労者に配布し、記入してもらって回収する方法で実施しました。

 5月17日から輪番が一巡する5月26日まで実施し、1,884人から回答を得ました。アンケート実施期間中期待される最大回答数は1,926人でした。回答率は97.8%ということになります。

▲地域内道路清掃作業風景            ▲地域外河川敷除草清掃作業風景


(1) 高齢者就労と夜間宿所の関係
 

 高齢者就労事業と夜間宿所は共に「釜ヶ崎(あいりん地区)」内で実施されている行政施策です。高齢者就労事業は、55歳以上に対して仕事を提供し収入をもたらす事業であり、夜間宿所は単に寝る場所を提供する事業ですが、今回夜間宿所アンケートにおける平均年齢が55歳であることから単純に推察されることは、二つの行政施策を共に利用する層の存在です。

 夜間宿所利用者の中で、高齢者就労事業を活用していると回答しているのは32.4%にものぼり、高齢者就労利用者で、毎日か時々かは別にして、寝場所に夜間宿所を利用しているのは、917人(アンケート回答数1,884人の48.7%)に達しています。

 このアンケート結果は、高齢者就労事業が、困窮する高齢者に、働いた対価として賃金を支払う事によって収入を提供する事業でありながら、簡宿やアパートを確保できるだけの収入をもたらすことができず、本当の意味で野宿生活者対策になっていないことを示しています。


(2) 野宿期間について
 

 野宿を余儀なくされるようになってからの期間は、年齢によって若干差があるようです。夜間宿所アンケートでの平均野宿期間は2年と10日でしたが、40歳未満では1年を超えていません。55歳未満では2年に達していません。

 55歳以上を対象とする高齢者就労アンケートでは、「野宿したことがない」人もいますが、「ずっと野宿」の回答を見ると、夜間宿所アンケートより野宿期間が長い傾向を示しています。

 夜間宿所利用者は、寝場所としては夜間宿所を中心にしていますが、野宿期間が長い傾向のある高齢者就労では、前ページの「具体的な寝場所」の表に見られるように「テント・仮小屋」を寝場所としている人々が把握されています。

 施策対応が遅れがちな、公園や道路上にテントや仮小屋を設置して寝場所を確保せず、「アーケード・軒下」を寝場所としている人々の方が量的に多いことも明らかになっています。

夜間宿所以外の宿泊場所

夜間宿所アンケート結果

 


(3) 先週一週間の食事について(回答数1823)
 

@毎日、三食食べた。506人(27.8%) 

A一食も食べられない日が(  )日あった。212人(11.6%)

B毎日一食は食べている。1105人(60.6%)
 

 高齢者就労アンケートによれば、毎日三度三度食べられているものは、27.8%に留まり、多数(60.6%)は、かろうじて一日一食当たっているにすぎません。一週間の内一食も食べられなかった日が一日でもあったものは212人にものぼります。輪番就労による収入が、三食を確保するに充分なものではないことを、立証するものです。


(4) 野宿と健康問題について
 

夜間宿所によるアンケート結果によると、健康であると答えたグループは平均年齢も相対的に若く、野宿期間・在釜期間も短い傾向が見てとれます。もっとも野宿期間が短いのは、健康であるけれども足あるいは腰がよくないと答えたグループで、野宿の原因の一端を示すものといえるかも知れません。

もっとも野宿期間が長く、在釜期間が長いグループは内蔵の調子が悪く、物忘れが激しくなったと自覚しているグループです。
「物忘れ」だけを自覚しているグループの平均年齢が最も高く、野宿期間・在釜期間も長い傾向にあります。



高齢就労アンケートでは、身体の不自由な点について問うています。

 結果は、設問の中の「近眼・老眼・歯がない」を除いたとしても、1884人の内無記入のもの(32.3%)を持って健康なものの数と推定したとしても、輪番就労者の半数以上が、通常の建築土木現場には就労しにくい身体状態にあると推察されます。

*足が(動かない−9人・動きづらい−114人・しびれがある-175人・痛みがある-156人)

*股関節が(動かない-8人・動きづらい-76人・しびれがある-88人・痛みがある-88人)

*腰に(しびれがある-65人・痛みがある-414人)

*腕が(動かない-5人・動きづらい-69人・しびれがある-119人・痛みがある-75人)

*手・指が(動かない-6人・動きづらい-63人・しびれがある-133人・痛みがある-45人)

*目が(片方見えない-46人・両方見えづらい-58人・近眼-157人・老眼-544人)

*耳が(片方聞こえない-105人・両方聞こえづらい-108人)

*口は(歯が全くない-261人・話づらい-157人・言語障害がある-16人)

 

 

 

 


(5) 高い仕事に対する意欲
 

 高齢者就労アンケートでは、要望などを自由に記述してもらう欄を設けていましたが、499の記入があり、その多くは、下の一覧に見られる如く仕事を要望するものでした。夜間宿所アンケートでは、取得したい技術について聞きましたが、仕事に就くために身に付けたい技術が多く記入されていました。


(6) 各地方の、そして大阪の失業率の高さが野宿を
 

 夜間宿所アンケートでは出身地を記入してもらいました。大阪・釜ヶ崎の夜間宿所で全国各地から来た人が、一夜を共にしていることがわかります。

アンケートでは、大阪に来て何年になるか、釜ヶ崎に来て何年になるかも問いました。

 下の図は、各地方から直接釜ヶ崎を目指してきたが279人であり、釜ヶ崎以外の「大阪」で一旦生活し、

それから釜ヶ崎へと移り住んだ人が、434人であることを示しています。

 

 

 釜ヶ崎を直接目指した人は、40歳まで地方で仕事・生活をし、「バブル経済」崩壊の前後の時期に釜ヶ崎に来ているという平均像が、アンケート結果から読み取れます。

 大阪の釜ヶ崎地区以外に10年以上住み、仕事をしていた人たちは、24歳で来阪し46歳で釜ヶ崎に移り住んでいるという平均像が読み取れます。「バブル経済」崩壊の2〜3年後に釜ヶ崎に移り住んだことになります。

 アンケート結果からは、野宿生活=「あいりん臨時緊急夜間避難所」の利用にいたる原因として「バブル経済」の崩壊、不況の影響が浮かびあがってきます。


(7) 求められる国のホームレス対策としての雇用対策
 

 野宿生活者の多くは仕事を求めていますが、平均年齢55歳では、求職活動が実ることは極僅かです。特に、居住地をすでに失ったホームレス(野宿生活者)が、就職することは、年齢のハンディの上に、連絡先がないというハンディを負っていることから、なおさら困難です。

 坂口厚生労働大臣は、本年5月17日に開催された決算行政監視委員会第3分科会で、緊急地域雇用創出特別交付金について、「このままで今後もまた続けていくことはできないと思っている」とした上で、「これに変わるべきものとしてどうしたものを作り上げていくかと言うことが大事だと考えている」と答弁しています。新しいものをつくる視点として、「地域的に非常に失業が多いとか、若年労働者、高齢労働者、女性、ホームレス、そうしたところに特化をして、重点的な財源の使い方をしていくかということが大事ではないか」とも述べています。

 アンケートで改めて把握された野宿生活者の現実は、坂口厚生労働大臣の構想の現実化が緊急に必要であることを指し示していると考えます。