ホームレス自立支援法の成立にむけて

           連合大阪・中小労働運動センター所長
                                要 宏輝

 野宿生活者(ホームレス)は、厚生労働省の調べで2001年9月末現在、2万4090人といわれています。しかし、実態はそれをはるかにうわまわり3〜4万人はくだらないとみられています。そのうち、約半数が大阪に集中しています。
 ホームレスは特別な人ではなく、そのほとんどは労働者のOBです。しかも今、きびしい生活のなかでも懸命に仕事をしています。2001年1月に大阪市がおこなった「野宿生活者(ホームレス)に関する総合的調査報告書」(以下、「大阪市報告書」)によれば、野宿生活者の80%が自らの生存と生活を維持するために、何らかの「仕事」に従事しているのです。
 また、野宿にいたるまでの職歴に関連して、はじめてついた職業は製造業やその他の産業が多く、野宿生活にはいる直前には建設業が多くなっています。つまり、工場や建設現場などで働いてきたわたしたちの仲間なのです。
 小泉内閣の「構造改革」がこのままつづくとすれば、さらに失業者が増えることが予想されます。長期の失業が当然のこととなり、社会全体で仕事をわかちあうしくみがなく、セーフティーネット(安全網)の整備が遅れている状況のなかで、仕事・家・家族を失って、ホームレスになる可能性は誰にでもあります。
 わたしは、日本最大の「寄せ場」であり、いまでは野宿生活者の拠点の一つでもある大阪市西成区の釜ヶ崎(あいりん地区)で、日雇労働者らの越冬のための支援活動などに参加してすでに30年近くになります。
 とくにここ数年、実感することは、ホームレスは大阪でも全国でも急速に増えつづけているということです。深刻化する日本のホームレス問題を解決するには、野宿せざるをえなくなった失業者に、雇用、住宅、福祉、医療、教育を保障することが国の責務であることを明確にし、政治で対応する以外に道はありません。
 日本労働組合総連合会大阪府連合会(連合大阪)では、これらの実態をふまえ、「野宿生活者(ホームレス)自立支援法」の制定を提起し、野宿せざるをえない当事者、支援の特定非営利法人(NPO)、民主党などの政党、部落解放同盟、学者、他の大都市の労働組合などとともに、国会での早期成立をめざしています。
 グローバル化のもとで貧富の格差がますます拡大している今日、「欲」の対極に「愛」をすえて、大衆運動によって政治の扉をたたき、社会正義と社会的公正を実現していくことがいつにもまして求められています。


「仕事さえあれば…」−ホームレスの実態一

 東京、大阪、名古屋、川崎、横浜など全国の都市の公園や河川敷に青シートのテントや仮小屋が建っており、野宿生活をしいられる人たちが増えています。また、商店街のアーケードやビルのひさし、駅舎などで段ボールで囲いをし、夜だけ寝泊りする人たちも多くいます。また、最近では女性のホームレスや、夫婦や子ども連れで野宿せざるをえない人たちも増えています。わずかばかりの荷物をかかえて街をさまよう高齢のホームレスをみるとき、苦労して働いてきたわれわれのOBが、孫に囲まれて幸せに暮らすべきこの歳になって、なぜ極貧の野宿生活をしいられなければならないのかと胸が痛みます。
 わたしは、大阪の中心部から特急で約1時間、みかんの産地として有名な和歌山県のある町に住んでいます。2年前、わが家の前の公園に、たまたまホームレスの人が居つきました。
 ある夜、帰宅途中に公園を歩いていると、警察官と市役所の人がそのホームレスに、「どこから来たのか。どこへ行くつもりか」などと職務質問をしているのです。そして問答のすえ、「大阪の釜ヶ崎に行ったら食えるから」といって、大阪行きの片道切符を買う交通費を渡しているのです。
 わたしは、その光景をみて驚きました。全国でもっともホームレスが多い大阪市、そのなかでも集中している釜ヶ崎には、このようにして全国からホームレスが人為的に送りこまれているのです。つまり、大阪市は全国のホームレスをあずかっているのです。
 「大阪市報告書」によっても、大阪市の野宿生活者の出身地は、山梨県を除く全国46都道府県におよんでいることが明らかになっています。ここに、わたしたちが、ホームレス問題の解決を一つの自治体にまかせるのではなく、国の責任で特別立法としておこなうべきであると主張する一つの根拠があります。
 釜ヶ崎には、ホームレスを支援するNPOとして釜ヶ崎支援機構が設立されています。同機構が大阪府の委託をうけ、大阪市立大学などと協力して2001年3月に発表した「野宿生活者が就労による自立をするための支援策の調査研究報告書」(以下、「釜ヶ崎支援機構報告書」)には、野宿生活者の実態がつぶさに報告されています。
 調査当時、61歳だったAさんは、瀬戸内の島で生まれ、中学校を卒業してから集団就職で大阪にやってきました。これまで建設関係で仕事をし、野宿生活をするまでに4〜5ヶ所の工務店で働いてきました。もっとも長く勤めたところは20年くらいでした。主に「はつり」(コンクリートを振動機で削りとる作業)の仕事をしており、いちばん景気がよかったときは、日当が1万7千円から2万円くらいあったといいます。
 調査の2年半前に病気で倒れて入院するまでAさんは、大阪市内の工務店に10年間ほど勤めていました。しかし、入院中にその会社が倒産し、退院しても戻るところがありません。やむをえず釜ヶ崎に仕事をさがしにきたところ、釜ヶ崎でも仕事はなく野宿せざるをえなくなったということです。
 Aさんは、仕事をさがすため毎日のように公共職業安定所(ハローワーク)に通いました。しかし、アパートに住んでいない、連絡先がない、保証人がいないといって就職を断られました。調査当時、Aさんは、NPOの斡旋で1週間だけという臨時のガードマンの仕事がまわってきたということです。
 野宿生活者たちは、Aさんのように仕事をさがそうにも住所がなく、保証人もいなくて就職できず、いきおい野宿生活が長期化する場合がほとんどです。また多くの場合、野宿生活にはいってから病気になっても、約80%の人は通院することも薬を買うこともできません。その結果、家族にもみとられず路上で亡くなっていく「行き倒れ」が後をたちません。
 Bさんの仕事は廃品回収です。Bさんは毎朝5時から8時ごろと、夕方5時から8時ごろが仕事の時間です。粗大ゴミの収集目には、大阪市の周辺都市まで自転車で行きます。アルミ缶の他にすててある電化製品などもひろいます。この仕事で1ヵ月約2〜3万円をかせいでいます。
 「大阪市報告書」によれば、野宿生活者の最低年齢は27歳、最高年齢は85歳で、平均年令は55.8歳です。彼らの87%が廃品回収の仕事をしており、そのうち76%が1か月に20日以上働いています。そして、半数をこえる56%の人は、1か月の収入が3万円未満です。また、仕事の時間は夜間や早朝が多くなっています。
 自炊や食堂・弁当で食事をしている人は42%と半数にみたず、58%の野宿生活者は、炊きだしや廃棄食品、残飯、仲間からもらったもので空腹をみたしています。
 また、野宿生活者の79%は人とのつきあいをしており、そのうち多くの人々が生活上の助けあい(つきあいをしている人の59%)や、仕事上のつきあい(同19%)、余暇・娯楽でのつきあい(同46%)をしています。
 このように中高年者がほとんどの野宿生活者は、体力の衰えにもかかわらず月20日以上も車の少ない早朝や夜間に働き、周辺都市まで何キロも台車をおしたり自転車で走ったりしてアルミ缶や廃品を回収し、月にいくらにもならない収入でかろうじて生きているのです。しかし、病気になっても病院にかかることはできません。彼らは、このようなきびしい生活のなかでも人間としての節度を守り、他の人々と助けあって生きています。
 ホームレスの切実な願い、それは「仕事さえあれば、なんとかもう一度社会のなかにかえっていきたい」ということです。公平な社会とは排除のない社会であり、滞留したままの失業者やホームレスの存在は、新しい「不公正社会」の問題でもあります。誰もがやり直しのきく社会でなければならないのです。
 この資本主義社会で、ホームレスには誰もがなる可能性があります。まさにホームレス問題はわたしたちと地つづきの問題であり、その解決はすべての働くものの課題であるのです。


