46-参-社会労働委員会-29号 昭和39年06月02日
昭和三十九年六月二日(火曜日)
午前十時四十一分開会
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出席者は左のとおり。
委員長 鈴木 強君
理 事
亀井 光君
高野 一夫君
柳岡 秋夫君
委 員
加藤 武徳君 紅露 みつ君 佐藤 芳男君
徳永 正利君 丸茂 重貞君 横山 フク君
杉山善太郎君 藤原 道子君 小平 芳平君
林 塩君
衆議院議員
発 議 者 吉田 賢一君
国務大臣
厚 生 大 臣 小林 武治君
政府委員
厚生大臣官房長 梅本 純正君
厚生省医務局長 尾崎 嘉篤君
厚生省薬務局長 熊崎 正夫君
厚生省児童局長 黒木 利克君
事務局側
常任委員会専門
員 増本 甲吉君
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本日の会議に付した案件
○社会保障制度に関する調査(輸血問 題に関する件)
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○藤原道子君 私は、大臣にお伺いをいたしたいと思います。私は、このごろ毎日の新聞を見るたびに胸の痛む思いでおります。大臣もおそらくごらんになっていると思うのでございます。私は、かつて当委員会において、売血制度によって梅毒に感染した人が相次いで起こりましたときに、本委員会でこの輸血に対する対策、あるいはその方法、それから、病気になった場合の国の責任、こういうことについて御質問したことがございます。その当時、この問題は重要でございますので、こういうことが再び起こらないように努力をいたしますと、こういう御答弁でございました。ところが、最近非常に売血が問題になっておる。私いろいろ調査してみましたけれども、これで一体いいんだろうか、日本の厚生行政がはたしてこれでいいんだろうかというふうな、非常に怒りに似たものを持つものでございます。新聞の報ずるところのみならず、実際に血清肝炎にかかって泣いておる人を私は身近に持っておりますが、この供血制度と申しましょうか、輸血の制度に対して厚生省は一体どのような対策を立てておいでになるか、現状は一体どうなのかということについて、まず最初にお聞かせを願いたいと思います。
○国務大臣(小林武治君) この問題は、私率直に申して、厚生省の行政の一つの弱点であると、こういうふうに思っております。従来のような、多くを売血にたよっておるという制度は適当でない。したがって、こういう行き方を改めて、そして、少しでも世間が安心できるような制度に移行させなければならぬ、こういうふうに原則的に考えております。現状とか、これらのいろいろのやり方等につきましては、局長から御説明申し上げますが、私どもとしては、これが大きな改革をしなきゃならぬ問題だと、こういうふうに考えております。
○政府委員(熊崎正夫君) 現在の日本の血液の需要供給の状況が、藤原先生御指摘のように、その大部分がいわゆる固定化されました売血者からの血を求めるというふうな現状になっておりますることは御指摘のとおりでございます。これはやはり近代の医学技術の進歩に伴いまして、手術の際に輸血を実施するという件数が非常にふえてまいりました。年次別に申し上げますと、非常に目ざましい需要になってきておりまして、現在のところ、大体六十万リットル程度の需要というものが見られるわけでございます。ところが、その血液の需要に応ずる供給のほうがとてもまかないきれないというふうなことでもって、新聞紙上で取り上げられておりますように、特定の供血者層から血を求めるというふうな形にまでなってまいりまして、いわゆる特定層じゃない一般の、通常の方々から血液を、献血なり、あるいは預血という形で出していただくという運動が日赤を中心に行なわれておりますけれども、その伸びがなかなか円滑にまいっておりませんで、非常に供給量としては少ないパーセントを示しておるわけでございます。こういう現状につきまして、私どもとしては何とか是正をしたいということで、日赤の献血運動につきましては、毎年献血運動の促進計画を進めておりまするけれども、何と申しましても、予算的な面、あるいは人員の面で制約がございまして、予算上は昭和三十七年度から日本赤十字社に対しまして移動採血車の国庫補助金を認めるという形で推進してまいっておりますが、現在のところ、まだわずかに全国で二十二台、三十九年度の五台分を含めまして、二十二台の移動採血車の国庫補助金が出てまいった程度でございまして、まだまだこの方面の伸びは微々たるものでございます。