「部落民・・・西成の人々や浮浪者・・・銃で撃ち殺せ」の
差別はり紙・JR大阪駅で発見
1 差別はり紙の内容
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月9日大阪駅JR神戸線5.6番ホームの東出入り口階段の通路壁面に、差別はり紙が張られているのを利用客が発見し、駅職員に通報した。はり紙はたて
18.2p、よこ25.7pの用紙に、黒マジックで書かれていた。文面は「
1月8日に堺市で起きた通り魔事件で逮捕された19歳の少年はオウム真理教信者であり、第2の酒鬼薔薇聖斗であり、O−157 感染者であり、西成出身の部落民です。もし、部落民(エタ・四つ)・朝鮮人や、オーム信者や、西成の人々や、浮浪者やエイズ感染者や、同性愛者や、暴力団の方々や、非行少年、凶悪犯罪者を見かけたら、銃で撃ち殺してやりましょう。」とあり「江頭2:50&金田一少年+学級王ヤマザキ」と2行に分かち書きされていた。2 部落解放同盟大阪府連の対応
部落解放同盟大阪府連は「部落民や在日コリアンなどの被差別者だけでなく、社会的に抑圧を受けている人たちの抹殺を呼びかけている悪質極まりない差別事件だとJR側に啓発活動と差別防止に向けた抜本的な対策を行うよう要請している」との主旨を
1998年3月9日付解放新聞大阪版で報じている。3「浮浪者 銃殺せよ」の扇動の意味するもの
「野宿者と釜ヶ崎労働者の人権を守る会」の立場から、このはり紙の差別性を検討すると
「西成の人々や浮浪者や…を見かけたら銃で撃ち殺してやりましょう」と存在抹殺・殺害をせよと扇動し、生存権を否定している。西成の人々や浮浪者は、校門に生首すえた酒鬼薔薇聖斗やサリン事件のオーム真理教信者と同様、市民生活をおびやかし、市民を殺害する者たちであり、排除し、抹殺市内と市民生活の安全が守れないと主張して、部落差別、在日朝鮮人差別、「釜ヶ崎」地区への差別が重層化されたいわゆる「西成差別」への予断と偏見を煽っている。
「やられる前にやり返せ」とばかりに、自己防衛の感情に訴えて、共感を得ようとしている。
お笑いタレントの江頭2:50(にじごじゅっぷん)&金田一少年と名乗り、茶化した行動だとの言訳と探偵少年の名で、犯人である自分を探して見ろ、と挑戦的な意思表示をしているといえる。
「学級王ヤマザキ」は、小学館刊の月刊コロコロコミックに連載されている樫本学ヴ作の「学級王ヤマザキ」の主人公の名であります。
現在6巻まで単行本として刊行され、帯広告には「テレビ東京、テレビ北海道、テレビ愛知、テレビ大阪、テレビせとうち、TXN九州で毎週月曜から金曜、7:05〜25放映中の『おはスタ』の番組ないで5分間放映中だ!!」と宣伝されているものです。
同漫画の登場人物紹介には「ヤマザキ…ヤマザキ王国の王子で、私立冠学園6年3組を乗っ取りにやってきた転校生。そろばん7級」とあります。
「ヤマザキウンチ」という大便をまき散らして騒動を起こすというドタバタ喜劇で、学校という規律と制度の表文化を混乱させ、破壊していく筋書きの漫画です。
「学校」という抑圧機構の中でうっ積した不満を低俗なギャグで解消してくれるということで一定の商品価値があるものと考えられます。
この「学級王ヤマザキ」を差別落書きの署名に用いることは、現状不満・抑圧のはけ口として、差別を弄び、騒がれることに快感を感じる「愉快犯」的性格があります。また自分が舞台廻しの主人公になったように感じる「劇場犯」としての性格を持っていると言えるでしょう。
4 釜ヶ崎の視点からの原因の一考察
解放新聞大阪版は「JRでは近年、滋賀県から兵庫県にかけて各駅構内にあるトイレなどに差別落書き事件などが多発していた」とも報じている。
例えば、
1996年3月には、JR京橋駅北口男子トイレに「大阪名物 四つ足部落 エッタ平民 西成アンコ コジキ ホモ ヤクザ手配師 パンスケ 牛殺し」の差別落書きが赤マジックで書かれていた。「西成アンコ」「ヤクザ手配師」らが嫌悪される者たちだとの差別感を表し、「大阪名物」としているのである。部落への差別感と連動している状況もよく似ている。
部落さべつと野宿者、寄せ場労働者等々への差別が結びついた差別落書きが現出している原因の1つとして、釜ヶ崎より大阪駅等ターミナルや地下街に野宿を余儀なくされている人々が移り住んでいて、多くの市民が日常的に接するようになった今日的状況の反映がある。それは「仕事」がない、「高齢者」の雇用がない、から出ていかざるを得ない。ローソン等の売れ残りの弁当などで「食」を満たしたりせざるを得ない為、各地に分散をしていると考えられるのである。
5 差別宣伝・扇動への法的規制の必要性
政府は
1996年1月14日に国連の「人種差別撤廃条約」を発効させたが、同条約4条のa・b項の「差別は犯罪である」として「差別の宣伝、扇動の禁止、及びそれらを目的とした団体をつくったり、加入したりすると処罰する」という条項は、日本国憲法の「言論・表現の自由、結社の自由に抵触する恐れがあるとして留保したままである。法的規制によって差別行為がなくなるわけではない。だが社会的に差別は人権侵害であり、犯罪であることを明らかにする一助ではある。
1997
年より人権擁護施策推進法により審議会がつくられ、教育・啓発については2年以内に、差別された者への法的救済については5年以内に施策を政府に意見具申することになっている。その中で「野宿者」や「寄せ場労働者への差別をどう位置づけるかということも問われているといえる。6 大阪府・市の「人権教育のための国連10年」の行動計画にも施策導入を!
同時に世界人県宣言
50年の今日、「人権教育のための国連10年」の行動計画の中に政府や大阪府・市がどう位置づけて対策を打ち出すかが問題である。大阪府の横山ノック知事を推進本部長とする「大阪府行動計画」(
1997年3月策定)には「人権問題の状況」の中で「路上生活者への暴行事件の発生、生活環境の悪化による健康面への影響など、なおさまざまなところで人権が脅かされていることに留意しなければならない」(7頁)とあるのみで、具体的対策(行動計画)は出されていない。大阪市の「行動計画」では「西成区では、同和問題、あいりん問題、在日外国人問題など他区にもまして深刻な現実があり、これらが互いに重なり合って『西成』に対する予断と偏見が形成され…人権侵害につながる」し、「路上生活者に対する集団での暴力行為」など「多くの問題があります」(
17頁)とのべている。だが具体的な施策についてはのべられていない。差別事件は単なる人権尊重の啓発だけでなくなるものではない。差別事件を引き起こして自己の存在を主張しなければならない抑圧と差別の生活実態の改革即ち差別事件の根っこをなくさない限りなくならない。だがこのような差別落書きというマイナスの攻撃性を差別と抑圧の仕掛け人=敵にむけ、権力と資本の差別支配構造を撃つプラスに転化していく「啓発活動」が重要である。(黒田伊彦)
左が、大阪駅構内に張り出された差別張り紙の全文コピーです。
赤痢の流行は「西成差別」を強める働きをするでしょう。
現実を変えなければ、「西成」への差別視は強まるばかりです。総力をあげて対策を!