ある夜、突然ドアをノックする音が。時計は夜の9時を過ぎている。「こんな時間に誰が?」とAさん(仮名)はドアを開ける。背広姿の2人組がいて、「貸した金を返してもらいに来た」と言う。借金をした覚えは無い。何の事かと聞くと「 20年前のAさんの奥さんの作った借金だ。ある会社から債権譲渡を受けて、取立てに来た」と言う。彼らは続けて「Aさんはその貸し金の保証人になっている」と借用書らしき書類を見せた。
確かに保証人欄に自分の名前の署名捺印があるが、筆跡は明らかに自分のものではない。不審に思いながらも、夜中の突然の訪問に虚をつかれ、恫喝めいた台詞にすっかり狼狽したAさんは、言われるままに、5000円を払ってしまった。さらに2人組は「これから毎月月初めに、1万円ずつ支払え」とのことで、会社名と口座番号の印刷された振込用紙の束を残していった。
これはサギだ。実際にはそのような債務は無かったに違いない。前述のようにAさんには借金をしたことは無いし、奥さんの借金の保証人になったこともない。もちろん、Aさんが知らない間に別れた奥さんがAさんを保証人に仕立て上げた可能性も否定できない。しかし、そもそも、督促に来た二人が名刺も渡さないのは変だ。会社の連絡先・所在地も分からない。唯一の手がかりは振込用紙に印字された「日本債権株式会社」という会社名だけだった。
翌日、Aさんは警察に被害届を出した。警察でも、最近この手のサギ被害 -ありもしない借金の取立てで金を騙し取る- が増えていると聞かされた。(裏にも関連記事)
Aさんの場合は架空の借金だったのですが、他にも身に覚えの無い借金や携帯電話料金の支払請求や督促をされた、という人は驚くほど多く、その大半は住民票や印鑑証明を何者かに悪用されたもののようです。今住んでいるアパートに住民票を移そうとして、調べてみると知らない間に住民票が動かされていて、「変だな」と思っていると、しばらくして督促状が届くというパターンです。中には何千万単位の借金を請求された人もいました。といっても、生活保護受給者であれば、仮に相手から訴訟を起こされて無実が立証できず敗訴となっても、払うだけの財力は最初から無いので、強制執行で差し押さえを受けてお金や家財道具を持っていかれる、ということは無いのですが、それにしても不愉快なことです。
「そういえば、何年か前、金に困った時に、住民票を五千円で売った」「白手帳を3千円で売った」という人もいました。これは「自分の名前で借金してくれ」と言っているのと同じ。後でややこしい問題に巻き込まれるのは必至ですので、今後、そういう話を持ち込まれても、きっぱり断ってください。保険証・パスポートなどを売ったり預けたり、あるいは白紙の委任状に判を突くのも同様に禁物です。
物価も下がる・収入も減る「デフレの時代」に借金をするのは誰にとっても危険です。実際、この4月から生活保護基準額が引き下げられました。「デフレ」ということは、お金の価値自体が上がるのですから借金の負担は実質的に増大します。
生活保護にかかる以前に自分で作った債務の問題に悩む人は少なくありません。解決の方法はありますが、今後、借金を繰り返せば、解決の手立ては少なくなります。「返す当てがない」のにお金を借りれば、借りた方がサギ罪に問われる場合もあります。
◎「もう二度と借りない」これが借金の問題の第一の前提です。
そもそも生活保護受給者は借金できないことになっています。相手が生活保護を受給していると分かってお金を貸す業者は、すべて違法な「ヤミ金融」です。暴力団が介在していることが多く、金利もべらぼうに高い場合が多く、いわゆる「トイチ」などは、10日に1割の金利、月利に換算すれば3割、年利では36割です。例えば5万借りれば、利息だけで月1万5千円、年に18万円に膨らみます。こんな借金、完済はとうてい無理です。生活保護を受給した人で、トイチなどから借金をした人の多くが返済に行き詰まり、取立てから逃れるためにトンコせざるを得なくなっています。
生きていれば不測の事態に出くわすこともあるでしょう。「地獄の沙汰も金次第」、いざという時に困らないように、普段からやりくりをして、保護費を少しずつ貯金しておきましょう。大昔は生活保護受給者は「貯金をしていはいけない」といわれていましたが、逆に今は保健福祉センター(福祉事務所)は、貯金を奨励しています。80万円までは貯金があっても保護が打ち切られることはありません。釜ヶ崎は大阪市の中でも物価が安い地域です。工夫次第でお金を残すことは可能です。また紛失したり・盗難・シノギ(路上強盗)にあったりということを避けるために、生活費全額を持ち歩くのは極力避けましょう。銀行などに口座を作り、そこに入金して、小分けに出して使いましょう。
毎週土曜日、朝7時50分、NPO釜ヶ崎事務所前集合、雨天中止。道具はお貸しします。
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