したがいまして、私どもとしましては、一応現在ではこういう売血制度というものを何とか改めていきたいという考え方のもとに年次計画を立てて、行く行くは売血を大体五〇%、それから献血、預血を五〇%、フィフティー・フィフティーぐらいのところまではぜひ近い将来にその方向まで持っていくということで努力をいたす覚悟でございます。各国の状況におきましても、売血制度が全然行なわれておらないということではございませんで、アメリカあたりにおきましても、やはり売血という形は二、三〇%は残っておるわけでございますが、わが国におきましては、なるべく売血を押えて、献血、預血の方向に持っていくという形で今後積極的に努力をいたすつもりでございます。ただ、一挙に売血制度をこの際全部やめてしまうということは、片一方におきまして貴重な人命の問題にもつながることでございますので、一挙にこういう問題を解決するということはなかなかむずかしい問題でございますから、逐次そういう方向で努力をいたす覚悟でございます。
○藤原道子君 一昨年、国際輸血会議が日本で開かれたときに、日本ではまだ売血制度をとっておるのかと指摘されて、国際的に恥をかいたはずなんです。いまあなたは、アメリカでも相当残っておるとおっしゃますが、アメリカでは約一〇%売血は残っておるけれども、その売血に対する基準は非常にきびしいものがある。ドイツは終戦後は日本と同じように売血でございましたけれども、これは非常に弊害が多い。ドイツではこの病気に戻ってくるということばがあるそうでございますね。そういうことで非常な努力で切りかえまして、同じ敗戦国であるドイツでほとんど売血制度はないということを私は資料で承知いたしました。イギリスでも国の責任でやっております。あるいはフランス、オランダ、スイス、スエーデン、フィンランド、オーストラリア、ほとんど理想的に運営されておる。売血が残っておるのはアジア・アフリカ地区とかイタリアに残っておる。私、敗戦国であるドイツで、終戦後は日本と同じ売血であったのが、今日それがもう献血、供血に切りかえられて、売血はあとを断ったということを聞きますときに、政府が努力すればできるのだということを私は感じております。日本の場合は、アメリカだって残っておるというけれども、アメリカに残っておるのは一〇%、しかも、売血の基準がきびしくて、それは日本の比ではないのです。アメリカに残っておるから日本に残ってもいいというわけにはまいりません。
それから、この問題は長い懸案でございましたのに、ことしの三十九年度分の五台を含めて全国で二十二台、あまりに政府の施策は貧弱だと思う。しかも、私はここに容易ならざることを新聞記事で承知いたしまして、まさかと思って聞きましたら、そのとおりなんです。売血制度は禁止すべきだと数年前から声を大きくして恐怖を訴えたかったのだけれども、厚生省が、何とかするから不安を起こさないようにしてもらいたい、赤十字は赤十字の道を静かに歩いてくれ、そういうようなことであったから一般に訴えなかったと村上さんが言っている。輸血も大事です。けれども、入院患者さんたちが、輸血して手術で病気はなおったけれども、血清肝炎のためにいつなおるかわからない、三カ月も五カ月も六カ月も入院しておる人があるじゃございませんか。にもかかわらず、不安を与えるからといって、PRして危険を訴えることは押えておって、そうして一方においては何らの措置も講ぜられていない。二口目にはいま予算がと、こう言うのですが、大臣、幾ら経済が高められても、結局は国民の健康が失われたら何にもならないじゃないですか。予算にしばられて大事な輸血の問題すら解決ができないということで相済むでございましょうか。大臣にお考えを聞きたいと思います。
○国務大臣(小林武治君) これはお話のとおり、厚生省も十分反省をして、いまのお話のようなことを推進することにつとめなければならぬ、かように考えます。
○藤原道子君 大臣は当時の大臣ではないから、あなたを責めると気の毒だと思うけれども、厚生行政ですからね、事は重大だと思うのです。しかも、売血の方法が問題なんです。売血の方法に問題がある。関東は、ほとんど東京が四〇何%みんな山谷その他の、何といいますか、人たちなんです。それから関西の一〇何%というのは、これは釜ケ崎です。あるいは関東というのは横浜と、いずれも底辺の人が血を売っている。ついには血が黄色い血になって、血球のないような血が売られている、これでいいんでしょうか。私は、これはほんとうにこのままでは済まされないと、心からの怒りを持っているのです。ところが、ある人は、日赤のほうでは肝硬変、血清肝炎ですか、これは一〇%から四、五%、三、四〇%。