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会報 NPO釜ヶ崎 36号

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ホームレスの自立の支援等に関する基本方針」の見直し年にあたって

新年明けましておめでとうございます。今年は、 2002年の「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」の制定から5年を経過し、法に基いて策定された「基本方針」の見直しの年になります。この間の国の野宿生活を余儀なくされる人たちへの対策は、この基本方針に基いて行われてきました。

基本方針では初めにこのように書かれています。

「現在、我が国には、自立の意思がありながらホームレスとなることを余儀なくされた者が多数存在し、食事の確保や健康面での問題を抱えるなど、健康で文化的な生活を送ることができない状況にある。一方、こうしたホームレスの多くは、都市公園、河川、道路、駅舎等を起居の場所として日常生活を送っており、地域社会とのあつれきが随所に生じている。現下の厳しい経済情勢の下、ホームレスの数は今後も増加傾向が続くと思われ、ホームレスに関する様々な問題は、今後、より一層深刻さを増すものと考えら
れる。

(中略)  本基本方針は、こうした法の趣旨を踏まえ、ホームレスの自立の支援等に関する国としての 基本的な方針を国民、地方公共団体、関係団体に対し明示するとともに、地方公共団体において実施計画を策定する際の指針を示すこと等により、ホームレスの自立の支援等に関する施策が総合的かつ計画的に実施され、もって、ホームレスの自立を積極的に促すとともに、新たにホームレスになることを防止し、地域社会におけるホームレスに関する問題の解決が図られることを目指すものである。」
国として初めて、ホームレス問題に関して法に基く施策方針を示したものとして意義を持つものでした。それから4年、施策による効果と問題点もまた浮かび上がってきています。

施策の効果

施策の効果としては、2003年におこなわれた第1回の「ホームレスの実態に関する全国調査」時に、全国で25,296人いた野宿生活を余儀なくされている人が、昨年1月の第2回調査では18,564人に減っていることとして表れています。大阪市でも前回調査では6,603人から今回4,069人へと減っています。ひとつには、自立支援センターに入所しての就職支援が進んだこと、もうひとつには生活保護による「野宿から畳の上へ」もまた進んだことによると考えられます。厚生労働省による「自治体ホームレス対策状況結果」の「ホームレスへの生活保護開始状況」によれば、2006年の1年間で大阪府内では913人が、居宅保護で生活保護の適用が開始されています。

基本方針でも「生活保護法による保護の実施に関する事項について」の中で、「 ホームレスに対する生活保護の適用については、一般の者と同様であり、単にホームレスであることをもって当然に保護の対象となるものではなく、また、居住の場所がないことや稼働能力があることのみをもって保護の要件に欠けるということはない。こうした点を踏まえ、資産、稼働能力や他の諸施策等あらゆるものを活用してもなお最低限度の生活が維持できない者について、最低限度の生活を保障するとともに、自立に向けて必要な保護を実施する。」と書かれています。

問題点の表面化

こうした施策の効果の一方で、問題点もまた表れています。昨年11月に発表された「全国調査の分析結果(全国調査検討会)」では、「今回調査時点のホームレスは、長期層(前回調査から今回調査までずっと野宿)が全体の49%を占めており、最も高い割合となっている。新規参入層は全体の33%である。再流入層(路上からいったん屋根のある場所へ移った後、路上へ再流入した層)が全体の18%いる。」と示されています。

また「全体的な高齢化の進行と新規参入層における年齢層の両極化」が示されています。「年齢構成は前回調査と比べると、55~64歳、65歳以上の年齢層で割合が増えており、全体として高齢化している。長期層では前回調査に比べ、55~64歳の割合の増加が大きく、新規参入層では45歳未満と65歳以上の両極で割合が増えている。」
この分析結果を見るに、55~64歳層が野宿からの脱出から取残されていることが見て取れます。新規流入は止まっていないとしても、45歳未満層については、ある程度は自立支援センター方式による就職支援、65歳以上層については生活保護の適用によって今後の対策は可能であろうと考えられます。

自立支援事業のあり方

その基本線に立って、自立支援センターにおいては「短期間での就職自立」のみを目的とするのではなく、就労訓練・生活訓練・障害等に対する専門的支援などを組み合わせ、通所することも可能な中期的な多角的支援センターとしていくことが求められています。
多角的支援が必要であるのは、若年層においても、精神疾患や知的障がい、発達障がいなどを抱え、社会的な援護と理解が不足しているために、それがホームレスにならざるを得なかった要因のひとつでもあり、また就職困難要因や就職後の継続困難要因となっているのではないかと思われる入所者が増えているとの報告もあるからです。「就職容易年齢のホームレス=衣食住と就職斡旋があれば、就職し継続していけるはず」と単純に問題を立てることはできず、総合的援護が必要となってきています。
通所型も必要であるのは、テント・小屋がけ等の「固定層」と呼ばれる人たちを中心に、自立支援センターから就職・アパート確保へと進めなかったときに戻る場所がなくなってしまうことへの不安や、集団生活を苦手とするなどの理由で、入所施策へとつながることが難しい人も多くいるからです。
また、巡回相談員と会ったことがない人も一定数いるため、待ち受け型の相談所を設置し、施策への入り口を広げる必要もあります。