認めあい、人間として生きる

 わたしと釜ヶ崎のドヤ(簡易宿泊所)などで暮らす日雇労働者らとのつきあいは、すでに30年近くになります。
 連合が発足する前の日本労働組合総評議会(総評)時代から、全日本港湾労働組合(全港湾)のなかまたちが、釜ヶ崎の日雇労働者たちを労働組合に組織していました。
 30年以上前から釜ヶ崎では、路上での「行き倒れ」が続出するきびしい冬を、働くものの連帯で越年していくために越冬闘争が取り組まれていました。昨年末から今年にかけておこなわれた釜ヶ崎越冬闘争は、すでに32回目を数えました。
 釜ヶ崎では、日雇労働者に夏は「ソーメン代」、冬は「もち代」を支給させる運動が取り組まれ、今日まで毎年、大阪府・市から一時金として支給させてきました(2000年度は「白手帳」を所持する者に一律1万6900円)。釜ヶ崎のなかまを応援するために、わたしも夏と冬、その運動に参加してきました。それが、釜ヶ崎とわたしとの最初の出会いでした。
 以来、近所の住民の脇力を求め、わたしが住む町でとれたみかんや卵、衣類をトラックに積んで釜ヶ崎にもって帰ってもらったりしてきました。
 子ども連れで釜ヶ崎の夏祭りに行ったこともありました。大阪市西成区の三角公園で毎年8月におこなわれる夏祭りには、名がとおった歌手も出演するなど、日雇労働者やホームレスらの一大イベントになっています。
 夏祭りに連れていった娘が大きくなり、釜ヶ崎に越冬の支援に行くことになりました。釜ヶ崎では、NPOがつくっている200人くらいが泊まれる大テントの清掃や炊きだしに、高校生や大学生の若者が多く参加して活動しています。これはとてもよいことです。
 わたしたちが教えられたのは「衣食足りて礼節を知る」。「衣食足りて精神が荒廃する」この時代に、ホームレスなどもっとも苦労している人たちに思いを馳せ、その人たちのために献身していくことは、子どもたちの生き方にとって何ものにもかえがたい貴重な体験といえるでしょう。
 ホームレスとふれあってその人柄を知り、ひたむきに生きる彼らの暮らしを見聞すれば、少年や若者によるホームレス襲撃事件などはおきるはずがありません。しかし現実には、「グループ襲撃」がひんぱんにおこり、野宿しているテントや小屋のなかに花火やブロックのかたまりをほうりこんだり、エアガンを打ちこんだり、はては灯油をまいて火をつけるなどの事件があとをたちません。
 ホームレスに対するデマなどによる人権侵害も頻発しています。それは、彼らとの人間的なふれあいの欠如からくる偏見の結果であるともいえます。
 わたしたちは、ホームレスや外国人労働者との共存は不可避であるという認識にたち、その共存のための調整方式を、地域でも、自治体でも、国全体でも新たにつくり出さなければならないのです。
 地域住民がホームレスのシェルター施設建設に反対して、自治体と対立したものに長居公園の例があります。
 うっそうとした木々が生い茂る長居公園は大阪市の東南部(東住吉区)にあり、大阪国際女子マラソンのスタート・ゴールとして知られています。長居公園にテントを張って住みついた430人のホームレスを、オリンピック誘致のために大阪市が退去させようとして、公園内に一時避難所(シェルター)を建設しようとしたところ、周辺地域住民から大きな反対運動にあったのです。それは2000年秋のことでした。
 その前からホームレスにたいする地域住民の偏見にもとづく苦情があいついでいましたご「あそこは恐い、公園を歩けない」からはじまり、ホームレスが犯罪を犯したというまことしやかなデマが流されるまでなつていました。
 ホームレスと対話がない地域住民のなかには、「きたない」、「こわい」というイメージをもち、「何をされるかわからない」という恐怖感をもつ人もいます。しかし、実際に「何をされるかわからない」と戦々恐々として生きているのはホームレスのほうです。事実、ホームレスが地域で殺人など大きな事件をおこしたことは聞いたことがありません。逆に、襲撃にあったりして殺されているのはホームレスのほうなのです。
 ホームレスに対する偏見や大阪市の地域住民にたいする説明不足などによって、2000年11月15日、市が長居公園内に350人収容のシェルターの建設を着工しようとしたところ、住民に実力で阻止されたことがありました。その後、なんとか地元の町内会がシェルター建設をうけいれ、その年の12月から入居がはじまりました。
 住民によるシェルター着工阻止があった後の11月29日、大阪市立大学都市問題資料センターがおこなった都市問題シンポジウム「都市と市民参加一ホームレスをめぐって一」に出席した東住吉地域振興会長は、「やっぱり周辺住民もできるだけ正常化するためには理解が必要かと、こう思います。…やはり人間さまですから、…行政と市民が一体となって取り組んでいかなければならん問題だと思います」と語っていました。
 ホームレスと地域住民との共存のための調整方式、その出発点はお互いが人間としての尊厳を認めること、そして政治を動かしつつ協調していくことではないでしょうか。そのためにもホームレスとふれあい、人間として理解していくことが大切だと思います。