ところが、これが自衛隊の中央病院あたりでも六〇%ぐらい、自衛隊ですよ。それから伝研の先生のおっしゃるのも六〇%、百人輸血して六十人もこうした異変におかされておるということをいままでよく私は看過してきたと思う。食えないから血を売る。それで一日に、ひどいのになると、きょうもおれは八本目を抜いてきた、こういう人もいるのです。私は直接血を売っておる人に会ってまいりました。血を売る人にも会えば、こういう名前の出た人の御意見もそれぞれ聞いてみて身ぶるいがいたしました。その売血する場所でも、腕だけ出せばいいのですから、寝かされて窓から腕を出して、ここに許可になった判こを見せれば、そのまま顔色も何にも見ずにやっている、こういう制度でいいのでしょうか。こういう現状をごらんになったことがあるかどうか。
さらに、医務局長ありますね。こういう血清肝炎が相次いで起こっておるというような危険な血を輸出するのをきょうまでなぜ知っていて見過ごしておいでになったのですか。命を預かる責任者として許されないと思う。これらについてのお考えを伺いたい。
○政府委員(熊崎正夫君) 藤原先生御指摘の点、血清肝炎の問題でございますけれども、血清肝炎の問題につきましては、実は確かに学者の方々の御意見の中にも、やはり現在の血液製剤といいますものが、非常に固定化しました売血者群から血液をとっておる、それによって血清肝炎がふえておるのではなかろうかという御意見を発表されておられる先生もおられますけれども、血清肝炎というものがどうして起こるのかという学問的な研究につきましては、これは世界各国を通じまして、やはりまだ全然未確定といいますか、わからないという形になっておるわけでございまして、やはり血液を供給する場合に、病原体保持者から採血するということでもって起こるだろうということはわかりますけれども、血清肝炎をそれじゃいかにして事前に防ぐかという検査方法その他につきましては、的確なものが現在のところ全然確立されてないわけでございます。これにつきましては、私どもとしては、的確な診断方法、あるいは予防対策、治療方法等のために、今後とも積極的に学界の先生方に協力を呼びかけまして、その内容の確立につとめる所存でございますけれども、しかし、一部のほんの少しのデーターではございますけれども、献血輸血によった場合と、それから売血制度によった場合の血液製剤を比べてみますと、確かに血清肝炎の発生率が売血によった血液製剤による場合のほうが多いという一部のデーターは出ております。しかし、原因につきましては、これはまだ究明ができておらないというふうな形でございます。それで、血清肝炎の発生状況につきましても、各病院によってそれぞれデーターは違っておりますけれども、私どもが学界の先生方に聞きましたところでは、大体一五%から二〇%くらいの血清肝炎の発生率はあるのではなかろうか、こういうふうなことを申しておる学者もおるわけでございます。
それで、問題は、血清肝炎を防止する方法というものがなかなか見つからないということでございますけれども、ただ、先生御指摘のように、現在採血をする場合に何ら消毒も何もなしに、非常な不潔な場所で行なわれるというふうな点は、これは私どもとしては絶対にそういうことのないように、各都道府県を督励をいたしまして、一般血液銀行の監視は積極的に強化するように指示いたしておるわけでございまして、私もその現場を薬務局長になりましてから見に参りましたけれども、ただ、こちらのほうでこういう場合には採血をしてはいけないという基準を十分に守るように厳重に指示いたしております。藤原先生よく御存じでございますが、厚生省令でもって採血をしない場合の基準というものがございまして、少なくとも月に一回以上は採血してはならないとか、あるいは比重が一・〇五二未満のものはだめだとか、あるいは妊娠をしておる場合はだめだとか、いろいろな基準がございます。この雄準を厳重に守らせるように、各都道府県を通じて、監視の強化を訴えておるわけでございますけれども、ままその間、十分取り締まりが厳重でないために、あるいは先生御指摘のような場合がなきにしもあらずということも考えられますので、この点は厚生省令に基づきます基準を十分守るように今後とも努力をしてまいりますと同時に、やはり先生御指摘のように、現在の売血制度にたよる血液製剤の入手方法といいますものは、私ども決していいということを申し上げておるわけじゃございませんので、これをすみやかに今後改革していくということであらゆる知能をしぼりまして、今後とも改善の方向に進めるように努力してまいりたい、こういうふうに思っておる次第でございます。