生活保護施策のあり方

生活保護においては、保護申請の前後と、再野宿化を防止するための保護開始後のフォローが重要となります。 保護開始後の孤独感やアルコールやギャンブル等の問題をどうフォローするかはきわめて大切であるが、その領域はNPOのような民間団体が下支えしているのが現状です。福祉事務所など行政機関だけでできるものではないのですから、そうした民間団体へのフォロー事業の委託や助成が必要です。また、生活保護の運用においても、就職努力や就労事業への従事と結びつけた生活保護適用の下限年齢の引き下げ(現行、大阪市では60歳以上が目安になっている)によって、より多くの中高齢者がセーフティネットに乗れるようにすることが必要です。

就業機会確保施策のあり方

さて、最大の問題である55~64歳層への施策をどうするかです。大阪では高齢者特別清掃事業が就労機会の提供としておこなわれていますが、大阪府や大阪市の単独事業であって国からの補助はないため、財政難を抱える自治体だけでは維持するのが困難な状況が続いています。

基本方針では「ホームレスの就業の機会の確保について」の中で「常用雇用による自立が直ちには困難なホームレスに対して、清掃業務や雑誌回収等の都市雑業的な職種の開拓や情報収集・情報提供等を行う。」と書かれていますが、都市雑業的な職種を民間での開拓だけで確保することはきわめて困難であり、また情報提供だけではきわめて不十分です。「常用雇用による自立が直ちには困難なホームレスに対して、清掃業務や雑誌回収等の都市雑業的な職種、ならびにリサイクルや公園管理・駐輪整理など環境改善事業的な職種の開拓や就労機会の提供、情報収集・情報提供等をおこなう。また、就業機会の提供や訓練事業を実施する事業主への助成等を実施する。」と書き改められ、自治体による就労機会の提供や、民間団体による就業事業の創出に財政基盤が確保されるようにすることが望まれます。

「都市雑業」という考え方からもう一歩踏み込んで、「自然環境や都市生活環境の改善」をおこなう環境改善事業等「社会的に必要な労働領域」において、就労機会の提供としておこなう積極的な位置づけが必要だといえます。それを土台事業とした上で、就業事業や訓練事業を実施する事業主への助成等により「社会的企業」を育成し、次のステップを技能講習事業等から就業事業への従事へとつなげていくことが求められています。「社会的就労事業による就労自立への階段」を整備することが必要です。

実状に応じたシェルターのあり方

あいりん臨時夜間緊急避難所は、単泊型シェルターとして設置されており、利用者が最大になる5月期で1日平均約900人、少なくなる夏で1日平均約550~600人が利用しています。毎日並んで毎日整理券をもらい、毎翌朝に退所しなければなりません。この利用形態は、緊急にとりあえずの寝場所を確保しなければならない人にとっては有効ですが、単泊型のシェルターを自立のための土台にすることはきわめて困難です。本年10月にあいりん臨時夜間避難所で実施した「利用者アンケート」でも、利用者の6割「ほぼ毎日利用している」と答えており、月平均20日以上利用している人を加えると8割が固定的な利用者であることが分かっています。
現状を踏まえて常設型(残念ながら今年度で閉所が決まりましたが、大阪城仮設避難所のようなシェルター)・期間利用型(常設型と単泊型の中間型)シェルターの設置の推進がはかられ、実状に応じて機能ごとにシェルターの設置・転換が推進されることが望まれます。

予防策と若年者対策の必要性

「全国調査の分析結果(全国調査検討会)」で「新規参入層は全体の33%である」と分析されています。新たにホームレスにならざるを得ない人は後をたちません。高齢の日雇労働者が野宿生活にならざるを得ない状態は今も変わっておらず、特別清掃事業など自治体等による就労機会の提供に対して国の補助が行われ、予防策としてより拡大されることが必要です。
一方、日雇派遣や期間雇用など非正規雇用で不安定就労を転々とせざるを得ない若者も増えており、国の推計でも5400人が「ネットカフェ難民」状態にあるとされています。その中には、ネットカフェ等や住込みの派遣の間に野宿生活をはさむ「ホームレスとのボーダー層」が一定数存在していることが、NPO釜ヶ崎の調査によっても分かってきています。また、この1年、福祉相談や就職相談に訪れる「建設日雇を主な就労先としない若年者」が増加してきています。不安定就労・不安定住居の若年労働者もまた、高齢日雇労働者とともに、ホームレス寸前あるいは実質ホームレス状態に置かれています。彼らに対するホームレス化予防策を、高齢日雇労働者への予防策とともに、安定した就労と安定した住居の確保・社会的援護により図っていくことが求められています。

 NPO釜ヶ崎支援機構では、昨年12月26日に内閣府でおこなわれた国(内閣官房・厚生労働省・総務省・国土交通省・警察庁・法務省)による6自治体と民間3団体からの基本方針に関する意見聴取会においても、上記のような意見を表明しました。

また、本年2月6日と7日には、下記の内容で「ホームレス支援全国ネットワーク(代表世話人・北九州ホームレス支援機構・奥田理事長)」によるシンポジウムと国会での院内集会、ならびに厚生労働省との折衝をおこないます。

2月6日(水) シンポジウム
正午~午後8時(11時30分開場) 
テーマ:「ホームレス自立支援から
新しいセーフティーネットの構築への展開」

共催 大阪就労福祉居住問題調査研究会・ホームレス支援全国ネットワーク 
後援  大阪市立大学都市研究プラザ・
大阪府立大学社会福祉研究機構 
(場所)   東京・永田町 憲政記念会館

2月7日(木) 「基本方針見直しに向けて」
 院内集会と厚生労働省交渉

 


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