野宿生活者が支えるリサイクル最前線
命の糧となるアルミ缶
▲圧縮されたアルミ缶
皆さんが、毎日飲んでおられる缶ジュースや缶ビールの空き缶の重さをご存じの方は少ないでしょう。中身が詰まっている缶飲料は、例えば、10人分をまとめて買って100メートル運ぶとすると、どれくらいしんどいか、重さが気になります。しかし、飲み終わった空き缶は、勿論、ポイ捨てはいけませんが、たいていは近くに捨ててしまいますから、重さが気になることはないと思います。資源ゴミの日にまとめて出す時でも、それが何キロかまでは気にとめないでしょう。
野宿生活者の中には、スチール缶はいざ知らず、アルミ缶については、空き缶の入った袋を手に持つだけで、あるいは見ただけで、「おおよそ何キロ」と重さを当てることのできる人が、沢山います。
こだわりは、重さに対してだけではありません。缶飲料を一滴も残らず飲み干そうとして、天をにらんで缶を垂直に立てても、やっぱり少量が残る。何ともしゃくな思いを抱いた経験のある方は多いと思います。アルミ缶は貴重な再生資源で、収集日が決められています。一度水ですすいで貯めておく方も多いでしょう。そのすすいだ水が、缶の中にわずかに残る。これも何ともすっきりしない心持ちになります。そんなときは、上の写真のように飲み口を下にではなく、上にして軽くふると中身がスッキリ出る。そんな知恵も、缶をきれいにするこだわりの中から身に付けています。
野宿生活者は、なぜ、アルミ缶の重さや中をきれいにすることにこだわりを持つのでしょうか。それは、アルミ缶が彼らの命の糧であるからです。
左の写真のように、まだ陽の上がらぬ早朝から、アルミ缶集めをし、それを売ることによって、現金収入を得る。野宿生活者は、「無為徒食」では生きていくことができません。大阪市内では、業者によって価格は違いますが、最低価格が1キロ85円、最高価格が1キロ105円です。現在、最も多い買い取り価格は1キロ95円です。アルミ缶を10キロ、拾い集めれば、最低価格で買い取る業者に持っていっても850円の収入となります。今自分が持っているアルミ缶が何キロで、売ると幾らの現金収入となるかは、野宿生活者にとっては大きな関心事です。
空き缶を、灰皿代わりに使う人がいます。アルミ缶は、集められ、圧縮され、粉砕されて、再使用されます。タバコの吸い殻などが混ざっていると、それを取り除かなくてなりません。買い取り業者によりますが、空き缶の中に吸い殻などが入ったまま持ち込むと、出入り禁止になる、買い取ってもらえなくなる、ということもあるようです。足で踏みつぶす前に、中を確かめ、水洗いをしてゴミを出すという作業もするから、水切りのコツも身に付くのです。
多くの野宿生活者が、市内各区の資源ゴミの収集日に関心を持っています。野宿生活が長くなれば、収集車の順路もよく知っており、収集車の先回りして食い扶持を確保しています。自転車やリヤーカーで周辺の市まで足をのばす人もいます。逆に西淀川区などには、尼崎から回収に来る人もいます。
上の表は、西成区萩之茶屋周辺を中心に野宿生活しながら、各区の資源ゴミの日を中心にアルミ缶集めをしているAさんの収集実績です。自転車で、西成区から収集場所まで出かけていきます。時には前日から出かけ、公園などで仮眠して作業にかかることもあります。そんなとき、花火をぶつけられたこともあるそうです。
まだ、自転車で集め始めて日が浅いので、自転車に積む要領が悪いが、慣れてくれば30キロぐらいは積めるようになるだろうといっています。問題は、収集量が増えると缶を潰す時間が長くなることだそうです。西成区の業者に買い取ってもらっていますから、潰さないことには多くの量を持って帰ることができません。潰す時間が省ければ、もつと集めることができるのに、と嘆いています。仕事を失った野宿生活者が、生きるためにおこなっているアルミ缶収集にご理解を!
特定非営利活動法人 釜ヶ崎支援機構とは
釜ヶ崎支援機構は、「特定非営利活動促進法」にのっとり1999年に大阪府知事の認証を受け、法人登記している、いわゆる「NPO法人」=公益市民活動団体です。野宿生活者と野宿に至るおそれのある人々を支援します。