○政府委員(尾崎嘉篤君) 血清肝炎が輸血をいたしました患者さんに起こるという問題は大きな問題としておりまして、決してわれわれも無関心でおるわけではございませんで、実は、私の親類でも一人ガンの手術をしましたあと、血清肝炎でなくなったというのがおりますので、私も十分この問題は関心を持っておる問題でございます。また、学者におきましても、いま薬務局長から話がありましたように、各国とも一生懸命になって研究をしておるところでございます。国立病院におきましても、国立病院で血清肝炎研究班というようなのをつくりまして研究もしたということがあるくらいでございまして、われわれもこの実体の把握とか対策にはいろいろ頭を悩ましておるところでございます。いま血清肝炎のパーセントでいろいろの話がございましたが、黄疸が出まして典型的な肝炎の症状をあらわしておりますものをつかまえますと一%とか二%とかというくらいの数字が出ますが、今度は少し黄疸の出ないものも肝炎を起こしてないかというふうに、積極的に血液を調べる、たとえばGOTとかGPTとかいうような方法で調べるとか、また肝臓に対してバイオプシーをやるということで調べますと三〇とか五〇にふえてくる。だから潜在的に肝炎を起こしておるものがかなり多いということでございます。したがって、いろいろ数字が学者によりまして違っておる状態でございます。国立病院の共同研究班の数字では、七千四百六十三例調べましたうち、血清肝炎を起こしたものは五・二プロというような状態でございます。非黄疸性のものを含めますと三〇%ないし五〇%にこれが上がってまいっております。なお、これにつきましては、先ほど薬務局長が申しておりますように、世界各国とも対策がなくて困っておるのでございまして、売血をあまりやってないというような先生から御指摘がありましたアメリカにおきまして、アメリカ陸軍のデータでございますが、これでも全血輸血でも一・五プロ、プール性の輸血と申しますから、これは保存血と思いますが、これでは十一プロ、こういうようなことでございます。したがいまして、売血でなくとも、献血輸血の制度におきましてもこの黄疸はいま防ぎ得ないのでございまして、これははなはだ残念なことで、いまから研究を大いにせねばならない問題でございます。なお、保存血、売血に多いじゃないかというデータが、いまのアメリカの陸軍のほうでも保存血のほうに多いというようなのは、どうも私、実は合点がいかないのでございますが、肝炎があるというようなことがわかっておる患者からとらないはずでございますし、そうしますと、同じチャンスで血清肝炎が起こるはずではないか、まあ考えれば、患者があまり正直に自分の前歴を、血清肝炎だということを言わぬとか、注射針の汚染によりまして、たびたび注射針を入れますので、それによって肝炎を起こす可能性があるということも考えられるかもしれません。それと、保存血を使いました場合に、たくさん血液を使っておるので、そういうような関係からその数字が多いんじゃないかということを考えまして、その点、私どものほうもいまいろいろ研究し、議論しているところでございますが、ちょっといま理由がわからないという状態でございます。いずれにいたしましても、この血清肝炎の問題は、われわれといたしまして何とか不安をなくさねば、これは患者さんにも申しわけないですが、医者のほうでも治療上に不安であり、こういうことは至急なくなるように努力をしていかなければならぬということで、努力しているわけでございます。
○藤原道子君 時間がないのでやめますが、ヨーロッパよりもアメリカのほうが多いんですよ。そのデータもすっかり私は持っております。けれども、きょうは時間がないそうでありますから、私は委員長にも御相談申し上げまして、この問題では参考人を呼びたいと思います。徹底的に私はこれをやらなければ、このままでは納得できません。ことに病気のある者からとらぬはずだと言うけれども、そんなことしちゃいませんよ、日本の場合はめちゃくゃですよ。一日二〇〇CCぐらいをというのに、牛乳びんに八本もとられてそのまま済んでいるのがいまの現状です。これは何といっても厚生省の怠慢だと思います。きょうは与党の関係もありますので、質問はこの次に譲りまして、お互に国民の健康を守るにはどしたらいいか。ヨーロッパ諸国は〇・〇三%ぐらい。ところが、かりにあなたの言う一〇%か一五%としても、百人やったら十五人はそういう病気になるんですよ。一五%ぐらいということで済ませる問題じゃないと思います。次回に譲りまして、きょうは答弁は要りません。次に採血の方法とか、いろいろの御質問をしたい。