裾野が広いホームレス問題

 「ホームレス」の国際的な定義は、「社会的な排除により住所不定・住宅不安定状態になっている人々」とされています。つまり、単なる「路上生活者」だけでなく、低所得、スキル(熟練)不足、失業、家庭崩壊、健康悪化などにより、社会的に排除された人々のことをいいます。
 日本では、1998年5月、政府の関係省庁と関係都市で構成される「ホームレス問題連絡会」がまとめた「ホームレス問題に対する当面の対応策について」において、「いわゆる『ホームレス』の厳密な定義は困難であるが、ここでは失業、家庭崩壊、社会からの逃避等様々な要因により、特定の住居を持たずに道路、公園、河川敷、駅舎等で野宿生活を送っている人々を、その状態に着目して『ホームレス』と呼ぶこととする」としています。
 国際的な定義に従えば、日本のホームレスはさらに範囲が広がります。実際、ホームレスとは政府がいうように「野宿生活を送っている人々」だけではありません。車のなかで生活している人、サウナで寝ている人、定まった住所がなく簡易宿泊所などを転々としている人などと範囲は広く、厚生労働省がいう2万4090人をはるかにこえることになります。
 ヨーロッパ連合(EU)諸国の「ホームレス」の定義はさらに広く、「個人的な家のない者」とされています。EU諸国では社会扶助施設や母子施設などの施設居住者などもホームレスに含まれ、その裾野はいっそう広がります。
 働くものがホームレスにならざるをえない背景には、失業や病気、家庭崩壊などさまざまな社会的要因があります。
 日本のホームレスの多くは、1990年代以降、リストラや企業倒産、仕事量の減少などによって失業し、つぎの職がみつからないままにアパートなどの家賃がはらえず、借りていた部屋を追いだされ、野宿生活を余儀なくされた人たちです(「大阪市報告書」によれば、野宿生活者の91%が96年以降に調査時の場所に野宿をはじめた人となっています)。
 90年代半ば以降のホームレスの急増は、グローバル化による外国資本の急激な流入や、日本の製造業などのアジア諸国への進出と軌を一にします。日本の中小企業と地域経済は、この間、空洞化・価格破壊・規制緩和という「新3K現象」のもとでその存立基盤を掘り崩されてきました。
 とりわけ大阪は、中国をはじめとする海外進出と近隣府県への工場移転といった「二重の空洞化」によって、1997年から2000年の3年間で約52万人もの雇用が失われました。52万人といえば、全国有数の中小企業の街・東大阪市の全人口に相当し、連合大阪に属する組合員すべてが解雇されたに等しい数です。
 2001年平均の大阪府の失業率は、沖縄県の8.4%についで全国第二位の7.2%と全国平均の5.0%より2ポイント以上高くなっています(総務省「労働力調査」)。また、日本の場合、リストラでは中高年労働者がまっ先に解雇され、ホームレスもまた中高年層に集中することになります。「大阪市報告書」によれば、大阪の野宿生活者のうち79%が50歳以上の人々です。
 2002年1月現在、全国の失業率は5.3%で前月より0.2ポイント改善されたものの、完全失業者は27万人増えて344万人と過去最高です。そのうえ、企業の倒産や人員整理などの非自発的理由による離職者は147万人と史上最悪の水準になっています。失業率が5.3%というとき、労働者100人のうち5.3人が失業していると思いがちですがそうではありません。日本の失業率は、その月の最終の週にハローワークへ行って就職活動をした人のうち、就職できなかった人の割合で算出します。この人たちが今年1月には344万人いたということです。
 中高年者や病気の人など、ハローワークへ行っても就職できないとあきらめている人が約450万人いるといわれています。さらに若者のフリーターが約200万人います。これらの人々をすべてを加えると、実際の失業者は約1000万人になります。つまり目本の失業率は、すでに10%をこえているのです。
 ヨーロッパの場合、企業が雇用調整をするとき、中高年労働者よりさきに若い人から順に解雇します。したがって、若い人からホームレスになる傾向があります。
 しかし、現在の日本では、リストラなどで失業に追いやられ、再就職が難しくホームレス化するのは主に中高年労働者です。ところが、今後は日本も若者のホームレスが増える可能性があります。今、親の援助で生活しているフリーターの若者たちは、将来、親が亡くなると自力で生活することができず、約200万人の若い人たちが一挙にホームレス化する危険すらあるのです。
 さらに、小泉内閣の構造改革による不良債権処理が進むと、100万人単位で新たな失業者が生まれるといわれています。これから先、大手ゼネコン(総合建設会社)や銀行などに不良債権処理のメスがはいれば、日本の失業問題およびホームレス問題はさらに深刻になるでしょう。
 連合のアンケート調査でも、多くの仲間が失業の不安を訴えています。
 1999年9月に電機連合がおこなった「組合員意識調査」では、組合員4人のうち3人(約72%)が、「今の仕事や職場がなくなる」「会社が縮小したり倒産する」などの雇用不安を訴えています。
 また、2001年6月に連合総合生活開発研究所(連合総研)がおこなった調査でも、「4人に1人」が今後1年間で自分自身が失業する不安を抱いていること、「3人に1人」が親類・友人など身近な人に解雇者・失業者がいることが明らかになっています。
 ところが今の日本の法制度では、雇用保険の失業給付が切れてから生活保護をうけることができる65歳まで空白の期間があり、その間、どのようにして生活するのかという問題がでてきます。その空白期間を埋めることが、ホームレス問題を解決するうえでの眼目であるといえます。


