ヨーロッパのホームレス問題の施策

昨年10月より、「あいりん地区問題研究会(就労に関する研究会)」が連合大阪の主催で開かれている。研究会には、労組、学識経験者、行政、民間団体が参加、自立支援センターの課題や就労施策等の野宿生活者の就労問題について議論を重ねている。その中で、イギリスやフランスのホームレス支援についても報告された。ここでは、ヨーロッパのホームレス支援について紹介する。

テキスト ボックス: ヨーロッパのホームレス問題の施策
イギリス、フランス、ドイツのホームレス支援策等の概要を付表に示す。

まず、欧州でのホームレスの定義は、日本で言う野宿生活者だけを指すものではない。簡易ホテルや一時的滞在施設に入所している人等も含む広い概念である。その数は、イングランドで10万人(1999年),フランス73万人(1998年)、ドイツ55万人(1999年)となっている。純然たる路上生活者数は、イングランド703人・ロンドン357人(2001年)、ドイツ26,000人(1999年)(フランスについては不明)とされている。

ホームレス対策の法的根拠としては、イギリスでは住宅法、ドイツでは社会扶助法があり、フランスでは複数の法で対応している。

野宿者に対する支援については、いずれの国も、シェルター等の滞在施設、食事提供、医療面の支援を行っている。

 イギリスでは恒久的住宅を確保したり、精神障害、アルコール、薬物問題を重視し、これらの専門家チームを作ってアプローチしている。

元野宿者の生活を再構築して、野宿に戻らないようにする施策として、イギリスでは、賃借権維持チームの設立や、家具の修繕等のプログラムによる、給付に依存する生活から雇用への移行を図る支援がなされている。

フランスでは、社会参入宿泊施設から社会住宅への移行の道筋が作られており、そのために必要なケアを併せて受けることができる。また就労支援として、企業での職業養成実習、雇用契約等が国の補助を受けて行われており、職業訓練として、民間団体が精神的身体的に問題を抱えた人(野宿者も含まれる)を非営利組織等に派遣、そして技能水準が上がれば企業に派遣する、といった取り組みをしている。

さらに、新たな野宿者の発生を予防するために、ドイツでは自治体が滞納家賃を肩代わりする措置を行っている。

日本では「自立支援法」が出来て間もなく、その運用の仕方を含めた今後の施策が問われている段階である。これらの欧州諸国に比べると予防目的の施策や社会再参入に必要な就労面や住宅面でのバックアップがまだまだ薄く、これらの事例から学ぶことは多い。

 

付表 イギリス、フランス、ドイツのホームレス支援策等の概要
       
  イギリス フランス ドイツ
ホームレスの   定義 @占有することができる住居を持っていない状態にある世帯の一員、  A家があってもそこに立ち入れない場合、そこが住むことが許されない車両、船である場合、Bそこが継続的に占有する理由をもっていない場合、C28日以内にホームレスになる可能性がある場合 短期間で自治的な住居にアクセスできる展望のない人々:@宿泊センター・受け入れセンター入所者、  Aホテル・家具つき部屋等の居住者、B第三者宅での居候のうちで住居アクセス手段のない・余儀なくされた宿泊者、Cロマ人等キャンピングカーや一時しのぎ住宅居住者、SDF(=住所不定者) 賃貸借契約上、保障された居住空間を持たない人。路上生活者だけではなく、一時的に知人の家に宿泊している人、安い簡易ホテル、一時的滞在施設に入所している人等も含む広い概念
ホームレス数 104,770人(イングランド・1999年) 約730,000人(1998年) 550,000人(1999年)
野宿者数 703人(イングランド・2001年),         357人(ロンドン・2001年) 不明 26,000人(1999年)
ホームレス対策の法的根拠 住宅法(1977年) ホームレスのみを対象とした法律はない。参入最低限所得手当、住宅扶助、普遍的医療保障法、「社会的排除と闘うための法律」等で対応。 社会扶助法(1961年)
野宿者対策 @野宿者に  対する施策 シェルターの設置、医療サービス、恒久的住宅の確保、精神障害・アルコール・薬物の専門家チームによるアプローチ等 @)無料電話による緊急対応、   A)緊急援助(医療、食事、寝具等) 「敷居の低い扶助」(日中滞在する施設、食事提供、移動医師、臨時宿泊所、社会扶助の基準額支給)
A元野宿者の生活を再構築し、再び野宿に戻らないようにしていく施策 @)芸術活動やワークショップの実施(野宿者に自信を持たせる施策)、A)賃借権維持チーム設立(仕事や訓練機会提供を通して住宅の賃貸契約が維持されるよう支援) B)給付に依存する生活から雇用への移行(路上新聞、家具の修繕、ガーデニング、運転免許取得等のプログラム) 社会参入宿泊施設→社会的レジデンス("住宅")→社会住宅へと移行。この間、医療保障、メンタルケア、ソーシャルワーカーの相談、家賃補助等が受けられる。就労支援として、企業における職業養成実習、企業の雇用契約(国の補助を受けての公的就労)、派遣による就労困難層の職業訓練 住宅獲得後のソーシャルワーク援助
B新たな野宿者の発生を防ぐための施策 犯罪歴のある者や軍隊経験のある者に対して、住宅、各種給付に関する相談の実施   「特別な場合の生活扶助」(自治体による滞納家賃の肩代わり措置)

○引用・参考文献:(1)福原宏幸編(2002):小特集:ヨーロッパにおけるホームレス問題への挑戦.経済学雑誌,102巻 3・4号,1-55.

(2)嵯峨嘉子(2002):ホームレスと社会扶助.雇用政策と公的扶助の交錯,御茶の水書房,東京,pp.203-219.