ホームレスの自立支援へ

連合大阪は発足当初から、釜ヶ崎と少なからず関係をもってきました。連合大阪のなかに設置された「あいりん問題プロジェクト」を軸に、さまざまな取り組みをおこなってきたのです。
 前述した夏・冬のいわゆる「ソーメン代」「もち代」の支給応援活動はいまでもつづけていますし、建設業退職者共済(「建退共」)手帳問題で政府交渉をおこない、釜ヶ崎のなかまたちの要求にもとづく大阪府、大阪市にたいする要求と交渉も毎年おこなってきました。
 ホームレス問題に関連しては、「大阪市野宿生活者(ホームレス)対策に関する懇談会」「西成福祉センター理事会」など関係審議会等への参加や、2回にわたるホームレスを訪問しての「聞き取り調査活動」などを進めるなかで、「ホームレス自立支援法」の制定にむけた構想をかためてきました。
 「聞き取り調査」をするなかでもっとも衝撃的だったことは、野宿せざるをえなくなったホームレスが自分たちのOBであることでした。調査に参加した連合の組合員たちは、わたしもふくめていつホームレスになるかわからないということを実感しました。
 不良債権処理を早期におこなうという政治がからんだ民間のリストラが急速に進む今日、ホワイトカラー(専門・管理・事務労働者)だけでなくブルーカラー(現場労働者)も事実上の定年は50歳です。たとえば大手の鉄鋼メーカーなどでは、定年は60歳であるにもかかわらず、50歳になれば「肩たたき」(退職勧誘)や早期退職優遇制度などでつぎつぎと解雇されています。
 50代で失業すると、年金受給年齢の60代になるまでは、生活保護をうけるか仕事につかないかぎりセーフティーネットはなく、再就職できないまま家庭崩壊などに陥れば、いきおいホームレスにならざるをえません。
 「聞き取り調査」などを通じて、連合に加盟する組織労働者たちは、ホームレス問題が他でもなく自分たちに直結する地つづきの問題であることを実感したのです。
 連合大阪が、ホームレス問題にかかわるようになった理由の一つに、増えつづける失業者を組織化したいということがありました。
 これまで連合大阪は、社会に貢献する労働運動をめざして、モンゴルの雪害支援や大和川クリーン作戦の運動など多彩なボランティア活動を進めてきました。しかし、これらはそれぞれ意義のある取り組みであるものの、他のNPOでもおこなえます。
 労働組合もまた広い意味ではNPOです。労働運動としてプロパー(本来)のボランティア活動はないのかという意見が内部からだされ、結局、失業者問題、ホームレス問題にいきついたのです。
 市場競争主義や一人勝ちのメカニズムは、たった1人の勝者に99人の敗者が生まれるしくみです。東西冷戦とバブル経済が崩壊して以降、際限のない競争原理が世界と日本を席巻した結果、世界でも日本でも、一握りの勝者と圧倒的多数の敗者が生まれ、貧富の格差はますます拡大しています。
 しかし、激しい競争のなかでも働くものの連帯は生まれるし、また生みだしていかなければなりません。働くものの連帯を形にした労働運動本来のボランティア活動とは、首切り・倒産争議などへの支援であり、失業者らにたいする支援です。
 連合大阪がホームレス問題にかかわるようになった理由の二つめは、ホームレスの組織化や支援の取り組みをするなかで、労働組合の社会的信頼を回復することができるのではないかということです。
 たとえば、連合大阪のホームレス問題の取り組みをみて、ホームレス以前の失業者や、リストラなどで悩みを抱えて苦労している労働者がどう思うかということです。
 「ホームレスの面倒をみるくらいなら、俺たちの相談にものってもらえるのでは」と考えるはずです。そして、悩みをもった労働者からの電話で、連合大阪の「何でも相談ダイヤル」のベルが鳴りやまない、といった状況も想定しました。
 ホームレスの自立支援の取り組みは、連合大阪がローカルセンター(地域の中心組織)だからできたことです。ホームレスは地域で生きており、地域に根ざした活動が求められるゆえに、ローカルセンターだから取り組めたのです。
 連合大阪が、ホームレス問題にかかわるようになった理由の三つめは、失業者も組合員でありつづけることができるドイツのIGメタル(280万人)のような運動ができないかということでした。
 IGメタルは、失業者組合員は32万5000人を数え、実に8人に1人が失業者組合員という労働組合です。そして、「ドイツ失業者労働組合」は、組合内失業者グループとは別の地域の失業者運動(NPO・失業者イニシアティブ、約1500)を結集した組織を構想していると聞きます。
 労働運動とは、労働者自らの要求を当事者がイニシアチブを発揮し、主人公となって実現していく運動ですが、日本でもいますぐドイツのように失業者のイニシアチブで運動ができるとは思いません。しかし、失業者を主体として何らかの運動ができるのではないか、またそのような運動が必要ではないかと思います。
 連合大阪が、ホームレス問題にかかわるようになった理由の四つめは、連合の組合員の職場問題でもあるからです。
 大阪市の公園を管理する仕事をしているのは、全日本自治団体労働組合(自治労)の大阪市従業員労働組合(大阪市従)の組合員です。大阪市従のなかまたちは、公園を管理しながら、ときとしてホームレスと衝突することもあり、いつも苦労していました。大阪市従の組合員にとっでは、ホームレス問題はまさに職場問題であり、仕事そのものなのです。ホームレスと連合の組合員が同じ労働者としてふれあい対話をするには、連合大阪の真剣な取り組みが必要だったのです。
 日本の労働運動が21世紀の新しい時代の要求にこたえていくうえでも、「欲」の対極に「愛」をすえ、たゆみなく自己変革することが求められています。
 今、職場の労働運動の多くは低迷し、守勢にたたされています。労働者が「一人勝ちのメカニズム」や競争原理に影響され、競争相手とたたかわなければ生き残れないという資本の論理に動員されてしまっているからです。
 職場のリストラは家庭崩壊やホームレス問題など地域社会とリンクしており、両者を一体の問題として把握し対応していかなければなりません。この認識を労働運動とNPOが共有し、協力して自らの社会的責任をはたしていかなければなりません。
 一人勝ちの対極には連帯が生まれ、新保守主義や市場経済の対極にはNPOが増えることは必然です。まさに、連合大阪が取り組んできた障害者雇用支援や外国人労働者問題、ホームレス自立支援の活動は、労働運動本来のNPO活動であるといえるでしょう。


社会的公正の実現をめざして

2000年8月4日におこなわれた連合大阪三役と大阪市長との定期懇談会で、期せずしてホームレス問題が話題になり、じつに意義深いものとなりました。
 その日のテーマは、産業廃棄物、生活廃棄物のリサイクルに関わる法律(PL法)制定にともなう大阪市の取り組みの説明とお互いの意見交換でした。話はいきおい、ホームレス問題にうつりました。大阪市長は「野宿生活者は、全国各地から人為的に大阪市に送りこまれている」と怒りをこめて語りました。
 事実、大阪市がかかえる日本最大の日雇労働者の街・釜ヶ崎でのホームレスは、1996年の156人から5年間で7倍に急増し、2001年末には1092人となっています。大阪市全体のホームレスも、98年に8660人と日本一で、その後も釜ヶ崎のように増えつづけ、現在では1万数千人にのぽるとみられています(2002年1月20日付朝日新聞)。それに大阪府下の市町村を加えると、大阪府全体のホームレスは2万人をこえるといわれています。
 わたしは市長にたいして、「市の条例をつくって対処してみては……」と提案してみました。しかし、法のレベルをこえた条例はつくることができないということでした。市長に進言したわたしの真意は、働く人々にたいする「リサイクル法」があってしかるべきだと思ったからです。
 今日のホームレスの大半は、資本主義的自由競争社会から排除された人たちであり、資本主義の価値法則からすれば「天災」の、政府の政策の失敗からすれば「人災」の犠牲者だといえます。電化製品の「リサイクル法」があるなら、社会から排除された労働者に教育訓練をおこなったうえで、社会に再参加できる法律があってしかるべきだと思ったのです。これは政治で解決するほかありません。
 市場競争原理至上主義は、一人勝ちにみられるような格差拡大を生みだしつづけています。アメリカでは実質賃金は27年前の水準に低下し、所得格差はこの20年間で44倍から420倍に拡大しています。今日では、新しい不平等社会としての排除のある社会の問題が急浮上してきています。このような時であるからこそ、「会社はつぶれても労働者(人間)はつぶれない」制度的保障のある社会を政治の力でつくらなければならないのです。
 政治が、社会秩序の形成をめぐっておこなわれる人と人との営みであるとするなら、政治の果たすべき役割は社会的公正の実現につきるといえます。社会的公正を実現するためには、誰もが社会から排除されない、排除のない社会をつくることが必要です。
 これまで労働運動における社会的公正とは、価値の適正配分や所得の再配分など、経済レベルでのとらえ方が主でした。しかし、真の社会的公正を実現するには政治を動かさなければなりません。
 350万人もの失業者が生まれ滞留している現実は、失業者もまたホームレスと同様に社会から排除され、社会に再参加できない深刻な状況が拡大していることを意味します。ここに政治の光をあて、ホームレスも失業者もやり直しがきく社会をつくらなければなりません。そのためには、いったん社会から排除されたホームレスや失業者が、社会に再参加する道を開く政策が求められます。
 ホームレス対策の最大の障壁は財政問題です。増えつづけるホームレスに対応するには、大阪市や大阪府の単独事業費ではおのずと限界があります。2001年度「あいりん対策」の総事業費は約45億円です。その内訳は、大阪市が約24億円、大阪府が約10億円、国が約11億円です。これに約100億円あれば、大阪のホームレス問題は解決のメドがたつという試算もあります(NPO釜ヶ崎支援機構)。国が銀行救済につぎこんだ60兆円からすれば微々たるものです。加えて、大阪市は生活保護費が1788億円に膨れあがっています。
 2000年秋、大阪市はホームレスのための「自立支援センター」を市内3か所に開設しました。ホームレスの失業・雇用対策は、「自立支援センター」のような雇用対策計画と国家財政の二つがそろってはじめて成功します。

 「自立支援センター」などで教育訓練を実施し、ホームレスの就労・就職をめざすためには、福祉労働を最低限とした雇用確保、住宅保障、生活保護、市民的権利保障などをうたった、国のレベルでの「特別立法」が火急の要です。
 阪神淡路大震災のときには、政府は特別立法「被災者生活再建支援法」をつくって対処しました。自然災害に対して、政府・自治体の不作為が許されないのと同じように、ホームレス問題の「特別立法」の制定は急がれなければなりません。
 新しい法律の草稿を書くのは法務官僚や政党の政策審議会(政審)です。しかし、それに先駆けて政治の厚い壁を破り、「政策の窓」を開くのは、いつの時代も大衆運動の力なのです。
 国に「ホームレス自立支援法」の制定を求める運動もまた、当事者、NPO、労働組合などが協力した大衆運動によってその窓が開かれていきました。


「ホームレス自立支援法」を国会へ

 連合大阪は、ホームレス特別立法にむけたシンポジウムや研究会を頻繁におこない、報告書に『日雇労働者・野宿生活者間題の現状と連合大阪の課題』を発行し、2000年11月に「野宿生活者の自立支援等に関する特別措置法案(骨子)」をまとめました。そして、民主党政審との調整をおこなった後、2001年6月14日、「ホームレスの自立の支援策等に関する臨時措置法案」(「ホームレス自立支援法案」)を衆議院に提出したのです。
 「ホームレス自立支援法案」は、国がホームレスの自立支援等に関する「基本方針」をつくり、府県や自治体が施策の「実行計画」をたて、国が「財政措置」をすることを基本内容としています。
 同法案の最大の特徴は、ひと言でいって、これまで社会保険と公的扶助との谷間にあって解決されずに放置されてきた諸問題を、「ホームレス自立支援法」というセーフティーネットの張り替えによって救うことにあります。とくに、この法律によって国の財政措置が講じられるところに最大の意義があります。
 以下に「ホームレス自立支援法案」の特徴をみていきましょう。
 同法案の特徴の一つめは、ホームレスの社会参画です。自立の意思のあるホームレスに対し、彼らの社会参画(政府の側からすれば「社会包含」)の5つの要件である雇用・住宅・福祉・医療・教育(この場合は職業能力開発ですが)の保障や担保を明確にうたっていることです。これは、排除のない公正社会へのリベラルな改革の一歩です。
 同法案の特徴の二つめは、生活保護の緩和です。これまでその適用が不当に制限されていた生活保護給付を「適用緩和」することです。これで横浜市の寿町では適用され、大阪市では適用されないといった問題が解消されます。
 同法案の特徴の三つめは、予防です。ホームレスになるおそれめある者に対しても、その防止策を講じることとしていることです。
 同法案の特徴の四つめは、NPOなど民間団体との緊密な連携や能力活用をはじめてうたっていることです。これはすでに欧米では盛んにおこなわれています。
 連合が、「ホームレス自立支援法案」の国会提出と平行して取り組んだのが、期限つきである「緊急地域雇用特別交付金」の延長問題でした。この二つをセットにして、対政府交渉などの中央行動を2001年6月19日に取り組みました。
 この中央行動には、大阪からは連合大阪の「あいりん問題プロジェクト」のメンバー、NPO釜ヶ崎支援機構、部落解放同盟などの代表が、また大阪以外からは東京、神奈川、愛知、福岡の大都市連合の仲間たちが参加しました。
 仲間たちとともに、衆参両院の厚生労働委員会所属の国会議員にたいして陳情行動をおこないながらわたしは、「この日本でもやっとフランスの『反社会排除法』のような人権法が産まれる、この法案を廃案にするような非人道的な議員や政党は徹底的に糾弾されるだろう」と思いました。
 このときの厚生労働省交渉で、「短期(6ヵ月)雇用の創出を眼目にしてきた『緊急地域雇用特別交付金』にもとづく基金事業は終結させる代わりに、一般雇用につながる新たな制度を検討し、日雇労働者、建設業対策は別途の方策を考えたい」という回答を引きだしたことは大きな成果でした。
 この「交付金」は3年の時限立法で、2002年3月に切れる予定でした。これをつなぐことが、「ホームレス自立支援法」を制定することと並んだ中央行動での最大の課題でした。
 「交付金」は、2000億円だったものが3500億円に増えてつながりました。このうち200億円が大阪府に配分されることになり、その半分の100億円が大阪市、あとの100億円が府下の各市町村に配分されることになります。
 この「交付金」は、8割は人件費に使うこと、しかも4分の3は失業者の救済むけであるというきびしい要件がついています。このような要件をみたす使い方は、ホームレス対策や「あいりん対策」しかありません。
 大阪では、1999〜2001年度の旧「緊急地域雇用特別交付金」を使って、3万982人の新規雇用を創出してきた実績があります。NPOを介して事実上の「公的就労=特別清掃事業」、つまり政府が絶対やらないと公言していた「失対事業」をおこなわさせているのです。
 また、前記の事業以外に新「交付金」を使い、市内3か所にある「自立支援センター」入所者に対して、公園や病院、河川、道路などの除草・清掃業務などの就労訓練・職場実習の場を提供することにより、スムーズな職業紹介に結びつける事業をNPO釜ヶ崎支援機構に委託して実施しています(2001年度計画は延べ9594人)。
 現在、連合大阪が主催し、大阪府・市、NPO、運動団体、そして学者などで構成する「日雇労働者・野宿生活者の就労に関する研究会」で大阪型の交付金活用、就労支援策を検討しています。また、連合大阪、関西経営者協会(関経協)、労働局(国)、大阪府でつくる「大阪雇用対策会議」でも新「交付金」を使った「大阪府緊急地域雇用創出事業」(2002年度)についての協議をおこなっています。
 「ホームレス自立支援法案」と緊急地域雇用特別交付金の二つを柱に取り組んだ中央行動の翌々日、梅雨の合間の大阪城公園・大手前遊歩道は、ホームレスや釜ヶ崎の日雇労働者など約700人で熱気につつまれました。「ホームレス自立支援法」の早期成立を求める決起集会です。
 集会では、野宿生活をしいられている小林正さん(51歳)と小出洋三さん(61歳)が発言に立ち、それぞれ現在の生活の苦境と苦闘を語り、「土方でも何でもかまわないから働きたいが、仕事はまったくない」「自分で働いたカネで、温かいメシとみそ汁を食べたい」と切々と訴えました。
 わたしも、ホームレスの大多数が就労を希望していることはよく知っていましたが、改めて彼らの仕事にたいする強い熱意を再認識することになりました。小林さんたちの発言をうけてNPO釜ヶ崎支援機構の山田實理事長も、「生活保護も重要だが、政府は仕事づくりに金をだしてほしい」と訴えました。
 この集会後、ホームレスのあいだでは、連合大阪と「ホームレス自立支援法」制定にたいする期待が大きく広がったと聞いています。


「自立支援法」の早期成立をめざす

 「ホームレス自立支援法」を構想して1年余りがたった2001年11月6日、朝日新聞朝刊の一面トップに「ホームレス支援初立法」の大きな活字がおどりました。この時点で、民主党と自民党の当事者間で調整ができ、衆議院の厚生労働委員会にはかられる段取りになっていました。
 最終の成案づくりには連合大阪も参画し、上京もしました。しかし、朝日新聞の報道があった直後から国会の舞台は暗転します。「与党責任者にはかっていない」「自民党政審会長も知らない」などと、与党内の調整がつかなかったのです。
 そして自民党など与党は、この時期にあらためて「ホームレス特別立法プロジェクト・チーム」を発足させ、「与党案づくり」にとりかかりました。ほぼ成立寸前までいっていた「ホームレス自立支援法案」は、第153臨時国会で継続審議となり、舞台は2002年1月からの第154通常国会にうつりました。
 昨秋の臨時国会で「ホームレス自立支援法案」が継続審議扱いになった理由には、国会レベルでの調整不調もさることながら、大阪レベルの「根回し」不足も否めません。政党の面子で法案がつぶされるのも心外ですが、「ホームレス自立支援法案」にたいする大阪市の「3つの意見」が調整不調の要因とされたことも残念でした。
 大阪市の「3つの意見」とは、第一にホームレスの強制排除の手続きを簡易にすること、第二にホームレスに公営住宅の提供の余地はないということ、第三にNPOなど民間団体の意見を反映させていたら行政が混乱するということです。
 第一の強制排除については、国連・社会権規約委員会の日本にたいする所見のなかで、「全国、とくに大阪にホームレスの人々が多数存在することに懸念し…強制立ち退き、とりわけホームレスの人々の仮住まい場所からの強制立ち退きについても懸念」していることに留意すべきです。
 第二の公営住宅については、ホーム(住宅)政策なしのホームレス対策とは何かが問われます。
 第三の民間団体の意見の反映については、民間団体の意見を聞いてこそ法の実があがる
というものです。まさに、オリンピック誘致を進めてきた大阪市の人権水準が問われます。
 「ホームレス自立支援法案」は今後、与野党の調整・協議がおこなわれ、衆参両院の厚生労働委員会で議論されます。平行してNPOを含めた運動団体の意見聴取もあるでしょう。
 そのなかで堅持したい一つめは、「ホームレス自立支援法」の目的のなかにホームレスの予防を明記することです。
 二つめは、住居については「安定した居住場所」ということではなく、「公営住宅」とすることです。「安定した居住場所」とするなら、一時的な避難所であるシェルターでもよいということになりかねません。住宅政策が抜けおちたホームレス対策法はありえません。
 三つめは、NPOなど民間団体の意見を反映させるということです。単に民間団体の意見を聞き置くということでは効果的な運用ができません。
 四つめは、ホームレスの排除の問題は「ホームレス自立支援法」になじまないので、除くことが望ましいでしょう。
 五つめは、「ホームレス自立支援法」の適用地域を指定することについては慎重にする必要があります。ホームレスが多数存在する地域にのみ「自立支援法」を適用すれば、“指定された地域に行けば何とか暮らせる"と、ホームレスの流入が激増する懸念があります。
 これらをふまえ、「ホームレス自立支援法案」の与野党協議に連合大阪の意見を述べていきたいと思います。連合中央も継続審議になった「ホームレス自立支援法案」の実現を政策制度要求のなかに方針化しており、ホームレスの当事者やNPO、大衆運動団体、各政党と協力して早期成立をめざしていきたいと考えています。
 労働運動が21世紀に新たな発展をとげるためには、NPOや大衆運動団体など広範な人々と協力して自己変革をとげることが重要です。
 これまでの組織労働者は、職場のなかだけの運動しかしておらず、自分の家や地域に帰ったらほとんど何もしてきませんでした。組織労働者が地域に帰ってボランティアをしたり、地域住民の運動にかかわることはほとんどありませんでした。
 ある意味では、それほど残業が多く、過労死がはやるような労働の実態があり、結局、家に帰ったら寝てしまうというのが現実でした。しかし、これからは、労働組合も地域と共存し、地域と職場を両立させる時代になってきています。労働者も、家に帰れば地域の活動に参画するなど、ライフスタイルを変えていかなくてはならない時代なのです。
 わたしたちは今後も、ホームレスの自立支援、障害者の雇用支援、外国人労働者と共存など労働運動本来のNPO活動をつうじて、もっとも苦労している仲間たちと連帯し、大衆運動によって社会正義と社会的公正を実現していきたいと考えています。


ホームレースの自立の支援等に関する特別措置法案
目次
第1章総則(第1条−第6条)
第2章基本方針及び実施計画(第8条・第9条)
第3章財政上の措置等(第10条・第11条)
第4章民間団体の能力の活用等(第12条−第14条)
附則


第1章総則.(目的)
第1条 この法律は、自立の意思がありむがらホームレスとなることを余儀なくされた者が多数存在し、健康で文化的な生活を送ることができないでいるとともに、地域社会とのあつれきが生じつつある現状にかんがみ、ホームレスの自立の支援ホームレスとなることを防止するための生活上の支援等に関し、国等の果たすべき責務を明らかにするとともに、ホームレスの人権に配慮し、かつ、地域社会の理解と協力を得つつ、必要な施策を講ずることにより、ホームレスに関する問題の解決に資することを目的とする。
(定義)
第2条 この法律において「ホームレス」とは、都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の、場所とし、日常生活を営んでいる者をいう。
(ホームレスの自立の支援等に関する施策の目標等)
第3条 ホームレスの自立の支援等に関する施策の目標は、次に掲げる事項とする。
1.自立の意思があるホームレスに対し、安定した雇用の場の確保、職業能力の開発等による就業の機会の確保、住宅への入居の支援等による安定した居住の場所の確保並びに健康診断、医療の提供等による保健及び医療の確保に関する施策並びに生活に関する相談及び指導を実施することにより、これらの者を自立させること。
2 ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者が多数存在する地域を中心として行われる、これらの者に対する就業の機会の確保、生活に関する相談及び指導の実施その他の生活上の支援等により、これらの者がホームレスとなることを防止すること。
3 前2号に掲げるもののほか、宿泊場所の一時的な提供、日常生活の需要を満たすために必要な物品の支給その他の緊急に行うべき援助、生活保護法(昭和25年法律第144号)による保護の実施、国民への啓発活動等によるホームレスの人権擁護、地域における生活環境の改善及び安全の確保等により、ホームレスに関する問題の解決を図ること。
2 ホームレスの自立の支援等に関する施策については、ホームレスの自立のためには就業の機会が確保されることが最も重要であることに留意しつつ、前項の目標に従って総合的に推進されなければならない。
(ホームレスの自立への努力)
第4条 ホームレスは、その自立を支援するための国及び地方公共団体の施策を活用すること等により、自らの自立に努めるものとする。
(国の責務)
第5条 国は、第3条第1項各号に掲げる事項につき、総合的な施策を策定し、及びこれを実施するものとする。
(地方公共団体の責務)
第6条 地方公共団体は、第3条第1項各号に掲げる事項につき、当該地方公共団体におけるホームレスに関する問題の実情に応じた施策を策定し、及ぴこれを実施するものとする。
(国民の協力)
第7条 国民は、ホームレスに関する問題について理解を深めるとともに、地域社会において、国及び地方公共団体が実施する施策に協力すること等により、ホームレスの自立の支援等に努めるものとする。

第2章 基本方針及び実施計画
(基本方針)
第8条 厚生労働大臣及び国土交通大臣は、第14条の規定による全国調査を踏まえ、ホームレスの自立の支援等に関する基木方針(以下「基本方針」という。)を策定しなければならない。
2 基本方針は、次に掲げる事項につい策定するものとする。
1.ホームレスの就業の機会の確保、安定した居住の場所の確保、保険及び医療の確保並びに生活に関する相談及び指導に関する事項
2.ホームレス自立支援事業(ホームレスに対し、一定期間宿泊場所を提供した上、健康診断、身元の確認並ぴに生活に関する相談及ぴ指導を行うとともに、就業の相談及びあっせん等を行うことにより、その自立を支援する事業をいう。)その他のホームレスの個々の事情に対応したその自立を総台的に支援する事業の実施に関する事項
3 ホームレスとなることを余儀なくされるおそれのある者が多数存在する地域を中心としで行われるこれらの者に対する生活上の支援に関する事項
4 ホームレスに対して緊急に行うべき援助に関する事項、生活保護法による保護の実施に関する事項、ホームレスの人権の擁護に関する事項並びに地域における生活環境の改善及び安全の確保に関する事項
5.ホームレスの自立の支援等を行う民間団体との連携に関する事項
6.前各号に掲げるもののほか、ホームレスの自立の支援等に関する基本的な事項、
3 厚生労働大臣及び国土交通大臣は、基本方針を策定しようとするときは、総務大臣その他関係行政機関の長と協議しなければならない。
(実施計画)
第9条 ホームレスに関する問題の実情に応じた施策を実施する場合において当該施策を実施するための計画(以下「実施計画」という。)を策定する必要があると認められる都道府県は、基本方針に即し、実施計画を策定しなければならない。
2 前項の規定により実施計画を策定した都道府県の区域内の市町村(特別区を含む。以下同じ。)は、ホームレスに関する問題の実情に応じた施策を実施するため必要があると認めるときは、基本方針及び前項の実施計画に即し、当該市町村における実施計画を策定しなければならない。
3 都道府県又は市町村は、実施計画を策定するに当たっては、地域住民及びホームレスの自立の支援等を行う民間団体の意見を聴くように努めるものとする。

第3章 財政上の措置等
(財政上の措置等)
第10条 国は、ホームレスの自立の支援等に関する施策を推進するため、その区域内にホームレスが多数存在する地方公共団体及びホームレスの自立支援等を行う民間団体を支援するための財政上の措置その他必要な措置を講ずるように努めなければならない。
(公共の用に供する施設の適正な利用の確保)
第11条 都市公園その他の公共の用に供する施設を管理する者は、当該施設をホームレスが起居の場所とすることによりその適正な利用が妨げられているときは、ホームレスの自立の支援等に関する施策との連携を図りつつ、法令の規定に基づき、当該施設の適正な利用を確保するために必要な措置をとるものとする。

第4章 民間団体の能力の活用等
(民間団体の能力の活用等)
第12条 国及び地方公共団体は、ホームレスの自立の支援等に関する施策を実施するに当たっては、ホームレスの自立の支援等について民間団体が果たしている役割の重要性に留意し、これらの団体との緊密な連携の確保に努めるとともに、その能力の積極約な活用を図るものとする。
(国及び地方公共団体の連携)
第13条 国及び地方公共団体は、ホームレスの自立の支援等に関する施策を実施するに当たっては、相互の緊密な連携の確保に努めるものとする。
(ホームレスの実態に関する全国調査)
第14条 国は、ホームレスの自立の支援等に関する施策の策定及び実施に資するため、地方公共団体の協力を得て、ホームレスの実態に関する全国調査を行わなければならない。

附 則
(施行期日)
第1条 この法律は、公布の日から施行する。
(この法律の失効)
この法律は、この法律の施行の日から起算して10年を経過した日に、その効力を失う。
(検討)
第3条 この法律の規定については、この法律の施行後5年を目途として、その施行の状況等を勘案して検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。